Oh mon Dieu !!
Oh! Mon Dieu!!
Death note
The human whose name is written in this note shall die.
This note will not take effect unless the writer has the person’s face in their mind when writing his name.
Therefore people sharing the same name will not be affected.
If the cause of death is written within 10 seconds of writing the person’s name, it will happen.
If the cause is not specified, the person will simply die of heart attack.
それはうたがいようもない真っ白な空の下から生まれた悪夢だった。
日本の冬は、思いもかけない唐突さでやってくる。去年は例年に見られない冷夏で9月の下旬に霜が降りた。
この異常気象は、地球温暖化説ではなく氷河期の再来の説を有力化していた。
しかしながら、季節は着々とめぐっているらしく、
枝先で淡紅に色づいている桜の花びらが一つ また 一つと落ち始めいていた朝は、靄が立ちこめ、行きかう人の姿形がおぼろげになる。
ほんの数メートル手前まで近づかないと、顔も姿もはっきりしないのだ。
は朝と晩には必ず多摩川の土手にいた。
走りも歩きもせず、先日詐欺のように買わされた一年分の漁業権を利用するためでもなく
昭和時代後期に比べるとずいぶん美しくなった川を眺めるわけでもなく
空を見ていた。
毎日飽きもせず。
が知る限り、東京で電線に邪魔されず空を眺めることができるのは
多摩川の土手か、三鷹市にあるGHQに立てられたキリスト教系列の大学のキャンパス内にある山の上だけであった。
空はの知らないうちに確実に狭くなっていた。
靄が薄れ、かろうじて見通しがつき始めるころ、分厚く東京の空を覆っていた灰色の雲が切れる。
空の中央で、雲は、突然ナイフで断ち切られたように、まっすぐに細長く割れ、そこから、
眼に染みる青い空が覗く。
光が降ってくる。
地上に残っていた靄は 地を這い素早く消えていった。
雲も何かに手繰り寄せられるかのように、山の頂の彼方に去っていく。
後には、からんと晴れた真っ白な空だけが残されていた。
時計の長針は4時と5時の間を指していた、
起床の時間だろうかの視界に写る右端の青いテントがガサゴソと音を立て始め、次の瞬間には、住宅街であれば近所迷惑になり得るであろうラジオの音が聞こえてきた。
『・・・をお伝えします。今週もまた連続殺人事件による被害者が続出、増加傾向にあり、 分かっているだけで82人、そのすべての死因が心臓麻痺によるもので・・・
被害者は警察が追い続けてきた、もしくは刑務所に留置されていた犯罪者で警察庁は昨日5時に会見を開き、大組織による緻密な計画殺人であると正式に発表しました。
なお、この大組織にはFBIやCIA等の関与が疑われており・・・
この連続殺人犯通称キラは犯罪者だけを狙って・・・』
テントから、その居住者が出てくると同時には移動を開始した。
「連続殺人犯キラ・・・、全員が心臓麻痺で死ぬんだから、新手のウィルスとかが凶器なんだろーね。
もしそうでなければ、神かまたは悪魔か。」
風がの髪をなびかせて、地を這い赤く染まった紅葉をかき集め、空に舞い上げた。
「『水の中に大空あれ、水と水を分けよ。』
神は大空を作り、大空の下と大空の上に水を分けさせられた。
そのようになった。神は大空を天と呼ばれた。
夕べがあり朝があった。第二の日である。」
先月までならZARDの歌詞が発せられていたであろうその口から、聖書の一文が流暢に出てきた。
大好きだった歌手が死者になり多少なにかしら思うところがあったようで
最近では代わりに聖書の言葉を口ずさむようになっていた。
は敬謙なクリスチャンではなかったし、過去にもそれを信じたことは無かった。
しかし彼女はその存在を信じてはいなかったものの、その存在を認めていた。
あらゆる宗教の神は実在しなくとも実際に人に生きる糧を与えていた。
生きることを善とすべきか、悪とすべきか、そんな議論は世界の学者(暇人)どもに任せておけば良い話で
興味を持つべきことは、人がヒトとして台頭してから今日まで影響を及ぼしてきた諸神の存在への自分の認識である。
万年ホテル生活のは暇があれば聖書を読んでいた。
しかし、とうとうが神を信じることのできる日はこなかった。
「信じれば与えられん。」これは彼女にとって脅迫以外の何者でもなかった。
信じれば与えられるのであれば、信じなければ与えられないことになる。
時々は思う。
聖書を書いたのは女性ではなかろうかと、狡猾でかしこく、言葉巧みに人を操り、脆弱な心に付け入り、魅了し泥酔させ、
忠誠を誓わせ、誠実さを試すためだと試練を与え人を不当に評価し合否を与え、
