<< メーデー >>


 重い。
 つーか、なんか全然気が落ち着かないし。そのうえ、なんか体がゾワゾワするような、そんな気持ち悪ささえ感じてしまう。
 こういう空気って、どうも…な〜。

 長机が扉に向かってコの字を描き、そこにズラリと座る人々の視線。
 大して知り合いもいないようなこんな場。
 たかだか数人とはいえ、視線が否が応にも集中されてしまうこんな状況に。
 しかもな〜、ちょっと真面目くさった雰囲気プラスあんまり歓迎されてない雰囲気バリバリだもんな。
 歓迎されてないっていうより、ちょっと敵意的なオーラすらただよっているような気さえするし。

 なにより。それ以前に。
 何で俺が―――俺たちがこんなところにいなきゃならないのか分かってねぇ、ってのが最大級の問題だよな?



 約束の放課後。
 先輩の下に連れ立って訪れた俺たちが、真乃月先輩の提案、というより取引に応じた。
 「そうか」と一言つぶやいた先輩が、今度は「着いてこい」とだけ言うと、あ然とする俺たちに目もくれずさっそうと扉を出て行く。
 何の説明も無いまま、面食らったせいか、俺たちも何も聞けず先輩の後をついて行った先は…。

 「あ、あの真乃月先輩?なんでここに…」
 「諸君は気にしなくていい。何、少々面倒な事務手続きがあるだけだ」

 説明は以上、ってな具合に話を切り上げるとコンコンと戸を叩き、返事も待たずに部屋へと入っていった。
 未だ困惑する俺たちは、お互いに顔を見合わせる。
 みんな目でこう言っていた。

 (え〜〜、っと……これってどういうこと?)

 だれも答えがでないまま、身動き一つできないでいると、ふと視線を感じた。
 戸を開けたまま、こちらを見つめ続ける先輩の目。

 (何をしてる?着いてこないか)

 と言っている様に思えた。
 何だか面倒くさそうな予感なんだけど、こういう場合、着いて行くのがお約束なんだろうな。
 ため息をこっそりこぼして、いざなわれた部屋へ進んでいく。

 この生徒会室に一体何のようなんだろうな?



 ―――と、思ったのが1時間弱くらい前の話。で、今にいたる。

 あまり他人の視線に慣れてないんで、こういった事態には非常に困る。
 何気なく他の連中を見れば、意外や意外、大して動揺もないようだ。ただ状況についていけてないってことだけで、何かヒマそうだった。
 忘れてた。意外でもなんでもない。
 こいつら、他人に注目されることに慣れていたり、そういうのを全く気にしていないというような連中だった。
 なのに俺一人、困惑を隠しきれていない。
 実は俺って、この中で一番小心者じゃないのかと落ち込みかけていたそんなとき。

 「それで、真乃月さん。彼らが例の件の面々、というわけですか?」

 一部では熱狂的ファンが未だ根強い、某アニメの某指令の如く、机の上にひじをつき手を組み合わせるメガネの男子生徒が真乃月先輩を見すえて言う。
 部屋の一番奥の長机。扉から真正面に構えるその位置は、おそらくこの部屋の連中の中で一番格上―――ヤンキー漫画風に言うなら、『頭』ってことなのだろう。

 この部屋から考えるに……。

 「おっしゃる通りですよ、会長。見ての通り、規定人数に達した次第。では、認可を」

 奥机のメガネの男子生徒―――生徒会長の何か含みのあるような問いかけもどこ吹く風。
 淡々と言いたいことを言うと、ツカツカと他の生徒会たちの前を堂々と通り過ぎ、一直線に会長の下へと歩み進んでいく。

 トンと机の上に何かの書類を差し出した。

 「本当に本気だったとは……正直思いませんでしたが…」
 「そう」

 信じられないというような顔の会長にも素っ気無い。
 ただ机に置いたその書類の一箇所を指し示した。

 「さて、これで条件は整った。後の処理を願います」

 その言葉を言い残し、会長の下から引き返してくる。

 「さてそれでは、戻ろうか」
 「ま、待ちたまえ!?」

 部屋を出ようとした先輩を、あわてた様子で会長が呼び止める。
 つーか、「待ちたまえ」って。アンタ一体、どんな優等生キャラだよ!?……と、激しくツッコミたいのをグッとこらえる。
 仮にも上級生の先輩だし、なにより知らない人だし。

