魔王伝記 Vol.1 狼王フェンリル
    第三章 2084周期 Aー5日 トーマス その1




 「うおおおぉぉぉぉぉおおおぉぉぉぉ!!!」

 光り輝く剣を手に構えた俺はフェンリルと睨み合う。攻撃するために相手の隙を探す。

 「いけ!アル!!!」

 錬成術師が叫んだ途端にフェンリルの周りを囲むように壁がそそり立つ。錬成術師が錬成したのだ。いきなり視界を塞がれ慌てるフェンリルに上空から攻撃を仕掛けた。しかし待っていたかのようにフェンリルの爪も俺に向かって伸びてくる。

 「戒!!」

 錬成術師が叫びその手にしていた錬成杖が光った瞬間にフェンリルを囲んでいた壁が一気に膨らみ押しつぶすように束縛していく。

 『ぐううぅぅぅ…コ、コレハ…』

 フェンリルの攻撃が止まり俺の攻撃が奴の肩口に浅い傷を付けた。

 『ウウ…“二重錬成”…人間ニデキル者ガイルトハ…ヨクモ我ニ傷ヲ付ケタナ…』

 口調が荒々しくなってくる。傷自体は蚊に刺されたようなモノだろうが、精神的に致命傷を与えられたようだ。

 「…そう“二重錬成”だ……これで貴様を倒す……師匠の最後の願いをかなえてみせる!みんな力を貸してくれ!」

 錬成術師の言葉はあの時と一緒だった。あの言葉で俺たちは前に進み続ける力を手に入れたんだ。


 
 ………………


 2084周期 A―1日

 2084周期に入っての第1日目俺とアメリは森の中を黙々と歩いていた。いや、黙々と歩いていたのは俺だけだった。アメリはいつも通り俺が口を挟む隙がないほどのマシンガントークで後から付いてくる。

 「ねぇ〜いつまで歩くの〜?もう私疲れちゃったよ〜(涙)アルのお友達がいる町ってアザインでしょ?こっちで合ってるの〜?ねぇ〜聞いてる?アル〜?私お腹空いちゃったよ、アルもお腹空いたでしょ☆?ねっね!さっき近くに川があるみたいだったから行ってみようよ☆」

 …ほとんどの言葉に?が付いているのに答える隙さえ与えない。俺にどうしろというのだろうかこの娘は。

 「だああぁぁぁ!!!五月蠅い!!!少しは静かに歩けんのかおぬしは!?だいたい貴様の“近い”は近くない!むしろ遠いぞ!一度に何10キロも走らせられる俺の身にもなってみろ!」

 言いたいことを言ってやった、これで少しは静かになるだろう。しかし、一寸きつく言い過ぎたかもしれない。アメリはションボリとして踞ってしまった。

 「はぁ…アメリ今日はどうしたんだ?何か変だぞ。」

 そういつもなら語尾に?が付くことはほとんど無い、自分の話で俺を巻き込んでいくのだ。

 「…誕生日…」

 アメリがボソッと言った。聞き取れなかった。

 「え?何だって?」

 「誕生日!今日は私の誕生日なの!」

 「それがどうしたんだ?」

 「いや…その〜…祝ってほしいなぁ〜…なんて…」

 頬を赤らめながらアメリが言った。何を言い出すのやらと俺は思った。

 「俺は祝ってもらえなかったぞ…」

 俺の誕生日はI―12日だった。3期前に終わっている。

 「それは…アルが誕生日教えてくれないから…」

 「…ダメだ!俺たちは少しでも早くフェンリルを倒さなきゃならないんだ、そういうのは後回し!」

 「ええぇぇぇぇ!!?嫌だよ〜今日祝って!今すぐ祝って!後回しなんてダメ〜!花も恥じらう清純な乙女の17才の誕生日なんだよ!祝って!祝って!祝って!祝って!祝って!祝って!祝って〜!アルが祝ってくんなきゃヤだ〜!!」

 俺の肩を掴み大きく揺さぶりながら叫び続ける。…最強だった。これだけでフェンリルを倒せるのではないかと思ったくらいだ。

 「わ、わわわわかかかた、いいいわわううぅぅぅぅぅ、ととととめえええててええええぇぇえぇ。」

 …負けた…アメリの駄々っ子攻撃は俺には返せない。

 「ホント☆!?」

 たった一言で機嫌を直したアメリは徐に祝いの準備を始めた。持っていた食料で出来るだけ豪華に見せた食事はかなりいい味だった。俺はというと、海を越えた先にあるという東洋の“クイダオレ”とか言う奴の格好でアメリを笑わせた。「何故そんな衣装もってるの?」という突っ込みはなしでお願いしたい。そんなわけで久しぶりに思いっきり騒いだ俺とアメリはいつもより早く床に就いていた。

