これまで考察された資本の回転のさまざまなちがいは、固定資本と流動資本との区別や労働期間のちがいなどのように、生産過程の内部で生じる諸事情によるものだった。しかし、資本の回転時間は、資本の生産時間と通流時間との合計に等しいから、通流時間の長短が、資本の回転に影響をおよぼすこともはっきりしている。ここでは、固定資本と流動資本との構成や労働期間などが与えられたものとし、通流時間だけが変化するものとして考察される。
さきに指摘されていたように(第2部第1篇第6章 流通費、第1節 純粋な流通費、1 購買時間と販売時間)、通流時間におけるW―G―Wは、「商品から貨幣への、および貨幣から商品への、資本の形態変化」であり、「資本家の立場からは、彼が市場で売り手および買い手として機能する時間、すなわち販売時間および購買時間である。この時間は資本家の営業時間の一部である」。とくに販売時間は、相対的にきわめて決定的な部分であり、この期間の相対的な大きさに応じて、通流時間が変化し、したがって、回転期間が影響を受ける。
この販売時間の長短は、個々の資本家にとってまちまちである。また、他のさまざまな事情が変わらないままであっても、市場諸関係の変動につれて、販売時間は変化する。
一般に、さまざまな事業部門に投下された諸資本の回転期間における相違を生み出すいっさいの事情は、それらが個別的に作用する場合には(たとえば、ある資本家が競争相手よりも早く売る機会をもつ場合や、ある資本家が他の資本家よりも労働期間を短縮する方法を多く使用する場合などには)、その結果として、同じ事業部門にあるさまざまな個別資本の回転においてもやはり相違を生じさせる……。[252]
生産地と市場との距離は、販売時間の差異を生み出す要因としてつねに作用する。生産物が市場に届くまでの期間、そして、商品が市場で売られるまでの期間の長短が、回転時間に影響をおよぼす。
交通・輸送手段の改良は、商品の移動時間を絶対的には短縮するが、さまざまな商品の移動から生じる相対的な差異をすべて解消しはしない。たとえば、帆船や汽船の改良は、航路を短縮するが、近い港の場合も遠い港の場合も同様に短縮するので、相対的差異は残る。しかし、たとえば、生産地からより遠い地域でも、主要な人口集中地であって鉄道が通じている地域は、生産地からより近くとも鉄道の通じていない地域と比べて、絶対的相対的に近くなりうる。同じく、輸送・交通手段の変化にともなって、大きな販売市場から生産地までの相対的距離も変化しうる。これらのことが、旧生産中心地の衰微と新生産中心地の興隆の要因となる。
また、輸送手段の発達で交通諸手段の総量が増加する。その結果、発送を待つ商品在庫のうち一定分量が、より短い間隔で次から次へと移送され、相次いで市場に到達することができるようになる。ある部分が商品資本として流通しているあいだに、つねに他の部分は貨幣資本に転化されているというように、還流がより多くの期間に配分されるため、通流時間が短縮され、回転が短縮される。
一方では、生産地がより大きな生産拠点となる程度に応じて、既存の販売市場とむすぶ輸送諸手段の機能頻度(鉄道列車の回数など)が増加する。また他方では、そのように交通が容易であり、通流時間が短縮され、資本の回転が速められるため、生産拠点と販売市場地域のそれぞれの集中が促進される。このように、特定の諸地点で人口と資本の集中が促進されるにつれて、少数の手中への資本の集中が進む。
さらに、交通諸手段がこのように発達し変化するのにともなって、生産地域や市場地域の相対的な位置が変化する。その結果、商品の通流時間や売買の機会などにおける場所上の違いが生み出されたりする。
ある生産地域は幹線道路や運河に沿う位置のおかげでとくに地の利を得ていたが、いまでは比較的長い間隔をおいてしか運転されない一本の鉄道支線の沿線になっており、他の生産地は、主要交通路からまったく離れていたのに、いまでは何本もの鉄道の交差点になっている。第二の場所は栄え、第一の場所は衰える。[253-254]
