ゴーストスイーパー横島蛍 第9話


 私は家に向かって飛んでいた。 すべての力を使うように、力を放出し続けているから、ものすごいスピードになっているみたい。 だけど、今はどうしてか、思いっきり力を使って疲れきりたい気持ち・・・
 私は涙を流しながら飛んでいた。 前を向いたまま飛んでいたから、涙は横に流れてる。 信じたくない言葉。 私は私でありたい! パパは、今まで過ごしてきた優しいパパであって欲しい! その気持ちが私を動かしている。 その事を確証するために私は家に向かってる。

 「・・・絶対・・・違う・・・」

 あの魔族の言葉が頭に浮かび、私は小さく否定した。 涙がまた溢れ出してきたの。
 私は家の前に着いた。 力を放出し続けたせいか、かなり息が切れていたけど、家の中に入ろうと玄関のノブに手をかけようとしたとき・・・

 ガチャ!

 「蛍! いったい何があったの!?」

 ママが凄い勢いでドアを開けて外に出てきたの。

 「あなたの霊力が膨れ上がってるんですもの! 何があったの!?」

 ママは凄い血相で私に聞いてきたの。 ママは私の目も見ていた。 私が涙を流していた事もわっかているみたい。 さらに心配そうな顔になってる。 私はまだ息が上がってる。 ・・・パパはまだ帰っていないみたい。 でもあれだけ力を出していたら、パパも必ず気付いてる。 きっと大急ぎで帰ってくる。
 でも私は少しでも早く本当の事を聞きたい! きっと、ううん、絶対ママも知ってる。 今日あの人から聞いた事が全部嘘だって!

 「・・・ママに・・・」

 「え?」

 「・・・ママに・・・聞きたい事があるの」

 私は俯きながら口を開いた。 きっと違う。 そう信じたいけど、私はママの顔を見てそれを聞けない・・・

 「・・・とりあえず中に入んなさい」

 「・・・・・・ここでいい」

 中に入って、ママと一緒に座って、呼吸を整えて話をする。 その短い時間だけでも私の不安は膨れ上がる。 私は早くママの口から「違う」と言って欲しかった。 そのためには家の中に入る事はなかったの。 ママはキョトンとした表情で私の腕を掴んでる。

 「・・・ねぇ、ほんとうなの?」

 「え?」

 「わ、わたしが・・・パ、パパと、ママの・・・」

 怖い! 聞くのが怖い! でもきっとママは私の望む答えを返してくれる筈!

 「・・・ほんとうの・・・こどもじゃないって・・・ほ、ほんとうなの・・・?」

 「あ、あなた、誰にそんなこと・・・」

 「ほ、ほんとうは・・・アシュタロスって魔神に作られた魔族って本当なの!!? ハァ ハァ ハァ・・・」

 ここに来るまでの私の不安が爆発した。 はじめは聞こえるか聞こえないかの大きさだったのに・・・最後は叫ぶくらい大きかった。
 ママはきっと私の望む答えを出してくれる! 「そんなことはない。 あなたは私とヨコシマとの本当の子どもよ」 って。 きっとそう言ってくれる!
 私は目を瞑って、俯いたまま、ママの言葉を待った。 だけどそれは・・・

 「ほ、蛍あなた・・・やっぱりルシオラの記憶が・・・?」

 私の望む答えじゃなかった。 私は目を見開いた。 見えるのは私とママの足元だけ・・・私に足は・・・震えていた。
 ルシオラ・・・それはあの人が言った私の、私の本当の名前。 私が私になる前の、本当の私だった時の名前。 ママはその名前を知っていた。 その記憶・・・? これは私が聞きたかった言葉じゃない!
 この名前がママの口から出た事で、私の中ではあの人が言っていた事が全部肯定されてしまった。 それは父と母による、私への裏切りだった。 信じていたものを・・・私のすべてを否定された。 完全なる裏切りだ!!
 私の目からは大粒の涙が零れ落ちる。 いくつも、いくつも・・・。

 「ほ、蛍?」

 ママは掴んでいた私の腕を引き寄せようとしたの。

 「やめて!!」

 私はママの手を勢い良く払いのけた。 その勢いに少し腕を痛めたのか、ママは私の腕を掴んでいた手を、反対の手で軽く握っていた。

 「・・・やっぱり、あの人の言う通りだったんだ。 ママたちは私を騙し続けてきたんだね? 16年も・・・」

 「!? ま、まちなさい! あの人って何なの!?」

 「私は、横島蛍じゃない・・・アシュタロスに作られたルシオラなのね・・・・・・こんなものまで付けて・・・」

 私は首にかけられた文珠を握り締めた。 パパが魔力を霊力に変換するために加工した文珠。 私はそれをネックレスにして持たされていた。

 ブチィィィン!!

