1999年10月25日 「無題」
ハウザーが吠えている。
進はペンを放り出してペントハウスに駆け上がった。
ソファの傍らに置いたベビーベッドの中で、昼寝をしていたはずの赤ん坊が目をパッチリと開けて小さな手足をバタバタと動かしている。
足元のハウザーが「クーン」と鼻を鳴らした。
「よく知らせてくれたな。偉いぞ」進は頭を撫でてやった。
ハウザーは尻尾を振って「どう致しまして」と応えた。半月で彼は頼りになる子守り犬になっていた。
赤ん坊がぐずり始めた。
「あ、はいはい」進は慌てて抱き上げた。
「よしよし。起っきしたんですかぁ」
チュッ、と柔らかな頬っぺたにキスをする。赤ん坊はむずかって首を振った。
「あー、喉渇いたんだね。ちょっと待ってて」
進は子供を抱いたままキッチンに行って、冷ましておいた番茶を哺乳瓶に移した。リビングに戻って、口に含ませると、赤ん坊は一心に飲み始めた。よほど喉が渇いていたのだろう。見ると、淡い髪の生え際に薄っすらと汗が浮かんでいる。
「ここ、暑すぎるかなぁ」進は一人ごちた。
その時、階下で瑞紀が「進、電話!」と叫んだ。
「えー?!」進は赤ん坊を抱いたまま急いで下りた。
「誰から?」「N工芸の山田」仕事の電話だ。
「しようがないなぁ。瑞紀、ちょっとこのコお願い」進は哺乳瓶ごと赤ん坊を差出た。
「オ、オレがぁ!?」瑞紀は鳩が豆鉄砲を食らったような顔で自分を指差した。
「ほかに誰がいるの。京も伊達も出ちゃってるんだから。ほら、早く」
それでもまだ尻込みしている瑞紀に強引に赤ん坊を手渡し、進は受話器をとった。
一方、押し付けられた瑞紀は・・・・。
以下省略(笑)
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1999年10月29日 「気分転換にちょっとお遊び。」
2月15日。つまりバレンタインの翌日。
弱い冬の陽射しが高々と昇ってから四人は事務所に戻ってきた。
バレンタインの夜にはディスプレイの変更が入っている。徹夜でその作業をするのだ。この仕事についてからの恒例行事であった。
事務所には京子からプレゼントが届いていた。これも毎年のことだ。ただ今年はやけにその箱が大きかった。大人一人が入れるぐらいである。
なにを送ってきたんだ、と四人はいぶかりはしたが、バレンタインデーのプレゼントのこと、そんなに変なものは入ってはいないだろうと思っていた。
とまあ、ここまでは毎年変わらぬバレンタインの翌日の朝の光景であった。
箱の中身を知るまでは・・・。
開けた瞬間、四人はゲッと叫んだ。
なんと入っていたのはタキシードだった。色とデザイン違いの。
「な、なにを考えてンだ、京子さん?!」
「ついにボケが始まったのか?!」
さすがの四人も引いた。そりゃそうだろう。どこの世界にバレンタインのプレゼントにタキシードなどを送ってくる女がいる。たとえその送り主が世界に名だたるファッションデザイナーだったとしても。
「あ、ホラ、カードが入っているよ」
請求伝票よろしく、箱蓋の裏側にガムテープで貼られていたそれを進が見つけて引っぺがした。
「えっと、なになに・・・?」
残りの三人は左右から覗き込んだ。
「カメリア創立25周年記念パーティーのお知らせ・・・?」
「・・・」
四人は顔を見合わせた。
「つまり何か? これを着て来いと?」
悟がコメントした。
「そーみたいだね・・・」
進は頷いた。
四人はもう一度顔を見合わせた。
「・・・いやな予感がしないか?」
瑞紀がボソリとコメントした。
「する」
京平が暗く呟いた。
「絶対なにかたくらんでるぜ」
「京、そんな・・・・・」
「いや、ありうることだ」
悟も頷いた。
「なにせ相手はあの京子さんだからな」
四人の脳裏には悪魔のごとき魅力的な微笑を浮かべた京子の顔が浮かんだ。
「でも、着ていかないわけにはいかないだろ。こうやって送ってくれてるんだから」
進が言った。
四人はため息をついた。
だが、さすがの四人も夢にも想像してなかった。
これが創立記念パーティーにかこつけた四人の結婚式になろうということは・・・。
以下、不定期に続く(笑)
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1999年11月02日 「ハウザーの相手?」
〜掲示板上での御木先生とすみれ様のやり取りから抜粋〜
ハウザーの恋のお相手は当然男の子ちゃんです。
お散歩途中のマンションに飼われているハウザーよりちょっと小さめの洋犬で
(ラブラトールとピレネー犬はどっちが小型なんだろう???)
