魔王伝記 Vol.1 狼王フェンリル
    第六章 2088周期 B―21日 最終決戦 その2




 どんなに語りかけてもアメリに反応はなかった。俺の脳裏にアメリとの思い出が浮き上がってきた。

 ………………

 「貴方を捜してここまで来たのよろしくね☆」

 「アッそいう言い方はいけないな〜元は君と同じ人間だよ!」

 「失敗失敗☆獣人失格だね…」

 「うん!だいたい20キロくらい先に☆」

 「かわいい顔が土でドロドロだよ〜!!」

 「誕生日〜☆」

 「私たち…“仲間”・だよね?…」

 「貴方の側から離れはしないよ。だから安心して」

 「だめ!!アルは死んじゃダメなの!……絶対に生き残るって約束して…」

 ………………

 「一緒に生きて帰るって約束したじゃないか!!!どんなことがあっても死ぬなって俺に言ったじゃないか!!!お前がいない世界で生きて俺にどうしろって言うんだ!!!!アメリー!!目ぇ覚ませよー!!!」

 『ふははははは!無駄だ…その娘は目を覚まさぬよ』

 光が消えフェンリルの実体が露わになった。姿形は勿論のこと言葉遣いまで変わっている。

 『最終形態になった俺の爪には特殊な呪いがかかっている。突き刺した相手を永遠に眠らせジワジワと生命力を吸い取る。永遠の眠りの中苦しみ続けるのだ!!ふわははははははは!!!

 「き、貴様〜!!」

 「…落ち着け…アル……つまりアメリはまだ死んだわけじゃない…」

 「そうだぜアルベール!この爪を抜けばなんとか……」

 ゴードンはアメリに刺さった爪を抜こうとしたがビクともしなかった。

 『無駄なことだ…その爪は一度刺さったら絶対に抜けぬよ』

 「……フェンリル……貴様を殺す!!!

 このとき既に俺は平常心をなくしていた。立ち上がり剣を構えた。

 『貴様が俺をか?…無理だなお前達は一方的に狩られる立場だ。俺の手によってな〜!!』

 そう言うとフェンリルはもの凄いスピードで俺に向かって突進してきた。目では追いきれない。

 ドゥグシュッ

 鮮血が飛び散る。フェンリルの爪は俺に届いていない。届いたのは俺の闘気剣だ、奴の肩に剣先が突き刺さっている。

 『こ、これは…』

 俺の闘気剣は今までにない大きさで全長の約3倍の大きさになっていた。しかし俺にはそんなことどうでもよかった。ただフェンリルを“殺す”ことしか考えてなかった。

 フェンリルが攻撃を受けたことでたじろいだ瞬間、俺は奴の真横に回り込み斬りかかる。脇腹に浅い傷を付けたが奴も爪で応戦してくる。俺は間一髪のところで避けようとしたが肩に浅い傷を受けた。

 「……まずいな………アルの奴周りが…見えてない……その内殺されてしまうぞ…………あの間合いでは…俺は錬成術を使えない……アルまで巻き込んでしまう……」

 「……兄様……」

 ユーリがそう言うとトーマスは頷き床から石の薙刀を錬成した。

 「……変!」

 トーマスは二重錬成によりユーリの身長の2.5倍近くある本物の薙刀に再錬成した。ユーリはその薙刀を持ちフェンリルに向かって行った。

 「……私だって………アル様を……殺させはしない!……」

 俺が左から攻撃しているときは右から攻撃。挟み撃ち状態でユーリがサポートしてくれた。しかしフェンリルは標的を俺一人に絞り攻撃を仕掛けてくる。俺は必死に避けながら攻撃を仕掛けていったが傷は増えていく一方だった。

 「あいつ本当に殺されちまうぞ!トーマスよぉ俺をアルベールのとこまで飛ばしてくれ!!俺に考えがある!一発ぶん殴ってくるぜ!!」

 「!!!?………なるほど……分かった………これに入ってくれ……」

 そう言うとトーマスは石の大砲を錬成した。

 「こ、これで行けってか!!? ……仕方ねぇはずすんじゃねぇぞ!」

 そう言いながらゴードンは大砲の中に潜り込んだ。

 「……分かってる……」

 俺は必死の攻防を続けていた、奴を殺すことだけ考えながら。フェンリルの爪が俺の脇腹を浅く凪いだ。それに怯まず俺は奴の顔を斬りつけた。その瞬間。

 ドン!!

