癒 しの魔法 森の中サイドストーリー
作 こたつ
泣ける場所
寝静まった後の、テラスはリノアのお気に入りの場所であった。
今日もスコールは、どこかに行っていて帰らない。
場所は知らない。言ってくれなければ、聞くことはできない。
だからここで、ぼんやり夜空を眺める。同じ星空を見ているといいな、と願いながら。
緊急の呼び出しの掛かったスコールは、彼女に優しく口づけをした後、少し微笑んで行ってくると言って出て行った。笑顔で送り出すリノア。
本当は知ってるんだ。いつもの任務ではないってこと。
魔女に関する何か大変な事が起こったんでしょ。
だって、こんなに優しくしてくれるんだもの。
リノアは魔女だ。
とてつもない力を、その細い体に秘めている。
その力に惹きつけられる者、逆に忌み嫌う者。どちらも、彼女の心に暗い影を落とす。
今、友人たちは、食事の時間もろくに取れぬほど忙しい。
ひとりぽつんと食堂の椅子に座り、図書室で借りてきた本を読んでいる。
ふと、顔は動かさず目線だけを食堂内に向けると、2つほど離れた列のテーブルで、本を読んでいる男の子、そして、横の列には雑談に興じる2人の女の子がいるのが見えた。
授業の時間帯だが、さぼっている訳ではない。
監視しているのだ。
魔女である自分を、ではない。魔女に及ぶ危険がないかを、だ。
一般人なら気づかないだろう。食堂内にあるこの緊張感を。
何かが起ころうとしている、そう確信するのに充分であった。
この力を受け継いでから、人の心の動きのようなものにとても敏感になった。
特に悲しみや苦しみといった負の感情。
だから、彼女は癒してやる。それが、魔女になってしまった自分の使命だとでもいうように。
魔女はガーデン生を癒し、彼らは彼女を守る。
そんな主従関係にも似た体制ができあがっていた。
テラスで、風に髪を弄ばれながら空を見ていたら、背後に殺気を感じた。
痛みすら感じるような。
こちらに来る気配がしたので、警戒しつつ振り返る。
そこにいたのは、自分と同じ黒く短い髪。同じ色の瞳、白い肌の女の子。
まず感じた、同郷という懐かしさ。
きりっとした顔つきで、どことなくシュウ先輩を思わせる風貌だった。
笑うことを忘れたような暗い瞳。よほど辛い思いをしてきたようだ。
無理もない、自分と同じ出身地のガルバディアは、政権交代や魔女の参入などで、ずっと情勢が一触即発の不安定さであったから。
彼女に、一言二言声をかけると、先ほどの殺気が消えてゆくのを感じた。
ほっとして、彼女の肩を叩いて立ち去る。なぜか、そうした方がいいと思ったから。
テラスから部屋に入ると、暗闇の中に候補生の女の子が気配を殺して立っていた。
リノアは微笑で応え、そのまま一緒に会議室を後にした。
仕事から解放されたキスティスが、スコールの帰還を教えてくれて、お茶に誘ってくれた。
寝不足なのか、少しやつれていて美人が台無しだったが、一仕事終えたという充実した顔をしている。思わず彼女の腕に抱きついて、ほっと息を吐いた。キスティスはリノアの頭をぽんと叩き、「行きましょうか」と笑った。
久しぶりの楽しい時間。
ガーデン内の緊迫した空気も消え、何かが終わったのだと感じた。
リノアは何も気づかぬふりをする。
そうでなければ、みんなに謝らずにはいられないから。リノアが表情を曇らせ、謝罪の言葉を口にする事を、皆嫌がる。
やめてくれ、と。自分たちが好きでやっていることだから、と。
だから、リノアは何も気づかぬふりをして、いつも笑顔でいる。
でも、本当は堪らなく辛いのだ。
いつでも笑っている事、それは感情を抑えるという事。
時には激情に逆らわず、人目もはばからず泣けたらいいのにと思う。
だから、彼に早く帰って来て欲しいと切に願う。
今の自分が泣ける場所は、彼女の騎士の前だけなのだ。
帰る時間が待ち遠しいから、カードリーダーの所で壁に寄りかかる格好で待つ。
今、彼女が一人で行くことのできる、ギリギリの境界線。
走って抱きついて泣いてもいいよね。
今だったら、嬉しくて泣いているって、みんな思うよね。
(まあ普通の)あとがき
・゜・(ノД`)・゜・うわーん。リノア、アタシの胸で泣かせてやる、来い!
私がリノア視点のお話を書くと、どうしてこんなに暗くなるのでしょうか。
ホント、女には容赦ないな。本当はスコールサイドの話を先に書いたけど、こっちを先にしたほうがよさそうだったので。次は甘いです、多分。ブラックコーヒーの用意はいいですか。