最期のバースディ
ディセンベル1には、ザフト軍本部がある。
建物は巨大で100階を余裕で越え、この中で通常勤務に当たる軍人だけで2万名はいる。1階の正面玄関を出入りする軍人の数は、一日ゆうに5万人は越えるだろう。
そんな人通りが多い一階ロビーだというのに、よりによって受付嬢の座っている案内カウンターの直ぐ横の柱の影で、年若い二人の痴話喧嘩が勃発していた。
「だからゴメンって!!」
「知らない。キラなんて絶交だ」
「アスラァァァン!!」
「俺に話しかけるな、馴れ馴れしい」
「そんな意地悪言わないでよ、もぅ!!」
真っ白の隊長服に身を包み、同じ色合いの雪のような髪を振り乱しながら、キラは何度も何度も頭を下げる。
だがアスランは腕を組み、ふんぞり返りつつ、ふくれっ面を浮かべてそっぽを向く。
ザフトの至宝『白きアテナ』ことアステール・アマルフィは、戦功も戦績も、他の追従を許さない常勝隊長だ。
そんな彼女が、ザフトの赤服をトップの成績で得たとはいえ、所属すら決まっていない、たかだか新米の1パイロットごときに、公衆の面前で謝り倒す姿など、はっきり言ってかなり情けない。
「おいおいアスラン・ザラ。お前、何ウチの隊長虐めてんの?」
晒し者になっている姿に、見るに見かねてミゲルが助け舟を出すが、今度はキラの方がふるふると首を横に振り、援軍の背中を両手で押す。
「ゴメンミゲル。これは僕とアスランの友情問題だから、口を挟まないで」
「でもお前、ザラ国防委員長に報告で呼ばれてんだろ?」
「代わりに宜しく」
「って、おい」
「ザラ議員なら判ってくれるよ。だって僕、アスとの友情にヒビ入ったら、もうこの世界で生きていけないもん!!」
二人の関係を知らない輩からみれば、何を大袈裟なと呆れることだろう。
だが悲惨な未来から、単身この世界に吹っ飛んで来た彼女にとって、例え別人といえども『アスラン・ザラ』は、今度こそ守りたい存在である。
今にも紫水晶のような瞳に、大きく盛り上がった涙が零れそうなキラの姿を横目で見つつ、彼こそが自分の存在理由だと、涙ながらに訴える少女の姿に、心がようやく動いたのか、そっぽを向いていたアスランの口元に笑みが浮かぶ。
彼の怒りは、キラの約束破りが原因だった。
今から1週間前、10月29日でアスラン・ザラはめでたく16歳となった。
その誕生日をキラは忘れていなかったし、見事赤服をGETできたお祝いも含め、心を込めて作り上げた彼専用のモビルスーツ操縦用OSと、巨大なプレゼントだって準備していた。
だが、彼女はザフト軍のスーパー・エースである。
パトリック直々の勅命で緊急の任務が入り、指折り数えて待っていた休日はあえなく剥ぎ取られ、MS部隊を率いて月まで宇宙空間を突っ走るハメとなった。
勿論アスランは軍人だ。ザフト軍におけるキラへの期待や役割だって、十分理解している。だが、急な任務があろうが無かろうが、『行けなくなった、ゴメン!!』と、メール1本ぐらい、入力に抜群のスピードを誇るキラなら、10秒あれば打てただろう。
キラが連絡をし忘れたばかりに、アスランは他の誘いを全て断り、わくわくと自宅で24時間スタンバイして待っていたのだ。
その怒りと失望、今まで殆ど会えなかった彼女と、久々に楽しい時間が過ごせるかも…という、期待も大きかっただけに、恨みは相当根深い。
「お前らアホか!! 子供じゃあるまいし!!」
ミゲルの罵声は、こっそりと遠巻きに聞き耳を立てていた軍人達の心を、見事に代弁していた。
だが、今度はキラがぷっくりと頬を膨らませ、ぐいぐいと援軍の背中を押す。
「もういいからミゲルは行って!! 隊長命令だよ!!」
「こんなことで権限を使うな。みっともねぇ!!」
「無様でもいいの。僕にとってアスランが一番大事なんだから!!」
この言い草に、喜びを噛み締めてうっとりと陶酔したのは、キラ馬鹿なアスランただ1人。周囲の面々は更にあきれ、ミゲルだって匙を投げた。
