管理人日記

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2010/12/22
 ミステリ作品のご紹介。
 38回目はハリイ・ケメルマンの「おしゃべり湯沸し」(短編)。

 ミステリファンの間では、ハリイ・ケメルマン=「九マイルは遠すぎる」の作者、という図式が定着していると思います。
 なにしろ「九マイル」はミステリ史上に残る傑作とされていますし、やはり作品の出来上がるまでのエピソードが1つのドラマになっていますから、当然と言えば当然のことでしょう。

 ……ですが、個人的には紹介作が一番好きなケメルマン作品。
 なぜかというと「九マイル」に比べて、より無理な発端から、より明快な推論をたどって、それでいてより信じがたい結末に到達するからです。
 この手の無茶なミステリ的ホラ話の中では、トップクラスの傑作だと思います。といいますか、個人的ベストかも。

2010/11/27
 横浜本牧の三渓園を初拝観してきました。
 目的は晩秋の特別公開。中でも東慶寺仏殿が公開されるというのを聞いて、さっそく朝っぱらから行ってきたわけでございます。
 で、三渓園初体験の感想ですが。
 これだけ広い自宅を持っていた原三渓は、途方もない大金持ちだったのだなぁ……と。
 なんだか当初の目的とズレた感想ですが、こんなにデカい家に住んでいて不便しなかったのかと、いらん心配してしまうくらい広い敷地に驚かされます。
 明治村あたりと違って、各地から集められた建物にポリシーがあるといいますか、筋が通っているところも見事。さすが風流人と言われただけのことはあります。
 ところで、11月末にもなれば紅葉も終盤かと思っていたのですが、三渓園の紅葉度75%程度でした。まだ色づき始めといった様子で、ちょっと意外&ちょっと残念でした。

2010/11/7
 酉の市を初体験してきました。
 行ってきたのは、ご存知、浅草の酉の市。正確に言うと、鷲神社と長国寺です。
 混雑しそうな予感がしたので、午前8時半ごろに鷲神社から参拝したのですが、この時点でかなりの参拝客数。
 それでもまあ、朝早い時間帯だったおかげで、それほど並ぶことなくお参りできたわけでして。行列に並んで、お参りをして、さあ帰るぞと後ろを見るころには、もう意味不明なくらいに人の山ができていましたし。
 それぞれの社務所と寺務所には、豪快な熊手が飾られていて、なかなかの見ものでした。ともあれ、ご利益がございますように……(わりと本気で)。

鷲神社の熊手

長国寺の熊手

2010/11/6
 ミステリ作品のご紹介。
 37回目はエドワード・D・ホックの「革服の男」(短編)。

 今年逝去したエドワード・D・ホックは、バリバリの不可能犯罪を書けるため、日本の本格ミステリ読者にもファンが多かったアメリカの作家です。
 そのせいか、「新本格猛虎会の冒険」なる阪神タイガースをネタにした珍アンソロジーにも参加していたりします。(本当は色んなジャンルを書ける氏ですが、日本での翻訳は、この手のものばかり求められるそうで……)

 さて、ホックには傑作が多くて何を選ぶべきか迷いましたが、結果として紹介作(「長い墜落」とか「長方形の部屋」もいいんですけどね)。
 この作品で感心するのは、奇怪な事件が発生した必然性をクリアしているところです。
 いわゆる不可能犯罪モノは、大げさな事件をデッチ上げるため、必然性の点で無理が生じやすくなります。つまり、「その程度の結果のために、そんなに手間をかける必要がないだろう」というツッコミを受けやすいわけです。
 その点、紹介作では「なぜ、そのようなことが起きなければならなかったのか」について納得できる説明が用意されており、上手いと感心してしまいます。

2010/10/30
 ミステリ作品のご紹介。
 36回目はピーター・ラヴゼイの「つなわたり」(長編)。

 ラヴゼイといえば、いまや英国ミステリ界を代表する存在です。
 その作風を一言で表すなら、歴史ミステリ。物語の舞台を過去(主にビクトリア時代)に設定することで、ミステリに歴史小説的な面白みが加わり、エンタテインメントとして大成功を収めています。

