「エスケープ」番外編

 

 

  転写

作 こたつ   

 

 

SeeDレオンハートの失態 その1

 

 

柔らかな唇と、華奢な体はどこまでも甘い疼きをもたらし、スコールはなかなか離せなかった。

彼女の苦しそうな吐息に我に返り、ようやくリノアを解放する。

潤んだ瞳に、夢の中にいるように呆けた彼自身の姿が映し出された。途端に恥ずかしくなり、彼は慌てて視線を逸らすと、今度は二人をじっと見つめるアンジェロと目が合ってしまい、どうにも気まずくなる。

 

どうして自分の行動はこう極端なのであろう。

 

ずっと避けていた彼女に対して、沸き上がる感情を抑えきれなかった。

女子の扱い方など知らぬ、恐らくリノアは呆れているに違いない。

居心地の悪さにスコールは立ち上がった。

 

その時、まるで逃げだそうとでもする彼の手を、そっと握る感触に気付く。俯きがちな視線をそのまま彼女に移すと、リノアも照れくさそうに頬を染めていた。

「わたしも行く」

リノアも立ち上がり、空いた手で服を軽く叩く。

 

どこへも行けない二人、束の間の逃避。

だが、スコールはずっと感じていた苛立ちと、肩にのし掛かる重みから解放された気がした。

細い指先を握り返し、彼は頷いた。

 

またこうして癒してもらえるだろうか。

 

小さな願いは言葉になる前に飲み込まれる。

口にするには照れくさいし、何だか厚かましい願いに思えた。

支えるのは騎士の役目だというのに。

 

それでも、傍にいて欲しいと思う。心が弱った時も、そうでない時も。それ程彼女は優しく温かい。

 

 

気付けば、真剣な顔でリノアが見つめている。

不思議に思い首を傾げると、少し申し訳なさそうな顔で、彼女は言った。

「あの、ね。あの、今日お友だちがね」

言葉を選びながら慎重に。

「新発売だって、その・・・化粧品を持ってきてくれたんだけど」

言いたいことがよく分からない。

知れず眉間に皺を寄せていたらしい、リノアは慌て始めた。

「だからね、そのつまり」

白い指先が彼の唇に伸びてきた。

 

 

彼女の感触はとても柔らかく、ずっと抑えて、見ないようにしていた己の本性が顔を出す。

食事したり言葉を紡ぐ他に、恋人同士ならば雄弁に愛を表現出来る場所。

自分はそこに確かに触れた。それもかなり・・・

次第に思考が働き始め、顔が紅潮してくるのが分かる。

年頃の女子が、いや女たちが綺麗になるための小道具。

 

 

「そのまま司令室に行ってもいいのかなって」

 

そういうことは早く言ってくれ

 

握った手を離し、ごしごしと口元を拭う。手にはうっすらと桃色の紅が付いてきた。

 

 

「ごめんなさいって、待ってよ!スコール」

 

やっと彼との距離が縮まったというのに、早足で立ち去る彼の背中がどんどん小さくなっていく。

 

やれやれ、逃げられたか。

残念そうにその姿を見送ったリノアは、大きな溜め息を吐いた。

 

 

 

初々しいっす。ハイ!次・・・

 

 

 

SeeDレオンハートの失態 その2

 

 

司令室へ戻ると、意外にも涼しい顔のキスティスに迎えられた。

「気分転換は出来たかしら?」

こちらも全てお見通しなのか。

スコールはバツが悪いのを誤魔化すよう憮然と席に着く。

机を見れば、何となく書類の量が気持ち少なくなっているような気がする。何事もなかったように受け入れてくれた事に感謝した。

 

無言で資料の山を崩し始めた彼を、キスティスはじっと見ていた。

青い瞳は、彼の心の奥底までも見透かすように澄んでいる。

先程の痕跡は綺麗に消した。(鏡で確認済みだ)

後ろめたい事はあれど、証拠もないというのに、どうして探るような視線を送るのか。

眉間に皺が寄っていたらしい。

気づいたキスティスは、やれやれと肩を竦めてから、再び書類に目を落とした。

(何だよ)

彼女が言いたい事を我慢しているのが分かる。逃避した彼を責める事無く、どこか呆れた様なそれでいて何故かホッとした様な表情であった。

 

逃避前に放棄した仕事へ没頭すべく彼は集中した。

なのに、再びキスティスの視線を感じて、気が散って書類の文字が頭に入ってこなくなる。

言いたいことがあるならハッキリと言って欲しかったが、彼自身口数が少ないと常日頃から言われていたため、大きな溜め息で抗議するに留める。

不機嫌さを隠すことなく、彼女を見やると、キスティスは軽く咳払いした。

 

「・・・たまには息抜きしないと。ねえ?」

煙草でもあればふーっと紫煙を吐き出したであろう仕草で、彼女は椅子の背に深く体を預けた。

「そうだよねえ〜」

向かいに座るアーヴァインも、仕事する手を止め、頬杖を付いてスコールを見つめる。優しげな彼の微笑なのに、今日は何だか冷やかしも含まれているようで、気分が悪かった。

 

だが、そんな彼の心中を察することなく、二人の短い会話は続く。

 

「手に入りにくいらしいわね」

「そうそう。大人気でね、僕はやっと手に入れた1個を、(女の子)にあげたのさ」

デリングシティ?そうだよ、やっぱ先端はあの街からだよ。

「いつもいい子でいるご褒美にプレゼントしたんだ」

「流石。誰かさんに聞かせてやりたいほどの気遣いよねえ」

 

一体何の会話であろう。スコールには関係がなさそうな話だというのに、時折送られる二人の視線が痛い。

 

焦れた彼が、思い切って二人に聞いてみようとした刹那、サインを貰いにゼルが歩いてきた。

「おい、サインくれよって、あれ?何だ」

あらぬ方を見ながら、ゼルは鼻をひくひくさせている。

 

ゼル!お前もか・・・

 

「何だ?」

 

獲物を捕らえる獣のような彼の形相に、生け贄のゼルは激しく動揺した。

「おわっ(ヒィーおっかねえ)!いや、あのその何だ。そうそう、この辺何だかいい匂いがすんだよ」

 

匂い?

何の事だろう。匂いの正体を探ろうとスコールは腕を上げて、顔を近づけてみる。

 

 

泣き出した彼女が愛おしく、スコールは腕の中に閉じこめるよう強く抱きしめた。

涙を浮かべて見つめるリノアは、言葉に出来ないほど美しかった。理性など彼女の前では抑制にすらならぬ。

華奢な体なのに柔らかな感触。彼女からは甘い香りが立ちのぼる。

唇の紅とともに、女性の魅力を全開にしてスコールの心を捉えて離さなかった。

沸き上がった情熱を制御することなく、彼女にぶつけた。

背中に回された細い腕、苦しそうな吐息。

 

 

SeeDや候補生たちは香料のある化粧品等を使用する事を嫌う。余程何かの意図がない限り、自分の痕跡を残してはならぬ。

 

甘い香りの正体

なぜ、気付かなかった

 

唇を噛みしめたスコールは、ゼルから書類を引ったくり、書き殴るようにサインをした。

 

つまらない仕事など片付けて、一刻も早くこの場を立ち去りたい気持ちで一杯であった。

 

 

 

 

終  

 

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本編の(ヘタレ)スコール。奥様、このへんで勘弁してやりませうね。

スコちゃん。持ち前のポーカーフェイスでファイトです!

「先程の痕跡は綺麗に消した。(鏡で確認済みだ)」

ちょっっっっカッコ内のスコがエラそうで笑える。