 翌日、俺たちはまた歩き始めた。

 「ねぇ〜?アザインまで後どれくらいかな?…迷って……ないよね?」

 アメリが核心を突いてくる。今まで黙っていたが、俺は方向音痴だった。

 「………………」

 俺は質問に答えずに黙々と歩く。

 「もぉ!だから、川沿いに行こう☆って言ったじゃない!絶対迷うんだから遠回りでも確実な道行こうよ!近いからって無理に森ん中通ってたらそのうち餓死しちゃうよ〜!」

 …ごもっともな意見だった。

 「だ、大丈夫だ!あと3日もすればアザインに着く!……筈だ。」

 俺が言ったところで説得力がマルでない。しかし、歩かなければ何処にも着かない歩くしかなかった。

 3日後2084周期 A―5日の昼ようやくアザインの町に着いた。3日間夜通し歩いた結果だ。今はただ自分を誉めてやりたい気分だ。

 「…やっと着いたね…アル…この町の何処かにいる“トーマス”って人を捜すんだよね?」

 「あぁ、そうだ。」

 “トーマス”とはトール村の川に捨てられていた孤児で俺の幼馴染みだ。子供の頃からよく遊んでいたが、8周期前13才の時に錬成術師に憧れてアザインの町で錬成術の修行をしていた。

 「その人錬成術師なんでしょ?」

 「あぁ。世界最高の錬成術師シード・レクエイマーの元で修行してたからな、腕はかなりの筈だ。」

 「ふぅ〜ん…その師匠さんも仲間にしちゃおうよ☆」

 「いや…シード・レクエイマー氏はもう亡くなったらしい…」

 「そうなんだ…」

 こんな話をしながら町を歩いていれば嫌でも人目に付くモノだ。町人の一人が俺たちに話しかけてきた。

 「あんたら…デイリーさんの知り合いかい?」

 デイリーとはトーマスのことだ。

 「えぇまぁ…昔馴染みで彼を捜してハンガリーから来たんですよ。」

 「へぇ…そりゃぁ大変だったねぇ…デイリーさんはこの先の酒場にいると思うよ。行き付けだからねぇ、でも気を付けなよここ最近ずっっっっっと機嫌が悪いんだ噂じゃ地下に隠って何か怪しげなモン造ってるって噂だよ!出来ることなら係わらない方が良いよ!」

 …アメリと同じタイプだ、喋り出すと止まらない。まぁアメリは人の陰口や悪口は絶対に言わない。第一俺は人の陰口を言う奴が気に食わない一発ぶん殴りたくなる。

 「……どうも…」

 それだけ言ってその場をあとにした。酒場を見つけ中に入った、やや明かりが足りないが静かで落ち着いた感じの酒場だ。トーマスの姿がないか見渡した。……いた。隅のテーブルで静かに酒を呑む青年、トーマスだ。

 「トム!!」

 「!!!?………アルベール?……アー君か?」

 静かに、必要最低限の言葉だけで終わらす、まさしくトーマスだった。

 「アー君?」

 アメリが聞き直す。相手をすると長くなりそうだ。とりあえずはトーマスの所に行くことにした。

 「……本当に…アー君か?…」

 「あぁそうだよトム、でもそのアー君は止めてくれって昔から言ってただろう?」

 「……あぁ…そうだったな……確かに本物だ…」

 俺たちはトーマスと同じテーブルに付き飲み物を頼んだ。勿論ノンアルコールだ…未成年だし…

 「……無事で良かった…トールが襲われたと聞いた…」

 「あぁ俺の家族も神父も殺されたよ。」

 ズズ〜

 「……今…なにしてる?…」

 「…フェンリルを倒すための仲間集めをしているんだ。」

 ズズズ〜

 「!!!?……何故…ここに来た?…」

 「トム!俺たちの仲間になってくれ!トムの錬成術の力を…打倒フェンリルのために力を貸してくれ!世界のみんなを助けるために…これ以上不幸な人を増やさないために…」

 ズズズズ〜

 「……辞めた…錬成術は…辞めた…」

 「え?な、なんで?」

 ズズ〜ズズズ〜

 「……師匠が死んだときに辞めたんだ…死人を出してまでやる事じゃない……錬成術なんて……仲間には…なれない…」

 「……………」

 「プファー…これ美味しいね〜☆」

 さっきからのズズ〜という音はアメリがサイダーを飲んでいる音だった。サイダーはこの町の特産品なのでアメリは飲んだことがなかったのだ。

 「甘くて〜シュワシュワってこんな美味しいモノ有るならもっと早く来れば良かったよ〜☆あれ?アルどうしたの?飲まないなら私にちょうだい!若しくは…もう一杯頼んでいい?」

 周りに状況が読めていないというのは今のアメリの状態を言うのだろう。常にマイペースな奴だ。

 「…あ、あぁ…」

 「ヤ〜リ〜☆」

 「……プッククク……アル…この娘は?…」

 今までの話の中で初めてトーマスが笑った。

 「あ、あぁ紹介がまだだったな。今唯一の仲間で俺の命の恩人、獣人のアメリだ。」

 「アメリで〜す。よろしく〜☆」

 アメリは右手を大きく挙げて自己紹介をした。継いでトーマスが右手を差し出し言った。

 「……俺はトーマス・デイリー…トムでいい……この娘が…アル…かわいい娘でよかったな……アルを…宜しく…」

 「な、何をぉ言ってんだよぉ!!」

 その時俺の顔は真っ赤になっていたのかもしれない。

 「照れるな照れるな〜☆」

 「アメリー!!」

 それから一時の間笑い声が鳴り響いた。

 「……本当にすまない…」

 「いきなり来た俺たちが悪かった…今度は遊びに来るよ。」

 「……あぁ…」

 そういって俺たちは酒場をあとにした。

 「……師匠……」



続く




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