再 会
作 こたつ
4.花
誰もいない研究室の個室。
先ほどガーデンのSeeDから受け取ったジュラルミンのケースに鍵を差し込んだ。
ガチャと乾いた音がしてケースは開き、中に入っているノートを取り出す。
魔法実験のためリノアが来るときに必ずする、いつも通りの作業。
彼女はページを繰り、今回の報告箇所を探し出す。
バラムの医師は、事細かにわかりやすく報告を書いてくれる。
文末の花を象った押印に目をやり、なぜかこの花を自分は知っていると既視感を持つ。
感じるのは懐かしさ。
記載者の名前はないが、きっとこれを書いたのは女性、しかも自分より年上だろうと見当を付ける。
魔女リノアに対しての畏怖はなく、ただ若き魔女に心を砕いている、そんな母の愛にも似た感じがする。
母の愛か。
資料で埋め尽くされた机の上には、リノアが持ってきてくれた小さな白い花を活けたガラスのコップが置いてある。
コップは、部屋の備品で決して華美なものではないものの、殺風景な部屋に、そこだけ柔らかな芳香を放つ。
エスタに来る前に、恋人にバラムの海岸に連れて行ったもらった時見つけたものだ、と嬉しそうに手渡してくれた。枯れぬよう、手折った先に濡れた綿を当て、丁寧に持ってきたのであろう。その心遣いに、温かい気持ちになる。
一度、リノアのいるバラムに行ってみたい、そう思った。
エスタに無理矢理連れて来られた時は、まだ子供で自分の意志ではなかった。
父母と離ればなれになり、なぜ自分はこんな目にあうのだろうと泣いて過ごした。
しかし、今は自分の意志でここに留まる。仕事を、生きる道を見つけたから。
エスタの政権交代で自由の身になり、両親の行方を捜した時、母は行方知れず。父は、すでに他界していた。
死因は自殺とあった。
自分が攫われた後、何があったのかは分からない。
しかし、傷ついたのは自分だけではなかったと、彼女は声を上げて泣いた。
父は死を選んでしまった。
だが、母はどこかで生きていると信じる。
希望ではなく、確信。
自分は今の仕事が好きだ。
努力を惜しまず、成果を出してきたと思っている。
これで満足なんてしない。夢はまだまだ遙か彼方にある。
もし、こんな自分の姿を見たら、母は褒めてくれるだろうか。
彼女は自信に満ちた表情で微笑んだ。
終
あとがき
カドワキ先生とその娘。タイトルにある再会はしてませんが、きっと会えることでしょう。
娘は誰かというのは、拙作の「帰路」「魔女と騎士」をご覧になって下さい。
まだなりたての魔女と新しい力に戸惑う騎士の姿も合わせてお楽しみ下さい。