First Kiss
作 こたつ
3.温かい唇
暖かい潮風は、優しく彼の頬を撫でていく。
前髪が揺れ、眉間に走る傷跡が時折顔を覗かせる。スコールは体を起こして、眠るリノアの顔を見つめた。
冷たい体。時折聞こえる寝息が彼女の生きている証だ。
胸元に光る、チェーンに通された指輪は彼のものだ。呼吸に合わせて緩やかに上下している。
グリーヴァは彼にとって大切なものであったが、ずっと彼女に預けていた。
こんな状態になってもリノアが身につけていてくれる事が嬉しかった。
彼は、その柔肌に触れぬようそっと指輪を撫でる。
むき出しの腕を見て、彼はジャケットを脱いでリノアを覆った。襟元のファーが風に揺れている。
彼女になら告白できるかもしれないと思った。
眠っているからこそ言えるのかもしれないが、彼は聞かれたくないような、聞いて欲しいような複雑な気持ちであった。
瞳を閉じているリノアは、どこか人形のようだ。
胸が苦しくなったスコールは、眠る彼女の肩に手を回し、静かに抱き寄せる。自分の体にもたれ掛けさせ、その頭の上に頬を押し当てた。
こんな状況だというのに、少しだけ安堵している自分に気付く。
密着する体。こうしていれば、彼女はどこにも行かないだろうという安心感。
「誰にも言うなよ」
今まで生きてきて、初めて自分と向き合い気付かされた己の幼稚さ。
早く大人になって誰にも頼らず生きて行こうと考えていたのは、ただの強がりであった事。
本当は人にどう思われているのか気になって仕方なかった。
さすがにこれは恥ずかしく、本当に起きていないかリノアの顔を確かめてしまったが、相変わらず彼女は眠り続けたままだ。
その事に安心する一方、何も好転しない現状に
失望する。
「リノア」
何か言ってくれ
あんなにお節介だったくせに、彼が言葉を欲しい時にどうして何も言ってくれないのだろう。
理不尽な我が儘である事は承知の上だ。
なのに、スコールは彼女の声が聞きたかった。
「リノア、頼むから」
頬を撫で、彼女の顎に手を添え上を向かせる。
本当ならば、眠る彼女にこんな事をするのは背徳的なのかもしれぬ。それでも、そうしなければ彼自身壊れてしまいそうであった。
彼女の頬を涙が伝う。ずっと堪えていたものが噴出するよう、彼の目からは止めどなく涙が溢れた。
彼女が汚されてしまった気がして、スコールはそれを指先で拭う。
腕の中のリノアは、長い睫と赤い唇でとても美しく、安らかな顔をしていた。
優しく頬を撫で、スコールはそっと彼女の唇に口付けた。
(王子様のキスで目覚めるかもね)
あくまで、それは童話の中の話だ。現実に効力があるのかは分からない。
そして自分にそんな力があるのかさえも。
その声にからかいの色はなかった。
そう告げたキスティスは、縋るような瞳で彼を見た。彼が苦手とするその視線で。
何とかして。リノアを助けてあげて。
だが、スコールは投げ出そうという気持ちにはならなかった。
合わせた唇は、ほんのりと温かく、生まれて初めての感触に体が熱くなるのを感じた。
肩を抱く手に力がこもり、もっと深く繋がろうとする自身の欲求を必死で抑えた。
他人を頼りにしないと決めてきた。
なのに、スコールは知ってしまった。
彼だけに向けられる微笑みと、優しい言葉。
時折感じた淡い恋心。
勢いで、自分から離れるなと言ってしまったけれど、その言葉に嘘はなかった。
柔らかな唇に、華奢な身体。
あどけない寝顔。
眠っているとはいえ、素直に彼の口づけを受け止めるリノアに、愛おしさを感じた。
俺が何とかする
ミサイル攻撃の際に、一人戦うシドに感じた情熱が、再び湧き上がった。あの時よりももっと熱く激しいもの。
こんな所で泣いている場合ではない。立ち上がり、リノアを連れて行くのだ。
もう迷うな。
目的地は、エスタ。
眠っている間に唇を奪ってしまった事を謝罪せねばなるまい。
彼女は怒るだろうか。それとも。
何でもいい、彼女が目覚めてくれるのであれば。
その為にはどんな手段を使っても構わない。
最後にもう一度だけ、新たなる誓いの口づけを許してもらう。
「行こう、リノア」
何かが吹っ切れたスコールは、再びリノアを背負って歩き始めた。
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あとがき
泣いた・・・
ゲーム中、おんぶしてエスタ入りしようとする彼の愚かさ、幼さに泣けた。なんて一途なんだろうって。
それにしても、なんでこんな展開になったのか全然分からぬ。ガーデンが飛び立ち、海を漂っている間、スコリノの間で何があったのかな〜(はあと)という軽い気持ちで書き始めたのに。
すごいシリアス。甘くないじゃん。
寝ている子に悪戯してはいけません。でも、柔肌に触れないようにするスコ萌え。
俺はいつだって騙される〜〜うわーん(←蛇足)!という迷台詞を吐いた主人公が、大人になる様が書けたかなあ。