アナザーで会いましょう
13-3 約束はいらない 後編
「レイ、何処だレイ!!」
ハイネはアンジェから受け取ったバスケットを右手に持ち、ウサギを探して街中を疾走していた。
店を飛び出して早20分が経過している。
時刻は昼食時間が一段落して、まったりと昼寝を楽しみたいが、後ろ髪を引かれつつ仕事に戻る時間帯だ。しかも寂れつつあった歓楽街に人通りは少ない。
「すんません、この辺で垂れたウサギ耳の帽子を被った男の子、見かけませんでしたか? 俺と同じぐらい綺麗な顔のとびっきりな美少年!!」
すれ違う片っ端から尋ねて回るが、反応が薄い。あんな珍妙な格好の子が徘徊すれば、人目につかない筈はない。ハイネはますます焦りを募らせていった。
(ちきしょおおおおお!! あいつ、もうどっかのへんな店にお持ち帰りされてんじゃねーのか?)
ふと、ハイネが線路近くの街外れに足を運んだ時、彼らがこの街にやってきて、最初に腰を降ろした噴水付近に、100人程度の人だかりが目に付いた。
人垣の向こうで何をしているのかは知らないが、勢いのある白い光の柱が空に向かって上った後、雪の大きな結晶が、ひらりひらりと舞い落ちてくる。
初夏にありえない美しい贈り物に、歓声と盛大な拍手が巻き起こり、小銭が放り投げられているのか、鈴の音のような音も響いている。
(大道芸人でもいるのか?)
夜に賑わう歓楽街で、こんな真昼間から、道端で芸人が客引きパフォーマンスをしているのも変な話だ。しかもあの輝きは錬成反応である。
「………まさかな……?」
と思いつつも、ついつい足が向いてしまうのは、レイもキラに劣らぬトラブルメーカーだからだろう。
「はいよ、ちょっとごめんな……、通してね♪ ありがと♪」
人垣を掻き分けて前に進めば、噴水前で蠢いているのはまさしくレイだった。
奇妙な着ぐるみを着たウサギが、細長い棒切れを振り回し、地べたに奇怪な錬成陣を書く姿は珍妙だ。悩みながら書き上げ、両手をついて反応させれば、今度は彼の周辺だけもくもくと、真っ白い霧が発生する。
「レイ!!」
ハイネが呼べば、ゆうるりと彼が振り返った。
まるでスモークの中できょとんと佇むウサギだ。愛らしい姿は目の保養であるが、彼が首にぶら下げているものを見た途端、ハイネは眩暈がして倒れそうになった。
「おーい、誰が客引きやれっつったんだ?」
「これは【おまじない】だとアンジェが言ったが」
レイは無表情のまま小首を傾げた。
彼はウサギ姿のまま、店の看板を胸と背に貼り付け、サンドイッチ・マンとなりはてていた。
☆彡
≪チーフ命令なの。レイに気分転換のお休みあげるから、お迎えが来るまで帰ってきちゃ駄目なのよ♪≫
そうアンジェに言われてこっくりと頷いたが、正直困った。店の外に出ろと言われても、レイには行きたい場所がない。
≪でね、これはレイが浚われていかないように〜の、おまじない♪ うふ♪ サンドイッチマンなの♪≫
グレゴリー・カフェの新作アイスを使った新メニュー『キウイパフェ登場』の宣伝が、でかでかと描かれた大きな板切れを二枚、上部に穴をそれぞれ二つ穿って紐で結び、肩にかけられる。
成る程、慌て物な時計うさぎの格好で、看板背負って街を徘徊すれば、迷子には見えまい。しかもこの街で有名になりつつある『グレゴリー・カフェ』の名前は良いお守りだ。この店の従業員に手を出せば、漏れなくハイネの鉄拳制裁を食らうのは周知の事実だから。
初夏を間近に控え、新緑が色濃くなった木々の葉は目に鮮やかで、滅多外に1人で出ることがないレイに、お日様の眩い光は痛かった。
アンジェに言われた通り、シェル街を徘徊してみたが、明確な目的のない一人歩きは直ぐに飽きる。ましてやここ3日、まともに食事も取っていないし、水分補給も極僅かだ。
相変わらずお腹がすいた感覚はないが、喉の渇きが酷い。口周りがかさつき、喉の奥も痛む。この不快な感覚を鎮める為には、口内を湿らせる必要がある。
ぱたぱたとポケットをまさぐってみるが、制服には小銭1枚ない。
(……水筒、もってくればよかった……)
店に戻ろうかとも思ったが、アンジェのいいつけは、迎えが来るまで街を徘徊すること。店の勤務時間中なら、上官命令は絶対である。
誰が来るかは知らないが、レイは途方にくれて、噴水に腰掛けた。
寂れた街の中、目印にもなるオブジェの癖に、相変わらず水は濁っていて汚い。
だが水である。
レイはしつこく凝視した。
この街に来たばかりの時ならいざ知らず、今の自分には手段がある。
(………ろ過する練成陣は何だっけ?………いや、水ならこれに拘らなくても、H2Oなのだから、空気中の水素と酸素を結合させれば、俺は目的の物を得ることができる筈だ。となると、入れ物は? その前に書くものは……?)
