往 

作 こたつ

 

 

 

 

バラムステーションから出発する列車には全て、SeeD専用の個室がある。

近頃では飛行艇を使ったりするため利用するSeeDは少なくなってきたが、この専用車両は変わらず撤去される様相もみせず、いつでも利用できるように用意されている。

いかにガーデンのSeeDが地元民の敬意を集めているか、という証でもあろう。

個室は、打合せをしたり、クラアントを伴って乗車もできるよう、かなり瀟洒な作りになっている。テーブルもあるし、広いソファ、通信も可能な端末もある。

任地に赴く時は、打合せをしたり、はやる心を落ち着かせたりと、人によって様々だ。

だが帰還となると、皆緊張も解け、かなりリラックスした空間になる。仮眠用のベッドもあるし、彼らはそこで束の間の休息を楽しむ。

 

 

SeeDスコール=レオンハートは、護衛の途中であったが、ふぅと息を吐いて広いソファの背もたれに身を委ねる。着用しているこのタイプのSeeD服は、主に儀礼用のため戦闘には向かないが、今回の任務ではSeeDの存在を示すという意味も兼ねていたので、窮屈ではあるが着ざるを得なかった。膝下まである軍事用のブーツはきりきりと紐で締め上げてあり、知れず背筋が伸びるようだ。

任務は、バラムガーデン−ガルバディア間を、依頼人を伴って護衛するというものであった。

正確には依頼人ではない。依頼人に護衛を頼まれた人物、つまりボディガードである。

 

彼は、ふと、その人物を見る。

その人物は、柔らかい微笑みを浮かべて、彼を見つめていた。

つられて彼も表情が少し緩む。ずっと緊張していたが、肩から力が抜けてゆくのを感じる。

 

「キミが一番かっこいいね」

 

静寂をやぶり、歌うように彼女は言った。スコールは一瞬呆気にとられたが、顔を伏せて肩を揺らした。

懐かしいでしょ、と彼女は笑う。

 

 

依頼人は、ガルバディア軍のカーウェイ大佐だった。

いや、軍人としてではなく、カーウェイ氏個人として娘リノア=カーウェイの、自宅までの道のりを護衛するという依頼であった。

「自宅まで」片道というのが気にくわなかったが、久しぶりの里帰りという事で、嬉しそうにしているリノアを連れてガルバディアへと向かった。

 

リノアは彼の恋人だ。

彼女は、鼻歌まじりに車窓を眺めている。恋人の父親というものに会うという事が、どれほど重責なのか、暢気な彼女には分かってないようだ。

 

 

カーウェイ大佐として会うのは、任務で何度か経験しているが、リノアの父として会うのは実はこれが2回目であった。1回目は、大佐自らガーデンに乗り込んできた時だ。

 

思い出すのも腹立たしかった。

その時、スコールは辺境の地に飛ばされ、わけの分からない地形の更に奥にいるモンスターを大量に駆除した。別に自分でなくてもこなせる任務であったが、場所がとにかく複雑であり、難航を極めた。

やっとの思いで指定された場所にたどり着いても、量ばかりでたいしたレベルのモンスターはおらず、さすがに不審に思い、同行のガ軍の兵を締め上げ、依頼人の名を吐かせた。

恋する男は、巧妙に張り巡らされた罠を見破り、SeeDの性(さが)で任務は完了させ、取る物も取りあえずガーデンに帰還したのだ。

 

カーウェイの大人の余裕が憎らしかった。

仲違いしてると言ったくせに、父親と抱き合うリノアに腹が立った。

そんな彼の心知らずか、親子二人で笑い出し、仲良さげに会話しているのを見て、怒りを超えて呆然とした。

 

 

そんな経緯もあって、今回の依頼には彼の中では万全の対策をとって赴いた訳であったが、カーウェイ邸に着き拍子抜けした。

父親は仕事でおらず、ただ老婆がリノアを待っていた。

 

彼女は、リノアが赤ん坊の時から世話をしていた母親代わりのような女性であった。

 

年で引退するらしく、「一目会いたかった」と泣き崩れる彼女を、リノアも顔をくしゃくしゃにして「ごめんね」と何度も繰り返して抱きしめた。

失った時間を取り戻す二人に、スコールは声もなかった。

リノアが切り捨てたもの。それは家や父親だけではなかった。

 

人の気配を感じ、ドアを振り返ると、軍服を着た大佐の姿があった。反射的に敬礼すると、彼はりりしい若者の姿に目を細め、同じく敬礼で応えた。

そして、抱き合う二人の側へ歩いていく。

 

「最後にどうしても、と泣きつかれてな」

スコールが聞いたこともない優しい声で、リノアの肩を叩く。

わたしも会いたかった、と彼女の小さな声が聞こえた。

不意に老婆は、スコールの方を見やり、にっこりと笑った。

 