このように、輸送・交通手段の発達が、商品の通流時間を短縮し、資本の回転を速くする一方で、この同じ発達が、ますます遠距離の市場のための生産を発展させ、遠隔地に向かう商品の総量を増大させ、通流時間を絶対的相対的に増大させる。それと同時にまた、輸送・交通諸手段とそれの経営に必要な固定資本および流動資本に投下される部分も、増大する。
市場の拡大にともなって、遠隔地での販売でえた貨幣の返送期間も長期になり、回転時間に影響をおよぼす。
たとえば、商品がインドに送られる。それにはたとえば4カ月かかる。販売時間はゼロにしておこう。すなわち、注文によって商品が発送され、引き渡しのさいに生産者の代理人に支払われるとしよう。貨幣の返送(返送される形式はここではどうでもよい)にもやはり4カ月かかる。そうすると、同じ資本がふたたび生産資本として機能し、それで同じ過程が更新できるまでには、全体としては8カ月かかる。こうして生じる回転上の相違は、信用期限の相違の物質的基礎の一つをなすのである……。[254-255]
これらの事情は、手形支払期限に影響する。航海の速度が速まり、航路が短縮され、電信制度が発達するにつれ、この手形支払期限はいっそう短縮される。
市場の拡大はまた、価格変動が起こりうる期間を増大させる。
現金の支払いがただちに行なわれない場合、手形期限の相違に照応して、一部は同じ事業部門の異なる個別諸資本のあいだに個別的に、一部は異なる事業部門のあいだに、通流期間の相違が生じるのであるが、その区別は、購入や販売のさいの支払期限の相違から生まれる。[255-256]
市場の拡大はさらに、商品引渡契約の範囲を増大させ、それとともに回転時間上の区別も生じる。商品引渡契約は、流通部面に属する操作だが、この契約から生じる回転時間上の区別は、直接生産部面に作用する。すなわち、この場合には注文された生産物の全部が一度に引き渡され、そののちにはじめて支払われることが前提となる。毎日一定分量の製品が供給されても、それらは引き渡すべき量の一部分にすぎず、契約上の製品全量がそろうまでのあいだ、在庫を形成する。
通流時間の第二の時期である購買時間のあいだ、資本は長かれ短かれ、貨幣資本の形態にとどまる。
すでに指摘されているように、市場が遠くなることにより、第一の時期である販売時間が長くなればそれだけ資本が商品形態に拘束されている時間は長くなる。このことは直接的に第二の時期である購買時間を遅らせ、したがって、貨幣の還流を遅らせ、貨幣資本から生産資本への資本の転化を遅くする。
さらに、原料の仕入れ先からの距離が購買時間に影響をおよぼし、生産用在庫の形成をうながす。したがって、生産の規模に変化はなくても、生産用在庫の規模が大きくなればなるほど、一度に前貸しされる資本を増大させ、資本が前貸しされるべき時間を増大させる。
同じような作用をするのは、たとえば、羊毛の競売の時期や綿花の収穫期など、大量の原料が市場に投じられる時期である。このような時期は、原料の購入期限を決定し、投機的な買い入れにも影響をおよぼす。さまざまな原料の品質が保たれる時間の長短と、市場に原料商品があふれる時期、さらに投機的な思惑とが、原料の生産用在庫の更新を左右し、前貸しされる資本の大きさや資本が前貸しされる時間の長さに影響をおよぼす。
投機的思惑をいっさい考慮しないとしても、さまざまな原料に応じて異なる市場の諸事情が、原料の生産用在庫の更新期間を左右しており、この更新時期には貨幣がかなりの大きさで一度に前貸しされなければならない。この貨幣は一部が労賃に再転化される部分として、比較的短期間に、恒常的に再支出される。一方、原料などに再転化される部分は、購入のためにせよ支払のためにせよ、準備金として比較的長期間、積み立てられなければならないから、この部分は大きさを変動させながらも、貨幣資本の形態で実存する。