囚人のジレンマ
囚人のジレンマ***
相手の出方によって自己の利益に違いが出ると言う設定の元で、相手より優位に立とうとすれば何故か最善の選択を選べないというジレンマ。ゲームの理論の用語。(経済学)
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ある日、二人はある屋敷に招待されました。たくさんのおいしい辛い料理をご馳走になった後、二人はペットボトルの水が何百本と置いてある部屋に通されて、ここで待ちなさいといわれました。いつまで経っても、誰も来ません。そのうちに、二人は喉が渇いてきました。あー水がほしい、これだけあるんだから一本くらいいいよなと、二人はペットボトルの水をゴクゴクと飲みました。あーおいしかった。飲んだ後、証拠隠滅をそれぞれにして、一息つきましたところ、部屋に二人の黒いスーツを着た男が現れ、二人を別々の部屋に連れて行って言いました。
「おまえ、自分のものでもない水を飲んだな。もし相手の罪を白状すれば、釈放してやる。もし、両方が証言したならば罰金2万円だ。相手がおまえの罪を白状して、おまえが黙秘した場合は罰金5万円だ。二人とも黙秘をするならば別件で罰金1万円を科す。」
二人は別々の部屋にいて、連絡が取れません。どうなるでしょう。
サヨコとサイジョウ
サヨコは机の上を見ていた。取調室、取調べをされているのだから取調室だと思ってもいいだろう、はコンクリートの壁に囲まれ、冷たかった。
(囚人のジレンマね。)
サヨコは黒服の男の提示する条件を聞きながら思った。囚人のジレンマを知っていようがそうでなかろうが、サヨコの答えは決まっていた。
「飲んでません。」
きっぱりと簡潔にサヨコは言った。幾ら黒服の男がすごもうが、なだめようが、サヨコはそれ以外何も言わなかった。
サイジョウは黒服の男のスーツを見ていた。固い口調で条件を提示している。
サイジョウは真剣に聞いている振りをしていた。言葉の節々で、分かっているという風に頷きながら、男が真剣に言っているのと同じような態度をとっていた。どんな時も見かけ(態度)はその後の行動を左右する。
見えない内面では、次のボーナスが出たら買おうと思っていた黒いスーツのことを考えていた。やっぱり黒は手入れが大変だよな。白いほこりが落ちてきたら一発で分かりそうな程、真っ黒な手入れの行き届いたスーツだった。コレくらい手入れできたら、格好がいいけどな。
「どうだ。」
黒いスーツがサイジョウに近づいてきた。このスーツは布もよさそうだ。サイジョウは冷静に観察しながら、
「飲んでません。」
と真剣な顔で答えた。それから、サイジョウは目をつぶって、彼のなだめたりすかしたり脅したりを黙って聞いていた。内面はスーツが幾らするか、どこで買うか、考えていた。
5時間後、ようやく二人は開放される事になった。
サイジョウと建物の外であって、黙ってマンションに帰った。サヨコの部屋でしばらくコタツであったまった後、サヨコが口を開いた。
「ペットボトル一本で一万円は痛いわね。」
「そうだな。」
サヨコは知っていた。こういうとき平然と嘘をつけるサイジョウを。
サイジョウは知っていた。サヨコが平然と嘘をつける自分を知っている事を。
二人は囚人のジレンマに陥ることなく、最小の出費を選んだのだった。
コタニとイツコ
コタニは相手が話す事を静かに聞いていた。
(囚人のジレンマだな。)
コタニは思った。そう思った時点で、コタニの行動は決まっていた。黙秘だ。それがパレート最適(ある種の社会的最適)を達成する手だからだ。そう決めた時点で、コタニは目を伏せた。相手が何を言おうが、机を叩こうが、静かに座っていた。
イツコは状況についていけずきょろきょろしていた。
えっ、何、どうすればいいの?
怖そうな黒服の男を前に、完全にパニックに陥っていた。えっと、私が課長が飲んだことを言えば無罪放免なわけね。で、両方が証言したら2万円?で、なんだったっけ?
相手はしゃべり終えて、こちらの出方を伺っている。
イツコはびくびくしながら聞いた。
「あの・・・どうしたら罰金が5万円でしたっけ?」
「相手が証言して、おまえが黙秘したらだ。」
「ありがとうございます。」
イツコは考えた。
「すみません、よかったら紙をもらえますか?」
何か言われるかと思ったが結構普通にもらえた。矢印で整理してみた。
自白→無罪放免 課長→5万円・・・そんなこと絶対にありえない。
二人とも証言→2万円・・・?