「へいへい、んじゃ勝手にやってろ。報告終わったらここに戻ってくるから、絶対何処にもいかずにいい子で待ってろよ。副隊長のいいつけ守れない悪い子には、今夜のデザートはもれなく俺の胃袋に消滅する」
「鬼!!」
「うるせぇ、俺に対する迷惑料だ」
ミゲルはキラの抗議を受け付けず、ぴらぴらと手を振って国防委員長の執務室へと行ってしまった。
そして後に残された二人は、途切れた時間を手繰り寄せるように、再びお互いを見つめ合った。
「……ゴメン、アスラン。本当にごめん……」
神妙に項垂れるキラに、さっきまでの冷たい態度がウソみたいに、アスランはほっこりと笑った。
「……判ったらいい。でも、二度目はもうないかもな……」
「……うん……」
ほっとしたキラは、壁に凭れたままずるずるとしゃがみこんだ。
ゆるゆると組んでいた腕を解いたアスランが、身を屈めてキラの白い髪をくしゃくしゃと撫でる。
何も知らない人間なら、きっと何を大袈裟なと呆れただろう。だが、当人2人はいたく真面目だ。
だって、この特別な日はアスランの言う通り、もう二度と祝えないかもしれないのだ。
それを証拠に、アスランの大切なキラは13歳で殺されてしまった。
キラの恋人だったアスランだって、キラの心が認めていないだけで、ほぼ亡くなっている。
そして来年の今、この場にいるアスランとて、もうこの世にいないかもしれないのだ。
今ここにいるキラが知る、あの悲惨な地球連合軍と核やジェネシスを撃ち合う同じ未来を辿った場合、9月の27日に、彼はジャスティスで自爆する。
もし、再びそんな現実に遭遇したら、キラとて今度こそ死を選ぶだろう。
また、常に最前線で戦う彼女である。その日が来ない前に戦死するかもしれない。それに、何かの拍子に元の世界に戻ってしまうことだってありえるのだ。
『来年、今年の埋め合わせで目一杯お祝いするから』などと、気軽に約束できないのが二人の現状だった。
「キラ、そんな所で座ったら、腰を冷やすだろ。あっちのソファーに行って暖かいものでも飲もう」
「あ……、うん。でもミゲルが来たら……」
「座ってても見えるから大丈夫。お前の軍服と白髪は目立つし。俺、ココア奢るよ」
「……そうだね♪……」
現金なもので、甘いものに釣られたキラは、アスランへ贈る巨大なプレゼントを小脇に抱えたまま、50メートル先の休憩スペースへと、いそいそと場所を移した。
ふかふかのソファーに腰を下ろし、アスランが自販機で買ってくれたミルクと砂糖がたっぷりと入った暖かい紙コップを受け取ると、大好きなチョコレートの香りに目を細める。
「ありがとう♪」
「どういたしまして♪」
二人仲良く並んで座り、暫く無言で飲み物を啜る。
そんな無音でも二人でいられる居心地の良い時間に、ラクスに悪いと思いつつ、キラの心もついついほのぼのと和んだ。
「ねぇアス、君が君のキラと過ごした最期の誕生日は、どんな風だったの?」
それはキラにも通じる事だ。死んだアスランと共に過ごせた誕生日は、目の前の彼と同様、13歳の時が最期になった。
これがキラ以外の人間なら、きっとアスランは冷たく睨んで踵を返しただろう。だが、同じ時を自分ではないが『アスラン』と過ごした彼女だから、彼もキラの前では素直に過去の暖かな想い出に浸れるのだ。
「……そうだな……」
アスランは温かなブラックコーヒーを一口、口に含んで唇を湿らせると、日頃は思い出すことも無い、過去の記憶を手繰り寄せた。
☆彡☆彡☆彡
月にあるコペルニクス市は、地球軍にもプラントにも属さない中立の自治都市だ。
なのにこの地でも、地球に暮らすよりは若干マシなだけで、年々ブルーコスモスのテロは増えている。
コーディネーターの身は、日に日に危険に晒されていた。
アスランもキラも、ナチュラルのふりをして幼年学校に通わざるをえず、お互いの家を1歩でも出れば、生活は随分緊迫した日々だったと言えよう。
だが、この日だけは違った。
本日でようやく13歳となったアスランは、学校でいつも浮かべているポーカーフェイスも吹っ飛び、朝から誰の目から見ても判るぐらいに上機嫌で浮かれていた。
(これで俺も成人だぁぁぁ!!)
