アナザーで会いましょう
4.毎日が大騒動
キラがこの地に来て早1ヶ月、彼女は事情により、結局ロイと同居することになった。
朝8時45分。
「お迎えにあがりました」
東方司令部の大佐ともなると、出勤時も運転手付の軍用車がつく。
笑いをかみ殺しつつビシッと敬礼するハボック少尉に、ロイは嫌そうに自分より頭ひとつ高い彼を睨み付けた。
「私は還暦を過ぎたよぼよぼの老将軍ではない」
ロイはぎりぎりの崖っぷちだが20代。立派な二本の足もあるし、送迎車の運転手などという些事に、大事な腹心の部下を酷使することを嫌い、今までは殆ど使ったことはなかった。
「職場まで徒歩30分。結構な距離じゃないですか」
「街の視察も兼ねているし、適度な運動は体にもいい」
「そうすか。でも今日も乗っていただきますよ。中尉の命令ですし♪」
「……全く、どっちが上司だか……」
新緑の晴れ晴れとした天気同様、今日も元気よく、ドアから巨大バスケットを二つも抱えたキラが、ぴょっこりと顔を出す。その途端、ハボックの垂れ目がますますやに下がった。
「少尉さん、お早うございます♪」
「お早うキラちゃん♪ できれば俺、ファーストネームの『ジャン』って呼んで欲しいな〜♪」
「はい、ジャンさん♪ これでいいですか?」
「くぅ〜……、萌えるなぁぁ」
ロイは無意識のうちに、ポケットに手を突っ込み、発火布の手袋を掴み出していた。
ハボックの大きな手が、わしわしとキラの雪のように白い髪を撫でると、彼女は警戒心もなく、目を細めてきゃっきゃと喜んでいる。
仔犬体質の愛らしさに、ロイですらキラを見ていると心が和む。
「おお、バスケットが二つってことは〜…もしかして俺達の分もある?」
「はい、僕の新作です♪ 期待しててくださいね♪♪」
「偉いね〜キラは。家事のエキスパートと呼んでやろう」
「褒めすぎですよ〜」
彼女は聡く、一度見聞きしたことは殆どマスターできた。彼女のいた世界と比べれば、遙かにレトロとなるこの世界の調理器具も、直ぐに使いこなし、今ではマスタング家の家事全般は、彼女が楽々と取り仕切っている。
そしてキラの服は、ホークアイ中尉がロイのポケツトマネーで賄ったものだが、中尉は彼女に、何故か男物の私服を山と買い与えていた。
彼女は、今日も基本的にはブルージーンズにカーキ色のTシャツ姿だが、自分でズボンを太ももの付け根スレスレでカットし、Tシャツも袖の中心を切り取り、重ね着した黒と鮮やかな青のタンクトップを適度にずらして色を見せ、個性的に着こなしている。
すらりと細く長い足に、濃茶のショートブーツも良く似合う。
これだけスタイルが良く綺麗な足なら、ミニスカートにこだわる自分でなくとも、色々履かせて遊んでみたくなる。
童顔で、仕種も子供っぽいから、例え色気のある服を着せたとしても、きっと清潔感があっていやらしく見えない。
また今日の彼女は、ハボックが、「これが男の夢っすね」と、意味不明なことをほざきつつ、自費で贈ったピンクのふりふりエプロンを身に纏っていた。
よって、奴の腐れた妄想も、さぞかし脳内で暴れているであろう。
美少女で、有能で、性格も愛らしい。
きっとこのまま真っ直ぐに成長すれば、3年後には誰もが振り返る美女になるだろう。
「なぁキラ、『青髪さんの悪い魔法』が解けたらさ、生活能力皆無の『ロイパパ』をとっとと見限って、マジで俺の嫁さんにならない? 俺、尽くすよ〜。掃除洗濯どんと来いだし、料理だって、バンバン美味いもの食わせてやる♪」
「あはははは、少尉ったら冗談ばっかり。そんなことを軍本部で言ったら、僕、本当にロイさんの隠し子に間違えられちゃいますよ♪」
