意識

作 こたつ

 

 

朝の食堂は、一度に生徒たちが集まるため、非常に混雑している。

少し寝坊してしまったセルフィは、朝食にパン(最後の1個であった)・ヨーグルトとフルーツ・紅茶を選んで、トレイを持ったままキョロキョロと空席を探した。

「なんや〜混んでるな」

見渡すと、奥の窓際に空いているテーブルを発見した。そこにいた人物を確認してにっこり笑って歩いて行った。

 

「ご機嫌よう。あの〜、こちらよろしいかしら」

からかうような口調で、相席の許可を取る。

「あら〜ご機嫌よう、セルフィさん。どうぞどうぞ、お掛けになって」

友人の冗談に便乗して、リノアは澄ました顔で向かいの席を勧める。隣の席には、彼女の恋人の司令官殿が着席しており、彼はちらりとセルフィを見ると、まばたきだけで挨拶をした。

 

(何や、相変わらず愛想のない)

 

司令官殿ことスコールは、すでに食事を終え、片手にクリップで留めた分厚い資料に目を通していた。恋人はのんびりとオムレツをつついている。恐らく、彼女の食事が終わるのを待っているのだろう。

ガタンと椅子を鳴らして、セルフィは腰を下ろした。

 

「相変わらず混んでんな〜、席ここしかあいてないんやで」

「ホントだね。わたしも早く食べなきゃ」

その時、入り口の方で「しまった」の大声と共に、ドタドタと誰かが飛び込んできた。騒々しい人物を見て

「ゼルか。今日もパン喰いっぱぐれたみたいやな」

「そだね。寝坊するから」

とひそひそと言い合った。セルフィは立ち上がってその人物に向かって手を振った。

 

ゼルも、いつも寝坊するリノアに言われたくないであろう。

 

「そういやあ、リノアは珍しく早かったなあ。見間違えたかと思ったで」

「あ、ああ。うん、たまにはね」

何となく歯切れの悪いリノアの態度に、ちらりと半目でスコールの方を見やる。

(ったく、夜遊びに行ってもおらへんし、大体ココは学園やで)

彼氏の方は、我関せず書類に集中していた。眉間に皺を寄せ、周囲の喧噪など耳に入っていないようだ。

 

「ここいいか?」

傷心のゼルが、料理で山盛りのトレイを持ってやって来た。そこにパンはなかったが。

セルフィはしばし、ゼルをからかって遊んでいたが、ふと見た向かいの席の二人の様子に何か違和感を感じた。

左手に持った書類に集中する彼氏と、その右隣でニコニコ笑いながら食事をする彼女。

別におかしい所は無いように思われたが、次の瞬間セルフィは自分の勘が間違いでないことに気づいた。

 

肘をついて持っていた資料を、ばさりと音を立て机に置いたスコールは、同じ左手の指でページを繰ったのだ。そして、再び左手に持って書類に没頭し始めた。

 

(あれ?右手は)

ページを捲るならば、空いている手、彼の場合右手でやるべきであろう。わざわざ机に置いて捲るというのは余計な工程であり、集中力が途切れてしまうのではないか。

セルフィは自分の想像の先にあるものを思い、少し顔を赤くした。

 

(まっまさか)

 

立ち上がって覗き込んだら、無茶苦茶不自然だろう。いくらセルフィでも、スコールに睨まれれば身が竦む。

ならば、下から覗けば。

生来の好奇心が抑えられず、意を決してセルフィはパン用の小分けされたジャムを床に落としてみた。

「しまった。ジャムが」わざとらしい声を上げて、身体を机の下に滑り込ませる。

と同時にスコールは立ち上がってしまった。唖然として見上げたセルフィが見たものは。

 

脇に資料を抱え、その手で空いたトレイを持ち、まだ食事中のリノアの耳たぶを摘んで席を立つ無表情のスコールだった。

くすぐったそうに肩を竦めて笑うリノア。

 

あまりに慣れた自然な動作に、セルフィ以外誰も気づかなかった。

が、確かに彼女は見た。見てしまった。

 

「悪い、先に行く」そう短く告げると、スコールはつかつかと歩いて行ってしまった。

セルフィは力無く、再び席に着く。

疑惑の右手の真相は明らかにされなかったものの、今目にした光景にすっかり食欲が失せてしまった。

 

「何だ、セルフィ。パンいらねえのかよ。」

「あ?ああ、プレゼントや。持ってって」

「よかったね〜、ゼル」

 

だから、ここは学園内やて。朝からやめて〜。叫びたい気分のセルフィだった。

 

 

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