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2007年1月、アメリカ合衆国インディアナ州の「ミシャワカ-ペン-ハリス公共図書館」と「セント・ジョセフ郡公共図書館」、「ノートル・ダム大学図書館」並びにワシントン州シアトル市の「シアトル公共図書館」「ワシントン州立大学図書館」を訪問する機会を得ました。ビジネス支援図書館推進協議会の豊田恭子さんからきっかけとご協力をいただき、山梨県教育委員会・山梨県立図書館の皆さんのご好意により、視察旅程の一部ワシントン州の図書館に同行させていただきました。また、日本図書館協会の常世田良さんからは、多大なアドバイスをいただきました。
このホームページでは、「ミシャワカ-ペン-ハリス公共図書館」と「セント・ジョセフ郡公共図書館」、並びに「シアトル公共図書館」の個人的な訪問記録を紹介させていただきます。
塩尻市立図書館
伊 東 直 登

シアトル公共図書館
図書館職員として、いつかは訪れたいニューヨーク公共図書館。その思いは、この訪問を終えてますます強いものとなりました。が、それはそれとして、ニューヨーク公共図書館の桁違いなサービスを聞くにつけ、図書館文化が根付くアメリカという土壌、そして世界有数の巨大都市ニューヨークという、日本の人口数万の自治体では叶えられない2つの大きな要因を思い、図書館行政の向上に遠い道のりを感じてしまうのも事実でした。
そんな中でお聞きした、ビジネス支援図書館推進協議会の豊田恭子さんのシアトル公共図書館についての報告は、アメリカの図書館サービスのレベルが、ニューヨークに代表されるようなメガ都市に固有のものなのではなく、数十万規模の中核都市にも同じように存在していることを教えてくださいました。アメリカの図書館文化の奥の深さや可能性の大きさを感じさせてくださったと言ってもいいでしょう。
この思いをさらに身近なものにし、自身のミッションと重ね合わせて行くために、人口数万から十数万程度の、日本のほとんどの人が知らないアメリカ地方都市の現状を見てみたいという思いに発展したのは私にとっては自然な流れでした。アメリカのミシャワカ市という小さな街が、私の住む塩尻市の姉妹都市だったことは、幸運だったとしか言いようがありません。が実は、この市域では4万7千人の街を選んだことは、この規模になればやっぱりこの程度かという、失望が結果になるかもしれないという不安も抱えての上でした。
しかし、事前に取り寄せた資料で、その予算規模、人員、利用者数等の数字に触れ、あっさりその不安は取り除かれました。そして、数字ばかりではない、数字に裏付けられたサービスがそこにはあるに違いないとの思いを胸に訪問を果たすことができました。
百聞は一見にしかず。アメリカの図書館は、本当にすごかったです。すごい数字は、報告のとおりですが、本当にすごいのは、その予算や人員体制、建物の大きさ、サービスプログラム、資料、データベースの数などの数字ではなく、そこまで予算をかけてもその価値がある、言い換えれば、それだけ税金を払ってもその見返りがあることを知っている人々の意識であり、それを実現し応えている図書館であるということだと思います。そこの図書館サービスが気に入らなければ、後に書いたとおり、地域総ぐるみで抜けたり、他の図書館へ乗り換えたりできるのですから、利用者も図書館も真剣です。まして、アメリカの図書館は、目に見える直接目的税によって運営されています。支払っている税額に見合ったサービスを当然要求されますし、職員は、その責務を自覚したプロ集団としての責任を果たしているのでしょう。そしてそのレベルが、私たち日本人がすごい、すごいと言っているアメリカの当たり前の図書館サービスなのです。
そうした図書館サービスを提供し続けるために、常に利用者のニーズやシーズを考え、新しいものに挑戦し続けている姿勢が、シアトル公共図書館の建築となり、小さな街の重厚なサービスにつながっているのだと思います。そしてそこには、市民の期待が、図書館という具体的な形を持った、アメリカの上質な文化を見ることができます。
日本図書館協会の常世田良さんから、「図書館の命は資料。でも、どんなに優れた資料を、どんなに豊富にそろえても、それだけでは、利用者が市民の50パーセントを超えるのは難しい。50パーセントを超えるためには、市民の課題解決や生活の支援を担える図書館にならなければ…。」という趣旨のお話しを伺ったことがあります。そんな意味でも、今回訪問したミシャワカ-ペン-ハリス公共図書館の登録者75パーセントは、それだけでもうれしいショックでした。
ミシャワカ-ペン-ハリス公共図書館ハリス分館
それを裏付ける図書館像はどこにあるのか。児童コーナーでゲームに興じる子どもたちの声、それを愛おしそうに見守る両親の目、平日なのに何人も若者がいるヤング・アダルト・コーナーの賑わい、資料を紐解くのに余念がないシニア市民と、そのリクエストに応えるべく資料を探す図書館司書の活動、必ず混雑しているパソコン・コーナーの人いきれ、そして自分で会費を払って図書館サービスをボランティアで支える友の会の人々。
そんな、さまざまな空間が入り混じって、それはいたる所にありました。未熟な私では、見ても気づかなかったこともたくさんあったことでしょう。でも、児童コーナーの子どもたちの笑い声とともに、視察で館内ツアーをしているどの場所でも、私たちの話し声をとがめる声も視線もないその空気は、これからの図書館づくりにエールをもらった思いでした。その雰囲気は、静寂さを要求するのではなく、しかし一定の穏やかな空気が流れる、アメリカの熟成した図書館文化の1ページだったと思います。進化し続ける図書館の、あくまで1ページとして。
ミシャワカ-ペン-ハリス公共図書館の館長に、アメリカの図書館報告などをきっかけに、日本の図書館で、ビジネス支援をはじめとするさまざまな課題解決型の新しいサービスへの挑戦が始まりつつあること、そしてそれには、読書の館といわれる、限られた皆さんだけに愛される静かな図書館からの脱却が模索されていることなどを話しました。すると館長からこんな言葉が返ってきました。
「それは、すばらしい挑戦です。実は、アメリカも30年前は、図書館とは『静かな場所』でした。でも今、図書館は、『コミュニティの場』なのです。」
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