 個人的な感想を言うなら、ストレートな犯人探しの作品よりも、サスペンスに傾いた作品の方がラヴゼイの力量を発揮できているように思います。
 そこで紹介作。
 こちらはラヴゼイお得意のビクトリア時代ではなく、第二次大戦直後のロンドンを舞台にした交換殺人の物語。とりたてて派手なところはない(むしろ地味な)作品なのですが、緊張感とテンポの良さには異様なものがあり、サスペンス劇のお手本といっていい内容になっています。
 打算的な登場人物たちもまた、作品の魅力の一つ(人物造形に、奥さんの意見を取入れたとか……)です。

2010/10/11
 先月、京都に行ってきました。
 更新かせぎのため、そのときの模様を長々と書いていく予定なので、お付き合いいただければ幸いです。

 んで、初回は今回の今日と旅行で一番印象に残ったこと。これはもう「コーヒーサロン阿蘭陀館」。ここの印象がダントツです。
 「阿蘭陀館」というのは、旧日本銀行京都支店の中庭にある喫茶店(ワールドコーヒーの直営店)なんですよ。
 ここはですね、両親から「とにかくスゴい喫茶店があるから、京都旅行するなら絶対に行っとけ!」と、さかんに褒め倒されていたんですね。それでマユツバながらも、今回の旅行の予定に組み込んでみたんですよ。
 そうしたら……いやはや。両親よ、疑ってスマンかった。

旧日本銀行京都支店

 ここは凄い。別格すぎる。
 小説とかマンガの世界で、『とてつもなく豪華でオシャレで、だけど商売っ気がまるで感じられない、道楽で営んでるみたいな喫茶店』というのが出てくるじゃないですか。あれが現実化したような存在です。正直、こんな店が実在していいのかと思えるくらい。

 このお店、昔は日本銀行の金庫だったそうで、まず壁のブ厚さが尋常じゃありません。室内に入ったら、外の喧騒が完全にシャットアウトされます。
 そして驚くのはここから。とにかく調度品が凶悪なまでに凄まじいのです。店内の様子は、下の写真のとおり(以下、実況風にお店を紹介してみます)。


 ふおぉ、こりゃすごい!
 ちなみに、自分が訪れたときは雨天+お昼前だったせいか、完全貸しきり状態。マスターから色々と面白い話を伺うことができました(このマスターがまた品のいい初老の男性で、お店にマッチしまくりなんですよ)。

 今回、自分が頼んだのはケーキセット(1,000円)。
 まずカウンター横のショーケースから好みのケーキを選び、次に店内が混んでいないときは、食器のセレクトに移ります。カウンターには、高価そうなカップ&ソーサーがズラリと勢ぞろい。

マスター
「これはオールドノリタケ。こっちはマイセンにロイヤル・コペンハーゲン。そちらがウェッジウッド……。どうぞ、お好きなものを選んでください」

―― なんという壮絶なラインナップ。めちゃくちゃ高いんじゃないですか、これ?

マスター
「1組80万円〜100万円くらいですかねぇ」

―― えーっと……こういうのって普通、カップとソーサーが6セットで1組だったような……。とすると……うへぇ。

マスター
「入口の横のショーケースにも食器があるでしょう。そちらのマイセンやウェッジウッドはもう少し高価で、1組300万円くらい」

 いやもう、どういうレベルかと。
 言われてよくよく見てみると、店内そこら中が一級の調度品で溢れかえっています。さらにですね、クッションも凄いんですよ。

マスター
「普通、喫茶店の椅子は少し前かがみになっているんですけど、それだとお客さんが落ち着けないでしょう。それで特注の、喫茶店用じゃない椅子を用意しているんですよ」

 たしかに、ハンパじゃない座り心地。明治生命館や岩崎邸などへ行ったときに『座るべからず』と注意書きされている椅子を見ましたけど、あれと同レベルの椅子じゃないですかね、これ。

マスター
「お客さんの中には、1時間くらい寝ていかれる方もいらっしゃいますね」

―― ……ところで、このお店って旧日銀の金庫室だったという話ですよね。

マスター
「このお店の部屋は硬貨の部屋で、隣が紙幣の部屋だったそうです。カウンター側の壁の、上のほうに扉が2つあるでしょう。ここから互いの部屋を行き来していたようですよ」


―― なるほど。でも、出入りするには高すぎる場所にありませんか?