またその飼い主が美人で静かな女性なんですよ。悟好みの(笑)
で、二人(一人と一匹)は毎朝鼻の下を伸ばしてイソイソと出かけて行くわけです。
ただお散歩は京平も交代で行ってて(というより手が空いてるほうが行くんです)、
二人のお散歩コースは違うんですけど、ある日、京平が自分のコースのほうに
行こうとしたらハウザーが引っ張るんですよ。こっちだって。
普段はそういう時は叩いてでも言うことを聞かせる京平なんですけど、その朝は
ハウザーがあまりにも「こっちこっち」とねだるから、彼が言う方向について
行ったんです。すると、いるではありませんか。美人のお姉ちゃんが。
彼女はハウザーを知ってる風で、可愛がっています。
で、京平くんは「ハハーン」と思うわけです。
こうなるとあとは「ダンナをからかう絶好のチャンス!」とばかり、
お散歩から帰った京平は悟ににじり寄ります。
「ダンナもすみにおけないねぇ」
「なんのことだ?」
「とぼけんなよ。グレースマンションのロングヘア美人」
「おまえ・・・! それ、どこで・・・!?」
「今朝、こいつがこっちだって引っ張るから。それでここんとこ毎朝散歩に
行ってたのか」
「ハウザー! このバカ!」
「BOW!」
悟が睨んでもあとの祭り。だいたいハウザーに当たるほうが間違っている。
で、実は京平も気に入っちゃったのです。美人のお姉さんが。
それから二人は毎朝仲良く散歩に出かけます。
しかし、進がこれに疑問を抱かないはずがない。
「最近、毎朝一緒にハウザーと散歩に行ってるけど、どうして?」
「い、いやあ、最近、運動不足だからちょっと身体動かそうかと思って。
な、ダンナ!」
「あ、ああ、そう! 一人で走るより二人の方がいいし」
白々しい言い訳をしていた二人。しかしバカな考え休むにいたり。
妻はちゃんと知っていたのです。
「おまえら最近、角のグレースマンションの女と仲いいんだってな」
何気なく言われた瑞紀の一言に悟と京平は凍りつきました。
「言っとくけど、あいつ、男だぜ。飼ってる犬も」
「○×△☆○×○△!?」
その後、二人のお散歩コースが変更になったことは想像に難くない。
すべてを知ってて「彼」と引き離されたハウザーだけが
「こんな障害に負けるものか!」と愛を貫き通す決心を誓ったとか。
ハウザー、おまえもか・・・。
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1999年11月05日 「HAPPY BIRTHDAY! ちゃこ様」
春のとある日曜日。
「よし! これで片付けは終了!」
最後の食器を食器棚にしまって、進は勢いよくガラス戸を閉めた。
掃除は済ませた。洗濯物も干した。昼食も終わった。
このあとは。
「おーい、奎悟(ケイゴ)、京介、瑞波(ミズハ)、お散歩に行くぞ」
進は赤ん坊たちに声をかけながらリビングとの仕切りをくぐった。
「ぷ?」
フローリングに敷いたラグの上でおもちゃで遊んでいた赤ん坊が一斉に振り返った。
「おまたせ。もう用事が終わったから、お散歩、行こうね」
「あー」
「だあー」
進の言葉を理解したのか、奎悟と京介はおもちゃを放り出して嬉しそうに両手を上げた。
瑞波だけがケッとした顔でまた下を向く。
「どうしたの? 瑞波、お散歩、好きだろ?」
進は三人の中で一番小さい瑞波を抱き上げた。小さいと言っても三人とも月齢は同じ。
誕生日はそれぞれ二日違いだ。
「・・・」
抱き上げられた瑞波はプイと横を向いた。
「あー、またワガママ言って。ダメだぞ」
進はメッと睨んでみせながらプヨプヨの頬っぺを指でつついた。
「だあー!」
「ぶうー!」
途端に奎悟と京介からブーイングが上がった。
瑞波だけズルイ。自分たちも抱っこ、と小っちゃな身体を精一杯伸ばす。
まだ一人では立っちはできない。
「ハイハイ」
進は笑いながら瑞波を「檻」の中に戻した。
赤ん坊たちは進の太ももの中ほどまでの高さの木製の柵の中に入れられている。
危険防止のためだ。
母親たちに置いていかれたときは寝返りを打つのが精一杯だった彼らも、
最近ではハイハイができるまでに成長した。しかし、こうなると逆に片時も
目を離せなくなった。万が一、螺旋階段のほうに行ったら落ちかねない。
四人が悩んでいると、話を聞いた伊牟田がワシにまかせておけ、と仕事で残った
廃材で150センチ四方ほどの柵を作って持ってきてくれた。
以来、進が家事で手が離せないときは、ここに閉じ込められている。
「だあー!」
進の手が離れると、瑞波は身をよじって泣き出した。
もっと抱っこの催促だ。
それを見て、奎悟と京介もグズり始めた。
こうなったら手がつけられない。
「あーもう」
進は慌てて三人を一人ずつ階下に下ろした。
なんとか事務所の隅にとめてあるベビーカーに三人を納めた。