もともと、1人遊びは得意なレイだ。
彼はその辺にあった棒の切れ端を拝借すると、地べたに思いつくまま練成陣を書きなぐりだした。
☆彡
「はははははは、ちきしょ……、アンジェのヤロー……。ほえほえの分際でいい性格じゃねーか……」
ハイネはがっくりと肩を下ろし、持ってきたバスケットを開けて水筒を取り出した。
二重構造の魔法瓶だから、シナモンミルクティーはまだ熱々だ。カップに注いでやりレイに手渡すと、彼はおとなしく両手に持ち、甘く栄養価の高い飲み物を素直に啜っている。
いくら喉が渇いたからと言って、この水をろ過できないかと試すとは。だが偶然の産物とはいえ、綺麗な錬成は大道芸としても通用すると気づいたのなら、今後この世界のどこかで路頭に迷っても、意志さえあれば生き延びれるだろう。
見物人が消え、小銭でポケットの膨らんだレイと揃って噴水の縁に腰を降ろし、2人で静かに紅茶を啜る。
穏やかな時間は心を浄化する作用がある。この世界に飛んできて以来、毎日身を粉にして働いてきたから、ハイネはレイとまともに話し合った機会がなかったことに気がついた。
「レイ、懐かしいよなぁ。覚えてるか? 俺達ここがスタートラインだったんだぜ」
汽車の煤で汚れた顔を、この水で洗ったのだ。
その後マーゴットに会い、そのままなし崩しにシェル街の住人になった。
「レイ、プリン食うか? ブラマンジュもあるぞ」
焼きプリンのカップとスプーンを差し出すが、レイは、ハイネを見上げた後、花が萎れるように俯いてしまった。
口溶けの良い冷菓で駄目なら、アップルパイは差し出すだけ無駄だろう。だが、ハイネはあえてバスケットの蓋を開けっ放しにしてレイの足元に置いた。
「皆の心づくしだよ。一口でもいいから、食えたら食ってやれ。きっと喜ぶぞ♪」
ハイネはシナモンティーを飲み終わると、早々に使ったカップをバスケットに押し込んだ。
手ぶらにしてレイの頭を引っつかみ、問答無用で髪を掻き撫でる。
「食ったら帰ろうな、皆が心配している」
ぽしぽしと頭を撫で続けていると、無表情のレイが小首を傾げた。
「何処に【帰る】んだ?」
「グレゴリー・パブに決まってんだろ」
レイはゆうるりと首を横に振った。
「其処は、俺が帰りたいと願う場所とは違う」
「……ああぁ? そーかそーかそーか………」
(レイ言葉の翻訳辞典がいるかもな、ちきしょう)
行きたくない訳ではないが、彼の『帰る』という定義には当てはまらないということか。相変わらず独特の意味合いに、匙を投げたくなるが…ここで後退したら、レイとは一生分かり合えまい。
ハイネはかしかしと髪を掻き毟った。
「お前さ、俺にもわかるように言え。俺はお前じゃないんだから、お前が判ってても俺はお前の言うことが理解できない。だが俺はお前を理解したいし、理解できればもっとお前が好きになれると思う。お前も俺にもう少しさ、伝えたいって努力してくれない? その為に言葉はあるんだろ? な?」
レイはちょっと小首を傾げた。
「【帰る】とは、自分の一番心休まる場所にいく事ではないのか?」
「そういう意味もある」
「なら、俺の【帰る】場所は、キラの所だけだ」
シナモンミルクティーを啜る耳の垂れたウサギ姿に、通りがかった人がわざわざレイの顔を覗き込む。目が合った途端に足早に立ち去っていったが、目立つことに変わりは無い。
3日前の喧嘩から彼はずっとこの制服を着用しているが、無理やりに着せているみたいでハイネ的にも気まずかった。
「なぁ、その制服だけど、今度は俺と一緒にデザインを考えよーぜ。プロのラスティの様にはいかないけど、俺のセンスだって結構マシな部類だし、お前だって嫌なもの渋々着るより、着たいものの方が嬉しいだろ?」