じりじりと焦燥していたこの5ヶ月、ようやく待ちに待った誕生日が来たのだ。
キラよりもしっかり者と自他とも認めるが、5ヶ月の差は大きい。なんせ13歳と12歳は大人と子供の境界線、社会的なボーダーラインが全く違う。
コペルニクスでは子供扱いのままだが、プラントならエレカの免許も取得できるし、酒も解禁だ。婚姻統制法に基づき、遺伝子の登録が義務付けられているのもこの年からだし、望めば結婚だって許される。
アスランは大人の階段を、ようやく昇れたのだ。
これからますます頑張って、婚姻統制法の対の遺伝子が見つかる前に、一日も早くキラとの婚約にこぎつけなくてはならない。
学校が終われば、そのままアスランはキラの家で、彼のバースデーをお祝いしてもらえる予定だ。
母レノアからのプレゼントは、最新式工具1揃え。父からは『好きなものを買え』とお小遣いが、200アースダラー(2万円)もアスランの口座に、既に振り込まれている。
遠くプラントにいて、コーディネーターの防衛の為に身を粉にして働いている父は当たり前だが、レノアも今、6年がかりの『プラントの食料自給自足計画』の一環、キャベツの品種改良研究が大詰めで、農場から目が離せず帰宅すらままならない。
アスランはここ1ヶ月、ずっとキラの家に預けられ、彼女の部屋で寝泊りをしていた。
(でも、カリダ小母様も随分と大らかだよな。俺とキラの間に、間違いが起こるとか、心配していない訳?)
キラとアスランは、未だに風呂も寝るベッドも同じだ。
キラはヤマト家の風習に基づき、14歳になるまで男の子として生活をしている。どんなデーター改竄がなされているかは知らないが、彼女が女の子と知る者は教師にもいないし、この学校の生徒でも幼馴染の自分のみしか、秘密は知らされていない。
登下校も一緒、体育の時間も騎士のように確実に守り、彼女からも頼りにされているのでアスラン的にも優越感だが、キラの問題意識の低さに、しばしば泣かされてもいるのも事実だ。
アスランは2階の廊下の窓を拭きつつ、ため息混じりに裏門に目を落とした。
人の通りも殆ど無く、うっそうとした庭師も入らない日陰の中庭では、広葉樹が伸び放題になっていて、秋ともなると色づいた葉が大量に散乱する。
アスランの愛しいキラは、竹ボウキを片手に、紅葉(もみじ)の葉を蹴散らしながら、同じ掃除当番のジョルディ相手に、楽しげにチャンバラごっこに勤しんでいる。
(あいつめ。キラの顔に傷一つでもつけたら、ただじゃおかないからな)
竹は硬くて鋭い。ハラハラ見ているアスランの心を知らず、竹の柄が勢いよく打ち鳴らされる音は、どんどん甲高くなる。それに正比例してキラの楽しげな笑い声も大きくなった。
早く担任か別な先生が気づいてくれればいいのだが、生憎裏門付近の庭は人も近寄らない場所で、キラもさぼりたい放題だ。
そんな楽しく遊んでいる彼女の門扉近くに、すいっと黒塗りの立派なエレカが止まった。
(え?)
道でも尋ねる気なのか、スモークの張られた運転席のドアが開き、白い手袋を嵌めた手がこいこいと手招きをする。そんな怪しげな手のもう片方には、巨大な棒付きの丸いキャンディーが握られていた。
(まさか……!!)
アスランの全身から、すうっと血の気が引く。
「……おいキラ!! 駄目だ馬鹿、止まれ逃げろ!! ジョルディ、キラを捕まえてくれ頼む!!……」
窓から身を乗り出し、叫ぶアスランの静止など耳に届いていないのか、キラがとてもいい笑顔で、トコトコと小走りにエレカに近づく。
運転手から巨大な棒付キャンディー菓子を嬉しげに貰い、彼女はそのままぴょっこりと、後部座席に飛び乗った。
菓子ごときで見事に釣られた級友の姿に、役立たずなジョルディの目も点だ。
「キラァァァァァ!!!」
アスランは人目も気にせず、二階の窓から飛び降りると同時に、ダッシュで裏門にかけつけた。
彼の絶叫をものともせず、急発進したエレカが、土煙を撒き散らして視界から消える。
アスランは、気が動転し真っ青になって硬直している、ジョルディの胸倉を、怒りも露わに引っつかんだ。
「おい、今のエレカ、ナンバー・プレートは見たか?」
「い、嫌…、一瞬だったから、………俺、わ、判らない……」
「思い出してくれ!! キラはどんなヤツに連れて行かれた!?」
ジョルディは、クラスでも数少ないコーディネーター仲間だ。一度見聞きしたものは、滅多なことでは忘れない筈。
「えーと……、運転席と助手席は、茶色の山高帽に、真っ黒なサングラスだったから、顔が判らない。服はストライプのスーツ着てたな。それから、後部座席には、マフィアの親分のような、ガタイが良くて偉そうな男がいた………。ゴメン、顔はやっぱりサングラスと帽子で判らない……」
アスランの口元がヒクヒクと引きつった。
そんなあからさまな怪しいヤツ、今時いるのか?
