アナザーで会いましょう
12.甦り 4
いい加減、まともな人間と話がしたいと思うのは、果たして高すぎる望みなのだろうか?
ハイネはついつい、いつもの癖で頭を掻き毟ろうとしたが、生憎両手が塞がっていることに気づき、余計に心がささくれ立った。
(変な合成獣、ゴーレムもどきの薬中軍団、不死の化け物に、最後は幽霊かよ。……ははは、俺の理性、とうとう狂った?)
プラントは地球の重力から解き放たれ、宇宙空間に都市国家を建設した、時代の最先端をぶっちぎる国家である。
そんなコズミック・イラからやってきた自分の脳に、科学で説明できない怪奇現象を受け入れれる許容範囲は、とっくの昔に飽和状態だ。
青紫色の真っ直ぐな髪を肩で綺麗に切りそろえた幽霊は、深みのある青黒色のマントを羽織り、全身を深い緑の宝石で飾っていた。
ピアス、ネックレス、チョーカー、チェーンベルト、ブレスレットに指輪……と、ミゲルの私服も真っ青な宝飾具の数々に圧倒されたが、色使いを緑と深青2色と少なく押さえている為派手に見えず、逆に美貌な彼にしっくりと合い、趣味の良さを伺わせる着こなしだ。
(……幽霊って、身なりに気を使うのか?……)
ホラー映画のセオリー通りなら、腐食したボロボロのみすぼらしい服にべったりと返り血をつけ、生者を仲間に取り込もうと殺意を持ち、襲いかかってきてるだろう。
丁度ハイネの目の前で、土の柱に串刺されているエンヴィーの方がぴったりだ。
「服装は逆だよな〜やっぱ、何か間違ってる気がするぜ」
嘆息したハイネの前に、ふよふよと浮いていた男が軽やかに降り立った。
≪後は僕に任せてくれていいよ。君達はとっとと行って。邪魔だから≫
しかも初対面なのに滅茶苦茶横柄である。身も蓋もない言い方に、ハイネの目は更に点だ。
「あんたの方こそ、どっから湧いて出た?」
≪失敬だな君は≫
「どっちが」
≪この僕相手に嘗めた口聞けば、殺すよ?≫
一体何処の何様? 見かけ同様性格もかなりきつい。
「あのさ〜、こんな些事で目くじら立てるなよな。男の度量を疑われるぞ?」
幽霊は不満げに鼻を鳴らし、煩そうに腕を組み、深い青色の瞳でハイネを睨み上げた。
ちょっとだけ、ハイネの方がノッポだったらしい。顔を改めて真正面から見たが、女だったら即口説いていた程、見惚れるほどの美貌だ。
≪勝手にすれば。僕にとってどうでもいい奴の評価なんて、全く関係ないし≫
(……こいつおもしれーわ。なんつーか、『逝っちゃってるナルシスト』?……)
こんな非常時でなければ、酒を片手に一晩でも語りあいたいぐらい魅力的なオバケだ。年はハイネと同じ19歳〜20歳ぐらいだと思うが、存在も見た目も口調も、独自の世界観をきっちり完成させているっぽい。
「あんたって何者?」
≪見ての通りさ、名乗るのも面倒だから、好きに呼んでくれていい≫
「はいよ。じゃあお言葉に甘えるわ」
こういう気まぐれさんに、変な遠慮は厳禁だ。興味を失えばふいっと消える、気ままな猫と遊んでいると思えば良い。
「え〜っと、じゃあ怨霊のおーちゃん、生霊のいっきー、背後霊のハイハイ…じゃ俺の名前に被るな」
キラとレイに付き合っているうちに、ネーミングのセンスも似てきたようだ。
「……守護霊のしゅーちゃん、嫌、守って君もいいな……、亡霊のボーちゃんに………」
指折り数えつつ思いつくまま並べていたら、目の端でレイがパタパタと手を上げている。
「何? レイ?」
「ハイネ、肝心要の『幽霊のゆ〜ちゃん』を忘れてるぞ」
「おおレイ、偉いぞ、サンキューな♪」
滅多に自己主張しない子なのに、嬉しい進歩だ。
褒められたレイも、ぽくっと頬を少し赤らめた。
「だが、ゆ〜ちゃんも捨てがたいが、『ゆうゆう』とか 『おんおん』とか『いきいき』とかもセクシーと思わないか? パンダみたいで」
以前から不思議に思っていた彼のセクシーの定義が、ようやく判った気がする。
(可愛いもの系と勘違いしてねーか? ったく、誰だレイにデタラメな意味を教えた奴は!!)
