アナザーで会いましょう
6.もう一つの出会い
神鳥が守護する聖なる地には、2人の女神と9人の神の代理人がいる。
元々彼らは人間だったけれど、一定の期間だけ『サクリア』を体内に預かり、聖地に赴き、宇宙の均衡を支える役目につく。
そんな彼らも、人間の世界と同じく週末の2日間は休みとなる。
9人を取り纏める首座の守護聖、光を司るジュリアスは、土の曜日の朝、ゆったりとテラスでエスプレッソを口にした。
「なんという清々しい朝だ。この曇りのない晴天はきっと、陛下の輝かしい未来を象徴しているのだろう」
豪奢で長い金髪をたなびかせ、満面の笑みを浮かべている彼は、今、長年の宿願を成し遂げた達成感に満ちていた。
彼、ジュリアスの敬愛する『神鳥に守られた宇宙』を統べる257代目の女神…通称『女王』は、現在1000年の長きに渡って宇宙を支えている。だが、見かけも気立ても17歳の少女とてお年頃。
彼女はジュリアスの奮闘虚しく、彼以外の男……憎っくき『天才芸術家』と恋に落ちた。
だが救いもあった。
なんせ聖地の一週間は下界で1年。所詮人と神とでは流れる時間が異なるのだから。
どんなに愛を貫こうと、来たるべき男との死別は免れまい。
だが、女王は宇宙を支える唯一の女神。彼女が心を乱せば、それはそのまま宇宙の均衡を崩すこととなり、最悪星々は崩壊し、瞬時に数多の命が散ってしまうだろう。
彼が全身全霊をかけて守る、女王の御世を汚してはならない。
ジュリアスは、あえて二人の恋を潰すことにした。
『一年に一度、そなたの誕生日にだけ、特別に陛下と会うことを許可しよう。これは我ら守護聖9人の総意である』
下界では2月13日、聖地では土曜日の丁度正午の時刻に、引き裂かれた恋人はつかの間の逢瀬が認められた。
だが人の心は移ろい易く、下界には数多の女が存在し、また芸術家は気まぐれな男だ。
ジュリアスの勝手な目論見では、男は面倒な恋をさっさと捨て、傷心の女王を慰め恋に落ちるのは自分の筈だった。
だが、芸術家は非常識にも異世界へ飛んで『魔導士』となり、自力で永遠の命を手に入れた。しかも下界時間で250年経過した現在も、二人の交際は続いている。
それどころか化け物となった男は己の欲望を隠さず、いつ女王を聖地から奪い取り、己の世界に連れ去るか予想もつかない有様だ。
実際に先月、奴は女王を己の城に連れ込み、1週間姿をくらましたのだから。
女王を欠いたあの恐怖の7日間、宇宙を支える為に力を尽くした守護聖は、ことごとく過労で倒れ床に伏した。そして憎きあの男は、あの時の悪夢をちらちらと引き合いに出し、『同じ目に会いたくなかったら、さっさと僕の部屋を王宮に作ったらどう?』と、脅迫まがいな要求をつきつけている。
どうしてこの世を支える守護聖が、一介の化け物ごときの脅しに屈しなければならない?