これは京平の父親が買ってくれたもので、ドイツ製オーダーメイドの特別仕上げである。
なにしろ一人の母親の狭い体内を共用していた本物の三つ子と違って、こっちは
別々の母親からそれぞれ生まれているのだ。
とてもじゃないが三つ子専用のベビーカーでは間に合わない。
おまけにこのベビーカーは車体の下に金網がついていて、その中にはおもちゃや
ピクニックシートが入れてある。さらにはミルク用のステンレスの魔法瓶を取り付ける
ホルダーまでついている。
「よし! 準備オッケー」
縦一列にベビーカーに赤ん坊を納めると、進は粉ミルクと紙おむつを入れたリュックサックを
背負った。
「ハウザー、行くぞ」
ハウザーは元気に吠えた。
近くの公園にやってきた進は芝生の上にピクニックシートを広げて、その上に
赤ん坊たちをおろした。おもちゃを出してやる。
キャッキャッと歓声を上げながら遊び始めるJr.たちを見て、進は幸せだと感じた。
立て続けに事務所の前に置いていかれたときはさすがに驚いたけど、
でも、三人とも病気一つせず、すくすくと成長している。
こういうのをささやかな幸福と言うのだろうか・・・。
無邪気に笑う赤ん坊たちを見ながら進は微笑んだ。
「ぷー(あれ?)」
それに最初に気づいたのは京介だった。
「ぶー、ぶー(おい、見ろよ)」
隣の奎悟のベビー服をクイクイと引く。
「だー? (なんだ?)」
振り帰った奎悟は京介の指すほうを見て理解した。
いつのまにか進が眠ってしまっている。
「ばぶ? (どうしよう?)」
「ばーぶー。だーだーだー(眠らせといてやれよ。疲れてんだろ)」
「あー(そうだな)」
京介、奎悟。彼らは実にできた赤ん坊であった。
実際、大変だろうと思う。仕事をして、家事をして、その上自分たちの世話まで。
自分たちの本当の父親は仕込んだだけであとは放ったらかしだ。特に瑞紀などは。
「ばー、ばぶーあーうー(オレ、大っきくなったら絶対進を幸せにしてやるんだ)」
「あーあー(オレだって)」
二人は決意も新たに拳を握り締めた。
その時、
「あー!」
二人は同時に叫んだ。
なんと彼らが決意を表明している間に、瑞波が眠っている進の口元に顔をくっつけている
ではないか!
「だー! ばぶー、ぶー! (瑞波ぁっ、てめえっ!)」
「あー、ばーあ゛ー! (抜け駆けをするなっ!)」
「フフン」
振り返った瑞波は鼻先で笑った。
「あー、ぶーぶー、ばぶー(おまえらがノロマなだけだろ)」
「だあー! (このヤロー!)」
瀬尾瑞波、彼は父親に似て侮れない赤ん坊であった。
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1999年11月11日 「温泉編 Part1?」
「怒っているかなァ・・・」
古ぼけた木製の窓枠にもたれて景色を眺めながら進は独り言のように呟いた。
ここは山沿いのひなびた旅館。客室がわずか七つという小さな温泉宿である。
「あいつらにはいい薬だよ」
背後で瑞紀が応えた。
振り返った進はその端正な顔を見つめた。瑞紀は我関せずという表情でタバコを吸っている。
「でもさ、ちょっと可哀想だったと思わない?」
「ンなこと言ってるからあいつらに騙されるんだ」
進の言葉に瑞紀はそっけなく応えた。
「そうだけどさ・・・」
進だけがまだ心残した様子で視線を落とす。
そもそもの発端は京子から依頼された「カメリア」の来期のカタログの撮影場所探しで
あった。いくつかの候補を上げた中から、京子が選んだのは群馬県の田舎町。
進たちは下見にやって来た。その帰り、京平が近くに日帰り入浴のできる温泉宿があると
言い出した。なんでも紅葉が見事な露天風呂があるらしい。せっかく来たのだから
寄っていこうかということで話は決まり、四人は里から渓流沿いの山道を延々車で上ってきた。
で、ついたのがこの宿。確かにロケーションは抜群だった。清流が谷を削ってできた深い
V字渓谷の中腹にへばりつくように建てられた一軒宿。
しかし日帰り入浴だとばかり思っていた進と瑞紀はそこでとんでもない話を聞いた。
迎えに出てきた宿の老主人に悟はこう言った。
「予約をしていた伊達ですが」
「え!?」
驚く二人に対して、隣では京平が白々しくも口笛なんか吹いている。
その瞬間、二人は気づいた。つまりは二人に内緒ですっかり準備されていたわけだ。
おまけに部屋が狭いとかで、二部屋予約されていた。老人は「ボロ宿でなあ」とえらく
恐縮していたが、最初からそれを見越してこの宿を選んだことは二人の口元を見れば明白だ。
しまりのないニヤニヤ笑いに、進と瑞紀はムッときた。こういう場合、男が考えることは
ただ一つ。
(そーゆー魂胆かよ!)
二人は顔を見合わせた。一瞬の目と目の会話。
(やるか?)