 「何か?」

 しっかし、同じ上級生でもこの会長さんは、真乃月先輩にとっても先輩だっていうのに。
 この人はおくするどころか、むしろ会長さんに対して上位にいるかのようですらある。
 言葉遣いは、やはり年上ってこともあって、一応敬語にはなっているもののその口調、態度はむしろ目上の人間が目下の人間に対してのもののようだった。

 精一杯のプライドと意地をかき集めたのか、ひるみそうになった自分をふるい立たせ、会長は立ち上がり声を上げた。

 「なぜ…なぜ、わざわざこんなことをする必要が?君がその気になれば……」
 「必要性?」

 先輩は振り返る。
 理解ができない、と会長は首を振る。
 でも先輩はゆるがない。

 「すべてが必要。結果は無論、この過程ですら」
 「君はもっと合理的な人だと思っていたよ」
 「最も効率的で効果的な手段。それが合理的でないのであれば、そうなのでしょう」
 「………」
 「それでは、よろしくたのみます」

 どうしても納得できない、という会長の顔が先輩によって閉じられる扉の向こうに。

 パタン。

 戸は閉じられる。
 そして先輩は、俺たちに振り向き、ただ一言。

 「皆、ご苦労。解散だ、以上」
 「………」

 え、え〜〜っと。

 『はぁ〜〜〜???』

 心から、たくさんの疑問符を込めて、俺たちはほぼ同時に声を上げた。
 何が楽しいのか、ニコニコ笑顔のハルカとどうでも良さそうに首をかくサイキョーを除いてだが。

 ってまあ、そんなことはどうでもいいや。
 それよりも―――。

 気がついたら、先輩の後姿。
 もう数メートルの距離が。

 こ、この先輩、勝手過ぎんだろ〜〜〜〜!!!!?
 ―――と、本人に直接いえないから、心の中で叫んでみたり。


★           ★           ★


 翌日の放課後。

 「本日から始動する。皆、よろしく」
 「……あ〜〜、ちょっといいッスか?」

 オズオズと手を挙げる。


 校門で運悪くとっつかまったあの以来、登校時間に真乃月先輩の姿を見かけることが無くなった。

 きばつな性格で有名な先輩のこと、きっと俺なんかにはさっぱり分からない理由があったんだろう。
 そんな先輩だから、俺はもちろん他連中でさえ不審がるそぶりもなく、「あの先輩のやることは、よう分からん」と疑問ひとつ持たず、納得していた。

 が、今朝。再び先輩が校門の前に立っていた。
 右腕の中ほどに、やはり腕章。

 非・風紀委員。

 …先輩。せめて、<非>じゃなくて<元>でしょう?
 元の腕章に手を加えた様子がない。どうやら、これはこれで一から作り直したモノなんだろう。
 どうでもいいけど。

 さて、どういう流れでそうなったのかは覚えてないけど、ともかく再び放課後、あの教室これまた再び呼び出されたのがその今朝の出来事。
 例の如く、校門で先輩にとっつかまったわけだ。
 今日は別に他のやつらと一緒ではなく、いつもどおり俺一人―――と、ハルカで登校した際のことなんで、お呼び出しがあったことは後で俺が伝えるハメとなった。


 といういきさつがあり、今にいたる……んだが。
 連れだって先輩のもとへと集まって直ぐかけられた言葉は、ワケも分からず向かった俺たちにとって、よりワケの分からないセリフ。

 説明を求めたのも無理ないことだろ?
 たとえ先輩が、俺がなんでそんなことを理解できていないのか分からない、というような不可解な目をしていてもだ。

 それから、数分後。

 「―――それで先輩、この前の生徒会にはこの部(?)を承認してもらいに行ったってわけなんですね?」
 「その通り」

 ようやく、日をまたいでこの前の出来事のわけを聞くことが出来た。

 どこにでもある、よくある規則。
 部の成立には、規定数を超える部員数が必要であること。
 うちの学園の場合、運動部や合唱部などの選手権や大会がある部活はその競技の最低限部員数。それ以外、特に大会などに参加する必要性のない部は、原則五人以上。ということらしい。

 前回の突然の召集は、その証明に連れ出されたってわけだ。
 それならそうと事前に言ってくれてもいいよな?……ま、聞けない俺にもちょっとは落ち度があったかもしれないけど。

