魔王伝記 Vol.1 狼王フェンリル
第一章 2083周期 D−18日アルベール
暗いくらい洞窟のような道、人は何故トンネルを進むのだろう?その先に何があるというのだろう?光に満ちた草原・若しくは光り輝く未来があるのかも知れない。つまり、トンネルとは人生そのものなのだ。
だが、誰も抜けようとしたトンネルの出口に試練があるとは考えないだろう。人にとってはトンネル自体が試練なのだから。しかし俺は違う。トンネルの出口にある試練を越えるためにトンネルを進んできた。
一歩また一歩進むごとに出口の光が強くなってくる。だが、俺にとってはイヤ、“俺たちにとって”は、この試練を乗り越えない限り、光に満ちた草原も光り輝く未来もありはしない。“俺たち”はそういう道を選んできた。人生には様々な分岐点があるという。もっと楽な道があったのかも知れない、だけど5周期前のあの日、“一度は切れた道”をもう一度繋いだ。その時から俺のトンネルの出口には“こいつ”が現れた。イヤ生まれたときからいたのかも知れない。
どっちにしろ“俺たち”にとっては“こいつ”を倒すことだけがトンネルを抜ける唯一の方法なのだ。それができない内は未来も何も語れない。
“こいつ”とはダークブルーの体毛、金色の目、そして鋭い牙と爪を持ち、異様に冷たい雰囲気を漂わせた最強のワーウルフ、狼王フェンリルのことだ。“こいつ”は魔界でも優位の魔物であり、三度の飯より虐殺を好むことでどの世界でも恐れられている奴だ。ちょうど6周期前の今日2082周期 B−21日、突然この人間界に現れ、たった1周期半程度の内に世界をひっくり返してしまった。フェンリルは、この世に狩るモノと狩られるモノを呪いによって造った。そのため人間界は人間と獣人の混合世界になってしまった。獣人であっても、犬・狼などの狩りをする種族と猫などの弱い立場で狩られる種族を造った。もちろん呪いを受けなかった人間も狩られる立場だ。全く根性がねじ曲がっていやがる。しかも、犬科の獣人は精神操作もされている。つまり意識がないのだ。狩ることしか考えられないようになっていて群れの結束力も半端ではない。
“俺たち”はこのクサレ外道を倒すために2088周期 B−21日現在、今ここに立っている、フェンリルのオオカミ城最上階コロシアムその名も“狩猟場”に。ここは最上階ということもあって天井がない。空は見えるが、フェンリルの魔力の影響で雷雲が立ちこめて太陽の光が届かない。全く持って気分が悪い。
この雷が鳴り響くなか俺の剣先はフェンリルの喉元に向かっている。
『ホォ、良クココマデ来ラレタものダナ…』
『……ン?貴様ニハ見覚エガアルナ…』
フェンリルが低くドスの利いた声で話しかける。その声を聞くと体中を棘(いばら)に締め付けられたまま胸に剣が刺さるような感じをおぼえる。
「良く憶えていたな…リューズの町のことは忘れたことはないよ。」
『アノ時ノ餓鬼カ…確カ我ガ爪ニカカリ死ンダ筈ダガ…』
そうあの時俺は一度死んだのだ。
………………
5周期前…2083周期 D−18日
俺はリューズの町を襲っていたフェンリルと対峙していた…一人で…俺の仲間はフェンリルには勝てないと判った途端に逃げ出していた…
『ふん、アノくずドモノ方ガ貴様ヨリハ頭ハ良イヨウダナ…』
声を聞いただけで気圧される…力の差は歴然だった。フェンリルが呼び寄せた雷雲のため町は暗く雨も降っている。また、狼の群とワーウルフに町人が襲われ、喰われていく…これが狩りだ…そして逃げ出した俺の仲間も喰われていった…
『…ドチラニシテモ逃ゲラレルものデハナイガナ…ふふふ…』
「く…!」
『マァコノ世界ニ来テ初メテ我ニ刃ヲ向ケタ人間ダ…名ヲ聞コウ…』
「俺は…貴様が見せしめのために襲ったトール村の…戦士アルベール・J・ドールだ!」
そう、俺の村はフェンリルが人間界に現れた日、第一の“餌場”と“見せしめ”のために襲われた…父も母も弟さえも喰われ、俺は逃げることで精一杯だった。ただひたすら遠くに…それしか俺は考えられなかった。その後同じ境遇の仲間を捜し出し、打倒フェンリルを誓いここに立っている。……筈だった
「俺は貴様に殺された人々のため一矢報いるためにここに来たんだ!」
『ホゥ、ナラバ斬リツケテミヨ…我ヲ傷ツケラレルトハ思エンガナ…』
フェンリルは大きく腕を広げ無防備の状態になった。
「き、貴様ー!!なめるなー!!!」
俺はフェンリルに飛びかかり左の首筋から胸にかけて斬りつけた。「!!!?」
物音とともに誰かが入ってきた。俺は戦闘態勢をとるため剣を抜いて……け、剣がない!!慌てふためいている俺にそいつは話しかけてきた。
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