魔王伝記 Vol.1 狼王フェンリル
    第三章 2084周期 Aー5日 トーマス その2




 「……師匠……」


 ………………


 「…何で師匠が!?…俺は…嫌です!…」

 「誰かがやらねばならない事だ。」

 「…悪魔との契約…なんて…師匠は死んで…しまうんですよ…」

 「それ以上に助かる人間が増える。これ以上不幸な人を増やすわけにはいかん。ワシが契約を果たせば御前は“二重錬成”が出来るはずだ。」

 「…そんな力…いらない…」

 「…古より伝えられし紅の王、全ての破壊と創造を司る闇の王よ、今我が声を聞き契約を結ばん…」

 「…!!!?…師匠!…」

 『我ト契約ヲ結バントスルハ貴様カ?望ミハ何ダ?』

 「我が名はシード・レクエイマー。我が魂を錬成杖に封印し次の者に“二重錬成”を授けん!その名はトーマス・デイリー!」

 『……良イダロウ、代価ハ貴様ノ身体ダ。我ガ血肉ノ糧トナレ。』

 「…承知…」

 「…し、師匠!!…」

 「良いか?これ以上不幸な者を増やしてはならん!御前は既にワシを越えた…フェンリルを倒せ!………頼んだぞ…トーマス!」

 ………………

 とりあえず今日は宿に泊まり明日出発することにした俺たちは町の中を宿屋に向かい歩いていた。

 「あ〜ぁ仲間になってくれなかったね…錬成術まで辞めちゃうなんて…残念だなぁ〜」

 「……あれは嘘だな。」

 「うそ?何が嘘なの?」

 「トーマスが抱えていた杖を見たか?」

 「うん。変な文字みたいなのがゴチャゴチャと書かれてた杖でしょ?」

 「あれは錬成杖だ。」

 「レンセイジョウ?」

 「あぁ錬成術を使うときに術者の能力を飛躍的にアップさせる力を持った特殊アイテムだ。あの文字が作用して錬成能力がアップするんだ。」

 「へぇなんかすごそう☆…じゃぁ錬成術を辞めた訳じゃないんだ〜。それなら明日また頼んでみようよ☆」

 「…イヤ、無理に誘うこともないさ…トムにも何かしら事情があるんだろう。」

 こんな話をしている間に宿屋に着いてしまっていた。旅の間ほとんどが野宿だった俺たちは部屋をとり久々に味わうベットの感触を満喫していた。…野宿になったのは俺のせいだった、俺が方向音痴でなければ…。

 「いやぁ〜☆久々だね〜ふかふかのベッド☆」

 「……あ、あぁ…そうだな…」

 言い訳で墓穴を掘るのもイヤだった。俺は言葉を濁した。

 「ねぇ、アル…錬成術ってどんなことが出来るの?イマイチ良く分かんないんだよね〜。」

 「はぁ?アメリおまえ知らずに使ってたのか?」

 「ほぇ?私錬成術なんて使えないよ?」

 ビックリしてしまった。何故かというと…

 「いいか…錬成術ってのは大きく2つに分けられるんだ。1つは一般的に錬成術師が使う物質を分解そして再構築する物質錬成だ、つまり物質を違う物に造り替えるって事だ。ただしこれには原則があって、その物質からは同じ系統の物しか作り出せない等価交換というものがあるんだ。2つ目は体内のエネルギーを増幅、余剰することができる“気”の錬成だ、これが俺の“闘気剣”やアメリの“回復能力”の真実ってやつだ。」

 こういう事である。実際何も知らないで使っている奴は初めて見た、アメリは本物の天才かも知れない…。

 「そうだったんだ〜…知らなかったよ〜てへ☆でも何でアルはそんなに詳しいの?」

 痛いところを突かれた…。

 「いや…その…トムが興味持ったことだったから俺も知りたくて…猛勉強したんだよ。やっぱ友人のことは知っとかないとな…」

 「くっら〜い、暗いよアル〜何でそんな引き籠もりみたいな……分かった☆!アルには他に友達いなかったんだ〜寂しかったね〜ア〜君☆」

 「う、うるさい!その呼び方止めろ!」

 ビンゴ〜大当たり〜商品はペアで世界一周旅行プレゼント!!そんな感じに的確な答えだった。…勘のいい奴はやりづらい。こんな話をしている内に太陽も沈みかけ西日が窓から入り俺の顔を照らしている。今日一日は平和に終わりそうな感じだったが、俺には何かが起こりそうな予感がしていた。