 「あー、ちょっといい?」

 なんかどうでも良さそうな口調で、質問をあげたのはパイプ椅子の背もたれに目一杯背をあずけてるショウだった。
 ノドを伸ばし、首を反らせて横目に先輩を見すえるその姿が、何かのワンシーンのように様になっていて、不覚にもちょっとドキッとしてしまった。
 こいつ、自分の容姿も考えず、たまに無意識でこういう様になるポーズを決めるんだよな。

 「あのさ、オレたちがわざわざ行く必要があったんですか?別に、部員届とかさえ見せりゃあ良かった話なんじゃ?」
 「あっ…」

 ショウの言葉で、思わず声がもれてしまった。確かにその通りで、盲点だったと思ったからだ。

 「通常ならばその手続きで問題は無い。だが今回の場合は、そうもいかなかっただけだ」
 「と言いますと?」

 完結しそうな調子の先輩の回答だったでちょっとあせったが、絶妙なタイミングでソウシが問い直す。

 「いわゆる幽霊部員、というのか。名前貸しだけの実態の無いものでは困る、といわれたのでな」

 なるほど、などとは言いがたい。
 何かこう、しゃく然しないものがあるんだよな、今の話の流れ。自分でも何が足りないのか、わからないけど。
 答えてくれたてはいるんだが、答えてくれていないような気持ち悪さが残る。

 他の連中もそう感じているのだろうか?
 皆、微妙な顔でまるでナタデココをかんでいるときのような、かみ切れない歯がゆさを感じているようだ。
 …ナタデココの例が適切かどうかは、この際問題ではないと補足しておこう。

 「アタシも質問いいですか?」

 どんよりと曇り気味な空気の中、いっそ能天気とさえ思えるほど快活な笑顔で手を挙げるハルカ。
 一条の光明となるのか?

 「それでこの部活って、どんなことするんですか?」
 『あ……』

 声をそろえて、俺たちはハルカの質問に声を失う。
 そうだよ。よりにもよって、肝心なことを聞き忘れていた。

 (半ば強引な手法で入部された)この部活、一体何なんだ?
 そもそも部活名すら知らない、ってことに今さらながらに気づいた。

 他の連中もそう思ったか、俺たちは示し合わせたかのように、互いの顔を見合わせた。

 「ふむ」

 腕を組み、ひとつ大仰にうなづいた後。

 「その前に、諸君にひとつ質問がある」
 「質問、ですか?」

 先輩の質問の意図が読めない。ハルカの質問に質問で返す意味とは?

 「諸君は、この学園をどう思う?」
 「ど、どうって……な〜?」

 再び俺たちは顔を見合わせる。
 色々な意味で答えづらい、そんな内容の質問だったから。

 理由その一、実は先輩が学園の関係者のひとりであること。
 理由その二、ばく然としすぎて質問の意図が読めないこと。
 理由その三、その答えを持ち合わせるほど………大した思い入れも無いんで、回答そのものがほぼ無回答になりそうなこと。

 思い浮かぶのは、せいぜい教室外の掃除は業者の人がやってくれているんで楽だな〜、とか。職員用のトイレは学生トイレと違ってキレイでちょっとオシャレな感じでズルイとか。そんな程度。

 多分きっと、先輩の求めている答えはそういう類のものじゃないんだろう。
 他の連中もそう思ったか、困惑したように言葉でない。

 不満という不満はない。かと言って、満足といえるような充足感もない。
 限りなく、無味無臭でありながら。かと言って、虚無感というほどの空しさもない。

 答えようの無い、答えで。
 答えはわかっている、答えしかなくて。
 だから、今時のほかの学生たちのようにただ一言。

 「“フツー”だと思うけど。俺はそんな感じっスかね」

 ダラ〜っと机に突っ伏したサイキョーが俺たちの胸の内を代弁するように、寒々しささえ感じるようなつまらない一言で、切り捨てるように言い放つ。
 字面だけ見れば、まるでどうでもいいようにさえ感じてしまう言葉。
 その言葉を言ってしまえば、そう感じられずにはいられない言葉。