少なくとも、このジュリアスが首座の地位にいる限り、絶対に認めない。
だが、そんなほの暗く陰惨な日々は終わった。
「いかにセイランといえども、時空の狭間に突き落とされれば戻れまい」
混沌した空間は時間座標が狂っている。例え聖地を見つけて辿り着けたとしても、過去に出るか未来に出るか判らない。
もう二度と、憎きあの男の顔を見ずに済むかと思うと、ジュリアスは声を上げて高笑いしたい程だ。だが、自分は厳格な首座の守護聖。使用人や部下達の手前、そんな子供じみた真似もできず、にやにやと口元に笑みを浮かべるだけに留め、心行くまで晴れ晴れしい勝利に浸っていた。
そんな時だった。
「ジュ〜リ〜ア〜スゥゥゥゥゥ!!」
女王の唯一無二の親友で、もう一人の女神『女王補佐官』ロザリアが、馬で単機、直にテラスへと乗り付けたのは。
いくら休日の朝とはいえ、手入れされた他人の館の中庭に蹄を入れるなど、冷静で淑やかな彼女とは思えない暴挙だ。
しかもロングのタイトドレスは己の手で引き裂いたのか太ももまで露わに見せ、よくよく見れば、乗馬靴ではなく室内履きのままだ。彼女の腰まで波打つ青紫色の髪は、バラバラに乱れ、吊り上った蒼い瞳で、きつく睨みつける様はまるで鬼女。
無作法を咎めるつもりだったジュリアスも、我が身が可愛くて口を噤んだ。
彼女も見てくれは17歳の少女だが、怒ったロザリアには誰も勝てない。至高の存在である筈の女王陛下でも無理だ。彼女は異次元にも続く道……次元回廊を自在に呼び寄せることができるだから。ここで一言でも失言したら最後、自分がセイラン同様、次元の狭間に捨てられてしまう。
馬から下りたロザリアは、つかつかと歩み寄ると、一枚の紙切れをテーブルの上にべしっと叩き付ける。
「わたくしは、貴方達とセイランが毎週、聖地で銃撃戦を繰り広げようが、怪獣大戦争をやらかそうが、宮殿や神殿が破壊されつくしたって、女官や軍人に死傷者が出ない限り、一切文句を言わなかった。でもこれは何なの? 直ぐばれる悪事ならね、やるだけ無駄なのよ。一体どう責任をとるおつもり?」
彼女は怒気を露わにしつつ、口調は重く寒い。ジュリアスはこくりと息を呑み、彼女が置いた手紙を手に取った。
丸っこいほえほえとした文字は、紛れもなく敬愛する陛下の直筆だ。
『ロザリアへ。
時空の狭間に捨てられちゃったセイランを捜しに行ってきます。いくらあの人でも時を超えてここに戻ってくる力はないから。
理由はジュリアスに聞いておいてください。私もどうして彼がこんな酷いことしたのか、是非訳を聞きたいし。
宇宙を支える力を、私の杓丈に蓄えておくから使ってください。
今から貴方を女王代理に任命します。
慌しくてごめんなさい。じゃ、時間が惜しいから行きます。彼の気配を見失っちゃったら捜すの難しくなっちゃうし。
彼が見つかるまで帰りません。ごめんなさい。
アンジェリーク・リモージュ』
「貴方がセイランを疎ましく思う事情もわかっててよ。でもね、アンジェは騙されやすいお馬鹿だけど、この宇宙の女王よ。望めば宇宙で起こったこと全てを見渡せる目を持っているのに、配下の貴方が自分の恋人を封印した気配ぐらい、感じることできて当たり前でしょ。聖地の一週間は下界の1年。なら、あの子が聖地を出てもう、一体どのぐらい時間が経っているのかしら? あんな頼りない子がたった一人で、私達の力の及ばない時空へ飛ぶなんて。あの子が見知らぬ世界で一人、生きていけると思う? わたくしは今、セイランがあの娘を見つけてくれることを、切実に願ってますわ……」
「駄目だ、それだけは断じて!!」
ロザリアは、むずっとジュリアスの襟首を引っつかみ手繰り寄せた。
ジュリアスの顔も、既に血の気を失っている。
「なら他に、どんな方法があると?」
「…急ぎ、捜索隊を。私自ら参ろう…」
「無理よ。女王を欠いた今、わたくし達は聖地に彼女が戻るまで、死に物狂いで宇宙を支えねばならないのだから」
「しかしロザリア。もし陛下の身に何かがあれば」