 「ワーウルフだ〜!!!」

 「!!!!?」

 そら来た!嫌な予感は良く当たる。叫んだのは町の入り口にいた男、奴らはまだ町には入ってきてはいない。迎撃するなら町に入れない内にやりたい。

 「行くぞ!アメリ!!」

 「あいよ!アメリちゃんに任せなさい☆」

 俺たちは町の入り口に向かい走った。川原からワーウルフどもが駆け上がってくる、奴らの狩りがこの町で起ころうとしている。

 俺の剣が強く光り出すこれが“闘気剣”だ、切れ味や強度は元の約5倍どんな物でも良く切れる。俺はその状態でワーウルフどもの中を突き進んだ。ほとんどのワーウルフを切り捨て、残るは大型ワーウルフ(第二章参照)のみとなっていた。周囲は日が落ちすっかり暗くなっていた。それほど大勢の小型ワーウルフとの戦いで疲れていた俺は動きに切れがなく劣勢の戦いになっていた。アメリによって回復してもらう隙さえも与えてくれはしない。奴の爪が俺を襲う、避けきれないと思った瞬間目の前に大きな岩の壁が出現した。

 「!!!?」

 『…コレハ…?…』

 一体誰が?…イヤいきなり壁を“造る”ことが出来るのは…俺の知る中で一人しかいなかった。

 「トム!!」

 そこには錬成杖を片手に雄々しく立つトーマスの姿があった。

 「……来てしまったよ……大丈夫か?…」

 「あぁなんとか…」

 トーマスが俺に手を差し伸べる。その手を借りて俺は立ち上がった。

 『…錬成術……コンナ壁…』

 奴が壁を壊そうとした瞬間

 「…撃!!」

 トーマスが叫び錬成杖が光り輝くと“岩の壁”から大きな“鉄の玉”が数個出現しもの凄いスピードで大型ワーウルフに衝突した。

 『…コレハ…“二重錬成”……人間…無理…筈…』

 そう言うとワーウルフは倒れ息絶えた。凄まじい威力だった。俺たちが呆気にとられた次の瞬間最初に口を開いたのはアメリだった。

 「す、すっご〜い☆!!ね!ね!アル見た?見た?すっごいよね〜?」

 「…あぁ凄ぇ……“二重錬成”?トムおまえ…何やったんだ?」

 「……“二重錬成”……師匠が俺に残してくれた……最後の力…」

 話を聞くと二重錬成とは悪魔の契約により人の魂を錬成杖に封印しその力により錬成した物質を全く異なる物質に再錬成することが出来るらしい。その力量は言霊と術者の精神力の大きさで変わってくるのだ。

 俺たちは町の酒場に移動し話を進めた。

 「…不幸な人を増やすな……フェンリルを倒せ……師匠の…最後の言葉だ…」

 「…トム…」

 ズズ〜

 「…守ること…人の幸せ…この意味が分からなかった…でも…奴らに向かっていくアル達を見たら…いつの間にか追いかけてた…」

 「本当に助かったよ…トムありがとう!」

 ズズズ〜

 「…さっきの…さっきの町の人の顔…笑顔……師匠は人の笑顔が大好きだった……師匠の言ってたことが解った…気がした…」

 「……………」

 ズズ〜ズズズ〜

 「…仲間に…してくれ…」

 「え!?」

 ズズズズ〜

 「…人々に笑顔を取り戻すため…不幸になる人を増やさないため……師匠の最後の願いをかなえるため……力を…貸してくれ…頼む…」

 トーマスが深く頭を下げながら言ってくる。

 「も、勿論だとも!是非仲間になってくれ!とても心強いよ…ありがとう。」

 「プッハァ〜☆良かったねアル!トムさんが仲間になってくれて☆」

 「「………………ぷっ…っっっっっはははははははははははははは」」

 「な、なに笑ってんの2人して……」

 アメリの口の周りにはサイダーの泡で白い髭が出来ていた。それに気付いたアメリは笑った俺たちを怒ったが俺たちの笑いは止まらずその夜の酒場は笑いに満ちていった。


 
 ………………


 現在

 「勿論だ!フェンリルを倒して世界の人々みんなの笑顔を取り戻すんだ!」

 「私もやっちゃうよ〜☆」

 アメリの身体が光り輝いていく。



続く




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