魔王伝記 Vol.1 狼王フェンリル
    第六章 2088周期 B―21日 最終決戦 その1




 トーマスがフェンリルの目の前に岩の壁を造り出す。それに一瞬たじろいだ瞬間ユーリがフェンリルのバランスを崩す。

 「…圧!!」

 フェンリルが転ぶのと同時にトーマスが二重錬成で岩の壁を鋼鉄の重石に再錬成し、フェンリルを押しつぶす。

 『グオオォォォォ…』

 「でいやーー!!!」

 潰され身動きのとれないフェンリルを斬りつける。せこい戦法のようだがフェンリルにしてみればさほどダメージは無い。

 『……貴様ラ……』

 フェンリルは重石を力で持ち上げ起きあがった。

 『…チマチマト目障リナ………最終形態デ粉微塵ニシテクレルワ……』

 え?まだ変身できるのかと俺は思った。これはもう反則の域を超えている。

 ガガ〜ン

 フェンリルの身体に雷が落ちた。その力を吸収し、形態が変化していく。変身中に攻撃すれば良いのだが、雷による高熱と突風により近づくことができなかった。折角此処まで来たのに殺られる分けにはいかない。


 
 ………………


 2088周期 B―15日

 俺たちはハンガリーの町に来ていた。ここはトーマスを仲間にした町だ。

 「湖の孤島!!?」

 俺たちは驚いていた。

 「えぇ、そうなんですよ〜。なんでもフェンリルはそこに城を構えてるらしいですよ。」

 町人の男が教えてくれた。この男は俺とアメリが初めてハンガリーに来たときトーマスの陰口を言っていた男だ。なんでもハンガリーの町を救ったときの恩返しがしたいと言ってフェンリルの居所を探ってきたらしい。

 「……よく……分かったな……」

 トーマスが言った。

 「えぇまぁ…あちしは噂話に関しては誰にも引けはとりませんから。」

 男が胸を張って言い切る。

 「噂か〜信じても大丈夫かなぁ〜?ねぇアル?」

 アメリが俺に聞いてくる。

 「ホントか嘘かは行ってみなけりゃ判らんが今フェンリルの情報はこれだけだ。……行ってみるしかないだろう?」

 これが答えである。

 「そんな嘘だなんてあちしの情報は全部本物ですぜ!」

 それが本当なら良いのだが…

 「……で…場所は……何処ですか?…」

 ユーリが町人の男に聞いた。

 「へぇこの町から南西に100qってとこです。森の中突っ切れば3日ってとこですかねぇ。」

 森の中……できれば森は通りたくない。さんざん嫌な思い出があるからだ。

 「おい!他に道はねぇのかよ!?」

 ゴードンが男の襟元を掴み脅迫まがいの手段に出た。

 「へ、へい…す、すいませんです。こ、これしか本当に知らないんでさぁ…」

 「……仕方ない行くか…」

 気は進まないがこの道しかないのでは仕方がない。俺たちは諦めて森の中を進んでいった。

 結局迷った。いくら歩いても湖など見えてこない。引き返そうにも来た道がわからない。とにかく進むしかなかった。

 5日目2088周期 B―20日

 この日の夜ようやく湖の畔に着いた。確かに湖の真ん中には孤島が見え、そこには城のようなものも見えた。しかし俺たちはもうくたくただった。孤島の探索は明日にして今日はもう休むことにした。テントを2つ張り男子と女子に別れた。当たり前である。

