ゴーストスイーパー横島蛍 第11話
「・・・・・・ん・・・」
窓から吹き抜ける春の風に私は目を覚ました。 太陽は大分高いところまで登っていたの。 どのくらい寝ていたんだろう? 太陽が昇り始めてからだから、大体3時間くらいだろうか?
「やぁ、お目覚めかい?」
不意に私の背後から女性の声がしたの。 それはもちろん私に“真実”を教えてくれたメドーサだったの。
「良く眠れたかい?」
「・・・・・・えぇ、そうね」
メドーサの質問に軽い返事を返した私。 不思議と眠気は無かったの。 3日ほど、ずっと眠れていなかったはずなのに、この3時間くらいの睡眠で、ずいぶん寝たような気がする。 体の疲れもほとんど消えていたの。
「もうすぐここに横島忠夫が来るよ」
「・・・・・・・・・」
「準備はいいかい?」
「・・・・・・えぇ」
私は座り込んでいた床から立ち上がり、窓から見える太陽を見つめながら、硬く拳を握ったの。 そして心に誓ったわ。 横島忠夫を殺す・・・と。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・<横島SIDE>
俺は、タマモを抱えて飛んでいた。 16年前のあの工場跡地に向かって。 近づくに連れて、タマモの体が硬くなるのを感じた。 仕方ない。 あそこはタマモにとって、苦痛や、死を連想させる場所なのだから。 そして、あそこにはその元凶となったメドーサまで居るのだから。 それでも、タマモは自分で「行く」と言った。 16年ともに過ごした“家族”であり、血が繋がっていなくとも、愛情を注ぎ、育ててきた“娘”を助けるために。
「・・・・・・あそこだ」
俺たちは、工場跡が見えるところまで飛んできた。 工場跡は16年前となんら変わっていない。 必要がなくなれば、取り壊され、新しい建物が次々と建てられていく現代に珍しく、この廃工場は16年前となんら変わらない姿で、俺たちの前に佇んでいる。
「降りるぞ」
「・・・うん」
もともと白いタマモの顔が、真っ青と言っていいほど血の気が引いている。 それほどまでに恐ろしいこの場所に、タマモは来た。 “娘”を助けるために。
「・・・母は強し・・・か」
「え?」
「いや、何でもねぇ・・・・・・タマモ、大丈夫か?」
「うん・・・・・・だ、大丈夫よ」
そんな言葉を交わしながら、俺たちは工場跡の敷地内に降り立った。
「良く来たね!」
そんな俺たちの前に姿を見せたのは、俺たちの怒りを買うおの顔の持ち主、蛇のような目に、紫色の長髪。 初めて出会った時の、年増の姿と、改めて復活したときのギャルとの中間ほどの姿。 メドーサだった。
「蛍はどこだ!!」
「焦るんじゃないよ、すぐに会わせてやるさ。 ところで・・・狐の嬢ちゃんも来たんだねぇ、昨日の怪我はもう治ったのかい? まぁ横島が居れば、あんな怪我はすぐ完治するだろうけどね。 ・・・思い出すねぇ、ここに来ると。 嬢ちゃんと遊んだ事、楽しく思い出すよ! ハハハハハハ!」
メドーサの言葉にタマモが更に体を硬くする。 両肩を抱き、体全体を細かく震わせながら、俯いている。 いやな思い出がタマモの中に蘇っているんだろう。
「黙れ!! メドーサ! もうゆるさねぇ!!」
蛍をさらっただけではなく、またもタマモを苦しめている。 俺にはもうメドーサを許すことが出来ない。 口も利けなくなるように、一撃でメドーサを消滅させてやる。 そう思い、一歩を踏み出した瞬間。
「待ちな! あんたの相手はあたしじゃない。 あたしもあんたと戦ってやりたいが、どうしてもあんたを許せないって言ってる奴がいてね。 出ておいで」
「な、・・・ル、ルシオ・・・ラ?」
メドーサの声に会わせて工場跡の裏から飛び出し、メドーサの前に立ったその少女は、かつて俺が愛した・・・額に白いバイザーを着け、黒い戦闘服に身を包んだ・・・ルシオラの姿をした蛍だった。