課長が証言 私→5万円・・・ありえない。
「あのー、私が自分の罪を自白したら、課長はどうなるんですか。」
「そういう場合は・・・ちょっと待て。」
黒服が部屋を出て行った。数分後帰ってきて言った。
「男は無罪放免、おまえは罰金5万円だ。」
「そうですか・・・。あの・・・私が飲みました。」
イツコは白状した。
別室に入れられて30分後。コタニの部屋に、同じスーツを着た黒服の男がやってきて、元居た男に耳打ちした。
元居た男はコタニに言った。
「もう出ていい。釈放だ。」
そう言って彼は口を閉じた。10秒立っても開く気配はない。コタニの理論上、罰金が課せられないことはない。最低で1万円は払わなくてはならないはずなのだ。しかし、彼は罰金のことは何もいわない。
「罰金は?」
「なしだ。」
「えっ?」
「女が白状した。」
タチバナ・・・。馬鹿。どう考えてもここは黙秘だろう。コタニは溜息をついた。囚人のジレンマもパレート最適もこうなればどうでもいい。
「申し訳ない。俺も飲んだ。二人白状したから、罰金は一人2万円だ。ここにおいて置く。」
コタニはもう一度息を吐いた。タチバナにあったら、ゲームの理論を徹底的に教え込まなければいけない。だけどその前に、きっと抱き締めないではいられないんだろうな、コタニは思った。
ナカムラとイワサキ
おいおい、おまえはMIBか。真っ黒なスーツの男を見てイワサキは思った。MIB化と思ったものの「Men In Black」のビデオを見ていないので、映画の中の黒いスーツに何の意味があって、それを着ている主人公達が何物なのかは知らない。ただ、黒いスーツの男がいたからそういう連想が浮かんだに過ぎない。その男から一通りの説明を受けて、イワサキは考えた。
沈黙していようか。だけどナカムラが沈黙しているかどうか分からない。あいつ給料日前はマジで金がないからなー。こっちが黙ってれば、あいつはただか。それよりも俺が5万円払うのか。そんな金はない。もしも、あいつの罪を話せば上手くいけば釈放、最悪2万円か。うーん、5万円と2万円。ナカムラの金がないのは深刻だからなー。最近うどん食ってるのしか見てないからな。うーん。こりゃ黙っているよりも、ナカムラが飲んだ事いったほうがよさそうだな。
「やつが飲みました。」
イワサキはあっさり証言した。
まったくついてねーよ。ヒヤマに振り回されたと思ったら、今度は水を飲んだと言うだけでこの騒ぎかよ。全くやってらんねーよ。ナカムラはそうは思いつつも、黒いスーツの男と向かい合わせに座り、曖昧な笑顔を浮かべていた。習慣だ。
全ての条件を聞き終わったときに思ったことが、金はない、と言う事だった。ヒヤマの一件があり、金がない。社食で食べるのもうどんばかり、食べ飽きた。こりゃ、どう考えても白状だな。ただ(=金を払わない)で切り抜けるためには博打が必要だ。まあ、博打云々の前にイワサキが黙っているとは思わない。コレで黙ってたら、5万円払わされるかもしれないしな。冗談じゃないよ。
「イワサキ、やつは飲んでましたよ。ゴクゴクおいしそうに。やつが犯人です。」
ナカムラは勢いよく証言した。
25分後、部屋から釈放された二人は顔を合わせた。
「「あー証言してよかった!!」」
第一声はそれだった。黙ってれば1万円で済んだが、二人の頭には自分が言わなかったら5万円払わなくちゃいけなかったのに、2万円ですんじゃったとポジティブな考えしかなかった。
***囚人のジレンマとは、相手がどう行動するかわからない状況で怒りうる事を設定としているので、サヨコとサイジョウの話は当てはまりません。また、囚人のジレンマは相手より優位に立とうとするということが要件なので、イツコのような相手のためを思ってと言うような感情は介入する余地はありません。したがってこの場合も囚人のジレンマに当てはまりません。(私が曖昧な知識で思う)囚人のジレンマとはナカムラ達のようなパターンです。あくまでコレは経済学の講義ではなく、物語です。私がたまたま読んだ囚人のジレンマの話が面白くそれからヒントを受け、作ったお話です。それを加味した上で(知識不足は痛いほど知っていますので)、お楽しみください。最後に、当たり前ですが人のものを勝手に飲んじゃいけません。こういう設定でなかったら、みんな白状してます。(笑)