≪……僕が……、毛むくじゃらと同類?………≫
麗人のおどろおどろしい声に慌てて目を走らせれば、彼の眉間には見事な縦皺がくっきりと寄っている。
≪……余程死にたいようだね、あんた達……≫
ハイネは弾かれたように、首を思いっきりぶんぶんと横に振った。
「嫌、俺人生たっぷり謳歌してて不満はない。悪いけど、まだやる事一杯あるから勘弁な!!」
いつの間にかエンヴィーが土の杭から逃れていた。
じわじわと再生しつつある穴の開いた腹を抱えながら、長い漆黒の髪を揺らしつつ、憎々しげに幽霊を睨んでいる。
「……お前…、………が、……【おしおき…くん】か?………」
息絶え絶えに紡いだであろう声は、逆効果だった。
彼は耳にした直後、極寒のブリザードもかくやという程、数多の氷柱がエンヴィーを貫いたのだから。
ハイネの喉はこくりと鳴った。
調子に乗り軽口の応酬で遊んでいたが、彼の機嫌を本当に損ねたら、一瞬で自分達も殺されていただろう。
救いは、彼と自分達では幽霊が向ける視線は雲泥の差なことだ。彼は、エンヴィーに対してだけ、目線だけで殺せそうな程侮蔑の目を向けている。
≪君も、なんてセンスの欠片も感じられないネーミングだ。僕の理解の範疇を超える≫
「………俺が……、つけたんじゃねーよ……!!」
なけなしの反論か、息絶え絶えにエンヴィーが何か叫んでいるが、氷柱に串刺しにされた腹では声も満足に紡げまい。
(あー…やっぱりこいつナルシストか。んじゃ【水仙の君】でいいか)
確か語源となった青年が、姿を変えられた花がこれだった。
直に茶化したい気もしたが、びしびし感じる殺気にこっちの身も竦みそうだ。
【水仙の君】の沸点はイザーク以上に低いだろう。
いかにハイネでも我が身は可愛い。これ以上突付いて自爆するより、初心に戻って素直に撤退を考えた方がよさそうだ。
「………あの、アマが……ぐはっ!!……」
≪誰が【アマ】だって? うん?≫
口元は笑っているが、目はマジギレだ。幽霊が容赦なく指を鳴らすと、ブレスレットの緑石が一つ粉々に砕け、同時に5本地面から生えた氷柱が、容赦なく彼の体を貫きつつ宙に持ち上げた。
どうやら、あの緑色の宝石が、彼の不思議な力の媒介らしい。
(……ひでぇ……)
ハイネはまじまじと、エンヴィーを見た。
いかに不死の化け物といえど、痛覚ぐらいはあるだろう。彼は明確に手足を付け根から切り取られ、モズの【はやにえ】のように、氷柱をつきたてられて晒されている。
彼はあのエンヴィーに何か恨みでもあるものだろうか?
そう脳裏に横切ったが、それこそ愚問だ。彼は人間を薬だかなんかの材料に使い、出来上がった石を食べるとローズは言っていたではないか。他人様からの憎悪など、買い捲りは決定だ。
≪僕の愛しい人が前に忠告してると思うけど、おいたがちょっと過ぎたようだね。だから、これは君が選んだ人生だ。僕はとっても優しいから、いかに物分りのよくない君でも、身に染みて覚えるまで、じっくりと僕直々に付き合ってあげるよ。僕の手を煩わせるなんてさ、簡単には許されないね♪≫
躾かい。
彼が何をするつもりかは知らないし、エンヴィーを今見ている以上に嬲るつもりならば知りたくもない。
「だったらさ……、早く出てきてくれればいいものを……」
絶体絶命だと思ったあの瞬間、レイを逃がす為に死ぬつもりだった自分の、悲痛な覚悟と恐怖はどうしてくれる?