 だけど俺たちは、それを否定してるはずだ―――少なくとも、俺はそうだ。
 なんだかんだで、この学園に愛着がある。思い出がある。

 多分、きっと。漫画や映画や小説、はたまた色々な武勇伝を作り上げていく他の連中のように、派手で重く満たされるようなイベントなんかなく、ただダラダラと過ごすだけだった高校時代になるであろう俺の学園生活だとしても。
 他人から見たら、大して面白みも無い日々だったとしても。
 それでもきっと、『あ〜あんな日々もあったな』なんて苦笑いのような微笑まじりで思い出す。

 ―――そんな日々を“フツー”の一言で片付けたくなくて。
 言葉に出してしまえば、きっとそう思ってしまうような気がしたから。
 …俺は、言葉をつむげなかった。

 そしてまた、サイキョーの言葉を否定することさえできずにいる自分が、少し―――少しくやしかったりした。

 「皆もそんなところか?」
 「…あたしは、まだなんとも言えないんですけどね」

 困ったように、茶化すように言うハルカの言葉が、ふんわりと空気を和らげる。
 居心地の悪さが、ハルカの一言で和らぐ―――忘れていく。

 そもそも先輩は空気感なんてものなんか、全然興味がないようで「そうだな」なんて一言うなづいて、続けた。

 「ところで、皆は漫画を読むか?」
 『はっ?』
 「マンガだよ、漫画。コミックと言った方が良いのか?」

 困惑したように、首をひねる先輩。
 いやいやいやいや、先輩。むしろ首をひねりたいは、俺たちの方なんですけど。

 先輩は、なにやら俺たちが漫画を知らないモノだと思っているような節で、どう伝えたら良いか悩んでいるようだが、それは当然のごとく見当違いだ。
 困惑してるのはこちらの方だ。
 マンガの定義なんて、小難しいことはともかく。マンガというモノを知らないから困惑したんじゃなく、俺たちはただ、先輩がなぜ突然そんなことを言い始めたのかが理解できず戸惑ったに過ぎない。

 「あ、あの〜、先輩。俺たち、マンガくらい知ってますけど……」
 「お〜、そうか。それは何より」

 オズオズと応えた俺の言葉に、先輩は心底ホッとしたように二,三回ほどウンウンとうなづいていた。
 表情は一切変わらなかったけど。

 「では諸君。改めて聞こう。学園生活はこのままでいいのか?」
 「は、はあ〜」

 前述は一体なんだったか?
 イマイチ、真乃月先輩の言葉についていけない俺たちは、ただただ困惑する。

 口端をヒクつかせながら、気の抜けた返事しか出来ないショウの気持ちが痛いほど俺にはわかる。
 これがもし目上の人間じゃなければ、「テメェ、一体何が言いてぇのかハッキリしろよ!」なんて今頃言っている頃だろう。ショウが。

 しかし先輩はこちら側の気持ちを全く気にしていないようで、続ける。
 …もしかして、先輩って空気の読めないタイプの人、かな?

 「入学前は思わなかったか?まるでマンガのように、映画のように、あるいは小説のように、踊るように跳ねるように転がるように、日々喜怒哀楽にまみれた高校生活が待っていると」
 「……」
 「だが実際はどうだ?」

 否定したいが、否定する要素が俺には見当たらない。
 俺自身の思い出に対しても、先輩の言葉に対しても。

 皆、一様に無言。
 でもそれぞれに抱いている印象は様々なようだ。

 現実主義なショウは、「何を夢物語、語ってんだ」とつまらないものを聞いたように。
 快楽主義なソウシは、「あ、そう」とばかりにただ言葉を上辺だけ飲み込んで。
 享楽主義なサイキョーは、「……」眠そうにうつらうつらと、船をこぎ始め。
 ハルカは、ただニコニコと事の成り行きを楽しげに見届けようとしていて。

 そして俺は。俺は―――。

 「興が乗ってきたか?」
 「?!」

 気がつけば、先輩が挑むような誘うような眼差しで俺を射抜いていた。
 ハッと、瞳越しに心をワシづかみされたような錯覚。

 見透かされた!

