ゴーストスイーパー横島蛍 第10話
父と母が私を裏切っていた事を知った私は、メドーサと共に、父と母の前から姿を消す事にした。 いいえ、父と母ではない。 16年もの間、私に父と母だと嘘をついてきた、横島忠夫と、金毛白面九尾の狐であるタマモの前から・・・それだけではない。 本当の私を殺し、その力を使って、私の本当の父を殺した横島忠夫・・・信じていたのに・・・・・・許せない・・・。
日が完全に沈んだ頃、私たちは魔力を遮蔽するコートに身を包み、この工場跡に着いた。 メドーサは魔界と人間界を行き来しながら、ここを隠れ家にしながら、身を隠していたと言っていた。
「あたしはアシュ様の配下として動いていた魔族だからね。 神界からも、人間界からも身を隠さなきゃならなかったのさ。 でも、だからこそ! あたしは横島忠夫が許せないのさ! あの男を討つためにあたしは・・・・・・あたしは横島を殺すよ。 あんたはどうするんだい?」
「パパを!? ・・・違う・・・・・・パパじゃないんだ・・・あの人は・・・」
「もし、あんたがアシュ様の・・・実の父の敵を討つって言うなら、あたしはあんたに任せるさ。 あんたにはその資格が十分あるからね。 どうするんだい?」
「私が・・・父の敵を・・・あの人を・・・殺す?」
「そうさ。 本当のあんたを殺し、実の父を殺し、今のあんたを騙し続けてきた横島忠夫を殺すのさ。 まぁ、じっくり考えるんだね」
そう言ってメドーサは工場跡から出て行った。 私は一人になった。 窓を見ると、星がやけに輝いて見えた。 月はとても長細い形になっていた。 今までのパパとママとの楽しい思い出が私の中で溢れ返ってくる。 でも、それがすべて嘘だった。 私を騙すためだった事に、悲しみがそれ以上の大きさになって返ってくる。 私は座り込んで泣いた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・<メドーサSIDE>
あたしはメドーサ。 横島忠夫を殺すためだけに生きている。 その為には何だって使う。 使えるものはすべて! だけど、ただ殺すだけじゃ物足りない! 奴にはこれ以上無い苦しみを与えてから殺してやらなければ、あたしの気がすまない!
だからあたしは、ルシオラを使う事にした。 あいつが最も愛したものに、もっとも大切なものに、裏切られ、絶望し、あいつを殺させる。
あたしにとって、アシュ様なんかどうでもいい。 べスパを呼ぼうとしたときも、この名前を出せばついてくると思ったから使ったまでだ。 あたしは、あたしの為に横島を殺す。 あたしのプライドをズタズタにした奴を! 人間の分際であたしに歯向かった。 人間の分際であたしに手傷を負わせた。 人間の分際で魔族に、ましてや魔神になった。 許せない。 最高に苦しめて殺してやる! だからルシオラを使う。
あたしはルシオラも許せない。 魔族でありながら・・・あたしと同じ魔族でありながら人間なぞに恋をした。 魔族でありながら人間にその身を捧げた。 魔族でありながら人間に見方をした。 魔族でありながら、人間を助け、魔族にした。 ましてや、それがあの横島忠夫。 許せない! だからルシオラを使う。 記憶が戻る前のルシオラを。
横島はルシオラには手を出せない。 だからこそ苦しみ、ルシオラに殺される。 ルシオラの記憶が戻った横島蛍は、最も愛したものを自分で殺した事に苦しむだろう。 それで自害するならそれでもいい。 そうでなければ、さらに追い詰めて、このあたしが止めを刺してやるさ。
横島蛍は完全に絶望している。 精神はもうボロボロ。 奴はもう、一つの答えしか出せない。 ここへ来たと言う時点で、奴は横島を殺すと言う答えしか出せない。 奴はあたしに連れて来られたんじゃない。 自分で付いて来た。 その事実が一つの答えに繋がっていく。 確実に奴は「横島を殺す」と言うだろう。 その後のことを考えるとうれしくてしょうがない。 絶望に沈む2人を思い浮かべると、笑いが込み上げてくる。
「ク、ククク・・・クハハ・・・ハハハハ、ハーハッハッハッハ!!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・<蛍SIDE>
私は何も考えられなかった。 ただ、窓に映る朝日を呆っと眺めていた。 ここは工場跡地。 私はその中にいる。 メドーサに付いて来て、ここまでやってきた。 この工場跡には東と西側に窓があって、朝日がきれいに見えた。 乱れた心が少し、落ち着いてきた。
朝日は完全に昇り、空に光が広がった。
「どうだい? 決心はついたかい?」
いつ戻ったのか。 私の後ろに立ったメドーサが、私に話しかけたの。
「・・・えぇ。 横島忠夫は私が・・・殺すわ」
これが私が出した答え。 本当の私を殺し、父を殺し、今まで私を騙し続けてきた。 信じていたのに、裏切っていた。 許せない。 本当の父のためにも、本当の私のためにも、私が殺す。
「そうかい。 じゃぁ、奴を殺すのはあんたに任せるさ。 今日、奴をここに誘き寄せる。 そこで始末しな」
今日? すぐに? 早い・・・ううん早い方がいい。 決心が揺らぐ前に片を付けなきゃ。 私自身のためにも。
「・・・えぇ」
「奴が来るまで、少しでも休んどきな。 そんなんじゃ力を出し切れないだろ?」