≪あんたたちで何とかなるなら、疲れるし面倒だからいいかなって思ったんだ≫
ぽつりとぼやいたハイネの愚痴を、地獄耳な幽霊は、しっかりと聞いてらしい。
だが、ここで命題だ。【果たして、幽霊に疲労はあるのか?】
「信じられねー!! てめぇ、まさか見物してたんかい!!」
≪うん、つまらないなりにいい見世物だったよ。あまりにも不甲斐無くて大笑いさ♪≫
「……そりゃ、悪うございマシタね……」
ブルブルと握り締めた拳が震えた。ハイネにもザフトレッドのプライドがある。エリート街道も突っ走ってきたし、世間の平均よりも自尊心は高い筈だ。
それでも人間、時として我慢は必要なのだ。
このナルシストが軽々とエンヴィーをいたぶる姿を見て、逆らう程人生捨てていない。
以前、本の虫なイザークが『これぞ男のロマンだ』と渡航中の暇つぶしに貸してくれた『忠臣蔵』という、オーブの古典的名作本があったが、キセル(昔のタバコ)一服する間の忍耐を忘れ、将軍が住む城内で、嫌味な上司を切りつけた浅野内匠頭の愚行を見てみるが良い。
その日のうちに切腹を命じられ、35歳の若さで果てた殿は自業自得だから良いとしても、後に残された者達はどうなった?
お家は断絶、正室は若いみそらで尼となり、藩札(藩が領民に発行する債券)は半値以下、家臣は全員解雇で浪人となり、家族を引き連れて他県に引っ越しせねばならず、結局領民も家臣も随分な苦労を強いられた。
『殿の無念を晴らすため!!』と、約二年の歳月をかけて計画し、浅野内匠頭が殺せなかった男の首をとりに、討ち入りを見事果たした男達は部下の鑑と賞賛に値する。だがハイネ的に言わせて貰えば、殿はそこまで執念深く忠義を尽くすほど、男惚れする奴だったのか?と、別な意味で問いただしたい作品だ。
……話は逸れたが、つまり下手に己の感情の赴くままに癇癪を起こせば、結果的にハイネの大事にしたい人達全員に、いらぬ苦労をかけるということだ。自分がここでくたばれば、レイはどうなる? キラだってみつけてやらねばならないし、店の皆も路頭に迷う。
相手の力量も把握できず、猪突猛進に喧嘩を売り、自滅するのは『勇気』とは言わない。単なる馬鹿だ。
再生し、やっと氷柱から這い出たエンヴィーの頭を、亡霊は容赦なく指を鳴らして吹っ飛ばす。
今度はミニ爆弾というところか。殺し方も色々と多彩だ。
≪君たちもさ、ぐずぐず遊んでないでさっさと帰ったらどう? 心配して待ってる人だっているんだろ? 僕だってあんまり暇じゃないんだからさ≫
引き千切られた手足を取り戻し、とにかく逃げようともがくエンヴィーに、彼は再びパチリと指を鳴らした。ブレスレットの石が、一つ弾けた途端、落雷が炸裂する。
感電し、髪が焦げたのか独特の匂いが漂ってきて気持ちが悪い。
それにこの幽霊、エンヴィーに痛みとショックを最大限に与えられるようにと、再生し終えた瞬間を狙って力を行使している。
(……やっぱ性格悪ぃなこいつ。……幽霊が知能犯なんて詐欺だ)
目に見えないものが横行する世界は、ハイネの【己の常識】に限界をもたらした。
だが、こいつのお蔭で実際命が助かった自分は、馬鹿馬鹿しいと思いつつも、感謝を捧げる立場なのだろう。
「んじゃ、お言葉に甘えて俺達帰るわ。いつかまたあんたに会えた時には、きっちり礼をするから言ってくれ。俺にできることがあれば、必ず恩は返すから」
ぴらぴらと手を振って挨拶すれば、幽霊は、何故か自分をまじまじと見た後、面白そうに口角を吊り上げて苦笑した。
≪成る程、借りは作りたくないってか。君はとんでもなく意地っ張りらしい≫
「ああ、乞食じゃねーからな、俺は」
≪はいはい、わかったよ。なら、倉庫の死体とかは知らないことにする。君の尻拭いなんて面倒なのはゴメンだし≫
(おぅわ!! 俺って馬鹿?)
