カケチョー:3
〜カケチョーと初夢運試し〜
年末年始。
嬉しくて、悲しい年末年始。
嬉しいのは単純に休みだから。
年末年始で普段の月末月初よりも予定を詰めてしなければならない仕事のため、相当キクコは疲れていた。
休んで寝ていたい。
飽きるほど寝たい。
スーツなんてもう着たくないし、エクセルもワードも見たくもない。
だけど、休みだから悲しい。
疲れていても、目がちかちかしても、肩が凝っていても、会社に行けばカケチョーに会えたのに、休めば当然カケチョーに会えないわけで・・・。
個人的に会うなんて程遠いこの状況では、カケチョーの姿を見ることが出来ないだけで悲しいのである。
そんな嬉しくて悲しい年末の残業途中、回覧が回ってきた。
タイトルは「これを当てて仕事をやめよう!」
えっ!?
キクコは目を疑った。
何?何の回覧?ここは仕事場でしょ?
下に目を向けると、
「毎日残業。安月給。
辛く悲しい職場には、これでおさらば。
一口、3千円であなたの未来は薔薇色に。
2007年、新たな世界に飛び立とう!
購入者は今年10年ぶりの子宝に恵まれ、忘年会でも1等を引き当てた5カケチョー。
当たりは間違いなし!」
と書いてあり、下には担当アマノと書いてあった。
アマノってわたしじゃないですか!
ぎょっとして、回ってきた方向を見ると、先輩がニヤニヤしている。
「いいだろ。」
「何ですか?これ。」
「宝くじだよ、宝くじ。バーンと当てて、会社やめてー。」
「こんなの会社でしていいんですか?」
「別に会社のお金でするわけでもないし、有志だし、構わないだろ。しかも、サービス残業中。サービスだよ、サービス。年末出血大サービスだよ。俺、最近疲れすぎてよく眠れないから、便通悪くて、ついに今朝尻が切れたみたいんだよな。夢でも見なくちゃやってられないっつーの。」
「切れ痔ですか?知らないですよ、そんなこと。駅の近くに確か肛門科の看板出てたんで行ってきたらどうですか?」
そういいながら、キクコは回覧を手にとって見ると、確かに、広告の裏の白紙を使っていた。
「肛門科ってどういう風に診察するんだろ。触診かな。」
「そんなの嫁入り前の娘に聞かないでください。・・・多分、視診じゃないですか。」
「けつ捲くるのか。やだなー、女医さんだったらどうしよう。」
「もう、痔の話はやめましょう。見合い話も来なくなります。これ、カケチョーなんにもいいませんか?」
「下見てみろ。ちゃんとカケチョーも一口のってるだろ。」
「ホントだ。じゃあ、私も一口。お願いします。」
「バーカ、庶務はお前だよ。ちゃんと、担当アマノって書いてるだろ。5カケチョーへ購入依頼頼んだぞ。」
「へっ?!」
「あー、行こうかな?尻痛くなるの、いやだからな。」
そう言って、お尻をもぞもぞさせた先輩から、キクコはため息を吐きながら目をそらせた。
結局新人の、若いものの仕事なのである。
何でもかんでも。
サービス、出血大サービス。
キクコは5カケチョーに冷や汗を書きながら依頼し、会計をし、番号表を作った。
時間外に、広告の裏で。
これでは私が痔になってしまう。
くそー、一億当たらないと許さないから。
キクコは宝くじを握り締めた。
宝くじは汗で少しよれた。
12月31日。
本日、年末ジャンボの当選番号の抽選日である。
かつて、こんなに燃えたダーツはなかった。
自分にくじ運がないことが分かっているキクコは、今まで宝くじを買ったことはなかった。
今回は子宝を引き当てた5カケチョーの運のおすそ分けである。
子宝で運を使い果たしたなんて外野の言葉は無視した。
競馬同様に、券を握り締めて、
「こいっ、こいっ。」
と声を張り上げた。
大晦日の実家での出来事である。
いい年をして、嫁にも行かず、浮いた噂もない娘のこの行動に、両親はひそかにため息をついた。
声を張り上げた祈りの最後は、両親のため息もかき消す大きな
「あーーーーーー。」
というため息だった。
5カケチョーは子宝で運を使い果たしたらしい。
わずかに残った運は1万円一本で消えた。
それでも1万円引き当てただけ、自分よりは運がいい。
キクコはがっくり肩を落として、メールを打った。
『1万円と300円が当たりました。損益分岐点を越えることは出来ませんでした(涙)会社、辞められないので、来年も頑張って働きましょう。よろしくお願いします。』
1月1日、元旦、朝。
飽きるほど寝た元旦の朝、枕元に置いた携帯にメールが入っていた。
お年玉をもらえなくなってから、キクコは早起きするのをやめた。
遅寝は休みの大人の特権である。
『明けましておめでとう。宝くじ残念。運は子宝で放出したんだね。痔は治ってきたようです。』
とは先輩から。
元旦から痔の情報なんて要らないです、とぶつぶつキクコはつぶやいた。
もう一通、会社のフォルダに受信メールがあった。
誰からだろう?
キクコはもしやと思いながら、メールを開いた。
『明けましておめでとう。1万円当選もおめでとう。さすが、子宝に恵まれただけあるな。これで新年、飲みに行くか。今年もよろしく』
カケチョーからだった。
キクコは携帯をもって、朝から跳ねた。
だってだって。
休みが明けるまで、連絡も取れないと思っていたカケチョーからメール!
しかも、新年飲み会の約束まで!
うれしいいいいい!!
5カケチョー様々である。
1万と言う微妙な当たりを引き当てた。
先輩様々である。
この宝くじ企画を立ててくれた。
新年から、これは縁起がいい。
キクコはメールの画面に音を立ててキスをした。
今年は、カケチョーと何か進展ありますように。
いつか、携帯ではなくて、カケチョーとのキス出来ますように。
そう祈りながら、キクコは再び飛び跳ねたのだった。