(わかった)
悪事はすぐにまとまる。四人が老人に案内されて部屋の前まで来た瞬間、
「じゃあ、オレたちこっちの部屋を使うから」
瑞紀と進はさっさと一緒の部屋に入った。
「あの時のあいつらの顔ったら!」
思い出して、瑞紀はおかしそうに笑った。
「鳩が豆鉄砲を食らったってまさにあーいう顔を言うんだろうな」
「でも、ちょっと可哀想な気がするなァ」
心優しい進はまだ気にしていた。
「いいンだよ。あいつらにはいい薬だ。それにどうせすぐにこっちにやってくるぜ。
今ごろは向こうの部屋で作戦会議でも開いてンじゃないの」
「そうだね。時々はおしおきをしないとね」
「そーゆーこと。でも、ま、確かに景色だけは抜群だな」
短くなった吸殻を灰皿に押し付けて瑞紀も進のそばにやってきた。
「うん」
進は頷いた。二人がいる窓からも赤や黄色の見事な綾錦が堪能できる。秋深し。風が少し冷たい。
「大丈夫か?」
「え? あ、うん。もう平気」
瑞紀の質問の意味に気づいて、進は微笑みながら応えた。だがその顔はまだ少し青い。
瑞紀は眉をひそめた。
ここに上がってくるまでのつづら折れの山道に酔ったのだ。
「横になってろ」
言いざま瑞紀は進の頭を自分のほうに引き寄せた。
「え!? 瑞紀!?」
進は慌てた。だが瑞紀はいいからと促すようにぽんぽんと肩を叩く。
「・・・」
進は躊躇いながらその膝の上に頭を乗せた。
「・・・ありがと、瑞紀」
頬を染める進に、瑞紀はハンと笑った。そして風邪をひかないように華奢な身体の上に
ジャケットをかけてやる。
そこに、
「よっ、お二人さーん! 温泉行こーぜー!」
何も知らない京平と悟が白々しくさりげなさを装いながら飛び込んできた。
ちゃんちゃん。
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1999年11月13日 「温泉編 Part2?」
「はぁ〜、食った食った」
満足げに腹を擦る瑞紀を見て進は思わず笑いをこぼした。
ちなみに二人がいるのはすでに寝床の敷かれた客室。例によってケモノーズの姿はない。
いや、最初はちょっと仕返しをしたらすぐに許してやるつもりだったのだ。
しかし、昼間のあの事件のあと、いつまでもブチブチと文句をこぼす京平(「膝枕なら
オレがしてやるのに、なぜ瑞紀なんかに」とか「オレにはそういうことをさせてくれない
くせに瑞紀には平気でするのか」とか)、とにかくいつまでもイジケてる京平に進が切れた。
真鍋進。彼は切れると怖かった。普段は一番おとなしいくせに、いや、穏やかな人間ほど
一度切れると手厳しい。
「そんなに言うなら今夜はもう一緒に寝ない!」
と言うわけで、進と瑞紀、京平と悟というむなしい組み合わせが今も続いている。
とばっちりを食ったのは悟だ。京平は自業自得とは言え、せっかくひなびた温泉で瑞紀と
しっぽり、とほくそえんでいた彼の目論見は温泉の泡とともに文字通り水泡に帰した。
とは言え・・・。
(そろそろ何とかしないとな)
食後のタバコを吸いながら瑞紀は胸の中で一人ごちた。
このままでは東京に戻ってからどんな報復を受けるかわからない。温泉での分を取り返すんだ
とか言って一晩中ヤられてはたまったもんじゃない。
なにしろ夕食時の二人の煮え詰まり方たるや、相当なものだった。
(さて、どうするか・・・)
思案しながら瑞紀は短くなった吸殻を灰皿で揉み消した。
と、まるでそれを待っていたかのように、窓を開けて夜風に当たっていた進が振り返った。
「ね、瑞紀、温泉に行かないか?」
「温泉?」
瑞紀はいぶかしげに眉を寄せた。
「風呂ならさっき入っただろうが」
「違うよ。露天風呂。ほら、この下に自然に湧き出てる岩風呂があったって、二人が言ってた
じゃないか。オレたちも入りにいかない?」
そう、怒った進は風呂まで別々にしたのだ。
せっかく来たのだから露天風呂に行こうと言う京平の誘いを「オレは宿の内風呂でいい」とすげなく断り、とどめに「せっかくだからお二人はどうぞ!」と離別宣言をやってのけた。
進の気性を知る京平と悟はやむなく二人で渓谷沿いにあるという露天風呂に入りに行った。
ここで逆らってさらに怒らせる結果になれば、まだかすかに残っている希望の糸を完全にブチ切ってしまう。とにかく今は触らぬ神に祟りなし。二人は日が落ちてからに望みをたくして、女王様に従った。ちなみに瑞紀はそこまでの道のりが片道15分と聞いて、あっさり内風呂を選んだ。紅葉に囲まれた露天風呂でしっぽりとと言う悟の夢はここでも断たれたのである。
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1999年11月14日 「温泉編 Part3?」
「ねえ、行こうよ」
進があまりにも誘うので、瑞紀は気が進まなかったのだが、仕方なく腰を上げた。
帳場で主人に道順を尋ねる。すでに時刻は9時過ぎ。人里離れた宿の周囲はすでに真っ暗で
ある。主人はこんな時間に15分も歩いて露天風呂に行こうという二人に少し呆れたように
笑っていたが、渓谷のせせらぎがとても風流だと教えてくれる。
「ただし熊にはくれぐれも気いつけなされや」
と言って、懐中電灯と鈴を二つ差し出した。これを浴衣の帯につけとけば音に驚いて熊は
出てこないのだという。予期せぬ進言に多少驚きはしたが、二人はタオルを手に宿をあとに
した。
来るとき車で上ってきた道を5分ほど下ると、樹木と樹木の間に主人が教えてくれた脇道が
黒い口を開けていた。露天風呂はここから山の斜面を300メートル下りた川原にある。
そこまでは人一人分の幅しかない急なつづら折れ階段が木々の間を縫って続いている。