ジョルディも、ようやく冷静さを取り戻したのか、逆にアスランに縋りつく。
「なぁ、これって誘拐だよな? どうしようキラ……、これ、先生に言って、早く警察に……。ああ、でも警察に連絡したら、キラが殺されるかも………」
「そんなことあるか!! キラが死ぬわけないだろう!!」
アスランに怒鳴られた挙句、突き飛ばされたジョルディは、最早半泣きである。
だが、アスランはもう彼なんかに構っている暇はない。
「……キラ、キラ……。キラがもし殺されたら……」
心臓がドクンドクンと痛い。目の前が真っ暗で、足元が崩れ落ちそうだ。
あれ程、知らない大人に、菓子に釣られてくっついていってはいけないと、散々しつけた筈なのに。自分の目の前でむざむざと浚われるなんて!!
キラの身にもし何かあったら?
この自分の腕から、もしキラが消えたら? 自分は一体どうなってしまうのだろう?
(か、カリダ小母様に電話……、いいや、母上に電話しなきゃ)
アスランは震える手で、ポケットに入っていた携帯をつかみ出した。
視界が、霞みがかったようにぼやけて見える。頭もさっきから、金槌でぶん殴られているように耳鳴りもする。
胸が苦しくて気持ちが悪い。キラが血だらけになって横たわるような嫌な想像が、むくむくと脳裏に思い浮かび、アスランは何度も唾を飲み込んで吐き気を堪えた。
キラの自宅の電話番号を探すが、震える指が上手く動かない。
愛しい人の危機だというのに、こんなに自分は情けない男だったのか?
情けない。
アスランの眦に、じんわりと悔し涙が浮かんだ。
(ここがプラントだったら父上に頼れたのに)
(俺はどうして子供なんだろう?)
(いいや、今日から大人なのに…どうしてこんなに無力なんだ!!)
(キラ、キラ、キラ、キラキラキラキラキラキラキラキラキラキラァァァァァ!!)
涙で曇った視界をはらう様に、アスランはぐしっと拳で目を拭った。その時だった。
アスランの手の中の携帯が鳴ったのは。
しかも呼び出し音はTV『火星探索隊』のオープニング・テーマ曲だ。キラ専用の着メロに、アスランの鼓動がずくりと音を立てる。
(キラからか? それとも誘拐犯か!!)
アスランは震える指を駆使して、受話ボタンを押した。
「もしもし!! キラ? キラなのか!!」
≪わしだvv やっほーアスラン、元気そうだな♪≫
「………………はい?…………」
アスランは即座に携帯電話を地面に叩きつけたくなった。低い声の癖に、この気色悪くもテンション高いのは、紛れもなくプラントにいる筈のパトリックだ。
「クソ親父、貴様一体何している!! 俺のキラをどうした!!」
≪アスラン〜♪ ゴメン、ついつい小父様に会えたのが嬉しくて♪ 僕さ、荷物持たずにエレカに乗っちゃったでしょ? 悪いけど、家までついでに僕のも持ち帰ってくれる?≫
彼女は滅茶苦茶上機嫌である。
アスランの翡翠色の目がますます細くなった。
「お前、今日俺の誕生日だってこと、覚えてる?」
≪勿論♪ だからパティパパと一緒に、今からアスランのプレゼントを選びに行くんだもん、ねーパパ♪♪≫
≪そうだとも。お前のバースデー・パーティーに間に合うように急いで来たから、土産も何も用意できなくてな。お前だって小遣いだけでは味気ないだろう。キラちゃんとデートがてら、ばっちりと色々選んでやるからな。楽しみに待っておれ♪♪≫
≪うわぁ〜い♪♪ パティパパ、僕デートって初めてだよ♪♪≫
≪そうかそうか、なら将来の淑女の練習を兼ねて、ばっちりとわしがエスコートするからな♪♪………≫
アスランの堪忍袋の限界が来た。
「馬鹿オヤジ、俺の心配返せぇぇぇぇぇぇ!!」
アスランの怒りゲージが、MAXメーターを振り切った瞬間、彼は携帯電話を地面に叩きつけた挙句、靴で粉々になるまで踏みにじった。
「アスラン!! 今先生に知らせたから!!」
涙で顔をぐしょぐしょに濡らしたジョルディが、校舎から担任と教師、そしてクラスメイトを大量に引き連れてかけ戻ってきた。
そして、アスランの敏感な耳が、事件のときにお馴染みとなる…警察特有の特殊エレカ…『パトカー』のサイレンの音をしっかりとキャッチした。
(嘘だろう……?)