 刹那にそう思った。ズクン、と体の奥が震動する。

 確かに、俺は。あのとき先輩の一言に―――。
 言葉が出ない。先輩の目から視線が外せない。応えられない。はがせない。

 メデューサの視線に石化させられた哀れな民のような俺。
 しかしすぐさまその呪いは解けた。理由は簡単、先輩が視線を外し、俺たちを見回したからだ。

 「お前たち―――」

 そして一言。

 「―――満ち足りた学園生活を手にしないか?」

 言葉を失う。時が止まったように。
 今度こそ、俺たちの誰一人がひとつの思いを抱いて。目を見開いていた。

 軽やかに、重い(想い)一言が。
 不足した何に。満たそうとした何かに。手を伸ばそうとさえできなかった何かに。

 すばやく、じんわりと。どくどく、高鳴って。
 染み込んでいく。とらわれたように。

 次の一言でトドメがさされてしまう!
 止めなきゃ、と思いながら。次の言葉をせかしたいような。耳をふさぎたくなるようで、耳に全神経を注ぐように。

 俺の何かに、クサビを入れるように。いや、そのクサビヲハズスヨウニ。

 「つまらなさも、空しさも、驚嘆も、感動も。三文芝居の喜劇のような学園生活を――」

 窓を見る。カーテンがゆれる。
 締め切っているから息苦しいのか、と思ったのだが。

 遠くの方で、荒い荒い息遣いが聞こえる。耳の奥で。すぐそばに。
 あえぐように。あせるように。
 ジンワリと汗が、火照る身体を伝う。

 意識の彼方で気づく、これは自分だ、と。

 しかして先輩は。無愛想につまらなそうな顔をわずかに動かす。
 わずかに笑みのカタチ。挑むような試すような、瞳。

 窓から差し込む西日に浮かぶ、黒いシルエット。
 ああ、まるでこれは悪魔の誘惑だ。

 「―――下らなくも素晴らしい日々を。共に」

 夕焼けが目に刺さる。
 わずかに揺れたまま止まっているオレンジのカタマリ。

 やや芝居がかったセリフとシチュエーション。
 下らない、と気って捨てられなかった。
 安っぽい仮面と小さなポーズも。このときは飾れなかったから。



★           ★           ★



 「………マジっすか?」
 「無論。私は真剣だ」

 はあ〜、っと大きくため息をこぼす面々。
 このなんともいえない虚脱感に、一体どこにクレームをつけたらいいのか。やり場が無いことに、さらに気が抜ける。

 「未定って何スか未定って?!」
 「未定は未定だ。近々決定する」

 軽くテンパって、思わずつめよる俺に、淡々と真乃月先輩は冷静に腕組み応える。

 あ、ありえなくねぇ。
 あんだけ大見得切っといてこの先輩―――俺たちの部活内容は未定だとか抜かしやがった!!

 こ、これじゃあまるで。

 「先輩、こんなことは言いたかねぇんだが。これじゃあ、ただの大学のくっだらねぇお遊びサークルと大差ねぇじゃねぇのか?」

 頭が痛いと、言葉だけじゃなく、実際手をひたいにあててため息混じりにショウは言う。
 心の中で、「そうだそうだ!」なんて声があがる。

 ひ、ひっでぇ裏切り。お、俺の気持ちをここまで……しておいて。

 大なり小なり、俺たちに動揺が走るも先輩はただジッと目を閉じて、何かを思考しているよう。

 「………かもしれん」
 「うぉぉぉい!!」

 思わず、声を上げちまった。しかもタメ語。
 言葉を取りつくろうヒマなんてなかった。反射的に出てしまったのだ。

 さきほどまでのあの盛り上がりが、いまや影も形も無く。
 いっそ屍<シカバネ>さえ残してくれない、ただのマボロシ。サァー、っとながされる偽りの屍の灰。

 終わった。…何かが。始まる前から。


 染み入ったオレンジは、申し訳なさそうに沈んでいく。
 何せ元凶は、いっそ晴れ晴れしいまでに堂々としているのだ。それもやむ無し。

 なぜか俺も一緒にこのまま、フェードアウトしたいほどだ。

 う゛〜〜、なんかすっげぇえ恥ずかしくなってきた。


 あああああ゛〜〜〜〜〜、何なんだ一体?!
 ワケがわかんないイラ立ちやら、なぜか異様なまでの恥ずかしさやら、激しい失望感やら、色々ごちゃ混ぜになって。体がムズムズする。かきむしりたい。転げまわりたい。

 この感情のやり場はいずこに〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ぃ!?






 ―――それでもわずかに残る淡い期待感。
 まるで、あらかた飛び出してしまったパンドラの箱の底に眠る、希望のごとく。

             


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