Angel dust 4


「きゃ〜〜〜!ど〜い〜て〜〜〜!!」

高く涼やかな声が響いた。

そしてその声の主の手には、しっかりと掃除機なるものが握られていた。

「うわあああ!!」

ガコ!
ズズズズズ・・・・。

例えようもない音が響いて、慌てておろおろと『大丈夫?ね、大丈夫?』と声をかけながら掃除機に髪を吸い込ま
れた青年にエールを贈っているのは、金の髪の少女、アンジェリーク。

白い指先に滑らかな肌、そして艶やかな唇・・・・どこをどう見ても、『私、一度も家事なんてした事ありませ〜んv』状態だった。

「ああ、動いちゃ駄目、ね、駄目!せっかく吸ったゴミが出ちゃう!!」

心配なのは俺じゃなくてゴミか!!
銀の髪の青年、アリオスは掃除機から髪を引き抜きながら心の内で叫んだ。

「・・・アンジェ、ここはもういいから、洗いもんでもしてろ」

「ええ?駄目よ、まだお掃除終わってないもの・・・見て?」

そういってカチャリとドアノブを開けて彼女が今まで熱心に掃除していた部屋。
そこはアリオスの寝室でもあり、彼の密かな憩いの場・・・の、はず。

「・・・・これはっ・・・・・」

「ね?おかしいの。この掃除機で綺麗にしてもしてもゴミがふえちゃうのよ」

「――――」

ふうっとアリオスは気を失いそうになった。
思わずよっかかった部屋のドアには、彼のお気に入りのオカリナが・・・・・

「―――アンジェ、オカリナ・・・どこにやったんだ」

「え??ああ、確かアリオスの髪を吸い込む前に一緒に吸い込んじゃったと思う・・・んだけど」

だんだんと声をおとしていくアンジェ。
さすがにアリオスの顔が引きつっているのに気付いたらしい・・・。

ふるふるとアリオスは必死に握り拳を作った。

(耐えろ俺・・・これは試練、そう、金の為の犠牲だと思って・・・!!)

ああ、小学生の時初めて自分の小遣いでかったオカリナ。
隣の席のエリスちゃんに無理やり奪われた後、泣く泣く取り返しに行ってこてんぱんにやられて・・・結局後輩のカーフェイに取り返してもらった思い出の品・・・。

アリオスの背景にはモノローグならぬメモリアルスチルがコンプリートされていた。

「・・・ごめんなさい・・・・私、何の役にも立たなくて・・・・」

ふいに思い出にふけっていたアリオスの耳に、か細い声が聞こえてきた。
それがアンジェリークのしゅんとした泣き声だと気付くまで、もちろん彼はコンプリート集を見ていたのだが。

「――ああ、別に気にするな・・・もういいから、洗いもんでもしてろって。な?」

アリオスは出来るだけ優しく言うと、アンジェリークの肩をぽんぽんと叩いた。
しゅんとうなだれるアンジェを、ほんの少し気遣っての事だったのだが・・・。

「そう?よかった!!やっぱり貴方って優しいのねアリオス!!じゃ、私洗いものしてくるわね〜♪」

そういってアリオスの首に腕を回して『チュッv』と頬に軽く音をたててキスを贈ったアンジェは、先ほどの憂い顔はどこへいったのかにこにことして部屋から出て行った。

そして、ここにしばらく機能停止の男が一人。

「――――――何なんだ・・・あのパワーは・・・・」

あれがお姫様だといって誰が信じるというんだ?

気品などどこにも見当たらなくて落ち着きもないあのじゃじゃ馬姫が、自分の先祖の偉い伯爵の妹だなんて、本来なら信じられるはずもない・・・。

「金、金、金、金のため・・・金のためだ・・・」

アリオスは必死にこめかみを押さえながら呟いた。

そして今まで見ていなかったが、ふと部屋を見回してみる。

(――――――・・・・)

アリオスはまさに貧血をおこしそうだった。

モノトーンでまとめていたシックな雰囲気・・・だった部屋の痕跡はどこにもない。
窓のカーテンレールにはひらひらのピンクカーテン。さらに床にはまたまたピンクの絨毯。
壁に飾っていたポスターはくずかごの中で代わりにどこからとって来たのか花の写真が並べられている。

ガン!!

アリオスは思い切り頭を壁にぶつけてみた。

決して幻じゃないとはしりながらも、悪あがき。

ガン!ガン!!ガン!!!

何度も頭をぶつけるうち、だんだんと意識が遠くなってきた、その時。



ガッシャ―――――ン!!!