むろん舗装などされていない。岩や木でできた自然の階段である。電灯もないので辺りは
真っ暗だ。
「瑞紀、先に行ってよ」
進が哀願するように押した。
「なんだ、怖いのかよ?」
笑いながらも、瑞紀は懐中電灯を手に先に立ってやる。進はしがみつくようにぴたりと
身体を寄せてついてくる。
「おい、くっつくなよ。下りにくいだろーが」
「だって・・・。足元、見えないんだもん」
怖いんだもんとは一応言わない。それでも覆い被さる真っ黒な木々の影。風にざわざわと
なる梢。ちりんちりんと鳴る鈴。
「・・・なあ、やっぱり戻ろうか・・・」
「今更なに言ってるんだよ」
「だって熊が出てきたら・・・」
「ンなモンいるかよ。それにしても帰りはこれを昇るのかよ」
「湯冷めに気をつけないと風邪を引いちゃうね」
なんだかんだ言いながら、5分ほど下ると渓谷に出た。どうやら15分というのは帰りの時間
だったようだ。
階段の終わりのすぐ横に掘っ立て小屋が建っていた。岩風呂の看板も出ている。
「どうやらここだな」
「うん」
進はほっとした面持ちで中に入った。さすがにここだけは裸電球が下がっていた。
一応棚もあり、アケビの蔓を編んだ籠もいくつか用意されている。
「この籠、ディスに使えそうだな。一個、かっぱらっていこうか」
「なに言ってるの!」
無駄口を叩きながら、二人は服を脱ぎ、「入口」と書かれた裏口から外に出た。
なるほど岩風呂と言うだけあって、湯船は天然の岩が削れてできたものだった。
大きさは大人7人が入れるぐらいで広くはない。ちなみに混浴である。
だが、今日は宿の宿泊客が彼らだけなので、この露天風呂も貸切である。
湯船の中も人の手が加わっていない証拠に、あちこちで岩がごつごつと飛び出しており、
腰を沈める場所を間違えると岩肌で擦りむくことになる。
二人は注意深くちょうどいい座り心地の岩を探して、そこに身を静めた。
「ここの湯は白いんだな。それにちょっと臭えぞ」
瑞紀が両手ですくいながら顔をしかめる。
「硫黄が入ってるんじゃない? 確か硫黄って肌にいいんだよ。白くなるんだって」
「それなら京にぴったりじゃないか」
進はクスクスと笑った。
お、終わらない・・・。
すみません、またしても続くかも・・・。
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1999年11月19日 「温泉編 乱入バージョン」
「硫黄って肌にいいんだよ。白くなるんだって」
「だったら京平にピッタリじゃないか」
「瑞紀ったら」
二人は顔を見合わせて笑いあった。
その時。
ガタン!
脱衣場で音がした。なにかが木の床に落ちたような物音だった。
「なに!?」
進が飛び上がった。瑞紀は反射的に進の前に出た。
「誰かいるのか!?」
暗闇に瑞紀の声が響いた。
「・・・・」
返事はなかった。
「ま、まさか、熊・・・・?」
進が不安そうに呟いた。
「まさか。ンなわけねーだろ」
瑞紀は立ち上がった。
「ダ、ダメだよ、瑞紀!」
進が慌てて腕をつかんで引き止めた。
「もし熊だったら・・・」
「だからンなモノ、出るわけねーって言ってるだろ」
「でも・・・」
進は不安そうに腕をつかんで離さない。瑞紀はチッと舌を打つと、もう一度脱衣所に
向かって、「誰かいるのか!?」と声を張り上げた。
帰ってきたのは川のせせらぎだった。
「風か・・・?」
瑞紀は呟きながら腰をおろした。
進はホッと肩の力を抜きながらつかんでいた手を離した。
その瞬間、
「・・・ん?」
かかとの裏側に痛みを感じて進は湯の中に手を入れた。
「どうした?」
「いや・・・、なんか、くるぶしの後ろのトコ、ヒリヒリする」
「岩で擦ったのか?」
「かな?」
進は立ち上がって背後の岩に腰かけた。痛むほうの足を見ようと上げかけたときだった。
「どれ?」
「え・・・!?」
いきなり瑞紀が足首をつかんで湯の外にガバッと引き上げた。
「み、瑞紀っ!?」
進は悲鳴のように叫んだ。
だが、
「あー、ちょっと擦りむいただけだ。放っときゃ治るよ」
傷口を見ながら瑞紀は平然と言った。
「・・・・・」
進は酸欠の金魚のように口をパクパクとさせるばかりで返事にならない。
「ん・・・?」
瑞紀もその様子に気づいた。どうしたんだ、と目で問う。そして気づいた。
なんと足首をつかまれた進は半分岩からずり落ちた格好で股を開いて方足を高く上げていた。
そして傷口を見ていた瑞紀はその大きく開いた股の間に座っていたわけで・・・。
瑞紀の目線の高さには進の大切なところがモロ出しになっている。
「・・・・」
なんとなく瑞紀はマジマジと見てしまった。
可哀想に進はあまりの衝撃に隠すことも忘れて固まっている。
と、瑞紀がハンと笑った。
「安心しろ。おまえのなんか手当てしたときにとっくにご拝謁ずみだよ」
「・・・・・・」
進は真っ赤になった。瑞紀が言ってるのは初めて京平とシタ時のことだ。
確かにあの時は裸のまま風呂まで抱いていってもらって、身体を流してもらったのだから
見られてはいただろうか・・・。しかし・・・。
その時だった。
「瑞紀ぃぃぃぃぃっっっっっ!」
渓谷中に響く怒鳴り声とともに飛び込んできたのは、やはり京平である。
「おまえはっ! おまえはっ!」
怒りに言葉にならない。その後ろにはやはり固まっている悟がいる。
この二人、実は密かに進と瑞紀のあとをつけてきたのだった。
(さてはさっきの物音もこいつらかよ)
瑞紀は心の中で一人ため息をついた。
「いいけどよ。京、前ぐらい隠せ」
乱入編、終わり。
次はいよいよウッフン編・・・かな?
