再 会
作 こたつ
2.校医の過去
夜遅く、帰還したスコールを捕まえて、保健室に呼びつける。
疲労からか不機嫌な顔をしていたが、カドワキの珍しく真剣な表情に気圧されたのか、大人しく着いてきた。
「リノアがどうかしましたか」
密談をするのだが、鍵はいらないだろう。最強のSeeDがついているから。
それにしても、飲み込みが早くて助かると、カドワキは変な所で感心していた。
だから、下手な前置きなしで本題に入る。
「よく夢を見るっていうのは知っているかい?」
スコールは腕を組み、しばし考え込む。
自分が学園にいる間は、いつも夜は彼の部屋で体温を分け合って眠る。
シングルサイズの狭いベッドで、彼女の体を抱きしめながら。
出会う前は、人がいると眠れなかったというのに。今はこの温もりなしでは安心して眠れぬほどだ。
そして、カドワキ先生の言葉を吟味する。
夢というものは、誰でも見るものだ。
例え、目覚めた時に覚えて無くても、脳は常に何かの映像が再生、もしくは創造されている。
だが先生が言うのはそういう事ではないだろう。恐らく魔女として何か感じることがあるのか否か、例えば予知夢などの力があるのかと言いたいのだろう、と。
そう仮定して、再び彼女と一緒の夜を思い起こす。
リノアは、よく眠る。愛し合った後や、そうでない時も。
一度眠ると、多少のことでは目覚めない。それがもどかしい時もあるのだが。
腕の中の彼女はいつだって安らかで、悪い夢を見ているようには思えない。
だが、彼が任務に出て不在の時はわからない。
「特に気づきませんが」
正直に、事実のみを答える。
時間は、消灯まであと少しといった所だ。静寂で、互いの呼吸音が聞こえそうだ。
カドワキは、少し震えているようだ。いつもの大らかさが今はない。
「あの子、アタシの昔の事を見たらしいんだ」
リノアの夢の内容を聞き出そうとした所、授業を終えケガを診てもらう生徒が保健室になだれ込んできてしまった。軽く舌打ちしたが、これもカドワキの大事な仕事であった。
リノアも、現実に戻ったのか、いつもの表情になってカドワキを見る。
「今日は晩ご飯を一緒に食べよう。その時に、いいね」
頬を伝う涙をぬぐってやり、小さな声で呟く。
自分を見つめたリノアの顔が気になって仕方なかった。痛ましいような悲しいような表情。
魔女である彼女。一体何を見たのだろうか。
こくり、とリノアは頷いた。
「これを聞いて欲しいんだよ」
それは、食堂での二人の会話を録音した物であった。ゆっくりと再生のボタンを押す。
たわいない会話は早送りで飛ばし、肝心の場所で一時停止させ、カドワキはスコールを見る。
「これはシド夫婦以外、誰にも言ったことがないんだけど」
カドワキは、かつてドール近くの小さな町の診療所で医者をしていた。
夫は学者であり、しょっちゅう研究と称して家を留守にしていたので、カドワキは娘と二人でこの家を守っていた。
当時、一粒種の娘は5歳。誰に似たのか利発であり、近所の人からは「神童」と噂されるほどであった。同じ年の子供がやっと自分の名前が書けるかどうか、というのに娘は活字の多い本を読み、その感想文を書いたり、詩を暗唱したりして周囲の大人達を驚かせた。
性格も素直で、自慢の娘であった。
だが、運命の日が幸せな家庭を襲った。
エスタの子供狩り。聡明な少女に白羽の矢が立てられた。
カドワキが往診で、娘を残し出かけた空白の時間。
それを狙うかのように、何の前触れもなく彼らは現れた。
騒ぎを聞きつけた近所の人が駆けつけたが、すでに娘は攫われた後であった。
以前と何も変わらぬ部屋。
ただ床に落ちていたウサギのぬいぐるみと、その持ち主が消えていたことを除いて。
あきらめるしかなかった。
沈黙の国、エスタ。この国は魔女が支配する遠い遠い場所。地図にも載っていない。行こうにも手段がなかった。
生きていて欲しい、同じ場所にいなくても生きてさえいてくれれば。
そう言い聞かせて、暴れ出したくなる己を必死で押さえた。
録音の最後は、「先生かわいそう」という言葉とリノアのしゃくり上げるような泣き声で終わっている。
停止ボタンを押したカドワキは、口を手で覆い、嗚咽を堪えた。
一致したリノアの夢とカドワキの過去。それの意味する事柄。
スコールは眉間に皺を寄せ、声を絞り出すように言った。
「俺たちが倒したアルティミシアという魔女は、時間を操ることができた」
魔女イデア、魔女アデル、そしてイデアを操っていた魔女アルティミシア。
すべての力が、リノアの中に息づいている。
だから、彼女に過去を見る力が発露してもおかしくないだろう。