「気に食わない訳ではない。キラに着せたら似合いそうなものは好ましい」
「そうか。なら良かった」
「よくない。ハイネは嘘つきだ」
「おいおい」
「お前は俺に【いいもの】をくれると言ったのに、これは俺にとって【いいもの】ではなかった」
「そっか、だから拗ねたんだな?」
レイは首を傾げた。どうやら【拗ねる】の意味が判らないらしい。
意思疎通の前途は、限りなく茨道だ。3歩歩いて2歩下がるような牛歩の歩みだが、ハイネが諦めたら全て終わりだ。
「俺、お前をがっかりさせただろ? 期待を裏切って気落ちさせたっしょ? だから俺に対して腹立てただろ? こん畜生って思ってふくれっ面になっただろ? そんな憤る行動全部が拗ねるってことだ」
レイは黙って耳を傾けていた。
ハイネは言わなかったが、拗ねるは【甘え】にも繋がっている。レイがハイネに心を許し始めていた証拠だったのに、忙しさにかまかけて、愚かにもその芽を自分は摘み取ってしまった。
「じゃあ、期待させたお詫びに、お前にとっての【いいもの】をやる。だからさ、それで仲直りしようぜ。お前何が欲しい? 但し、俺にできることで言ってくれよ、な?」
「キラに会いたい。キラに抱きつきたい。キラと一緒に眠りたい。キラに笑って欲しい。キラに頭撫でて欲しい。キラが欲しい。キラしかいらない」
弾かれるように一気にまくし立てるレイに、ハイネは苦笑を零した。
「つまり、お前はキラとともに在りたいってことなんだよな」
手の平の中の金髪が、しっかりと上下に動く。
「キラは俺の全てだ」
「そーか。ならさ、なんでお前、そこまでキラだけに拘るんだ?」
キラは確かに可愛いし優しい。人の気持ちの痛みが判る子だ。
自分もキラと知り合い、彼女の隊に引き抜かれて以来、生きることが楽しくてたまらなくなった。いつかミーアの為に戦死しなきゃならないのに、色々理由を見つけて、できるだけ終焉の時を引き伸ばしたいと願い始めている。
「ハイネは、ふと過去に投げつけられた嫌な言葉を思い出し、胸が掻き毟られるように苦しくなる時はないか?」
「……そりゃ、あるけどさ……」
ザフトの赤服を得て、初めて戦艦に乗り戦地へ出立する朝、実の父親に『お前など早く死ね』と言われた事。逆に自分を慕ってくれたミーアにあえて『性格ブス』『ストーカー』だの、酷い言葉をぶつけた時の記憶は、今もふと思い出す事に厳しい。
「キラの腕の中にいる時だけ、俺は安心できる。何があっても怖くない。だが、キラが居なければ、俺はこうして息をするだけで怖い。今ここで自由にしていることが夢なのかもしれない。実際、俺はキラが居なくなれば最後、再びメンデルに連れ戻される事が決まっている」
「なんで?」
「俺には人権がない。プラントの国籍もないし、コーディネーターでもない。狂ったサイエンティストが腕試しで作った、老いたナチュラルのクローンで、単なる実験動物だからな」
ハイネはレイを凝視した。
少年は嘘をつけるほど人生経験はない。信じたくも無いが、これはきっと真実だ。
「待てよ、プラントだぜ? ブルーコスモスじゃあるまいし、そんな非人道的なこと許される筈がない」
「なら、今お前の目の前にいる俺はなんだ? 生まれてからずっと、俺はメンデルの研究室しか知らず、科学者達のなすがままに実験に付き合わされる毎日だった。俺の意志など一切通用せず、運悪く死ねば解剖か標本だ。唯一優しくしてくれたのはギルだけだが、彼の努力も虚しく、俺はメンデルから解放されることはなかった。俺が残らねばもう1人のクローンが犠牲にならざるをえなくて、ギルにとっては俺よりそっちの方が大切だった」