天然ボケなキラは、ハボックの口説きに、今朝も絶好調で気づいていない。
「はいロイパパ……なんちゃって。えへへ、これ蹴飛ばして傾けないように気をつけてくださいね♪」
言動には難有りだが、ちょっこりと首を傾けつつ、はにかみながらロイにお弁当バスケットを手渡してくる彼女は、どっからどう見ても幼な妻だ。
キラの目線が外れた途端、ハボックのたれ目が、彼の限界までつり上がり、ロイを憎しみ込めて睨んでくる。
(……私に幼児趣味はないと言っているだろうに……)
キラの胸を生で拝んだ結果、本気で彼女のことが頭から離れなくなったハボックは、ロイの毒牙にキラが引っかかるのを恐れた。そして彼があまりに騒ぐものだから、つられたロイの部下達や、上司の性犯罪を心配したリザ・ホークアイ中尉が、よってたかって純真なキラに「大佐のことはパパ扱いで構わないのよ♪ なんていったって、12も年上なんだから♪」と、変な刷り込みをした。
そのお蔭か、キラはロイに、人前でも無邪気にお構いなく、安心しきった猫のようにゴロゴロと懐いてくる。ハボックはそんなキラを見て、嫉妬の炎をめらめら燃やすのだ。
最悪な悪循環である。
(ふん、自業自得だ馬鹿者)
毒づきたいことは山とあったが、肝心要のキラがとても嬉しそうなので、結局ロイは口を閉ざした。
彼女はかなり複雑な家庭環境で育ったらしく、多くを語らなかったが、本当の親と育ての親が違い、特に実父には嫌悪感を通り越し、殺意まで感じる有様だ。
異世界から単身飛んできたのだ、誰も知らない世界に独りぼっちでは、さぞかし不安だろう。だからロイが彼女が保護者と頼り、ロイがその期待に答えることは、キラの精神衛生上良いことな筈だった。
「ロイさぁん、急がないと遅れちゃいますよ」
キラに促され、ロイはむっすりと唇を引き結んだまま、しぶしぶと後部座席に座った。足元にバスケットを避難させ、そのまま窓を向き、子供のように膝を抱えて俯くと、キラがいつものように、ロイの背中にたっぷりとクッションを重ね、仕上げに黒のコートを被せてくる。
その姿はまるで亀だ。窓ガラスに映った自分自身の姿に、情けなくなる。
ふて腐れたまま唇を引き結んでいると、背後でキラがくすくすと笑った。
「もう、ロイさんってばそんなに不機嫌にならないでください」
「そうそうキラ、笑っちゃいけない。日頃名うての女たらしで通っている大佐の情けない姿は、滅多に見れるもんじないからな〜♪」
「…ハボック、貴様…」
ひとしきり上司をからかって溜飲を下げたのか、彼は嬉々として運転席に身を滑り込ませた。
「じゃあな、キラちゃん。また後で〜♪♪」
「いってらっしゃ〜い♪♪」
ちみちゃい手をぱたぱたと振ってのお見送り。
バックミラー越しに、キラの姿を眺めているハボックの鼻の下は、随分と長い。
「ああ、美少女のお見送りは、やっぱり和むぅ〜」
「ハボック、余所見せんとしっかり計れ」
「イェッ・サー♪」
ハボックが咥えタバコのまま、車の走行距離を示す表示を見た。
「1……、2……、3……、4……」
ロイは亀のように背中を丸めたまま、窓枠の縁に両手でしがみ付く。
「ん〜、なんの反応もありませんかね〜。今日はもしかして、大佐にとっては気楽な一日っすか?」
残念そうに呟く彼を、是非消し炭に変えたい。
ハボックが8を数えた時、とうとうロイの体に負荷がきた。
「……ううっ……」
「らっきー♪」
呻き始めたロイとは逆に、ハボックは全開の笑顔を浮かべた。
そして。
「ひゃうううううううううう!!」
「ぐえっ!!」
バックミラー越しにハボックが見たのは、脱いだぱかりのピンクのエプロン片手に、ロイの背にとび蹴りを食らわし、仰向けになって転がるキラの姿と、涙目になって痛みを堪える上司の姿だった。