「これが貴方の招いたことよ。アンジェの身に何かあれば、わたくしが貴方を殺して差し上げるわ。わたくしは、アンジェが帰ってくるまで絶対に貴方を許さなくてよ。あの子から託された宇宙を保つのがわたくし達の役目。今後貴方に、まともな休みがあるなんて、夢思わなくて。いいわね?」
そんなロザリアの凄み言葉も、今のジュリアスには既に上の空だ。
治安の良い地に降りられれば良いが、通常でも騙されやすい彼女である。
よからぬ輩にかどわかされる可能性は……特大レベル。
(陛下……、ああ、私はなんという事をしてしまったのだ……)
ジュリアスは絶望に嘆息し、腰まである長い金髪をかき上げ、天を仰いだ。
ついさっきまで一点の曇りもなかった聖地の空は、いつの間にか暗雲が広がっていた。
☆彡☆彡☆彡
少人数で大勢と喧嘩する時はコツがある。
まとめ役のリーダーを潰し、集団攻撃を封じれれば、後は個々の戦いだ。
ハイネは抜き放ったナイフを構えると、まっしぐらに群れに突っ込んだ。
狙うは下っ端どもの最後尾で、偉そうにふんぞり返っている、ガタイの良い金髪男だ。
「邪魔なんだよ、雑魚が!!」
刃物をちらつかせれば昼間ボコられた教訓を思い出し、怯んで逃げるかと思いきや、ゴロツキ達には無鉄砲な度胸があった。
だが、悲しいかな実力が伴わない。
昼間見かけたガタイの良い2メートルを越す背の男が、力任せに太い腕で殴りかかってくる。ハイネは上半身を軽く下げてかわし、起き上がりついでに腹に正拳を一発お見舞いした。
「ぐほっ!!」
身を折る男の背の中央を蹴れば、バランスを失った巨躯はコマのように転がり、仲間を巻き込んでテーブルに倒れこむ。
いくら広々とした酒場でも、男が17人で乱闘ともなると狭くて暑苦しい。
木製の椅子や丸いテーブルが、次々に壊れていく。
レイと自分がせっせと殴る端から、グレゴリーとマーゴットがあわあわと、倒れた奴らの介護に走る。
自分をボコったり、金目の物を奪いに来たような奴に、随分とご苦労なことだ。
後の仕返しが怖いのだろうが、ここまでやったらまず手遅れだと、何故気づかないのか不思議だ。
部下が次々とドミノ崩しのように倒れていく中、鷹揚に構えていた金髪の男がようやく左腕を垂直に上げた。
「図に乗るな、若造!!」
銀色に光る鎧が、肘の部分で二つに割れる。中から現れたのは、レトロなガトリング銃だ。
(おっさん、仲間まで撃つ気かよ?)
ハイネは咄嗟に、回転するシリンダー部分にナイフの刃を差込んだ。この手の旧式銃は、ここが動かねば弾は発射できない。ついでに相手の左肘を引っつかむと、体重を乗せ力任せに下に引く。上半身が傾ぎ、男の無防備になった顎に、鞭のようにしならせた右足で回し蹴る。いかにタフな輩でもここは鍛えようのない急所だ。
190pを超える大柄な体が、一発で沈む。
「……ガ、ガイさん……!!」
己のボスが、余所者の優男に簡単にのされてしまうのは、結構衝撃的なものだろう。
狙った効果とはいえ、ハイネが組み立てたシナリオ通り、下っ端の動きが一斉に止まった。
「しつこい男はモテないぜ。あんた達、これを持ってとっとと引き取ってくんない?」
にっこりと、女を誑し込む時のような笑みつきで、ガイの襟首を掴んで差し出す。
グレゴリーとマーゴットの二人が、涙目であわあわ踊っている。介抱しに駆けつけたいが、ゴロツキたちが怖くて近寄れないのだろう。面白い見世物を目の端に留め、ハイネはますます朗らかに口の端を吊り上げた。
「それか、金をここに落としていってくれるんならさ、客としてそれなりな扱いをするぜ」
ウインク付でガイを見おろすと、彼の濃い藍色の目が眇められた。
「なんせ古びた酒場で品揃えも最低だけど、俺の作るメシだけは美味い。あんた、グレゴリーからミカジメ料取ってんだろ? この店が繁盛して売り上げが上れば、懐に入る銭も自然とあったかくなる。だったら今つまんねー揉め事で、店壊して見入り減らすのはどうかって俺は思うけどね」
ガイのシリンダーに差し込んだナイフを引き抜きながら、ハイネは人好きする笑みを浮かべた。