藪を突付いて蛇が出た。
だが、今更後には引けない。
薬中毒の廃人と言えど、人間なことは変わりあるまい。おまけにここではハイネは民間人かつ異邦人。殺してしまえば、立派に殺人罪が問われるだろう。
「……へいへい。それはこっちでなんとかするよ……、じゃあまたな!!」
下手にここで言葉を翻し、彼に侮蔑されればそれこそ厄介だ。
ハイネはローズを担いだまま、銃をホルダーに戻してレイの腕を掴むと、足早に当初の予定通り四輪車に乗り込み、アクセル全開で逃げ帰った。
☆彡
店に戻ればもう深夜を回っていた。
ハイネがローズをお姫様抱きにし、裏口からこっそりと厨房に入ると、3人を見つけた料理人達の顔が、一気に強張った。
「アンジェぇぇぇぇぇ!! ハイネが重症!!」
「「「えええええええええ!!」」」
勘違いした奴の怒声に、途端、皆があちらこちらから飛んでくる。
昼の勤務時間の奴まで、どうやら居残っていたらしい。
「ハイネ、死んじゃうのか!!」
「俺達これからどうすりゃいいんだ?」
「安心してくれ。仇はきっと俺が取る!!」
(……おいおい、勝手に殺すな……)
血気盛んな仲間に苦笑しつつ、ハイネは慌てて、身だしなみチェック用にと厨房の壁にかけてあった姿見を覗き込んだ。エンヴィーをナイフで滅多刺しにした際、返り血をたっぷりと浴びていたらしい。制服のドレスシャツをべったり真っ赤に染めてりゃ、そりゃ皆は驚くだろう。
「散れ!! 俺は無傷だ、なんともないって!!」
仲間で人口密度の上がった狭い厨房に、金髪のほわほわ頭を振り乱し、アンジェがとてとてと飛び込んできた。
「良かった〜!! レイ、ローズ、ハイネ〜!!」
半べそで3人1纏めにして抱きついてきたのは嬉しいが、綺麗な制服が一気に血まみれだ。
「アンジェ、グレゴリーの親父は?」
「今はマーゴット・ママがついてるわ。安静にしていれば生活はできるわよ。お酒とかはもう飲めないけど、生きていれば何だってできるでしょ」
にこっと微笑まれ、ハイネもついつい苦笑を漏らす。
この子はとにかくしぶとい。何でも良い風に前向きに考えようと努力している。
「アンジェ、とりあえずローズを風呂に漬からせてから寝かせてやってくれ。後、誰か金属物をかき集めてくれ。ローズ、機械鎧は明日修理に行くとして、今日は義足か杖で勘弁な」
だが、アンジェはふるふると首を横に振り、そのままクイクイと2人の服の裾を引っ張った。
「休ませてあげたいけれど駄目なのよ。ローズのお姉さんから、さっきから何度もお電話頂いてて……」
連れられてピアノ脇の電話室に行けば、彼女の言った通りにけたたましく呼び出しベルが鳴り響いている。
ローズを椅子に降ろしてやれば、彼女は緊張した面持ちで、受話器を取った。
≪アンネ・ローズは無事なの!! まだ見つからないの!!≫
「…お姉さま、わたくしですわ……」
≪…もう、貴女という娘は…!! どれだけわたくしを不安にさせれば気が済むの!!……≫
半狂乱で甲高い声に耳を塞ぎたくなるが、それだけ心配してくれる身内がいるということだ。多くを語らないローズに、ちゃんと愛してくれる家族がいたことを知り、ハイネはちょっとほのぼのと和んだ。
≪…貴方、貴方ローズが見つかったわ……、早く声をかけてあげてくださいな……≫
≪……私は興味ない……、さっさと切れ……≫
(…おい?……)
何か、雲行きが怪しい。
「お姉さま、お義兄さまに代わってください」
≪貴方、アンネ・ローズが話があるそうですが≫
≪……私は知らん!! ≫
「……お姉さま、夕方、お願いした件があるとお伝え下さい……」
≪貴方、アンネ……≫
≪……知らんといったら知らん、私の顔にドロばかり塗りおって……≫
≪そんな言い方、酷すぎますわ!!≫
≪……お前の妹であっても、私は赤の他人だ……。あんな恥知らず、もう二度と顔も見たくない……≫
≪ですが≫
妹の無事を知り、泣いて喜んだ妻に対し、電話口で聞こえてきた声がこれ。
他人のお家事情に口を挟むことではないと知りつつも、ハイネの勘に思いっきり触る。
とうとう号泣した妻に辟易したのか、やっと電話口に出てきたと思えば、今度は≪私の立場をどうしてくれるのだ!!≫を皮切りに、罵詈雑言の嵐だった。
結婚式をブチした1ヶ月前のことを引っ張りだし、みみっちい事でネチネチとローズをいびってくれる。