飲み終えた紅茶のカップをもてあそびながら、ぽつぽつと言葉を綴るレイの瞳は暗い。
過去を曝け出し思い出す事は、彼にとって生きたままナイフを突き立てられているように辛い事の筈。
だが、ハイネは辞めろとは言えなかった。
レイの事を知りたかったのだ。
「だけど、レイは今、メンデルの頃が異常だったって知ってんだろ?」
「ああ、キラが教えてくれた」
彼女の名を唱えた途端、レイの強張った顔に微かだが笑みが零れた。本当に、彼にとって【キラ】の名は、最強の呪文らしい。
「キラがたまたまL4に立ち寄り、俺に会いに来てくれなければ、俺は今もメンデルで暮らしていただろう」
―――――――お前みたいな化け物なんか、誰からも相手にされる筈がない――――――
≪君のせいじゃない。だって、レイは望んでそんな体で、生まれてきたわけじゃないでしょ!!≫
―――――――人権も何も無いお前が、この研究院から出て、どうやって生きていく?――――――
≪レイは1人じゃない。僕がお母さんになる、だから僕と生きよう!!≫
―――――――【白きアテナ】だからと言って、全てが許されると思うな!! 小娘が何様のつもりだ?―――――――
≪銃握ってプラントの皆を守るために戦うことが『何様?』だというのなら、いつでも代わってやる。僕の代わりに最前線に行って戦って来い。あんた達のやっていることは、幼児虐待だ!! レイを解放しなければ、プラント中に全情報を流してやる、マザーにハッキングして、ここの悪行を全部皆に暴露してやる、覚悟しとけバカヤロウ!!≫
「どんなに詰られても、キラは泣きながら俺を奪われまいと力いっぱい抱きしめ、離さなかった。俺もキラを選んだ。その代わり二度と研究院には戻れない。俺の帰る所はキラの元しかない」
(……なんて事だ……)
プラントで人体実験なんて、信じたくないがありうる。
だってコーディネーターは、遺伝子を弄くって生み出された生命体だ。出生率が落ち、婚姻統制法まで強いて、未来の子孫を作ろうと躍起になっているプラントなら、もし人口が減少したあかつきには、コーディネーターをクローンする事も十分考えられる。
そしてレイが異様に物を知らないのも、実験動物だったなら自我なんか不必要だろう。
研究員とて、情を移すのが忍びなくて、冷たくレイに当たったのも判る。
キラが14歳の少年を、守るどころが野戦任官で自分の手元に置くとかほざいた時、キラの人柄を知るからこそ、何か理由があったと思ったのだが、目を離せば、何時浚われてしまうかもしれない存在で、しかも待っているのは人体実験なら、彼女は絶対に手放す筈がない。
「レイ、百歩譲って最前線にくるのは判ったが、お前の選んだ職種はモビルスーツのパイロットだぞ。何時戦死したっておかしくない。今からでも遅くないから、キラの従卒かなんかになって、ガモフでいい子で待ってた方がよくないか?」
「それはキラにも言われた。だが、短い命だからこそ、俺は好きに生きたい。キラの役に立ちたい」
「…どこか悪いのか?…」
「俺は老人のクローンだと言っただろう。テロミアが短くて、今のままなら20歳で老衰死する」
震えそうになる手を駆使し、ハイネはレイの頭を撫で続ける。
だってこの子はまだ14歳だ。
しかも、キラがガモフに連れ込んだのは3ヶ月前、それまで彼は何一つ自分の為に生きていなかったということではないか。
この世には楽しい事が一杯あるのに哀れすぎる。
「おい、延命手段は?」
「ない。模索中だったが、生かす方法を探す為の実験動物である俺自身が逃走した」