☆ 彡
「じゃあ、今日の大佐は、キラちゃんと80メートルしか離れられないんですね」
文官のファルマン准尉がノートにいそいそと記録をつける。短い銀髪に糸目な彼は、ひょろ長い身長と穏やかな物腰から、ロイと逆に見かけが随分と年寄り臭い。
「これじゃ、現場は無理ですね。何事もなければいいんですが」
「大佐、速いところ呪いを解かないと、雨の日以外でも無能扱いですよ」
大きな黒渕丸めがねがポイントな、小柄なフュリー伍長と、ハボックの同期な癖に、既にビヤ樽な腹を抱えたブレア少尉がカラカラ笑っている。
あの胡散臭い魔導士が、どんな魔術を使ったのかは知らないが、ロイとキラは一定の距離をおくと、延びたゴムが縮まるように、どこに居ても二人は合流する。
救いは、レディファーストの精神だけは持ち合わせていたようで、痛いのはとび蹴りを食らうロイだけ、キラは結構無傷である。
しかも厄介なことに、二人が離れていられる距離は日によって違うから、毎朝、ハボックが車で測っているのだ。
ロイの自宅から軍本部まで徒歩30分。3キロ離れてても大丈夫な時もあれば、僅か10メートルでダメな時もある。しかも、距離が延びれば伸びる程、キラが飛んできた時のロイへの被害は甚大だ。
「では、本日は特に目立つ会議はありませんし、大佐は建物内で、静かに事務処理をお願いします」
すかさずホークアイ中尉が、机の上に3日分の決裁書類をとんっと置く。
高さもたったの3センチ。
キラが来る前と比べれば、考えられないぐらい僅かな量だ。
「皆さ〜ん♪ 今日はおやつ付ですよ〜♪」
キラが給湯室からぴょっこりと顔を出すと、開け放たれたドアからコーヒーの芳香が室内に漂ってきた。『仕事の始まりには、まずコーヒー♪』これも食いしんぼなキラが来てから、この部署に取り入れられた習慣だ。
青色の軍服の袖を折り、細腕な癖に茶色の大きなトレイを軽々と持ち、彼女は6人分のコーヒーを元気に運んでくる。その明るいしぐさと声に、軍の執務室だということを忘れ、ほのぼのとした空気が浸透する。
「可愛いいな〜…特にあの足……」
フュリーが、いっちょ前に顔を赤らめつつ、キラの生足を見ている。ロイはほんの少しだけ後悔した。
キラは軍属ではなく、ロイが個人的に雇い入れた秘書だが、司令部で働く以上、私服姿は許されない。そして、ロイが私的に雇い入れた形なので、当然キラの手当ては、ロイのお給料からさっぴかれる。
よって、どうせ自分が身銭を切るのだからと、『自分が大総統になったあかつきには、軍の女性の制服は、ミニスカートにする!!』と、宣言していたロイは、キラの軍服を特注で作ってしまったのだ。
だが膝上10センチだったそれを、更に15センチも短くしたのはキラだ。
『僕の国では、これぐらいが普通です』
青の軍服に、膝上まである長いソックスを履く彼女は、やはりセンスがいいのか、直ぐに服を着こなしてしまい全く違和感がない。
それに美味しいものに目がない彼女は、お菓子作りも大層上手い。
しかもキラは今の所、ロイ達が食べたことのないものばかりを狙って作る傾向にある。今日もその期待に、彼女はしっかりと答えていた。
「えへへ。季節ももう終わりだし、今朝はイチゴ大福を作ってみました♪」
「ほう?」
コーヒーカップと一緒に、添えて出された代物に、ロイは首を傾げた。
イチゴと言っていたのに、粉だらけの謎の白い大きな物体が一つ、皿の中央に座っている。しかもフォークがない。
「手づかみでパクッと食べちゃってくださいね♪」
嬉しそうににこにこ笑う彼女に、一体誰が逆らえる?
