魔王伝記 Vol.1 狼王フェンリル
    第二章 2083周期 J―3日 アメリ その1




 ガガッ!!

 俺の剣がフェンリルを左肩から斬りつける。奴は左手の爪で跳ね返し、右手の爪で俺を襲う。“仲間”の錬成術師が盾を造り出し攻撃を防ぐ。…間一髪ギリギリの攻防だ。

 『…ふん、随分ト貴様ノ周リモ賑ヤカニナッタものダナ…忠実ナ下僕ヲ手ニ入レタカ…』

 俺のパーティーを見てフェンレルが呟いた。今の俺には回復役のアメリと棍棒使いの獣人、錬成術師に盗賊上がりの怪力バカ…バカはちょっと酷いか?まぁそれと俺を入れた5人の“仲間”がいる。

 「手下じゃない!運命をともに生き抜こうと誓った“仲間”だ!!

 『…仲間?…貴様ガ仲間ヲ語ルカ……5周期前ノオマエモ同ジ事ヲ言ッテイタナ…ソノ仲間ハ尻尾ヲ巻イテ逃ゲ出シタデハナイカ…』

 「く…!」

 『…群レデ必要ナノハ仲間デハナイ!…忠実ナ下僕…ちぇすノこまナノダ!』

 フェンリルは言葉とともに攻撃を仕掛けてくる。しかし、錬成術師が完全な防御をする。奴の攻撃は届かない。

 「…違うよ…信じ合ってる…助け合ってる…それが仲間なんだよ。」

 (…アメリ?)

 「助けられるだけが仲間じゃない…対等の立場だから仲間なんだ…だからこそ出せる力もある…思って、思われてこそ仲間なんだ!!……仲間の大切さも知らないオマエなんかに私たちは絶対に負けない!!」

 アメリがフェンリルの言葉を力一杯否定する。本当の仲間とは何か?この意味を俺に教えてくれたのもアメリだった。


 
 ………………


 2083周期 J―2日

 死の淵から蘇ってから半周期が経っていて、俺はフェンリルのアジトを探すための旅に出ていた。もう一度アイツと一人で戦うために…仲間は要らないそう思っていた。

 森の道なき道を歩く。後から足音が聞こえてくる。

 ズン・ズン・ズン
  トテ・トテ・トテ

 「…………」

 ズン・ズン・ズン
  トテ・トテ・トテ

 「…………」

 ズン・ズン・ズン
  トテ・トテ・トテ

 「だぁ〜!!もぅ付いて来んなって言っただろうが!!」

 「仲間にしてくれるまで付いてくよ☆」

 足音の正体はアメリだった。何故こんな事になったかというと…あの日…俺が目覚めた日まで遡る。

 アメリは打倒フェンリルを掲(かか)げた俺の噂を聞いて、それに参加するため俺を捜していたらしい。

 「打倒フェンリルの志がまだあるなら私も仲間にして!」

 目覚めてすぐの言葉がこれだった。聞くと父も母も喰い殺され自分は呪いによって獣人にされた。ほぼ俺と同じ境遇だった…。しかし、戦いの場に女は連れて行けない。それより仲間なんてもう要らない!そう思っていた俺は…。

 「ダメだ!助けてくれたことには礼を言うよ…有り難う。だけど君を仲間にはできない…」

 「なんで!?女だから?獣人だから?」

 「…………」

 「で、でもほら私いると便利だよ!傷の回復とかできるし…頑丈だし」

 精一杯自分を売り込んでくる。

 「ダメなモノはダメだ!!仲間なんてもう要らない…」

 そう言って旅に出てから早半周期諦めの悪いことだ。

 それにしてもこの森に入ってから4日…迷った。町や人どころか獣の気配すらない。5日前イクの村に立ち寄ったとき3日もあればハンガリーの町に着くと言われ多めに持ってきた食料も底をついてしまった。

 「しかし、腹減ったなぁ…ん?」

 後ろを見るとアメリの姿がなかった。とうとう諦めて何処かに行ったのか?しかし今まで付いてくるなと言っていたものの、不意と消えられるとさすがに心配になってしまうものだ。

 「お〜い。アメリ何処行った〜?いなくなるならなるでちゃんと断って行け〜!!……………クソ!!」

 とりあえず探しながら先を進むことにした。

 「アメリ〜。!!?」

 ガサ!

 木々の枝と枝を飛び移りながら何かがこっちに近づいてくる。…速い。フェンリルの手下か?しかし人のいない森の中まで“狩り”に来るとは考えにくい。俺は体勢を低くして戦闘態勢に入った。

 「ハァ〜イ☆呼んだ〜?」

 …アメリだった。木の枝に逆さ吊りのような格好でぶら下がりながら無邪気な笑みを浮かべているアメリを見た途端、一気に気が抜けてしまった。

 「オマエ今まで何処に…」

 「あぁ〜私のこと心配してくれたの〜?☆」

 「ち、違…」

 「ゴメンね〜☆ハイ!」

 …魚?どう見ても川魚だ。生では食えないが焼いたら美味そうだ。

 「アメリ、こ…」

 「イヤァ〜☆アルがお腹空かしてるみたいだったから何か獲ってこようと思ったら近くに川が流れてるみたいでさ〜魚獲りに行ったんだけど、足場が滑って川に落ちてちょっとだけ流されちゃったんだ、失敗失敗☆獣人失格だね…でもちゃんと魚は獲ったし万事OKだよね☆?」

 ……全く人の話を聞かん奴だ。俺の話を遮ってまで自分の話をしやがる。こういうのをマシンガントークと言うのだろう。だいたいフレンドリーに俺のことアルなどと呼びやがる!まぁ魚は嬉しいことなのだが。

 「……魚?川?…なぁ、アメ…」

 「でさぁ〜、その魚ってのがとっても大きいの!アルが抱えても持てないくらいにさぁ〜☆さすがに私じゃ持てないから小さい方獲ってきたんだけど〜、あの魚食べたかったなぁ〜☆」

 …まだ続いてたのか…目を輝かせながら話しているが、既に何の話しなのかさっぱり分からない。

 「俺の話も聞けー!!!!!」

 ついつい大声を出してしまった…

 「え?あぁごめん…」

 やっと治まった…アメリの場合喋り出したらまず止まらない。最悪の場合日が昇ってから翌日の日が昇るまでしゃべり続ける。俺もこの半周期で何回付き合わされたことか。

 「川って言ってたけど近くにあったのか?」

 「うん!だいたい20キロくらい先に☆」

 に、20キロ!!?近いといえば近いが遠い…よな?

 「そ、それは近くないぞ…」

 「そぅ?私の足ですぐだったよ☆」

 「オマエの足だからだ…」

 そう獣人の身体能力は人間の数倍にもなる。特に猫の獣人は腕力よりも脚力が凄く、このような距離でもアッという間なのである。

 「まぁ、なんだこれで町も近くにあるようだな。イクの村のおっちゃんは川沿いにあるって言ってたしな!」

 だいたいの場所は把握できた。あとはさっきから鳴りっぱなしの腹に飯を突っ込んだら出発することにした。

 「あぁ、なんだぁそのぉ、魚、ありがとな…」

 どんなときでもお礼は忘れない俺は紳士なのだ。

 「うん☆!!」

 アメリは満面の笑みを浮かべた。いつ見てもこいつの笑顔はどんな人の心をも癒す力を持っているのでは?と思うほどに俺も心を穏やかにする。


続く




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