「……メンデルに戻れば助かるのか?……」
「ギルの執念で研究が実れば可能性はあるが、キラは二度と俺をメンデルにはいかせないだろう」
ハイネはギルが誰を指すかは知らなかったが、レイの意志を尊重すべきだと思った。
この子の人生だ。しかも初めて自分で選んだ生き方だ。
箱庭の世界から彼を連れ出し、希望、期待、喜び、自由等、それら全部をキラが彼に教えたのだろう。
なのにここに来て、彼女を見失った。幼子なのに母親が消えてしまったのと同じだ。
キラがないと生きられない。どう生きていけばいいか判らない。
そんなレイから『約束』を奪ったのは自分。
彼女を捜しに行くという、希望に待ったをかけたのは……ハイネだった。
「……俺にはキラしかいないんだ、俺を受け入れてくれたのは……」
「違うだろレイ。俺はお前が好きだぜ。弟みたいで可愛い」
ハイネはそっと、レイの小さな身体を抱きしめた。
子供をあやすように背中ほぽしぽしと撫でれば、きょっとりと目を丸くし、小首を傾げて見上げてくる。
「ミゲルだって、ゼルマン艦長だって、お前の事を可愛いいと思っている。パブの皆だってそうだ。アンジェもローズもマーゴットさんだって、お前の事を受け入れている。キラはお前に、世界は研究所だけでなく、もっともっと広いんだと。自由へと続く扉を、お前の可能性を知るきっかけをくれたんだよ」
レイと違う所に飛ばされなくて良かった。この子を1人で見知らぬ世界に置き去りにしなくて良かった。
「お前は好きに生きていいんだ」
今は『好きに生きる』という意味が判らなくてもいい。いつか判ってくれればいい。
「見つけてやろうな、絶対に」
レイの母親を……、自分達の隊長を……。
「キラを、アステール・アマルフィを、絶対に捜し出して迎えに行こうな」
レイはおずおずとハイネの腕に指を沿え、きゅっと力を込めて握ってきた。
「……うん……」
彼の腕の中で、ずしりと重くなったウサギに、ハイネは喜びを噛み締めた。この重さが、レイのハイネに対する信頼だ。
この子が一つでも多く、幸せを感じられるように。
この子を、レイを守りたい。
☆彡
店に戻った途端、レイはごそごそとハイネが持っていたバスケットを勝手に開け、自分から焼きプリンを頬ばりだす。
そんな彼に、ハイネはぴらりと一枚の紙をつきつけた。
「これは?」
「ん? 新聞広告の校正前原稿だ。で、この箇所にキラの写真を載せる予定だ」
アメストリス公国で一番読まれている新聞に『お尋ね人』でキラを出し、情報を募るのは有効な手段だ。反響がなければ他国にも足を延ばさねばならないし、もしかして目撃情報をすっ飛ばし、本人が名乗りを上げてくれる可能性もある。
理解した途端、レイの表情がぱっと輝いた。
「つー訳だから、レイは早急にデジカメの写真を1枚プリントアウトしてくれ。俺はその間に、新聞広告の費用を捻出する。期限は、ん〜…1ヶ月ぐらいにしとくか」
レイに機械鎧のメンテナンス用の道具箱を渡せば、レイはしばし考え込みながらこっくりと頷いた。
「プリンターを俺が作り、写真を用意しろというのだな」
「おう。キラの似顔絵も考えたんだが、俺もお前も絵心は皆無だ。謝礼に釣られてへんな輩を大勢集めるより、確実な情報のがいいだろ?」
なんせハイネが用意した謝礼は、レイが持ち歩いていた40カラットのブルーサファイアだ。欲に目が眩んだ人間は何処にでもいる。
「今度こそ、その約束は確実なんだな?」
レイの念押しに、ハイネはにちゃっと笑った。
「これは約束じゃねーぞ、目標だ」
「目標?……」
