196x年、ある夏の午後。西独留学中の日本人青年、秀才にして
柔道の名手である瀬部麟一郎と、その婚約者で「大学の女王」た
る旧独逸貴族令嬢クララ・フォン・コトヴィッツの前に、突如、
奇妙な円盤艇が出現した。
円盤艇の中には、美しき白人女性と、黄色の肌の奇形侏儒。
白人女性は、未来世界を支配する宇宙帝国「EHS」の大貴族、
侯爵嗣女ポーリーン・ジャンセンであった。2000年後の地球に新
築した別荘に来ていた彼女は、航時艇で航行中、墜落したのだと
いう。
麟一郎とクララは気絶していたポーリーンを救けるが、麟一郎
は彼女の飼う人犬に咬まれ、全身麻痺に陥いる。
クララの動揺を外に、ポーリーンは、麟一郎を侏儒や人犬
と同じく「ヤプー」と呼び、すなわち「知性ある類人猿」であると
主張、人間扱いしない。
麻痺を直す實解薬は別荘へ戻らねば得られず、二人は救助に来
た航時円筒船に同乗する。
2000年後の未来社会を支配する「EHS」(the Empire of hund-
red Suns)。
それは、20世紀後半の第三次世界大戦による世界絶滅の混乱時
に、地球を脱出した白人達が築き、発展させた宇宙帝国であった。
その縮図は無数の惑星に及び、高度の文明を有する彼女らは、時
間航行機を操って、あらゆる時空帯へ自在に入り込むことができ
た。
英国王室女系の女子が女王として君臨する専制社会であり、完
全な女権制。
支配権は女性が掌握し、男性の地位は女性に従属する。
また、この白人の楽園は、厳格な階級性が敷かれ「人間」
社会を形成する白人−金髪の貴族と、黒髪の平民。
その下に「半人間」の黒人奴隷。
そして、さらに下層にいるのが、「家畜人ヤプー」こと旧日本人
であった。
未来の生体科学の発達により、ヤプーは肉体を種々に加工さ
れている。単なる家畜としてだけでなく、器物であり、動力と
して、多様な用途に使役され、人間の生活に無くてはならぬもの
となっていた。
白人女性の自慰行為に奉仕する舌人形、白人の排泄物を処理する
肉便器、主人の身辺で使役する従蓄。そして、読心家具や娯楽用
の矮人、蓄人馬、蓄人犬。さらには、代理出産のための
子宮蓄等々……。
さて、航時機の一行は。
救助に来たのは、ポーリーンの妹ドリス、二人の実兄セシル、そ
して彼女らの義弟ウィリアム。
ポーリーンは、三人に、クララを「航時遊航中の事故で記憶喪
失になり、ヤプーを連れて原始生活をしていたイース貴族」と紹
介する。
ここでも、真相を知るポーリーンはじめ全員が麟一郎をヤプーと
認識し、行きがかり上、クララも、彼女に同調するのであった。
クララは、白人同胞として一同に手厚くもてなされるが、麟一郎
は、未来人の早合点から、家畜となるべく、生体処理を施される。
やがて、2000年後のシシリー島に新築されたジャンセン家別荘
に到着すると、麟一郎は、訳がわからないまま続く残酷行為、そ
してヤプー扱いに逆上し、クララとの心中を図るが失敗。去勢さ
れてしまう。
一方、クララは、美青年ウィリアムとの間に恋愛感情さえ芽生え、
次第にイース文化へと順応、イースに残ることを決意する。
別荘での一夜が明けると、クララは、変わり果てた身体となっ
た麟一郎を、自分の所有物として、蓄籍登録し、
尿洗礼を施す。
クララは、嬢コトウィッツとしてイース貴婦人に、麟一郎は、
新蓄「リン」として、生まれ変わったのだ。
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