だが、手に持ってみればしっとりして、まるで赤子の肌のように柔らかい。
「赤色の豆を甘く煮たものを、柔らかな餅で包み込んでますね。文献に、東の国シンに、これと同じような菓子があると載ってました」
「ファルマン准尉、分析は後でいいから」
噛んでみれば、中に丸ごと大粒のイチゴが入っていて、不思議な味わいだ。
「朝の果物は、体に良いんで♪ あはっ、ブレダ少尉、髭が真っ白になっちゃってますよ♪」
「こらっ狙ったな、キラ!!」
ハボックと同い年で同期だというのに、既に樽のように突き出た腹なブレダ少尉は、己の無精ひげを袖で拭うと、キラの頭をはしこく掴み、拳でぐりぐりと撫でた。キラはきゃっきゃと嬉しそうに笑っている。この風景だけを見ていると、ロイですら、ここが軍部なのかと首を傾げたくなる。
だからこそロイは、キラがここに居る事が不満なのだ。
「キラちゃん、東方司令部全域、支所を含めて総勢24000人の、来月のシフト表はどうなっているのかしら?」
「はい、リザさん。入力終わってますので、後はうち出すだけです。何部必要ですか?」
「各部署に20部欲しいわ」
「了解しました♪」
パコパコパコパコ
パコパコパコパコ
「キラちゃん、先月の帳簿チェックはどうなっている?」
「はいファルマン准尉、領収書と帳簿をチェックした結果、使途不明金が316万センズ出ました。限りなくダークだと思われる部署も数点洗い出し済みです。内部監査に提出しますか?」
「とりあえず2部刷ってくれ。明日、中央司令部からヒューズ中佐がいらっしゃる。その時にお渡しする」
「了解しました♪」
パコパコパコパコ
パコパコパコパコ
朝のお茶汲みが終われば、キラはそのまま事務作業に突入する。
彼女の私物『パソコン』は、これ一台で総務課30名の通常業務を奪い、更にたった1ヶ月で過去20年分の東方指令部全ての帳簿を調べ、不正を洗いざらい暴いてしまった。
また先日、キラは『パソコン専用の印刷機』というものも、機械に詳しいフュリー伍長とブレダ少尉と一緒に作ってしまったから、この部署は書類をタイプライターで作成することも、手書きからもすっかり解放され、ロイの事務作業も大激減し、今やかつての1/20だ。
キラは今、立派にリザ・ホークアイ中尉の妹分として、この部署どころか東方指令部に必要不可欠な人材となっていたのだ。
(『お世話になります』と言われ、確かに私は頷いた。『何時、青髪さんが来るか判らないから』と、軍部内への立ち入りも許可した。だが……)
正直ロイは、キラに何の仕事も宛がうつもりはなかった。
これ以上、一般の少女を軍部に深く関わらせたくない。許されるのなら、今すぐにでも彼女を解雇し、ロイの自宅に静かに置いておきたい程だ。
(………子供が軍の狗になることはない。もう二度と、私の目の前で子供を死なせたくない………)
「大佐、何やらしい目で、じぃぃぃぃっとキラちゃんを見てるんすか?」
「大佐、署名の手が止まってますわよ?」
いつの間にか、ハボック少尉とホークアイ中尉が、両名揃って不気味なオーラを漂わせ、ロイの背後に佇んでいた。
「キラちゃんに手を出したら、承知しませんわよ」
「俺も、性犯罪者な上司は要りません」
二人の銃口が、ぴたりとロイの背中に押し当てられる。
≪貴様ら、キラの見えない所で…露骨すぎやしないか!!≫
≪当たり前っす。悪い芽は、とっとと摘み取らないと≫
≪同感ね。私だって可愛いキラちゃんを泣かせたくないわ≫
確かに彼女は可愛い。
彼女が軍部に顔を出してから、その仔犬のような愛らしさを目の当たりにしたものは、軒並み堕ちて心を奪われている。結果、彼女を私的に雇ったロイ・マスタング大佐は、『実はロリコン』説まで浮上している有様だ。
全くの濡れ衣だというのに!!