「どう? 俺の提案?」
「……お前、何者だ?……」
「あんたが見たまんま、ただの若造だけどさ」
ガイの顔をまともに見ると、年齢は多分30をちょいと超えた程度だろう。額から左目を通過して、頬に一筋ざっくりと刃物傷があり、それが精悍な顔立ちを損ねている。
目つきの悪い藍色の瞳で睨まれても、ハイネは飄々とした笑みを保った。命の遣り取りは慣れているし、上も下も見境なく、ミサイルが飛び交う宇宙空間でモビルスーツを駆る恐怖に比べれば、こんな男の睨みなど、どうってことはない。
相手だけが緊迫した睨めっこが数秒後続いた後、ガイの相好がようやく崩れた。
「……ホント食えない男だな。優男面してる癖に、妙に場慣れしてやがる……」
「どーも。で、オーダーは?」
「いらねぇな。俺はメシより美味い酒が好みなんだよ。それに、安酒は口に合わない」
「なら、いいの仕入れたら知らせるぜ。なぁ、おっさん?」
一応この店のオーナーの顔を立て、グレゴリーに話を振るが、彼はあんぐりと口をあけて放心していた。
今まで殴り合っていた二人が、互いに笑いあっているのが、理解できないのだろう。
種を明かせば簡単だ。
ハイネは今後もガイに『ミカジメ料』を払い、懐も『あったかくしてやる』と宣言したのだ。この界隈は金だ。上納金が膨れれば、ガイのシマとメンツは保たれる。ハイネに手を出して痛い思いどころか命を擦り減らすよりも、抱き込んで良い思いをする方が楽だと、ガイは理解したのだ。
ついでにガイの『安酒は口に合わない』の裏は、【デカイ口叩いたからには、上納金しっかりはずめよ】で、ハイネの『いいの仕入れたら知らせるぜ』は【だったらてめぇも変な輩から、この店しっかりと守れよな。金払う分、揉め事会った時は、きっちり呼ぶぜ】という意味である。
「……ったく…、つかえねぇオヤジ……」
機転が利かない人間に、店の切り盛りは無理だ。客の話題に乗れずして何が酒場の主か。
ここが流行らない理由を目の当たりにし、どうしたものかと頭を悩ませる。
そんなハイネを見て、今度はガイが太い喉を震わせて笑った。
「若造、お前はどうも好き好んで苦労を背負いそうな奴だな」
「名前ぐらいあるぜ。俺はハイネ・ヴェステンフルスだ」
「俺はガイ・スミス。ファミリー・ネームからして、お育ちが良さそうな坊ちゃんだぜ。そんなのがここに何しに来た? 旅行か?」
「……人探しだ。俺達は誘拐された『キラ』を捜している……」
今まで一言も話さなかったレイが、唐突に口を挟んできた。
寡黙な時は、気配も感じさせないぐらい存在感が薄いのだが、一端注目を集めれば、大抵が彼の美貌に目を見張る。
「ほぉ、こりゃまた随分な別嬪さんだったんだな。お前の弟か?」
「ああ」
「兄弟揃って腕っ節も強いし度胸もある。なんなら俺の下につかねーか? 優遇するぜ」
「断る」「遠慮しとく」
二人同時の身も蓋もない断りに、流石にガイも鼻白む。
ヤクザ家業はメンツ重視。再び臍を曲げられるとウザイので、ハイネは苦笑混じりに手をぴらぴらと振った。
「わりぃな、俺達いずれは家に帰るし、ここに腰を落ち着ける気はないんだ」
「なら仕方ねーな。キラって何者だ?」
「俺の全てだ」
きっぱり言い切るレイは、とても男らしい。
だが、今は黙っていてほしい。会話が全然進まない。
「悪い奴に連れて行かれた俺の妹だよ。レイにとっちゃ、母親に等しい大切な姉だ。ここら辺りならさ、そういう姉さん達も沢山働いているし」
「まぁ、良くある話だな」
途端レイはこっくり小首を傾げた。
「ハイネ、浚われた女の人が、どうして自由に働けるんだ? 普通なら、身代金が貰えるまで監禁されているんじゃないのか?」
「え……、いやぁ……、そのぉ……」
レイの精神年齢は、成長途中の幼年学校生と同じだ。純真な彼に、売春宿とか子供をオモチャにできる店とか、そういう類の話は聞かせたくないし、説明にも困る。
「キラも其処にいるのか?」
「う〜ん……、あれも随分と天然が入った騙されやすい娘だから……、可能性も無きにしもあらずって所だが……って、おいレイ、何処に行く?」