 俺は眠れなかった。ゴードンの鼾もそうだが、孤島に見える城が気になって眠れなかった。一人で孤島の城を眺めていた。

 「眠れないの?」

 振り向くとそこにはアメリが立っていた。

 「…あぁ……あれはおそらく本物だ。全ては明日決まる…」

 「うん…そうだね」

 そう言いながらアメリは俺の横に座った。それからしばしの間無音の時間が流れた。

 「………………」

 「………………」

 「ねぇアル…」

 「なんだ?」

 「アルはフェンリルを倒した後どうするの?」

 「倒した後?……そうだな考えてなかったよ。それにこの先生きて帰れるかも分からないし…もしかしたら…」

 続きを言おうとしたらアメリが制止に入った。

 「だめ!!アルは死んじゃダメなの!!どんなことがあってもアルは死なないで…お願い!絶対に生き残るって約束して…」

 アメリは泣きながら俺に言った。

 「……あぁ分かった。絶対に生き残るよ。だから絶対にお前も生き残れ!」

 「………うん☆!!」

 俺たちは約束を交わした、必ず生きて帰ることを。……俺は気付かなかったが木陰から俺たちを覗く6つの目があった。勿論トーマス、ゴードンそしてユーリの3人である。

 「なかなかアルベールも雰囲気出せるようになったのう。」

 「………青春だな………しかし……本当に良いのか……ゴリさん…」

 「ふん、俺様はアメリちゃんが幸せならそれでいいんじゃい!」

 「……漢だな……」

 「……また……先を越された……私の……アル様……」

 「「………………」」

 翌日2088周期 B―21日

 俺たちは筏を作り湖を渡った。湖の孤島はそれほど大きいわけではなかった。およそ島の半分が城である。

 俺たちは玄関前広場に着いた。そこには10体の大型ワーウルフがいた。確かにここはフェンリルのアジトで間違いないらしい。

 『……!!…侵入者……死ヌ……』

 見つかった。俺たちは戦闘態勢をとり大型ワーウルフとの戦いが始まった。俺の闘気剣で一刀両断、まず1体。ユーリが棍棒で喉を突き破る、2体目。ゴードンが2体の頭を鷲掴み叩き付け頭を潰す、4体目。トーマスがお得意の二重錬成で鋼鉄の槍を多数錬成し飛ばすと3体撃沈、7体目。ユーリがトーマスの錬成した槍で胸を貫く、8体目。ゴードンが頭を殴り潰す、9体目。

 ラストの1体はアメリを襲っている。アメリは手持ちである木製の救急箱で応戦する。当たった!ワーウルフはもがき苦しむ。救急箱の角は以外に痛い。俺がとどめをさし、10体目。

 「やっとここまで来たな…」

 「………あぁ………」

 「……長かった……ですね……」

 「ボスは最上階にいるのがセオリーじゃい!」

 「行こう☆!!」

 「「「「…おお!!!」」」」

 どれが誰だか分かるかな?そんな冗談はさておき俺たちは城に入り最上階まで駆け上った。最上階に着いた俺たちは驚いた。最上階には天井がなくコロシアム風の造りで空一杯に雷雲が立ち込めていた。外で戦っていた時にはこんな物なかった。つまり俺たちが城に入り最上階まで来る数分の内に雷雲が集まってきたのだ。

 最上階の中心位置にはあのフェンリルが立っていた。おそらくあの雷雲はフェンリルが呼んだものだろう。俺たちは戦闘態勢に入った。

 『…ヨウコソ…我ガおおかみ城最上階ころしあむ狩猟場へ…』


 
 ………………


 そして現在

 光と熱を吸収しながら形態が変化していく。フェンリルはワーウルフから巨大な狼に変貌していった。光が収まっていく瞬間フェンリルから何かが発射された。咄嗟のことに俺たちは誰も反応できず、発射された何かはアメリの胸に突き刺さった。

 「…え?」

 アメリに突き刺さった“なにか”はフェンリルの爪だった。

 「ア、アメリ?」

 爪に刺されたアメリは倒れ、既に意識がなかった。

 「アメリー!!!!」

 俺はアメリに駆け寄り抱きかかえた。

 「なあアメリ目ぇ覚ませよ…大丈夫なんだろ?……獣人のお前はすぐ回復するんだよな?」

 どんなに語りかけてもアメリに反応はなかった。俺の脳裏にアメリとの思い出が浮き上がってきた。



続く




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