禁断の果実を飢えた人間の前に置き「お預け」を言い渡し
献身的に人々の背中をさすりながら生きることを奨励し、
短い命を一生懸命己の為に捧げさせ、果てには死に追い込む。
マーガレット=ミッチェルが描いた「風と共に去りぬ」の主人公スカーレット・オハラのような女性ではないだろうかと思ってみたりする。
「神」への冒涜以外の何者でもないが、それが冒涜できるような「存在」でないこともまた周知の事実である。
「・・・キラは神か?いや、人間の物差しで計る善悪を神が共有するとは思えない・・・。理由を付けて己の行為を正当化し行動するなんて人間のやること・・・だろうし、やっぱり・・・」
は寒さによって縮んだ体を、伸ばすと冷えた体が限界を知らせようと脳に指令を出し、の体はブルッと震えた。
朝風呂で濡れた肩ほどまでにある日本人特有のぬばたまの髪は芯から冷え、脳を活性化させ
の足にホテルに戻るよう伝達指令を出す。
ホテルに着くころには体の先端と識別される部分が真っ赤になっていた。
はジンジンと熱を発するところを掻き毟り、状態を更に悪化させた。
「痒い 寒い 痛い 眠い」
無意味な言葉の羅列は亜由を不審者に仕立て上げるには十分な証言となっていたが
スイートルームを1ヶ月近く利用している上客に変な目を向けるわけにも行かないホテルマンたちは
の姿にギョッとし体を強張らせはするものの、次の瞬間には自分たちの仕事に専念することに従事した。
そもそもホテルはの多摩川の眼と鼻の先にあるので只の散歩であれば、今ののような姿にならなくてもいいはずなのである。
しかし、は今日1時間空を眺めていた。
4時から5時という時間帯も問題だった秋田県民の血を色濃く受け継ぐ彼女は色白のため、青白い顔に対照的な赤い箇所は浮き彫りになり、まるで死者のようであった。
ホテルのラウンジには大きな液晶画面があり、そこから年配の女性受けしそうな
保護欲をそそる面表のした若い男が昨日と同じように画面上で記事を読み上げていく。
「昨日は心臓麻痺の犠牲者が23人・・・か」
「お嬢さん、お守り・・・かな?落としモノですよ」
適当な席を見繕って座ろうとした瞬間に声をかけられ咄嗟に亜由の体は必要以上に反応した。
・・・つまり、こけて尻餅をついたのだった。
「っつー」
「これは申し訳ない。驚かせてしまったようですね。大丈夫ですか?」
大声を出して非難したら、できうる限りのオーバーリアクションを施して泣き喚くことができたら、
どんなに気持ちが良いだろうか、
最近の不調子や苛立ちに終止符を付けることができるかもしれない。
はありったけの敵意と殺気を相手に放とうとその人物に眼を向けた。
「うあっ」
出てきた言葉は用意していた言葉や声色とは程遠く、しかも裏返っていた。
パリッと糊の利いたワイシャツに、
皺も毛玉も誇りも塵も無い 卸したてのような真っ黒な背広と蝶ネクタイにシルクハット、その対となるかのように
生やされた真っ白な白髪と上品に蓄えられたちょび髭、
開いているのか閉じているのか他人には理解しがたい目の上には高価な黒縁メガネが置かれ、
その先に付いているコーカソイド特有の幅が狭く高い鼻が老人の顔にメリハリをつけていた。
彼のつけている品の良い香水の香りがの鼻をくすぐった。
の眼の前にいた人物は彼女がかつて捜し求めて止まなかった人物であった。
Mr. Quillsh Wammy (キルシュ=ワイミー)
世間を騒がす有名な発明家で、いくつもの特許による資産を元に世界中に養護施設を創る。
しかし彼が作ったのは、ただの養護施設ではない「世界の切り札」とも呼ばれる天才を生み出すための研究機関だ。
「あ、失礼しました。知り合いに似ていたので、その、つい」
写真で見た時よりも幾分か老けて見えたが、彼に間違いなかった。
探し物は忘れたころに出てくるというのは本当らしい。
が、忘れたころに見つかっても感動もクソもない。
DS を見たらゲームボーイ等、誰も今更ほしいとは思わない。
欲しいと思ったその時にこそ、モノには付加価値が付けられる。
「いえ、お気になさらず。」
はキルシュの手に乗っかっている谷保天満宮お守りを親指と人差し指でつかみ、苦笑した。
「ありがとうございます。危ない、危ない
これ、学問の神・菅原道真を祀っている寺で買ったお守りだったんですよ。
こんなの落としたりしたら、今日試験本番ブルーになること間違いなしですよね。クックッ。」
「今日・・・ですか、ずいぶん余裕がおありで・・・いや、試験頑張ってくださいね。」
「あー、大丈夫です。賽銭箱に一万円札落としてきましたから、今頃、なまくら坊主どもが頑張って
私のために、合格祈願でもして下すってる事でしょう。」
「では、私はこれで」
「ども、お世話様でしたぁ」
キルシュの足が遠ざかっていくと、はラウンジに設置されている雑誌と新聞を適当に掴み、
液晶画面の良く見える席へ座り、暇そうにしているホテルマンにウィンナコーヒーを注文した。
連日連夜、全く同じ情報を繰り返し流している液晶画面の向こうの優男に同情の目を向けながら、
先程より幾分か生き物の温度を取り戻した親指を噛んだ。