万葉集と瑕疵担保
▽『毎日』「余録」(Oct.6, 2009)は、亀井徳政令に関連して、古代瑕疵担保法の論議に引用される万葉16.3809の歌を引用している。「商変領為跡之御法有者許曾吾下衣変賜米」]という原文だが、読み方には色々対立があるようだ。「余録」は「あきかえしめすとの御法(みのり)あらばこそ我(あ)が下衣返し給わめ」と読んでいる。歌の意味は(男にふられて、かつて贈った下着を返された女が)、「瑕疵担保で取引を取り消したら、直ちに品物を返品するという法律があるからというので、あてつけに下着を返して来たのでしょう」と恨みごとを言ったものである。もっともこれは「有者」を「あれば」と読んだ上での話で、「あらば」ならば「そういう法律があるのならば返品もしかたがないが、ないのに返してくるとは意地が悪い」というような意味になる。そこで実定法がどうだったかということになるが、平安末期の法律書『法曹至要抄』に、奴隷牛馬が病気の病気を発見した場合には三日以内で「悔還」可能だが、それ以外は不可とあるから、「あらば」の方が正しいか。17世紀の契沖が既にほぼこのような訓詁・解釈をしていて偉大なものだが、滝川政次郎はこの歌の冒頭について、「アキカヘシ」でなく「クヒカヘシ」と読むことを提案している。理由は、当時「アキ」という言葉は「アキサス」、即ち現物取引ではなく手附取引だったからだというのだが、よくわからない。大阪で売買取引を一方的に取り消すことを「ションベンする」というのが、この歌の「商変」から来ているという佐々木信綱の説はそれゆえ誤りだという。傍論として「ションベンする」という言い方の語源が、妾が前給金を取っておいて寝小便をし、契約を解消させるやり方にあるという俗説を紹介している(『池塘春草』pp.62-4)。