マスター
「それで、ここに階段があったんです。ここの階段状の棚は、そのときの階段に合わせて用意したものなんです。お店のデザイン上、左右対称にしていますが、本当は右側の階段が高い位置までありました。ですから、よく見ていただければ、壁に当時の階段の跡がうっすらと見えるんですよ」

―― なんと、そういう裏話があったのデスか!

マスター
「それから、そちらの壁ですけど、少し空間ができているでしょう」


―― それは気になってました。ここだけポッカリ空いてますね。

マスター
「以前は、そこに色々と飾っていたんです。でも、この夏ごろでしたか、お客さんが出て行かれるときに段差で躓かれまして」

―― ……まさか。

マスター
「置いてあったオールドバカラとか、全部壊れてしまいましてねぇ。でも、そのときは他にお客さんがいなくて、誰も怪我をしなかったのが幸いでした。ハハハ」

 いや、そういう問題なのですか? もっと別の問題があるような気がするのですが……まあ、いいか。

 そんなこんなで色々と話をしていると、一人の女性が店の前に。ところが、お品書きを見て去ってしまいました。

マスター
「このお店、少し値段が高いでしょう。ですから、お店の前で帰ってしまう方も多いんです。中に入っていただければ、満足していただけると思うんですけどねぇ」

 お世辞抜きで、仰るとおりだと思います。
 このお店、メニューはケーキセットで1,000円、サンドイッチセットで800円、というラインナップになっています。
 でも、ケーキも美味いしコーヒーも美味い。雰囲気も素晴らしい。そのうえ贅沢な調度品に囲まれて、これで1,000円が高いと言う奴がいたらアホでしょう。

 比較するのはどうかと思いますが、例えば日本橋三越のフォートナム&メイソン。ここのケーキセットは、ウェッジウッドの食器で紅茶が出てきて1,470円。なのに、店内はせせこましいですし、食器や調度品のレベルは比ぶべくもなく。
 阿蘭陀館が、いかに奇跡的な存在か分かります。

 ともかくも、こちらのお店では素晴らしい時間が過ごせました。
 今後も京都に行く機会があったら、必ず立ち寄りたいと思ってます。それくらいオススメ。

2010/9/26
 インフォシークの無料HPが使用できなくなるようなので、ジオシティーズに移転いたします。
 移転先は「こちら」です。今後とも、何卒よろしくお願い申し上げます。

2010/6/10
 ミステリ作品のご紹介。
 35回目はフィリップ・マーゴリンの「封印された悪夢」(長編)。

 前回に続いて、作者が法律関係のミステリ。フィリップ・マーゴリンは現役の弁護士(刑事事件では無敗とか)で、その作品は法律の世界を舞台としたミステリ…いわゆるリーガル・サスペンスとなっています。
 このように書くと何だかややこしい内容を想像してしまうかもしれませんが、マーゴリン作品にはそういったところがありません。法律面は味付け程度にすぎず、メインとなっているのはノンストップのサスペンス劇です。

 そこで紹介作品。
 「封印〜」は氏のデビュー作で、アメリカの片田舎で発生した殺人事件を巡り、過去と現在が目まぐるしく入り乱れながら進んでいく物語です。
 そして最後に解き明かされる真実。これがかなり衝撃的でした。この結末は、まさに悪夢です。
 個人的に残念なのは、その後のマーゴリン作品に「封印〜」のような、無茶な要素が見られなくなってしまったことです。そうそう何度も使える技ではないと思いますが、あの衝撃よ再び、と思わずにはいられません。

2010/6/6
 ミステリ作品のご紹介。
 34回目はシリル・ヘアーの「自殺じゃない」(長編)。

 第二次大戦前に作家としてデビューしたシリル・ヘアーは、その本職は弁護士・判事だったそうです。そのためか、作品の多くは法曹界を舞台としていたり、法律の絡んだ物語となっていたりしてます。
 そこで紹介作。
 本作は、田舎の邸宅で事件が起きる……いわゆるカントリーハウス型ミステリ。とにかく落としどころが上手い作品で、あまり他では見られないパロディ的アイデアには、ついつい苦笑させられました。
 法律知識が強調されておらず、そのためシリル・ヘアーらしさが弱いことが難点かもしれませんが、この手のミステリが好きなら読んでみるべきです。




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