「こちらがお嬢様の騎士殿なんですね」

 

突然話題を振られて、視線を泳がせると、苦虫を噛み潰したような大佐の顔が見えた。

父の心中も知らずリノアは、

「そうよ、ステキでしょ」と笑顔でスコールの腕に手を絡ませる。

彼を見る老婆の目は優しい。

彼女にとって大事なリノアをこんな運命に巻き込んだ自分に、なぜそんな風に温かく見つめることができるのだろう。少し胸が苦しくなった。

 

その後、久しぶりにこの家の家族が揃い、食卓が囲まれた。

「彼も一緒にいいでしょ」というリノアの提案に、カーウェイの眉がぴくりと動くのを見た。

確かに見た。

スコールも同席したものの、何を食べたのか覚えてないほど居心地が悪かった。

元々無口な彼氏と、あまり友好的でない態度の父親。共通するリノアという愛する存在、それを取り合う二人の男たちの静かな戦いでもあった。

 

 

食事の後、大佐の書斎にリノアと共に呼ばれた。彼が何を言い出すのか、大体見当がついていたので知れず体に力が入る。

 

「さて、今回の任務はガルバディアまでの護衛という事だったが」

これからどうするんだ?と、大佐の目は、リノアに問いかける。思わず、彼女の腰に手をやりそうになったが、その前にリノアはまっすぐに父親を見て、静かに言った。

「わたしはもう、自分のやりたいことを見つけたの。戻る家はここじゃない、だから」

 

行くね。

 

晴れ晴れとした笑顔で、改めて父親に親元からの旅立ちを宣言した。

カーウェイは覚悟はしていたらしい。それでも、傍らにいる騎士に鋭い目線を投げつけた。

「まったく、何で」

何で、自分の嫌った父親と同じような職の男なんかを選ぶんだ。

初老の男の目はそう語っていた。スコールは腕を組み、ため息を吐いて視線を逸らす。

 

一生仲良くできそうもないな。

 

互いの腹の内は同じものであった。

 

 

 

「何考えているの」

いつの間にか、リノアは隣に座って、彼の顔を覗き込んでいた。

身に纏う、水色のワンピースが彼女の動きに合わせて踊る。大佐が彼女にプレゼントしたそれは、保守的なデザインながら、彼の娘にぴったりと似合っていて、スコールの嫉妬心をわずかに煽る。

 

別れ際、少し老いを感じさせる程、父親は寂しそうな笑顔を浮かべて、大きな紙袋を娘に託した。

なあに?と言って、袋を探ると、中には洋服の入った箱がいくつか入っていた。広げて見ると、それらは、昔から彼女の好きであったガルバディアの店のものであった。

覚えていたの?と小首を傾げた娘に、柔らかい眼差しで応える。

「着て見せてくれないか」

そう言う父に、リノアは嬉しそうな顔になり、着替えに走り去った。

 

女の着替えは時間が掛かる。リノアも例外ではなかった。

待つ間の、書斎の重たい空気ときたら。

 

 

そして今、SeeD専用車両に乗り込み、他の誰もいない、二人っきりの空間にいる。

「別に」

思い出すのも嫌なほどだったが、彼は誤魔化すように無防備な彼女を抱き寄せ、少し怒った顔で背中のファスナーを下ろした。驚いて目を丸くしている彼女のドレスを、そっと肩から滑り下ろし、耳元で囁く。

 

「他の男からのプレゼントなんか着るな」

 

思わず笑い出すリノアの、その首筋に唇を這わせた。子供のような彼を抱きしめ、リノアはいたずらっぽく言った。

「任務中にいいのかな〜」知らないぞ、と少し勝ち誇った顔で見られたが、

「任務はガルバディアの家までだからな」と反撃してやった。

だが怯むことなく、彼女の手は、彼の太腿から膝下へと伸び、少し困った顔で彼を見た。

「このブーツじゃあ脱ぐの大変そうねえ。服も皺になっちゃうし」

 

どうしよっか?

 

 

何も言い返せない腹いせに、再度笑い出すリノアを膝の上に載せて後ろから羽交い締めにしてやった。

 

大佐のやつ、だから正装で来いなんて言ったのか?

 

 

 

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(よまなくてもよい)あとがき

これは、拙作「父と娘」の続編です。未読の方はこちらからどうぞ。

軍服の二人・・・たまらん。リノアパパ×スコール第二弾でした。今回もイーブンですね。うちの大佐結構やりますよね。大人の余裕です。

SeeD服は色々パターンがあるのです(多分)。少なくとも正装用と戦闘用。

ディスク1の就任式は正装用でしょうね(多分)。私萌え死ぬかと思いました。

あ、ブーツはいてましたよね?長いの。紐で編み上げてはいなかったよなあ・・・うーん。

ご都合主義です。すいません。