「そう、私はルシオラ。 あなたにお殺された本当の父のためにも、私自身のためにも・・・横島忠夫、あなたを殺す!」
蛍の右手に魔力が集中してきている。 蛍は言葉とほぼ同時に魔力砲を俺たちに撃ってきた。 突然の事で回避は出来なかったが、体内生成した“護”の文珠で、俺とタマモには怪我は無い。
本当の父と言った。 アシュタロスの事か? となれば、ルシオラの記憶が戻ったのか? だが、それなら俺に襲い掛かってくる意味が分からない。 それに私自身のため? どういう事だ? 元凶と考えられるのは・・・
「メドーサ!! 蛍に何をした!?」
「ふん、何もしてやいないさ。 ただ、“本当の事”を教えてやっただけだよ」
「本当の事?」
「・・・そうよ。 あなたが私の本当の父ではないと言うこと。 アシュタロスと言う魔神が本当の父だと言うこと。 そして、体に取り込んだ私の力を使って、私の父を、本当の父を殺したと言うこと。 そして本当の私も・・・・・・・・・でも、どうしても許せないのはそれをずっと、16年間もずっと隠していたこと! 信じていたのに、私を裏切っていた!! 絶対に許せない!! 許せないのよ!!」
言葉と一緒にさっきよりも強力な魔力砲が放たれた。 俺はもう一度、“護”の文珠で防いだ。 タマモが俺の後ろに居る。 不意によけて、タマモにあたれば致命傷だ。
「タマモ、これを持ってろ」
俺はタマモに“護”の文珠を渡し、タマモから大きく離れた。 今のところメドーサが動く気配は無い。 工場跡の屋根からこっちを見ながら軽く笑みを浮かべている。 これが奴の狙いだったんだ。 俺を殺すために、俺が絶対に手を出せない蛍に攻撃させる。 なんて事を考えやがる! くそ!!
「逃がさないわ!」
案の定、蛍は俺の方に攻撃を仕掛けてきている。 それなら
「落ち着け蛍! 今の事はメドーサが吹き込んだんだろう! 俺はお前を裏切ってなんかいない! 偽りに騙されるな!」
「偽り?! あの人が言った事がすべて嘘だと言うの!? 私がルシオラである事も! あなたが私の父を殺したと言うことも!! 私があなたと、妖孤の間に生まれた“横島蛍”であると言うことが本当だと言うの!!?」
会話の間も蛍の魔力砲は俺に襲い掛かっている。 俺は蛍の魔力砲をなんとかかわしたり、弾いたりしながら言葉を続けた。
「そ、それは・・・・・・・・・確かに、蛍、お前はルシオラだ。 そして俺はアシュタロスを倒した。 でも、今の俺が居るのはルシオラのおかげだ。 そのルシオラであるお前を俺が裏切るはずが無いだろう! 俺を信じてくれ!」
「・・・・・・あなたの言葉をどう信じろと言うの!!? すべてあの人が教えてくれた通りじゃない!! それなのに、それなのに・・・・・・何を信じろって言うの!!!?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・<蛍SIDE>
私の中に小さな希望が見えた。 横島忠夫が「騙されるな」と言っていた。 もしかしたら、あの人、メドーサから聞いた話がすべて嘘では無いのか。 パパとママは、私の本当のパパとママなんじゃないのか。 メドーサからの話をすべて否定してくれるのではないかと。 だけど違った。 横島忠夫はただ、「信じろ」としか言ってはくれない。 何をどう信じればいいの?
私は何度も何度も、魔力砲を放つ。 だけど、横島忠夫はすべて避けるか、弾いてしまう。
だけどおかしい。 横島忠夫はまったく私に攻撃してこない。 もし、メドーサが言ったように、魔神になるために私を殺し、その霊基構造を吸収して、私の父であるアシュタロスを殺したような人。 そうであれば、牙を向いた私を手にかけるくらいどうとも思わないはずじゃない・・・この16年で親子の情が出来たと言うの? この16年を信じろってことなの? 本当の私、本当の父は忘れろって事なの? 知ってしまったのに・・・知ってしまったのに忘れられるわけ無いじゃない!
