再 会
作 こたつ
3.閨
「おかえり」
事前に連絡をしておいたので、リノアは彼の部屋で帰宅を待っていた。
ベッドの上に何冊かの本が置いてあり、寝ていた訳ではなさそうだった。
それでも、消灯後の遅い時間帯であり、少し眠そうな顔で彼を出迎える。
いつもの彼だったら、不在だった時間を埋めるため力の限り彼女を抱きしめていただろう。
だが、先ほどカドワキ先生とのやり取りがあった後だ。
知れず強張った表情だったらしい。
「怖い顔」少し困った顔で、リノアは彼の体に腕を回して見上げる。
そして、口づけをねだるようにそっと目を閉じた。
自分に甘えてくる仕草、いつもの彼女だ。
スコールはそっと息を吐き、いつもするように髪に指を差し入れ、その甘い感触を味わう。
久しぶりの彼女の感触に、ようやく帰ってきたと実感した。
そのまま彼女を抱き上げ、ベッドの上に座った。
彼の目に映るリノアは、包み込むような暖かな眼差しで、疲れた体を癒してくれるようだ。
膝の上で彼女を囲い込むよう、ぎゅっと抱きしめた。少し苦しそうにリノアは笑う。
「カドワキ先生に聞いたのかな」
どこか歌うように、腕の中から声がする。
体が少し強張ったが気づかれなかっただろうか。そう思った所で、彼女に隠し事しても無駄であるということを悟り、ため息を吐く。その問いには沈黙で答える。
リノアは顔を上げ、まっすぐ彼を見つめた。
「そうなの。わたし夢を見てしまうの」
そう言って、再び彼の胸に顔を埋めてしまった。
これって魔女の力なのかな。
震える声に、愛おしさが募り、スコールは彼女の長い黒髪を梳いた。
「何でもいいから俺に話せ」
でも、その前に。
「その前に、お願い」
わたしを抱いて。
二人の思いは一緒だった。
その言葉が合図のように、唇を重ね互いの身体を腕できつく抱きしめ合う。
今はまだ、こんな方法でしか互いの不安を打ち消す術を持たなかった。
「スコール、まだただいまって言ってない」
目を閉じ、彼の首に腕を回したまま、彼女は呟く。
そうだったな、と思い彼女の体をベッドに倒しながら囁く。
「ただいま、リノア」
いつも大らかな校医の、動揺するその姿に、スコールは衝撃を受けた。
自分は母親に先立たれ、その愛情を受け取ることなく成長してきた。
だから、置いて行かれた者同士という似たような境遇なのであろう。
しかし、彼は何の記憶もない母親に対して、さして愛情というものを持たなかった。
カドワキはどうやら自分とは違うらしい。
母親というもの。子供に対して一体どんな感情を持つのだろうか。
彼には想像するしかなかったが、目の前にいる、生き別れた娘の事を思う母としてのカドワキの姿を見ると、なぜか切ないのだ。
「疲れているところ、悪かったね」
そう言って、保健室から彼を送るカドワキの姿がとても小さく見えた。
あれ程、激しかった呼吸がようやく収まった頃、髪を梳く手の感触に肩を竦めたリノアは、
「もうわたしの事怖くない?」
と、どこかからかうような口調で彼に問いかける。
一瞬呆気にとられた後、苦笑して、彼女の腰に手を回し、白い首筋に唇をつけた。
くすぐったい、とリノアは身をよじり背中を向けて笑い出した。手を胸元に滑らせると、だめだってばと軽く叩かれる。
怖い訳ないだろ、彼女を後ろから抱きしめたまま、小さな声で呟いた。
少し拗ねたような声色に、リノアはほっと息を吐く。
笑いを納めたリノアは、体を反転させスコールに向かい合う。
「先生には言ってないんだけど」
そう前置きした後告げた言葉に、少なからず驚かされた。
カドワキ先生の娘は生きていると。きっとそう遠くない時間に二人は会える、と。
リノアの夢は、順を追っていくのでなく、一見繋がらない夢が単発的に現れるのだという。
今日はこの夢。次に見るのは別の夢、といった具合に。
それが、どう繋がるのか彼女には分からない。
これじゃあ、占い師になれないね。そんな軽口が、彼を笑わせる。
もう一度、リノアを抱きしめて、先ほどまでの不安が消えている事に気づき満足する。
「わたしたちはそのひとをしっている」
眠りに堕ちる前に、リノアの唇から言葉が零れた。