 私はそのネックレスを引きちぎって、足元に投げつけた。 霊力に変換されていた私の魔力は、次第に元の姿へと変わっていった。 一緒に、今まで信じていたもの、愛していた人たちに、憎しみを感じ始めていた気がする。 だけど、私の大粒の涙は未だ止まっていなかった。

 「ほ・・・蛍・・・!!?」

 「どうだい? 本当の事は分かったかい?」

 突然、私の後ろから声がしたの。 それは長い魔力遮蔽コートを着たあの魔族。 未だフードを被ったまま。

 「・・・えぇ、あなたの言う通りだった・・・」

 「どうするんだい? もうここには居られないだろう? あたしと来るかい?」

 その魔族の言葉に私はママに背を向けて、その魔族の方へと歩き出したの。

 「蛍!!」

 ママの声に私は一度足を止めた。 そして振り向かないまま・・・

 「・・・あなたは・・・私の・・・ママじゃない。 だって・・・私は横島蛍じゃないもの。 私はルシオラなんだから」

 私はそう言って制服を破り捨てた。 そしてあの写真に写されていた、ルシオラの姿になっていたの。 その間も、私の涙は止まらなかった。

 「さぁ、行くよ」

 そう言って私に手を差し伸べる魔族。

 「待ちなさい!! あんたいったい何者なの!?」

 「ふ、まさかこの顔を忘れちゃいないよね。 え? 狐のお譲ちゃん?」

 私へ差し伸べた手でフードを上げる魔族。 その下から出てきたのは、蛇のような目と、紫色の長髪だったの。

 「メ、メドーサ!!」

 「覚えていてくれて光栄だね。 これはルシオラに“真実”を教えてくれたお礼さ!!」

 メドーサと呼ばれた魔族はママに向かって魔力砲を放ったの。 直撃ではなかったみたいだけど、足元で炸裂して、玄関に叩き付けられて、ママは気を失ったみたい。 私は駆け寄りそうになったけど・・・
 この人はずっと私を騙してたんだ・・・関係ない・・・
 私はメドーサと空へと飛び立った。 私の涙は・・・・・・止まらなかった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・<横島SIDE>
 今日1日の除霊が終了し、俺と雪之丞は横島除霊事務所に戻ってきた。

 「ただいま〜」

 「戻ったぞー」

 それぞれの挨拶で事務所に入る俺と雪之丞。 しかし、雪之丞の挨拶はふざけてる。

 「あっ、お帰りなさい!」

 笑顔で愛子が俺達を出迎えてくれた。 この16年間まったく変わっていないのは愛子だけだ。 ・・・まぁ机の妖怪だしね。 いつもと変わらない挨拶。 俺はこれがうれしい。 日々、俺の魔力が上がってきている。 魔力自体も魔神に近づいてきた証拠だ。 だけど、これをしっかり抑制しないといけない。 人間界に居るのだから、おいそれと力を出すわけには行かないんだ。 まぁ、日々修行だな。 そんな移り変わりの激しい俺の生活の中で変わらないものがあると、それだけでなんかうれしいんだ。

 「さ〜て、後は書類かたすだけだな・・・・・・!!!? 蛍?」

 事務作業をしようと椅子に座ろうとした時、蛍の霊力がものすごい勢いで放出されている事に気付いた。

 「お、おい、これ?」

 どうやら、雪之丞も気付いたようだ。

 「あぁ、蛍だ。 何があったかは分からねぇけど、めちゃくちゃに力を放出しながら飛んでるみたいだな」

 「大丈夫なのか!?」

 「多分・・・向かってる先は家みたいだし、家にはタマモが居る」

 俺は唇をかみ締めながら、答えた。
 いったいどうしたんだ蛍!? なんでこんな無茶苦茶してんだよ?

 「「!!!!?」」

 「お、おい・・・」

 「・・・あぁ・・・魔力に変わりやがった・・・く!!」

 「おい、行ってやれよ! こっちは俺たちでやっとくって!」

 「あ、あぁ! すまん! 雪之丞、愛子!」

 それだけ伝えて、俺は家まで“転”“移”した。

 自宅に戻ってみると、そこには、魔力砲で抉れたであろう庭と、玄関先で倒れているタマモの姿があった。 蛍は・・・どこにも見当たらなかった。

 「タマモ!! どうした!? 何があったんだ!? タマモ!?」

 俺はタマモのところへ駆け寄り、タマモを抱きかかえた。 俺はそのままタマモを寝室へと連れて行き、ベッドへと寝かせた。

 「・・・う・・・うぅ」

 どうやら、タマモが眼を覚ましたようだ。

 「タマモ、大丈夫か?」

 「ヨコシマ?」

 「あぁ、大丈夫か? いったい何があったんだ?」

 「!!? そうよ!! うっ!」

 俺の言葉に、何かを思い出したように体を起こすタマモ。 急に起こしたためか、背中に痛みが走ったようだ。

 「無理すんな」

 「大変なの!! 蛍が! 蛍があいつに連れて行かれたの!!」

 「あいつ? 誰だ!?」

 「メドーサよ!! あの蛇女、蛍に何か吹き込んだみたいなのよ!」

 「メ、メドーサだって!?」

 俺の頭の中に16年前のあの日の事が浮かび上がる。 タマモを人質にとられたあの日の事。

 「あいつ、まだ俺の事を・・・くそ!!」

 まさか、まだ俺のことを狙っているとは思ってもいなかった。 16年もの間何もなかったから、俺の命は諦めたんだと高をくくっていた。 俺のミスだ! あいつはなんとしても探し出して倒しておくべきだったんだ!! ・・・蛍・・・無事でいてくれ!


つづく





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