「そう、俺達のな。考えてみりゃ割りあわねーだろが。俺達にとってかけがえの無い【キラ】を捜すのに、俺だけプレッシャーかけられて、しかもお前に恨まれるなんてさ」
「ああ」
「ならさ、お前なりの一生懸命を考えて、キラの為に動けよ。お前のできる範囲で努力してみろ」
レイは首を傾げた。
眉根を寄せ、一生懸命ハイネの言葉を理解しようと考えている。
「待っているだけではキラに会えない。キラに会いたければハイネに協力しろと」
「んー、惜しい。概ね合ってるけど、ちょっと違うな」
「キラに早く会えるよう、自分の頭で考えて、とにかくできることを捜して動けということか?」
「そうすればお前はどんどんいい男になれるぜ。逞しく成長したお前を見たら、キラだってメチャ喜ぶ、な?」
「判った。俺はキラに褒められたい」
「おう、今日からそれがお前の目標だ」
「了解した」
レイはにっこり微笑み、食べかけだったプリンを流し込むように平らげ、ブラマンジュもアップルパイも、綺麗にお腹に納めて皆を安心させたのだ。。
だが……。
「ハイネさん、ここに置いておいた焦げた大鍋知りませんか?」
「真鍮のドアノブがないんですが、螺子が取れたんで直そうと思ってたのに」
「スプーンの本数が減ってます。擦り傷が目立っていたから、磨こうと思っていたのですが…」
「あ〜…、多分もう出てこねーと思うから、足りねーものは、経費で適当に買っといてくれ。領収書はローズにもってってな」
ハイネは、いぶかしげな店員を追い出すと、かしかしと頭を掻き毟った。
この頃、店の備品が次々と消える。
しかもそれだけでなく、この店周辺に散らばっていた、鉄くずとかも、次々紛失しているらしい。
美化的には役に立っているからいいとしてもだ。
「犯人は、やっぱりこいつなんだろうな〜……」
ハイネはがっくりと肩を落とし、店のレジ付近に並べてある、硝子のショーケースを覗き込んだ。
レイが作成したアクセサリーコーナーには、連日のように新作が出現している。
そして昨夜も遅番だった彼は、昼前だというのに、今も目にクマも作り、寝巻き姿で徘徊している。
「レイ、貴方この頃ちゃんと寝てる?」
「ああ」
そういいつつも、カウンターでアンジェからホットミルクを受け取りながら、彼はうつらうつらと船を漕ぎ出していた。
昨晩も徹夜で試作品プリンターを組み立てていたのは明白だ。
だが、ハイネにとって誤算だったのは、彼はマイクロユニットがキラ並に不得手だったことだろう。手伝ってやりたいのは山々だが、かくゆうハイネも、実はどんぐりの背比べで、レイを手伝ったつもりが、結局木っ端微塵に破壊してしまい、それ以来一切触らせて貰えないのだ。
レイに『頑張る』『努力する』というスキルが習得できたのは嬉しいが、傍から見れば幼児虐待で、当然の事ながら、ハイネを見る皆の目は冷たい。
「食え、寝ろ、とにかく休め!!」
「何故だ? 俺は俺なりの一生懸命で、キラに認められたい」
「るせぇ!! 俺の言うことがきけねーのか!!」
(まるで俺ってば、奥さんに逃げられた駄目パパじゃねーか!?)
子供を育てるのは大変だと、つくづく身に染みたハイネだった。
Fin
06.12.27
あ、誕生日のエピ、入れるのを忘れたΣ( ̄ロ ̄lll) ガビーン
ここのサイトでは、レイの誕生日は白キラが決めました。5月18日になりますv
1章の5話目を激しくネタバラシ( ̄― ̄)θ☆( ++)
早く書かねばと、大きく焦ってます( ̄― ̄)θ☆( ++)
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