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1999年11月15日 「進哉の独り言。」
今日は新しいおうちにお引越しです。
今度のおうちはお兄ちゃんたちも僕も別々のお部屋なの。
僕はちぃみぃ〜ちゃんと一緒のお部屋がよかったんだけど、奎悟にぃちゃんと京介にぃちゃんが「絶対一人一部屋ずつ!」って言うの。そうじゃなきゃ「オトコとして色々とフツゴウ」なんだって。「進哉ももう少し大きくなったらわかる」って言うけど、どうして???ちぃみぃ〜ちゃんに聞いても、困った顔して教えてくれないの。
でも、ね、だからみんなバラバラのお部屋になったんだ。クスン。
あ、でも、パパたちは一緒のお部屋なんだよ。
えっとね、今度のおうちはお部屋が上と下にあるの。
あ、悟パパが「二階建てだ」って。
んーと、パパたちがお仕事をしている事務所から階段を上るでしょ。またあのぐるぐる回る階段だよ。そしたらリビングに出るの。ここは前と同じなの。違うのはね、今度のはちょっと床を高くしてあるんだって。だから真ん中がス、ステップダウン・・・・? パパ、これで合ってる!? (悟:「ああ」) ステップダウンしてて、その周りが椅子になってるの。これがソファの代わりなんだって。ここでテレビ見たり、ご飯食べたりするの。
あのね、進ママが言うには、今度はみんなお部屋別々でしょ。でも、家族は一緒にいなきゃいけないんだって。だからみんなが集まるところを作ったんだって。
でね、このリビングの横には上に行く階段と下に降りる階段があってね、下りたらパパたちのお部屋なの。パパたちのお部屋は向かい合わせになってるの。お部屋にはお風呂もついてるんだよ。
そして上に行ったら、僕たちのお部屋! リビングから見たら、ドアが四つ並んでるの。
あ、パパたちのお部屋の入口もリビングから見えるんだよ。だって階段のところには壁ないもん。悟パパ、わざと作らなかったんだって。おうちの中の風通しをよくするためだって。でも京パパは、壁作ったらお兄ちゃんたちが部屋に閉じこもって悪いことするからだって言ってた。なのね、これは内緒なんだけど、この前、ちぃみぃ〜ちゃんがパパたちに内緒でタバコ吸ってたの。でも見つかって怒られてたけど。
僕たちのお部屋は細長いお部屋だよ。左から奎悟兄ちゃん、ちぃみぃ〜ちゃん、僕、で一番右が京介兄ちゃん。僕とちぃみぃ〜ちゃんのお部屋の間にリビングに下りる階段があるんだ。
というわけで、新しい僕のおうちの紹介でした!
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皆様、こんなものでいかがでしょうか(^^;)
ちなみに床はすべてフローリングです。御木はログハウス調のペントハウスがいいなぁ。
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1999年11月15日 「無題」
瑞紀はぐったりとベンチに座り込んだ。
のどかな春の日の午後。
傍らに置いたベビーカーの中では進哉がぐっすりと眠り込んでいる。
周囲の喧騒などものともせず。
ここはディズニーランド。夢の王国。
彼は家庭サービスの真っ最中だった。いや、彼だとて自分から好んでこんなところに来たわけでは
ない。奎悟と京介と瑞波の希望だった。
「篤クンも孝一クンも、みんな行ったことあるんだって!」
「保育園でオレたちだけだよ!」
「ねえ、ディズニーランド、行こうよ!」
言われてみれば確かにそのとおりだった。都心に住んでいながら連れて行ったことはない。
以前は子供たちも小さかったので、行っても覚えてないだろうということで見送っていて、
そうこうするうちに今度は進哉がやって来て、乳飲み子を連れ歩くわけにもいくまいと言うので、
お流れになっていた。親のほうはそんなことなどもうすっかり忘れていたのだが、
どうやら子供たちの世界は違ったらしい。
しつこくねだられて、では進哉も一つを過ぎたことだし少しぐらいなら連れて歩いても大丈夫か
ということで、八人は揃ってやってきた。
とはいえ、瑞紀にとってはこれが生まれて初めてのディズニーランドである。
はっきり言って、彼はこの種のものが嫌いだ。今回も自分はパスしようとしていたのだが、
そこはそれ、一人だけ逃がすかと悟と京平に強引に連れてこられた。
(ったく、なにが楽しくてこんなところに来やがるんだ)
瑞紀には周囲の来園者たちの楽しげな様子が理解できない。子供たちはともかく、大の大人
までがおなじみの黒い「耳」をつけて歩いてる姿は、まさに狂気の沙汰だ。
・・・いや、彼らの中にもいた。言わずとしれた京平である。親子そろってキャップの上に
例の丸い耳をつけて息子と一緒に「空飛ぶダンボ」に乗ってる・・・。その後ろには耳こそ
なかったが、これも仲良く息子と並んでいる悟の姿がある。
(できるなら一生見たくなかったぜ・・・。あいつのあんな姿・・・)