はっとしてあの世からの生還を遂げたアリオス。

「今のは・・・台所か!!??」

大体の予想はつきながらもアリオスは台所に向かった。
決して広くはない家の中で、アリオスが目にしたのは・・・・。

「・・・やっちゃったの・・・・」

上目遣いで人差し指をすり合わせてアリオスを見ているのは、やはり、アンジェリーク。
粉々に割れたカップやグラスや皿に食器・・・アリオスはもうしくしくと泣き出しそうだった。

(あの皿が一万五千円・・・カップは貰いもんだからいいとして、グラスは四千円・・・・)

はっきりいって、彼の頭は電卓状態だった。

「ごめんなさい〜〜・・・」

怒ってる?といいながら上目遣いで自分を見上げる様は本当にどこかの令嬢のように綺麗なのに。
・・・・なのに、どうしてその見かけと中身があわないんだ。

「・・・クッ。そんなしぼむなって・・・この位なら平気だ」

「本当・・・?・・・優しいのね、アリオス」

優しい?
この俺が?

・・・・お前を利用しようとしている事を知らないくせにな。

「・・・・・ほら、危ないからどいてろ。俺が片付けるから、お前は皿洗いの続きでもしてろよ」

「あ、うん。もう割らないように頑張るからね」

そういって再度髪を束ねて皿洗いに挑戦するアンジェリークの手つきはどうも危なっかしい。
だがそれ以上に、けなげに頑張っている彼女に知らず知らず微笑みながら、アリオスは砕け散った破片を広い集めていた。




「―――ふぅ、終わったv」

手をタオルで拭きながら、かじかんだ指に息を吹きかけてアンジェリークはにっこりと食器を戻していたアリオスを振り返る。

その瞳はもちろん、『褒めて褒めてv』と言っている。

「――ああ、はいはい。よくやったな」

「んもう、本気で頑張ったのにぃ・・・あれ?誰か来たんじゃない?」


「あん?」

―――確かに、ドアをノックする音が聞こえる。

アリオスは誰だ?追ってか・・・。
そんな事を考えながらそっとドアに忍び寄る。

窓から見れば、外は吹雪で視界が悪い。姿も確認できそうにない。

「アンジェリーク、隠れてろ」

声をひそめてアンジェリークに言い放つと、アンジェリークはきょとんとして

「どうして?あ、かくれんぼ?わぁ、懐かしいわ〜」

アリオス、こけました。
それはもう、顔面床に直撃。

「この馬鹿!!」

「きゃっ!耳が痛いよ〜」

ガチャン。

はっとアリオスの意識がドアの外の人物に戻る。

ドアを開く音と、背後で響く足音。

(チッ・・・油断した!)
油断したんじゃなくてただアンジェリークのペースに引き込まれただけなのだが、物語の進行上彼には聞こえない。


パサッ・・・コツ、コツ、コツ。


(――――来る!)


「誰――――・・・・だ・・・・」

勢いよく振り返ったアリオスが見たものは、真っ白な衣装を纏って紫の巻き毛を手入れしていた彼の母親であり、金食い虫のロザリアだった。

「か・・母さん・・・・」

「何?あら、その子は?」

人の話なんて聞いていないロザリアは、息子の背後でこそっと自分をうかがっているアンジェリークに気付いた。
そしてコツコツと歩み寄り、その金の巻き毛に触れてみる。

「あ、あの・・・アンジェリーク、です。訳あってお邪魔させて・・いただいてます・・・」

消え入りそうな声で顔を赤らめるアンジェリークに、ロザリアはキュンvとなり思わず微笑む。
可愛いわ・・・・そんな事を考えながら。

「いいのよ。うちの馬鹿息子がいじめたりなんてしてないかしら?あら、服が汚れてるわね。私の買っていた新しいデザインの服をあげるわ、さ、私の部屋へいらっしゃい♪」

「え、でも、あの・・・・」

ぐいぐいと腕を引っ張られながらアンジェリークはちょっとだけアリオスをうかがう。

居候の身でそんな事いいのだろうかと思ったのだろう。

(・・・・・・はぁ〜〜・・・・)

この瞳には、ちょっとばかし弱いんだ。
口をちょっとすぼめて瞳を真っ直ぐに自分に向けるこの顔に。

「・・・・・貰っとけよ。丁度替えの服も必要だったしな」

「・・・・!ありがとう、アリオス!!」

そういって顔一杯に喜びを表現するアンジェリークに苦笑しながら、彼女のペースに引き込まれている自分にため息をついて、残りの家事に向かうアリオスだった・・・。




ああああアリオス……。髪の毛を吸われる姿がなんと〜いい味を醸し出して〜(≧∇≦)
将来ハゲたら、アンジェのせいですね(爆笑)
いよいよ金食い虫と評判のロザママが登場し、今後は女難に悩まれそうな気配♪
続きが楽しみですわぁぁぁ!!

BACK

贈り物の部屋にもどる


ホームに戻る