疾風のブレードランナー





「おい、行くぞ」
 そう一言告げて、ゼフェルは歩きだした。
 後ろから彼女がついてくる事を疑いもしていない、迷いのない足取り。
 それとも、振り向くのが恐かったのだろうか。
 彼女には、分からなかった。

 今日、二人は聖地を出る。
 女王候補として彼と出会って、恋に落ちて。補佐官と守護聖として愛しあって。
 サクリアの尽きた彼と共に、下界へと向かう。
 聖地で過ごした時間はあっという間だったけれど、下界ではどれだけの時間がたったのだろう。
 アンジェリークが過ごした時間はもはや夢の中にしかない。ましてやゼフェルがいた時代は、彼の記憶の中ですら朧げで。
 それでも、二人は下界へと向かう。
 自分達を覚えている者が誰もいない世界は、ひどく恐ろしくて興奮する。
 たとえどんな事があっても、乗り越えてゆけるだろう。二人なら。


 二人が向かったのは、ゼフェルの故郷である工業惑星だった。
 進んだ科学の恩恵を受ける惑星。
 そして、聖地とは比べ物にならないほどに汚れた空気。人々の熱気。
「随分変わっちまったんだな……」
 ゼフェルの呟きが、アンジェの耳朶を打った。
 もし、彼女が自分の生まれ育った場所へと向かっていたら、同じ事を思っただろうか。
 変わらない物など、何一つありはしないのだ。二人を繋ぐ、この温もりすらも永遠ではない。
 二人を迎えたのは、晴れ渡った青空でも、降り注ぐ太陽の日差しでもなかった。空は鈍く熱い雲で覆われ、遠くで雷鳴の音が聞こえる。
 これが、二人の門出を祝う天候なのだろうか。
 だが、ゼフェルは気にした様子もなく、さっさとホテルを決めてチェックインした。二人で過ごす家はまだなく、しばらくは家探しから始めなければいけない。
 その為にも、今日は早めに休んで疲れを取らなければ。
 それなのに、ゼフェルは大きな硝子窓の側で、じっと空を見つめていた。降りしきる雨が、硝子を激しく叩き、下へと流れている。
 時折、稲光が彼の顔を照らす。
 じっと押し黙ったままの彼を。
 声をかける事が躊躇われ、そんなゼフェルをただ見つめていたアンジェは、信じられない言葉を聞いた。
「行くぞ」
 この悪天候の中、どこへ行くというのか。
 驚いて目を見開くアンジェの手を、ゼフェルは乱暴に掴んで外に向かった。そしてエアバイクの後ろにアンジェを乗せて、猛烈なスピードで走り出した。
 風になびく金色の髪から、水が飛び散る。
 アンジェはそのスピードに口を開く事すら出来ずに、ただひたすらにゼフェルの身体にしがみ付いていた。
 どれだけ走っていたのだろうか。
 気が付くと、エアバイクは地上に降りていた。
 ビルの谷間から遠く離れたそこは、草の匂いがする。
 冷え切ったゼフェルの手が、アンジェを機械の塊から彼の方へ引き寄せる。二人してびしょぬれのまま、どちらともなく口唇が重なった。
「見ろよ」
 うっとりと目を閉じて、彼の胸にもたれかかっていたアンジェは、ゼフェルの声に促されて空を見た。
 聖地で見るのとはまったく違う星空。
 いつのまにか、雨は止んで星が夜空に広がっていた。
「オレがいた頃と、星座の形が少し違うような気がするぜ」
 その言葉に、アンジェは少し悲しくなった。
 ゼフェルのその記憶をわかち合える人は、もう誰もいないのだ。
「でも……ほら」
 ゼフェルが指した先をじっと見ると、夜を彩る星々の煌めきが見慣れた形を作っているように見えて来た。
「神鳥……」
「おめーにもそう見えるか」
 ゼフェルの声は、どこか嬉しそうだった。
「あの星座は、オレがいた時もその名前で呼ばれてたんだぜ」
 こくん、とアンジェは頷いた。
 それは、女王のサクリアに似ていた。
 ロザリアの微笑みが、その星座にだぶって見える。
 聖地から離れていても、それは変わらないのかもしれない。女王の慈愛は、宇宙に満ちているのだから。
 そして九つのサクリアも。
 たとえゼフェルの身体から鋼のサクリアが失われても、宇宙には変わらずに鋼のサクリアはあるのだ。
 じっと宇宙(そら)を見つめるアンジェの手に、暖かい感触が包んだ。
 そしてその温もりはすぐに離れ、固い感触だけが白い手に残った。
 驚いてゼフェルを見遣ると、彼はよそを向いていた。
 そのまま視線を手におとすと、小さな包み。白い包装紙に、赤いリボン。
「開けていい?」
 そう尋ねると、向こうを向いたままのゼフェルのつっけんどんな声。
「んなコト、いちいち聞くんじゃねー」
 アンジェは笑みを浮かべるとリボンをほどいた。大好きな彼の瞳と同じ色のリボン。
 深い藍色をした天鵞絨の箱を開けると、指輪が入っていた。
 鈍い輝きを放つ、つや消しのシンプルな銀色の指輪。
 そっと指で摘んで目の高さに持ち上げる。月明かりでははっきりとは読めないが、内側に何か刻まれている。
 そのまま指にはめてみると、サイズはぴったりで、まるでずっと昔からしていたように馴染んだ。
 左手の、薬指に。
 見ると、ゼフェルの左手の同じ指に、同じ指輪が煌めいている。
「ありがとう、ゼフェル」
 アンジェは微笑んだ。
 この指輪も、いずれは朽ちるのだろう。
 それでも、永遠はあるのかもしれない。

 たとえ形が変わっても、あの星座に女王の慈愛を見るように。
 守護聖や女王が変わっても、宇宙に愛が満ちあふれているように。
 この瞬間のこの思いも、きっと永遠。



 雷は、神鳴り。
 二人を迎えたあの天気は、きっと……

 祝福。



□光姫□
ミカルさ〜ん、誕生日おめでとうv
という訳で、ゼー様を押しつけ……いやもとい、進呈させていただきます。
最近、贈り物でしかゼー様書いてないわ……(爆)
という訳で、口数は少ないし、行動もやたら唐突な何やら偽者くさいゼー様ですが、
受け取っていただけると嬉しいです♪


ヽ(´ー`)丿ヽ(´ー)丿ヽ(´ )丿ヽ(  )丿チョウノヨウニマウ
姫様ありがとぉぉぉぉぉ♪ うわ〜いうわ〜い、姫様のゼ〜様だぁぁぁ♪ 嬉しいよぉぉぉぉ!!
疾風のブレードランナー……正に二人です☆
退官は皆との別れ。でも、新たな世界での生活の始まり。
でも世界の至る所に九つのサクリアの息吹とロザリア女王の慈愛があります。二人を見下ろす神鳥の星座が、正にその象徴ですね♪
ゼ〜様のぶっきらぼうな動作の一つ一つに、リモちゃんへの照れと労わりと愛を感じます(いいなぁリモちゃん…悦)
去年に続いて素敵なプレゼントをありがとうございます〜!!
姫様への誕生日プレゼントは……近日中に…(カメ並に遅い!!( ̄ー ̄)θ☆( ++)

贈り物の部屋に戻る

ホームに戻る