レイが踵を返してダッシュで扉に向かいかけるが、ハイネは彼の襟首をはしこく掴み、自らの腕に引き寄せた。その途端、ハイネの戒めから逃れようと、レイはじたばたと身もがきだす。
「邪魔をするな。可能性が僅かでもあるのなら、俺はキラを捜しに行く。当たり前だろう!!」
意気込みは立派。
だが、いくら睨まれようが怒鳴られようが、ハイネの精神安定の為にも、彼の暴走は好ましくない。
「やめろ。お前みたいな世間知らずが、ここらを一人でふらついてみろ。あっという間にイケナイお姉さんに食われるか、美少年好きなおっさんに、薬盛られて手篭めにされるぞ」
「嫌だ!! だってキラが!!」
「……ほー、お前俺の言うことが聞けねーっつーんなら仕方がない。お前に譲る筈だった俺のジン、やっぱ止めるわ。今度の戦闘ん時、お前は指咥えてガモフで見てろ」
「……っくっ……、卑怯だハイネ……」
『キラを守りたい』
そう願って戦場に立つ、直向な彼からモビルスーツを取り上げることは、彼のたった一つしかない夢も奪うこと。
うっすら涙目で睨まれたが、心を鬼にしてハイネは拒んだ。
もしここがプラントなら、レイの好きにさせて『失敗を学ばせる』という選択肢もあった。
だが、ここは何処とも判らない未知の国。政治の在り方も、治安も法律も把握していない現在、何か事件が起こっても、今のハイネには対処する術がない。
彼はレイを宥めるように、ぽしぽしと彼の頭を撫でた。
「いいか、俺はお前も無事に連れ帰らなきゃならないんだぞ。もしお前の身に何かあれば、キラは一生自分を許さない。お前はキラが大事なんだろ? だったら泣かせるような無茶はするな。大体な、人間が一人でできることなんざ限られているんだ。冷静になって考えてみろよ。土地勘もないお前が、一人で闇雲にキラの名前を叫びながら走りまくったってさ、見つかる可能性は殆どゼロだろが。レイ、お前はサルじゃねぇんだから、もうちぃと頭使いな」
ハイネはおもむろに1万センズ札を50枚、気前よくガイの胸ポケットにねじ込んだ。
「もし見つけて保護してくれたら、昼間見せた宝石も一つくれてやるぜ」
キラを探すにしろ、情報はいる。
金は、使い方次第では最良の武器になる。今は無限にある訳ではないが、ガイはこの辺りを仕切っている。
投資するに値する人材だ。
「商談なら話は別だな。どんな子だ? 写真は?」
「ないけど特長はあるぜ。年は16で髪は雪のようにまっ白なんだけど、光沢があって短いネコっ毛。瞳は透き通るような濃いラベンダーで、名前はキラ。ついでに目を見張る美人。心当たりは?」
「プラチナブロンドなら目立つだろうに。俺にはねえな。おい、誰か知ってる店に沈めた奴はいるか?」
ガイの問いかけに、男達は雁首揃えて首を横に振る。
当たり前だ。
「おいガイ、そんな聞き方ないっしょ?」
『知っている店に沈める』=【キラを売春宿に叩き売った】という意味だ。
ハイネやレイの目の前で白状すれば最後、二人にぶち殺されるのは必須。いくら命知らずなヤクザ者でも、己の命が可愛ければ、揃って口を閉ざすのは当たり前。
「なら宝石を出しな」
ガイは右手の平を上に向けて差し出すが、ハイネは軍用ナイフをすらりと抜き、カウンターにどっかりと突き立てた。
「調子こくんじゃねーよ。サシで片つけるかおっさん?」
「冗談だ。人探しなら、軍に届け出するのが一番てっとり早いぜ。こっから15キロ離れた所に東方司令部があるからそこに行きな。近場なら派出所もあるが、奴らは左遷組でやる気ねーから、行くだけ無駄だぞ」
「あ〜…軍はちょっと。俺達もわけありでさぁ。家がらみので…」
見た感じで、ハイネもレイも上流階級出身と判る。
それが訳ありと言葉を濁せば、相手は勝手にお家騒動か何かかと、想像を膨らませ、誤解してくれるものだ。
ハイネは軍人、だから判るのだ。軍なんてものは、例え国が違っても、基本は大体同じだ。
規律や規範でがんじがらめとなった集団に、戸籍も持たない自分がどうして頼める?