そんなほのぼのとした空気を一瞬で消失させたのは、ロイの執務室にかかってきた1本の緊急電話だった。
「はい、東方指令本部……、え、大量殺人?」
フュリー伍長が眼鏡を正し、緊迫した面持ちで、白紙にメモを書き散らす。彼の電話は長々と続き、さっきまでほのぼのとしていた室内は、ひっそりと静まり返った。
キラはパソコンを打つ手を休め、彼女の髪の色同様…白く青ざめた面持ちで、不安げにロイを見上げている。
だが、今は何も言葉をかけてやれない。
メモを取り続けるフュリー伍長も、キラに極力話を聞かせないように、僅かな相槌を打つだけに留め、黙々とメモを取り続ける。
ようやく受話器を置いた10分後、伍長は、キラに気遣いつつ口を開いた。
「大佐、シェル地区にて事件発生です。死者は18名、生存者1名」
「犯人は?」
「2名おりますが、既に東方司令部支所に出頭しております。本日0810時に身柄を拘束………朝を待って、自首してきた様子です」
概に犯人は捕まっていると知り、キラの強張った顔がほんのりと緩む。
ロイは、フュリーから受け取った走り書きのメモを、急いで目を通した。
キラが来てから問題となったのは、このように何か事件が起こった場合だ。
普通の会議ぐらいなら、彼女はロイの秘書として付き従うことはできる。
だが、ロイが必要に駆られて指揮を取る時、キラと距離が取れない日には、彼女も凄惨な殺戮の現場に行かなくてはならないのだ。
いたいけな少女に、今の所極力悲惨な現場は見せないように心がけているが、この国の治安は悪く、ロイ・マスタングは東方司令部で唯一、即実働可能な国家錬金術師だ。
血まなぐさい事件現場に、いつお呼びがかかってもおかしくない。
ましてや今後、大規模な内乱が国内で起これば、兵を率いて戦地に派遣される恐れすらある。
このまま延々とラッキーが続くとは思えないし、また、夜遊びや女性とデートができなくなった大佐が、いつ欲求不満で可愛いキラを食べてしまうかもわからないと、中尉やハボックに邪推されるのも癪に障る。
一刻も早く、二人が距離を保てるように、かけられた魔術を解くのが最優先の課題だった。
「キラ、済まないが私にコーヒーのお代わりを頼む。そうだな………、キラ特性の『虎のオリジナルブレンド風味』がいい」
「はい♪」
ワザと一番時間のかかる飲み物を注文すれば、彼女はほっとして、てけてけと隣の給湯室に消えていく。ロイの出動がないと判ったのだ。
彼女がきちんと退出したのを確認し、ロイはメモ書きを前に、肘をつき、重ねた手の上に顎をのせた。
「ハボック少尉、フュリー伍長、両名は今すぐ東方司令部支所に赴き、ハクロ将軍の義妹を内密に保護せよ」
「はぁ? ハクロ将軍の妹って……」
「先月かどわかされて行方不明になった、奥方の妹がいただろう。名前はアンネ・ローズ嬢。今回の生存者だ」
ロイは、渡されたばかりのメモの束を、全部ハボックに押し付けた。
彼も同じく直ぐに目を通すが、読んでいく端から顔色が変わる。
「18人もあの世に送っちまえば、立派に大量殺人っすよね。しかも19歳と14歳の少年が?」
「できれば私も赴きたかったが仕方が無い。キラに、残酷な現場を見せる訳にはいくまい。頼んだぞ」
ハクロ将軍の義妹を保護すれば、彼に恩を一つ売ることができる。
なのにそんな出世のポイント稼ぎを捨てて、ロイはキラの心を守ることを選んだ。
そんな上司の心に、部下が答えねばどうなるか?