そう言ってメドーサは工場跡から出て行った。 確かに今はかなり疲れきっている。 そう言えば丸3日寝ていない。 いいえ、寝れていない。 私は床の上の寝転がった。 さっきの事を決めてから、やけに心が落ち着いていた。 今なら眠る事が出来そう。 私はゆっくり目を瞑ったの。 段々と意識が遠のいて行く感覚。 私は眠るんだと分かった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・<ヨコシマSIDE>
俺は今、タマモの手を握っている。 眠ったタマモの手を。 タマモは今眠っている。 俺が体内生成した“安”“眠”の文珠の力で。 タマモの傷は文珠で“治”“癒”したが、ひどく気が動転していた。 このままではタマモが壊れてしまいそうだった。 だから寝かせる事にした。 眠る事が一番気を和らげる事が出来るから。 昨日の晩にタマモの手を握って文珠を発動させた。
タマモは、蛍がメドーサに連れて行かれたと言っていた。 と言うことは、確証は無くとも、蛍自身は無事である確率が高い。 人質とするためなら尚更だ。 ならば、今はタマモを落ち着かせる事が第一だ。
そう思って、俺は文珠を発動させて、タマモを眠らせたんだ。 それから、まだ事務所にいるはずの雪之丞たちに連絡をとる事にしたんだ。 居る筈だけど、確証が無いから雪之丞の携帯に掛けた。
『横島か!?』
コールが一回なるかならないかで雪之丞が電話に出た。 連絡を待っていたようだ。 ありがたい。
「あぁ」
『いったい何がどうなったんだ!?』
「・・・蛍がメドーサに連れ去られたらしい」
『何だって!!? あの蛇女、まだ諦めてなかったのか!?』
「あぁ・・・それにタマモもやられた」
『何!? ・・・酷ぇのか?』
「いや、傷はそれほどじゃないんだが・・・かなり錯乱状態なんだ」
『・・・わかった。 今から妙神山で小竜姫に話してくる。 こっちで動いてみっから、横島はタマモに付いてろ』
「すまん・・・頼む」
『任せろ!!』
それで電話を切った。
雪之丞なら任せられる。 だけど俺は、今すぐにでもメドーサを探し出して、八つ裂きにしてやりたい! 蛍を救い出したい!
その思いを噛み殺しながら俺はもう一度タマモの手を握った。 タマモが安らかに眠れるように、“安”“眠”の文珠を体内生成して、朝まで持続させ続けた。
「・・・う・・・うぅん・・・」
朝になり、俺がタマモの手を離すと、文珠の効果が切れ、タマモが眼を覚ました。
「!!? ほ、蛍は!?」
タマモは俺の顔を見てすぐに飛び起きて、蛍の事を聞いてきた。
「いや、まだ見つかっていない」
俺が首を横に振りながらそう答えると、「そう」と言って、タマモは俯いてしまった。
「今、雪之丞たちが動いてくれてる。 俺はこれから事務所に行くよ。 何か手がかりが出てるかもしれない」
「うん・・・ねぇ、私も行っていい?」
「あぁ」
俺は大きく頷いた。
昨日の錯乱状態も治まったみたいだな。 今は落ち着けているみたいだし、大丈夫だろ。
「行くぞ」
「うん」
俺たちは足早に家を出た。
俺たちは事務所への道を走っていた。 少しでも早く事務所に着けるように。 だが、俺たちの前に立ちはだかった奴がいたんだ。
「おはよう、お二人さん」
そいつは・・・
「メ、メドーサ!!」
俺たちが探し出そうとしていた蛍をさらった張本人、メドーサだった。 タマモは俺の後ろに下がっていた。 両肩を抱き、青ざめた顔で震えている。 16年前のあの日以来、タマモにとっては、メドーサ自体がトラウマになってしまったようだ。 だが、こいつを消せばタマモのトラウマも消える。
まさか、自分から出てくるとはな・・・今すぐ八つ裂きにしてやる!
俺は拳に霊力を集めた。 俺は魔神になってから魔力値がかなり上がっている。 今は体内生成している文珠で霊力に変換しているが、メドーサほどの魔族でも一撃で葬り去る事ができる。
「おっと、こっちには横島蛍って言うのが居るのを忘れたのかい? 今あたしを消せば居所は分からないままだよ」
「くっ!!」
俺は拳に込めた霊力を静めるしかなかった。
「蛍はどこだ!!?」
「せっかちだねぇ・・・そんなにあの娘が大事かい? 魔神ともあろうものが小娘1人に・・・情けないねぇ」
そう言いながら、メドーサは俺たちの頭上に浮かび上がって行った。
「うるせぇ!!」
「まぁいいさ。 あの娘に会いたかったら16年前のあの工場跡に来な! そうしたら会わせてやるさ!」
そう言ってメドーサは姿を消した。 おそらく、超加速を使ってこの場を離れたんだ。
工場跡に? 何か企んでいる事は間違いない。 罠は確実だけど、蛍を取り返すためだ。 行かない訳にはいかねぇ。
「・・・タマモ、俺は工場跡に行って来る。 お前は事務所に行って雪之丞たちに伝えてくれ!」
そう言って駆け出そうとしたが、タマモが俺の袖を掴んで離さなかった。
「・・・待って・・・私も行くわ」
「だ、だけど、タマモお前・・・あそこは」
あそこはタマモがメドーサに捕まって、死ぬような思いをした場所だ。 メドーサに対するトラウマの始まりの場所なんだ。 タマモを連れて行っても、辛い思いをさせるだけだ。
「お願い・・・ヨコシマ、お願い!」
そうだ、あそこに行けば蛍が居るんだ。 蛍は、俺にとっても、タマモにとっても大切な娘なんだ! かけがえのない家族なんだ! たとえ、血が繋がっていなくても・・・16年も一緒に暮らした家族なんだ。
「・・・分かった・・・・・・大丈夫なんだな?」
「うん!」
俺はタマモを抱えて、工場跡に向かって飛んだ。
待ってろ! すぐ助けてやるからな! 蛍!!
つづく
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