キラどころか、下手したら密入国者と間違えられ、国外に放り出される恐れもある。
「俺のシマの中なら目を光らせておく。俺はボンボンは大嫌いだが、てめぇで率先して動くクソガキは結構好きなんでな。美味い酒が入ったら呼べ。また来るぜ」
ガイの一言が、引き上げの合図だ。
さっきまでの喧騒が嘘のように、凶悪な人相の集団が、大人しく彼の後に続く。
しっかりと戸締りは必要だと、蝶番の壊れた閉まりの悪い入り口ドアに歩み寄れば、外はいつの間にか日暮れで、夕日が色鮮やかに目に焼きつく。
長い1日だった。これでやっと休める。
そう、ほっと肩の力が抜けたまさにその時……。
「きゃうううううううう、いやぁぁぁぁぁぁぁ!! はなしてぇぇぇぇぇぇ!!」
ハイネの目の前を、レトロな鉛弾が駆け抜けていく。
グレゴリーとそう変わらぬ体格を持ち、彼より遙かに人相の悪いおっさんの群れが、二人の少女を追いかけている。一人は金髪、もう一人は黒髪で、キラと気が合いそうなゴスロリの服着た同じ年頃のお嬢達だが、何故か男達の手を振り払う事に、不思議な稲妻が発生し、気のせいでなければ血飛沫も飛んでいる。
「なんだありゃ?」
白光は、バリアーのように感じられた。レトロな銃の轟音が響く事に、彼女達二人の全身も包み込んでいる。
信じられないが、銃弾すら少女達は跳ね返し、手を繋いで必死で逃げているのだ。
だが、白光が起こるごとに、金色の髪の少女の歩みが鈍くなる。
とうとう疲れがピークに達したのか、銃音が鳴っても閃光がなくなり、鉛弾が黒髪の少女の右足を貫いた。
「きゃあ!!」
「ローズ!!」
倒れ付した黒髪の少女とともに、もう一人の足も止まった。
それを狙っていたかのように、総勢10人ものならず者が、一斉に襲い掛かる。
夕方から白昼堂々とかどわかし騒ぎ。
だがすきっ腹と疲労でへとへとなハイネも、今から1人で奴らと渡り合うのはキツイ。
「なぁ、ガイ。ミカジメ料取ってんならさ、当然あんたが街の秩序を守ってくれるんだろ?」
「当たり前だ、あんな上玉!!」
「売る気かよ……、このボケ!!」
ドゴッと一発、ハイネはガイの腹に本気の拳をぶち込んだ。
ほんのちょっぴり気心が知れた気になったが、ハイネとレイを付けねらっていた男達は、やはりヤクザ者だった。
彼らに任せれば最後、あの娘達は、間違いなく子飼いの売春宿にお持ち帰りだろう。
店の中ならいざ知らず、外であまり騒ぎを起こして目立ちたくなかった、見てしまったらほっとけない。
(ったく、今日はとことんついてねぇ!!)
白目をむいて倒れた男を蹴って捨て、ハイネはため息混じりに銃を引き抜いた。
06.10.21
何故終わらない!!( ̄_ ̄|||)どよ〜ん
過去編、もう1話続きます( ̄― ̄)θ☆( ++)
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