「気高き獣」番外編

 

 

  

 

作 こたつ  

 

 

 

 

 

涼しげな海風が頬を撫でる。

周囲を取り囲むミラーパネルがステージの明かりを反射させ、暗闇に光のコロニーを作り出すそこは、夢のような場所であった。

強引に連れてこられ、その先で見た仲間たちの演奏する姿に、スコールは心の底から驚いた。

 

ちらりと隣で腰を下ろすリノアを見る。

彼女は知っていたのだろう。

巧みに楽器を操る仲間、もしかしたら密かに練習したのかもしれない。

 

彼女はうっとりと演奏に聴き入っていたが、不意にこちらを向いた。

「素敵だね」

白のドレス。初めてリノアと出会ったのはSeeD就任式のパーティだ。

その時ガーデンにこっそり忍び込んだ彼女が着ていたもの。華奢で色白なリノアによく似合っている。

長い黒髪がさらりと流れ、その隙間から華奢な肩が垣間見えた。

 

あまりに優しく微笑みかけられ、何となくバツが悪いスコールは誤魔化すように不機嫌な顔になる。

「話って何だ」

 

スローテンポのバラードはまだ演奏中であったけれど、このような状況で何を言えばいいのか分からず、スコールは素っ気ない態度でここへ連れてきた理由を問う。

石段に腰を下ろしていたリノアは、スカートの裾を気にするよう姿勢を整えて真面目な顔になった。

 

先ほど学園長から臨時でガーデンの指揮を執るよう命令されていた。

(どうして俺が・・・)

色々な事がドミノが倒れるように続けて起こり、最早そんな疑問を抱くこともなく淡々と指令を受け取った。

明日からどうすればいいのか。

自室で考えようと思っていた矢先に、何故かドレスアップしたリノアに連れ出された。

 

小首を傾げ彼女の言葉を促すと、リノアは腕を伸ばして膝の上で両手を握った。

しばし考えていたが、一つ頷いてからようやく彼女は話し始める。

 

「これからさ、辛い事とか愚痴言っちゃいたい時とか、いろんな事が起きると思うの」

 

SeeDは命令に逆らってはならないのだ。疑問さえ抱いてはならないのだと教育されていた彼は、リノアが何を言い出すのか見当もつかずに戸惑った。

 

「でも、スコールは全部一人で抱えて、ムスッ〜って黙り込んじゃう」

 

だから何だ。

誰かが代わりにこの責任を請け負ってくれるとても言うのか。

一体これから何が起こるのか見えず、不安で押しつぶされそうになる。

黙り込むのは言っても仕方のない事だと分かっているからだ。

 

ガーデンの関係者でもないリノアに言われたくなどなかった。

彼自身、不安など敢えて感じないようにしてきたというのに。もし気付いたら、たちまち身動き一つ取れなくなるではないか。

 

スコールの怒りを感じたのかどうか、彼女はステージを見たまま大きく息を吐く。

「みんな、スコールの真似が上手なんだよ」

それから彼女は整った顔を顰めて片手を額に当てた。

「わたしも出来るんだよ。眉間の間にシワ寄せて、こうやって・・・」

スコールは気にした事無かったが、人は無意識のうちにやってしまう癖の一つや二つあるようだ。こちらを向いた彼女はきっと今の彼と同じ顔をしているのだろう。

 

(ねえ、似てるでしょ?)

難しい顔をしてこちらを見上げているけれど、漆黒の瞳は悪戯っぽく輝いていた。

やがて紅で色づいた唇が笑みを形作り、リノアは体を震わせ始めていく。

大人びた装いで子供のように戯けてみせるリノアに対し、彼は脱力する。

 

呆気にとられた彼を見て、彼女はお腹を抱えて笑い出した。スコールにとって他人の笑い声は神経を逆撫でするものであったはずだったのに、さほど不快さを感じない自分に戸惑う。

「俺は帰るぞ」

コロコロ変わる表情。これ以上翻弄されるのは勘弁とばかりに彼は立ち上がった。

 

だが、リノアは放すつもりはないようだ。

 

 

「スコールが考えてる事はね、一人じゃ答えを出せそうにない事なんだよ」

 

一人で答えを出せないのなら、一体誰が答えを出すというのだろう。

 

 

意味不明な言葉に振り返ろうとしたら、背中を強く押し出されてしまった。

 

ふわりと鏡面へと放り出される体。

何とか着地したけれど、足下のミラーパネルに自分の驚いた顔が映し出されていた。

 

「何でもいいの!」

追いかけるように飛び降りてきたお転婆な少女が、満面の笑顔で叫んだ。

 

「そう、何でもいいの。何でもいいから、もっとわたしたちに話してってこと」

 

 

みんなで一緒にいられるのって今だけかもしれないでしょ?

 

明日いなくなるかもしれない仲間なんていらない

 

 

心地よい演奏を聴きながら、スコールはリノアの言葉に抵抗する。

驚くべき事に、彼の荷物を仲間みんなで分け合い、悩みを打ち明けろと彼女は言う。そしてその準備が出来ているのだとも。

 

怯えた野良猫へと手を伸ばすリノア。

「おいで、もう怖くないよ」

 

要らない。

仲間も、甘い言葉も。

そんなものは全て紛い物かもしれず、怖くて迂闊に心を開けない。

裏切らないという保証もない。期待した挙げ句に絶望へと突き落とされるのならば、初めから一人の方がマシだろう?

 

やめろ。俺のことは放っておいてくれ・・・

 

 

「未来の保証なんて誰にも出来ないよ」

 

真剣なリノアの表情に、スコールは目をそらす事さえ出来なかった。

 

「だから今なの」

 

差し出された掌は小さく、ひんやりとして心地いい。

何故かスコールは、その手を振り払う気にはなれなかった。

 終    

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