「「イェッ・サー」」
二人は心から、同時に敬礼を返した。
☆彡☆彡
ハボックとフュリーは、すぐさま軍用車に飛び乗って現場に向かった。
今回の事件の現場となった『シェル地区』は、ここイーストシティでも最南端……軍指令本部から、15キロも離れたいかがわしい繁華街だ。
体を売る商売の店が乱立しているその界隈は、マフィアやテロリストも多く潜伏し、治安は最低レベルだ。
殺人事件、強盗は日常茶飯事。
かと思えば、金や愛憎がらみの痴話げんかも多く、そういう些事は東方司令部の派出所で用事は足りる。
だが、今回のように、『ハクロ将軍の義妹保護』などという、対応に困るデリケートな事件が起こった時には、マスタング直属の部下が派遣される。
「今回の事件が大量殺人扱いなんて……、正直な気持ち、自分としては、彼ら二人を犯人に括るなんて嫌ですよ……」
同行の場合、部下がハンドルを握るものだ。
大きな丸眼鏡が特徴のフュリー伍長は、運転しながらつぶらな瞳で、助手席でシートを倒してタバコをふかしているハボックを見る。
「余所見すんな、あぶないぞ」
「少尉と違って、事故なんて起こしませんって」
「ちぇっ……、まぁお前の言うとおり、殺されたのが全員、浚ってきた女に体売らせるようなケチなマフィアで、殺したのが少女を助けようとした少年とその兄って聞けば…、俺だってそう思う」
ハボックは、寝転んだままくしゃくしゃと短い金髪を掻き毟った。
犯罪者を捕らえるのは軍の仕事、だが人手が足りない。
シェル地区にある東方指令部の派出所と言ったって、規模はせいぜい30人程度だ。マフィアの1団体と争う力すらない。
地区によっては独自の自警団なんてものもあるが、結局、最後には自分の身を守るのは自分自身である。
なのに、軍属でないものが犯罪者を殺せば…立派な殺人犯扱いだ。
「なぁフュリー、その兄弟は錬金術師なのか?」
「電話で聞いた限りでは、弟は簡単な割れ物修復とか、多少使えるみたいです。兄は単なる酒場の雇われ経営者らしいんですが、二人とも銃が滅茶苦茶凄いですね。殆ど1発で眉間打ち抜いて片付けているそうです。オートメイル(機械鎧)で体を武装しているものもいたのに、滅多撃ちです」
「うわぁ、そりゃホークアイ中尉も真っ青な命中率だな」
「ええ」
ロイ直属の部下で、銃を扱わせたらナンバー1なのは、男性陣を押しのけて、リザ・ホークアイ中尉がダントツだった。だが、動いている敵の殆どを1発で片付けるなんて、凄まじすぎる。
「少尉、その二人……軍の履歴は?って…愚問でしたね」
「ああ、兄貴の方はともかく、14歳で軍属になれるとしたら、国家錬金術試験に突破したヤツぐらいだぜ」
過去、12歳で国家錬金術師の資格を取り、軍の狗となった少年はいる。ロイ直属の部下で、放浪の旅に出ている『鋼の錬金術師』だ。そして15歳となった彼が、今でも最年少の軍人の筈だ。
「身元は確認できたのか?」
「流れ者らしいですよ。身分証明書も何も持っていなくて、名前はハイネ・ヴェステンフルス、弟がレイです」
「うわ〜けったいなファミリーネーム。雰囲気から見ても、俺、いいところのお坊ちゃまを想像したぜ」
「みたいですね。調書を取った担当者も、彼ら二人を、政府高官の子息と疑ってました。……どんな兄弟でしょうかね……」
(犯人に肩入れすると、後自分が辛いぜ)
自分達は軍属、よってどんな民間人だろうと……上司に命じられれば、国の規定どうりに人を裁かなければならない。
ハボックは無言で、ふかしていた紫煙を吐き出した。
06.09.30
伝達手段がないので、キラとハイネは同じ街にいたことを知りませんでした(* ̄∇ ̄*)
次回はハイネとレイの苦労話です。
目指せ、キラを探して三千里←(アホか!!( ̄― ̄)θ☆( ++) )
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