瑞紀は額を押さえてため息をついた。もし彼がこの時別れを決意したとしても、誰が責められ
よう。誰が見たいものか。「ダンボ」に乗ってお空を飛んでいる30過ぎの男なんて。
まあ進だけは妙に似合っていたが。ちなみに彼の隣にはちゃっかり瑞波が座っている。
子供たちは念願のディズニーランドに大はしゃぎだった。片っ端からアトラクションを
制覇している。と言っても、まだ子供なので絶叫マシンには乗せられないが。
その間、瑞紀はこれ幸いと進哉を引き取って、地上で待っていた。
「あー?」
可愛いらしい声に瑞紀は振り返った。眠っていた進哉が目を覚ましてもぞもぞと動いている。
「起きたのか。もうちょっと待ってろ。あいつらすぐに戻ってくるから」
そう言うと、瑞紀はタバコを取り出して一本振り出し、火をつけた。
「みぃ〜」
進哉が両手を差し出して抱っこをねだる。
「待ってろって言ってンだろ」
瑞紀はタバコをくわえたまますげなく応えた。ここでリクエストに応えたりしたら、ずっと
へばりつかれることは目に見えている。瑞紀は放っておくつもりだった。
だが、進哉もあきらめない。「みぃ〜」「みぃ〜」と名を呼びながら粘る。
そこにドナルドダックがやってきた。
彼としては可愛い赤ん坊を連れた若いパパを見て、赤ん坊を喜ばせようと思って近づいてきた
のだ。が、そのおよそ自然の法則を無視したコミカルな姿は赤ん坊には恐怖以外何者でも
なかった。
「うわぁぁぁぁっんっっっっ」
進哉は火がついたように泣き出した。焦ったのはドナルドダックである。
彼はゴメンゴメンと瑞紀に頭を下げて、慌てて立ち去った。
それでも進哉は泣き止まない。
「・・・・・」
瑞紀はやれやれとため息をついた。仕方なくベルトを外して進哉を抱き上げる。
「ほら、もういないぞ。泣きやめ」
おむつでぽこんと膨れた尻をぽんぽんと叩く。
その瞬間、泣いていた進哉が突然ニコッと笑った。
「おまえ・・・! 今のは嘘泣きかよ・・・!?」
「みぃ〜」
よだれで湿った唇でチュッとキスをする。
「・・・・」
真鍋進哉。彼は父親に似ずしたたかな赤ん坊であった。
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1999年11月27日 「無題」
(さあてどう料理してやろうか?)
陶酔してしゃべっている男を前に瑞紀は内心意地の悪い笑みを浮かべた。
相手は前に世田谷の撮影所で二度ほど会った覚えのあるプロデューサーだった。
あれは麻美を迎えに行った時。リムジンの後部席で待ってると、彼は麻美と出てきた。
ボディガード兼運転手が「西音寺さんが主演なさっている現在撮影中の映画のプロデューサー
ですよ」と言った。
その時はすぐに麻美が隣に乗り込んできたので話もしなかったが、どうやらその一瞬の間に
目をつけられていたらしい。
クラブで再開したのが運のつき。今夜は一人だと悟られると、プロデューサー殿はさっそく
馴れ馴れしくモーションをかけてきた。むろん「そーゆー」目的で。
このテの誘いは日常茶飯事。だが、今まで一度もなびいたことがない。
自分ではかなりイケてると思い込んでる男の陳腐な誘い文句を聞き流すこと10分。そろそろ
詰めに入る時間だった。
(悪かったねえ、オレは女専門なんだよ)
薄く笑いながら瑞紀は何気なさを装って辺りを見回した。プロデューサー殿を葬り去るエモノを
探すため。目標はイイ女。
だが、その視線がふと一人の男のところで止まった。
(あいつ・・・・)
相手も瑞紀に気づいた。驚いた顔をしている。
次の瞬間、男は瑞紀の置かれている状況に気づいてニヤリと笑った。
タレ目がちの眼が「お盛んなことで」とからかっている。
瑞紀は内心ニンマリと笑った。今夜のエモノは決まった。
(ま、悪く思うなよ)
彼はしなやかにカウンターから離れた。
驚いたのは取り残されたプロデューサーだった。
「お、おい・・・?」
戸惑いの声があがる。瑞紀はそれを無視してエモノに近寄った。
こちらもまた瑞紀の突然の行動に面食らっている様子だった。
「姫サン・・・?」
どうしたんだと言う言葉が発せられる前に、瑞紀は男の首にしなやかに腕を巻きつけて
口付けた。
「・・・・!」
男の身体が硬直した。
(柄にもねーヤツ)
瑞紀は嘲笑いながら唇を離した。そして呆然としている男の頬に手を当てながら
「おせーぞ、ダーリン」
彼はとろけるような微笑を浮かべた。
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1999年12月19日 「モモ尻太郎」
昔々、あるところに気立てのええ婆さんと、えろう女子遊びの派手な爺さんがおったげな。
ある日のこと、いつものように好きもの瑞紀爺さんはなじみの大店の後家さんのもとへナニを
しに、気立てのええ進婆さんは川へ洗濯に行っとった。
と、その進婆さんのもとへ、上流から大きなモモ尻、もとい、モモがドンブラコ〜、ドンブラコ〜