 「「『!!!!?』」」

 トーマスが二重錬成によってゴードンを撃ち出した。ゴードンは真っ直ぐに俺の方に飛んでくる。

 ゴスッ!

 ゴードンの頭突きが俺の鳩尾に直撃した。俺はゴードンと一緒にフェンリルの目を切り裂いて50メートルほど吹っ飛んだ。

 『ぐおおぉぉぉぉ!!!き、貴様らぁ!!!』

 フェンリルが俺たちを追いかけようとした瞬間ユーリが奴の後ろ足を斬りつけた。

 「……貴方の相手は……私……」

 『ぐっ…ならば貴様から血祭りに挙げてやるわ!!』

 フェンリルが攻撃を仕掛ける、しかしユーリは冷静に攻撃をかわしフェンリルに傷を負わせていく。

 「つつっっ!!……何すんだゴリさん!!?奴を殺すんだ!!邪魔すんじゃ……」

 俺がそう言おうとした瞬間…

 バキッ

 ゴードンが俺の顔面を殴り、襟元を掴んで叫んだ。

 「バカヤロウ!!!何考えてんだテメェは!!?目ぇ覚ませやボケぇ!!!!頭に血ぃ上った状態で勝てる相手じゃねぇだろうが!!!みすみす死にに行くようなモンだぞ!!!!分かってんのか!!!?生き残るってアメリちゃんと約束したんだろうが!!!約束破るようなことすんじゃねぇよ!!!! ……辛いのはお前だけじゃねぇんだぞ!…」

 そう言うとゴードンは手を離した。

 「ゴ、ゴリさん………」

 俺は今までの行動がとても恥ずかしく思えた。そしてアメリに教えてもらった仲間の大切さを思い出した。

 「…すまない………ありがとうゴリさん。…フェンリルを倒そう!生き残るために…みんなのために…アメリのためにも必ず!…」

 「へっ!いい顔になったじゃねえか!そうでなきゃいけねぇ!」

 そして俺とゴードンはフェンリルの元へ走っていった。奴は片目が使えないということもあり未だにユーリを捉えきれないでいた。

 『くっちょこまかと五月蠅い蠅め!!』

 「でいやあああぁぁぁぁ!!!」

 俺はユーリに悪戦苦闘していたフェンリルの脇腹を斬りつけた。

 『き、貴様よくも…!!』

 「みんな!こいつの動きを止めてくれ!!頼む!!」

 「「「…おう!!」」」

 『俺の動きを抑えるだと?バカめ!!』

 「トム!!!」

 「…おう!…」

 トーマスがそう言うと俺たち3人はフェンリルとの距離を空けた。そしてトーマスがフェンリルを取り囲むように岩の壁を錬成した。

 『二度も同じ手にかかると思うか?』

 フェンリルは空高く飛び上がった。これでは奴を拘束することができない。しかし俺たちの目的は奴を拘束することではなかった。

 「……フェンリルといえど……空中で身動きが…執れるかな?…」

 『ま、まさか貴様ら…それが目的で!?』

 「…襲!!!」

 トーマスは二重錬成で岩の壁を鉄の槍に再錬成しフェンリルに向かって飛ばした。槍はフェンリルの四肢と胴体に突き刺さった。

 『ぐがああぁぁぁ!!』

 「今だアルベール行ってこ〜い!!」

 ゴードンはそう言うと俺をフェンリルに向かって投げ飛ばした。そして俺は闘気剣を今までにないほど大きくした。

 「これがお前達のに殺された者達の怒りだ!受け取れぇフェンリルー!!

 『こ、こんなことで、この俺が…』

 ザシューン!!

 『ぎゃあああぁぁぁぁ!!!!!』

 俺はフェンリルを左右に一刀両断した。槍で動きを封じられたフェンリルは無抵抗のまま斬られ、断末魔の叫びとともに雲の隙間から覗いた太陽の光の下に塵となって消えていった。



続く




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