「・・・・・・あなたの言葉をどう信じろと言うの!!? すべてあの人が教えてくれた通りじゃない!! それなのに、それなのに・・・・・・何を信じろって言うの!!!?」
私は、魔力砲を連射したの。 だけど横島忠夫は、そのそべてを相殺していくの。 偶然だった。 ただの偶然。 横島忠夫が相殺し損ねた私の魔力砲がママ・・・・・・・・・ううん、タマモの方に飛んでいく。 横島忠夫は一瞬、そちらに気を取られてしまった。
「タマモ!?」
タマモに向かった私の魔力砲は、横島忠夫の霊波砲に打ち落とされた。 だけどその一瞬、たった一瞬、横島忠夫に隙が出来たの。 私はその一瞬を見逃さなかった。 その人の背中に強力な麻酔を打ち込んだの。
「ぐわ!」
「ヨコシマ!!」
私は蛍の化身。 敵に麻酔を打ち込む事が出来る。 いくら、横島忠夫が魔神であっても、他のモノに気を取られていれば、私の麻酔でも効いてくる。 案の定、今その人は動く事は出来ない。 塀壁に寄りかかって、私の顔を見つめているの。
「・・・・・・・・・これで終わりよ」
私は右手に魔力をためながら、横島忠夫の方へと近づいていくの。 私の麻酔は特別製なの。 体を動かす事はもちろん、魔力や霊力も発する事が出来なくなるの。 魔力、霊力の防護壁が無ければ、たとえ魔神であっても、私でも殺す事が出来る。
「ぐ・・・うぅ・・・・・・」
麻酔はしっかりと効いているみたい。 横島忠夫は言葉を発する事も出来なくなっているようね。 私は一歩、また一歩とその人に近づいていくの。
もう、目の前まで来たわ。 そして、私は魔力をためた右腕を大きく振りかざしたの。
「さよな・・・」
「待ちなさい!!」
私が横島忠夫に止めを刺そうとした瞬間、誰かが私の前に立ちふさがったの。
「マ・・・・・・・・・ママ・・・」
ち、違う。 この人はママじゃない! 目の前に動けなくなっている横島忠夫と同じ、私をずっと騙してた! 私をずっと裏切っていたのよ!
「蛍・・・もうやめて。 私たち家族じゃない。 こんなの間違ってる! メドーサに歪められてる! 私たちのところの帰ってきて! お願い!!」
違う・・・違う違う!! 私を騙してたんだ! そんなの家族じゃない! 帰れない。 もうやめられない。 絶対に・・・・・・・・・許せない!
「邪魔をしないで!!」
私は左手の甲に魔力を纏わせてタマモを弾き飛ばしたの。
「きゃ!」
ドサ
タマモは動かなくなったわ。 私の魔力による麻酔の影響と、打撃のショックで気を失ったみたい。 私は横島忠夫の方に向き直ったわ。 正確にはタマモから眼をそらしたの。 なぜか見ていられなかった。
「さぁこれで本当に終わり・・・・・・・」
私は右手をもう一度振り上げたの。 右手に集めた魔力は衰えていないわ。 横島忠夫は悔しそうに顔を歪めているわ。 でも、私を睨んでいるわけじゃない。 瞬間、その人は笑顔を見せたの。
「!!!?」
なぜ? なぜ笑えるの? その笑顔は私のすべてを受け入れてくれるような笑顔だったの。 私の頭の中をこの16年間の思い出が駆け巡っていったわ。 楽しい事がたくさんあったわ。 だけど、それが偽りだった・・・騙され続けた日々。 私は泣いたんだと思う。 頬を流れる涙を感じたから。
「・・・・・・・・・さよなら・・・・・・パパ・・・」
私は横島忠夫めがけて、右手を振り下ろしたの。
つづく
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