それに寡黙なローズが言い返せないものだから、ますます付け上がっている。
どうやらローズの義兄は、自分の肩書きや対面を非常に気にする男のようだ。政府高官にありがちな、自分の経歴に傷をつけるのが我慢ならず、些細なことでも感情むき出しにして反応する小男と見た。
ハイネはかしかしと髪を掻き毟った。
この手のアホに、何か頼み事をしようとしても、ローズの性格ならまず通ることはあるまい。
電話の下に吊るしてあったメモ用紙を引っつかむと、ハイネはさらさらといくつか文字を書きなぐった。
( 興味が持てないのならさ、興味を引き出してやればいいんだって)
項垂れて小言を聞くローズに、ハイネはつんつんと肩をつついた。
そして顔を上げた彼女に、ばっとメモを突きつける。
≪情感を込めてこの通りに言え。多少アドリブはOKだ♪≫
口ぱくでそう告げると、彼女は、じぃっとメモに目を走らせ、上目遣いに自分を見上げた。
ハイネはにっこりと意味深に笑うと、自信たっぷりに頷いた。
それで、ローズも腹を括ったらしい。
こくりと息を飲み、すうっと深呼吸をして気を落ち着かせる。
「……お義兄さま。大切なお話なので聞いてください。私、錬金術で人を大量に殺してしまいました。私は明朝、自首いたします。家名を汚し、お義兄さまの地位も傷つけることをお許しください………」
途端、見苦しい義兄の喚き声はピタリと止んだ。
「勿論、死んだのは名も知らぬ、私を浚ったならず者の仲間ですが、生命を繋ぎとめる錬成をした、私の過去の罪が今回の行動を引き起こしたのです」
≪アンネ・ローズ……、待て、早まるな。話合おう。落ち着いて話し合おう……≫
「……ご迷惑をお掛けいたしますが、お元気で……」
≪アンネ・ローズぅぅぅ!!≫
ハイネが示唆した文章の下に、何か付け加えがあったようだが、今度は発狂したように男がヒステリックに喚いているのが漏れ聞こえてきたのでよしとしよう。
ハイネはでっかく両腕で丸を作り、口を動かして『適当な所で俺に代われ』と形作る。
そして、とってもいい笑顔で受話器を受け取った。
「ローズが動揺して泣いているので、お電話代わりました。ええ、とても取り乱し、泣きじゃくっておりますが、妹さんは大丈夫です。左足がもげてますがそれ以外の外傷は特にありません……」
神妙に言葉を綴っていながらも、ハイネの口元は弓型につり上がり、楽しげにローズに目配せした後、ぺろりと舌を出した。
ローズも『わたくしのどこが泣いているの!!』と、口をぱくぱくと形作るが、黙っていろと、ひとさし指を彼女の口に押し当てる。
勿論、こんなアドリブは大好きだ。アマルフィ隊の参謀たるもの、国防委員長から回ってくる面倒な作戦を、隊長や個性豊かなメンバーを口先一つで丸め込み、ワクワクとピクニック気分で戦地に送り込むのも仕事の一つだ。
こんな男1人を口先三寸で丸め込めなければ、ハイネの名が廃る。
「……ええ知ってます……、ローズが人殺ししたってことは。 落ち着いてください。大丈夫俺に任せて。ローズはこの街になくてはならない存在です。彼女を捕らえさせるような真似はいたしません。……そうだ、俺……、俺が……彼女の代わりに自首します…!!ローズのように優しい人が、法廷に立たされるぐらいなら……、俺が……!!」
顔は笑いつつも、口調は神妙に、思いつめた風情を込めて声色を整えると、告げた途端、敵の騒音は即座に止んだ。
食い付きは上場だ。
「ですが……、穏便にこの場を納めるためには、是非貴方の協力が必要なんです……。ええ、勿論、名前を地に落とすのは断じてなりません…」
≪よし、私に任せておけ。君がそこまで言ってくれるのなら、私にできることなら何でもしよう≫
(掛かった♪)
ハイネはぐっと握った拳を突き出し、ローズの頭をくしゃくしゃと撫でた。そして、メモを引っつかむと『お前、こいつに何をさせたかったんだ?』と書きなぐった。
後は煽ててその気にさせれば完成。話さえ聞く耳を相手が持ってくれれば、どうにでも言いくるめる自信はある。
ローズが慌てて色々と何かをメモに書き始めた。
ハイネは楽しく時間稼ぎ……と、話しをつらつらと作りつつ、長々と会話を重ねた。
06.12.01
間に合った(号泣)
次回、やっと白キラが出てきます〜!!
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