と流れてきおった。
気立てのええ進婆さんは、愛する爺さんに食わせてやろうと、そのモモを家に持って帰ったとな。
さて、日も暮れて、戻ってきた瑞紀爺さんがさっそく食おうとモモを割ったところ、なかから
なんとかぐや姫のようにメンコイ男の子が出てきおった。
子供のなかった二人は、その子に進哉と名をつけて、大切に大切に育てたとな。
進哉が十になったころ、都から「海の向こうに鬼が出る」とのうわさが流れてきた。
なんでも商人の船や周辺の村々を襲うては、宝物や可愛い娘っこをさらって島に持ち帰っとる
らしい。
そのうわさを聞いた進哉が突然、
「ボク、鬼退治をしにいく!」
と言い出した。
進婆さんが止めたが、
「鬼を退治して、宝物を持って帰ってきて、進と瑞紀に好きなものを買ってあげるの!」
進哉は声高々に宣言した。それを聞いた瑞紀爺さんは一も二もなく賛成した。
「おお、行ってしっかりブン盗ってこい。なに、女はいらねえぜ。ンな村娘なんかにゃ興味は
ねえ。そのかわり金銀財宝は忘れるなよ」
「うん!」
かくして進哉は進婆さんが作ってくれたキビ団子を腰に下げて鬼ガ島へ鬼退治に出かけた。
しばらく行くと
「進哉、進哉、どこに行くんだ?」
犬の奎悟と、猿の京介と、雉の瑞波が声をかけてきた。
「あのね、ボクね、鬼ガ島に鬼を退治しに行くの!」
「おまえ一人でか?」
「うん!」
「・・・・」
三匹は不安そうに顔を見合わせた。次の瞬間、
「よし、進哉! オレたちも一緒にいってやるよ!」
「おまえ一人じゃ危険だぜ! 仲間がいたほうが心強いだろ!」
「それに進婆さんのキビ団子は絶品だしな!」
というわけで、犬の奎悟と、猿の京介と、雉の瑞波がお供に加わった。
ここで書き逃げ・・・。オホホホホ(^0^;)
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1999年12月25日 「聖しこの夜。」
「進ママ」
サンタクロースがやってくる夜。キッチンでパーティーの後片付けをしていた進のもとに、
とっくにベッドに入ったと思っていた進哉がやってきた。
「どうしたんだ、シン。早く寝ないとサンタさん来ないよ」
「うん・・・」
進の言葉に進哉は視線を落とした。どことなく元気のない様子の息子に進はおやと思った。
そう言えば夕食の時もあまりはしゃがなかった気がする。
進の思いを肯定するように進哉は足にしがみついてきた。甘えたいときにだけするしぐさ。
進の口元に微笑が浮かんだ。
「どうしたんだ?」
「あのね・・・、ママ、サンタさん、本当はいないの?」
「え・・・?」
思いがけない言葉に進は驚いた。
「どうしてそう思うの?」
「だって・・・。ケンくんやあつしくんがサンタさんはいないって。サンタさんは本当はパパなんだって」
「そうか・・・」
それで納得がいった。元気がなかったわけも。
進は片づけを一時中断して、幼い息子を膝に抱いて椅子に座った。進哉は全身でしがみついて
きた。
「それで、お兄ちゃんやパパはなんて言ってた?」
「お兄ちゃんはサンタさんはいるって。パパも」
進は微笑んだ。8つになる奎悟や京介や瑞波はもうサンタクロースが実在しないことを
知っている。幼い弟の夢を壊さないよう嘘をついてくれたのだ。優しい子たちだった。
「ね、ママ、本当にサンタさんはいないの・・・?」
問う進哉の瞳は今にも泣き出しそうでゆらゆらと揺れていた。
進は苦笑した。
「大丈夫。サンタさんはいるよ」
「本当!?」
進哉の顔がパッと輝いた。本当と進は頷いた。
「でもね、ケンくんやあつしくんが言ったことも嘘じゃあないんだ。サンタさんは世界中の
子供にプレゼントを配らなきゃいけないだろう? だからとっても忙しいんだ。それで一人
では回りきれないから、パパやママが代わりに持ってきてるんだよ。サンタさんに頼まれてね」
「じゃあどうすればサンタさんに会えるの?」
「進哉が大きくなったらね」
「大きくなったらサンタさんに会えるの?」
「会えるよ。進哉が大きくなって、人を信じる心とか、思いやる心を忘れなかったら、必ず
サンタさんに会えるよ」
進哉の顔に笑みが戻った。
「シン、いるか?」
京平が入ってきた。
「ああ、ここにいたのか。絵本取りに行ってる間にいなくなるから探したぜ。早く寝ないと
サンタさん、こねえぞ」
京平は両手を差し出した。
「はい、お話はここでおしまい。ママ、後片付けがあるから、京平パパに絵本読んで
もらいなさい」
進は進哉を差しだした。
「お休み、シン」
柔らかい頬っぺにキスをする。進哉は嬉しそうに笑った。
「お休みなさい、ママ!」
来たときとは違って、晴れ晴れとした笑顔で京平に抱かれて出て行くその姿を見送りながら
進は微笑をこぼした。
そして彼は胸の中でそっと呟いた。
大人になったらきっと見つかるよ。進哉だけのサンタクロース。
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