安らぎ
作 こたつ
〜抱擁
未だ残る涙の後が痛々しい。
もう何度目になるだろうか、エスタでの魔法の実験失敗。
失敗というには代償が大きすぎる。それでも、彼女は何度でも挑戦して、そして今日またその尊い努力が霧散した。研究員から洩れるため息。
もうやめてくれ。
スコールは眠るリノアの頬をなで、必死で涙を堪える。
魔女の力を解放させ、それを制御する。
魔女になったばかりの彼女には非常に困難を極めた。
実験では、力の暴走に対して、万全の備えで臨む。備えといっても、魔女の封印装置で使用される催眠ガスで押さえ込むという荒々しい方法しかなく、彼女の身体の負担は想像以上であった。
昏々と眠るリノア。
何もできない自分の無力さを痛感し、たまらない気分になる。
俺が守るから、そんな言葉は空回りするばかりだ。
何もできぬ。
何もできないから、せめてもと眠る彼女の身体を抱きしめてやる。
誰かの泣き声が聞こえた気がした。
深い海の底で沈んでいた意識が浮上する感覚がする。
ああ、自分はまた眠ってしまったのか。
またしても、魔女の力に飲み込まれてしまった。どうしようもない無力感。
歴代の魔女たちは、どうやってこの暴れ馬のように猛々しいこの力を乗りこなして来たのであろうか。
やめよう、今考えても仕方ない。
覚醒してゆく刹那、何とも心地よい気分になった。
例えるなら温かい母の胎内にたゆたう胎児のような。
すごく安心する。でも残念だ、水面はもうすぐ。
目覚めると、まずは白い天井が目に入る。
見慣れぬ薄暗い部屋。そして体に感じるぬくもり。
彼女は大きな体に包まれていた。誰なのか見なくても分かった。
帰って来たのだ、彼の所へ。
腹部に回された手をそっと握り、片手で自分の髪に埋まった顔を撫でる。
眠っているのか、掛かる吐息がくすぐったい。
ごめんね、また失敗しちゃったよ。
知らず目から熱いものが流れて来る。
辛いのではなく、幸せだったから。
こんな自分だけど、心配してくれる人がいる。眠るしかないこの身をずっと抱いていてくれる人がいる。自分はいつだって彼の腕の中で守られているんだ、と。
彼の顔を見ると、少し苦しそうな表情で眠っており、胸が苦しくなる。
エスタでの実験には、スケジュールを調整して同行してくれる。忙しいというのに、どういう魔法を使うのか、必ず側に彼はいてくれる。
いや、そんな魔法など存在しない。
自分の時間を削って、睡眠時間を削って、そして肉体を精神を消耗して、この時間を作ってくれているのだ。
束の間の安息。
せめて夢の中だけでも、安らかにいられるように、リノアは体をそっと横にして、互いの体を密着させた。彼の胸に顔を埋めると、規則正しい音が響く。生きている証。
ああ、安心する。
顔を上げ、手で頬を撫で、髪を慈しむように梳く。
心なしか、彼の表情が軟らかくなったようだ。
もう少し眠ろう。
次に目覚めたら、笑顔でこう言うんだ。
「ただいま」
2話終
あとがき
・゜・(ノД`)・゜・