アスランの全身にべっとりと冷や汗が滲み、くらくらと眩暈がした。
この不始末とこの騒ぎ、自分1人で一体どう収拾をつければいい?
(あんの、馬鹿親父め〜〜〜!!)
大人の階段を駆け上ったアスランは、13歳の誕生日早々、社会の荒波に揉まれた。
警察と担任教師とクラスメイトを煙に巻けねば、父パトリック・ザラの正体がバレる。
プラントの国防委員長がお忍びでコペルニクスに来たのだ。表沙汰になれば最後、ブルーコスモスの標的になることは必須。アスランとてザラ家の御曹司だ。父のまき沿いで、6歳の時と反対に、今度は速攻でプラントに戻らねばならなくなる。
キラと別れるのが嫌だったアスランは、持って生まれた知性と磨き上げた頭脳をフル回転させ、必死で言葉巧みに皆を騙した。さっきの人騒がせな誘拐騒ぎは、ヤマト家の茶目っ気で、今日誕生日を迎えるアスランを驚かせようとしたどっきりサプライズで、アスランとジョルディはまんまと引っかかり、こんな騒動になってしまったのだと必死で皆に詫びた。
そしてその夜、ヤマト家の晩餐は戦場となった。
祝われる筈のアスランは、口裏を合わせてもらったハルマと共に、警察署に赴いて頭を下げた、こってり1時間お小言を頂戴した後、『馬鹿親父の顔なんか見たくない!!』と、単身母の勤める研究所にへと逃亡し、母を大層困らせた。
アスランへの山のようなプレゼントと同じぐらい、パトリックにプレゼントを買ってもらったキラは、ホクホクと帰宅した直後にカリダにとっ捕まり、散々お尻をぶたれた後、カリダの運転するエレカに押し込まれ、拗ねた主役を迎えに研究所まで走った。
「……私は、純粋に息子の成人を祝いたかっただけなんだ……」
忙しい時間を割いて息子の特別な誕生日を祝うために駆けつけたパトリックは、残り少ない15時間の滞在時間を、ハルマに窘めるように諭された後、カリダの心づくしのパーティーディナーをつまみに、項垂れてハルマと寂しい二人だけの晩酌を傾けた。
だが、怒り狂ったアスランの機嫌は、パトリックがプラントに戻るまで直らず、この日は結局、愛はあっても皆バラバラの、最低最悪な誕生日となったのだ。
☆彡☆彡
アスランの想い出を聞き、キラの目は点となった。
「す……、凄い賑やかな誕生日だったんだね」
「そっちは違うの?」
キラはおもいっきり首をこくこく縦に振り、それからう〜んと記憶を手繰った。
「僕もその日、裏庭の掃き掃除してたよ。ジョルディとチャンバラで遊んでたし、アスランも廊下の窓拭き当番だった。でも、パトリックさんは1度もコペルニクスに来た事なかったからね。13歳のアスランのバースデーは、僕の家でしっかり一家でお祝いしたよ」
「そうか。で、キラは俺に何をあげたの?」
「うふふふふ〜♪」
キラはニコニコ笑って、ちょいちょいと自分を指差した。
「え? それって?」
「ベタなんだけどね。夜一緒に寝る時に、ヒモタイプの脱がしやすい勝負下着のみを上下着て、僕の首に大きなリボンを巻いて、バーンとアスランに差し出してみました♪」
アスランの翡翠色の綺麗な瞳が、面白いほど大きく見開かれる。
「えええええええ!!! 嘘だろキラ!!」
「本当だよ」
「じゃ、俺……拗ねなかったら、キラを抱けたのか!!」
「うん」
「ああああ、くそ〜!! やっぱりあのアホ親父、殺しておけば良かった!!」
アスランは本気で悔しがり、涙目になって地団駄踏んでいる。
キラは白い髪を揺らしながら、ほっこりとほころんだ
(ところがさ、僕のアスランはヘタレだったから。人の頭を叩いた挙句に毛布でぐるぐる巻きにして、『俺を小父さん小母さんに顔向けできなくさせる気か? いずれ貰うって決まってるし、いっそ結婚するまでとっといてくれ』って、そのまま僕を抱きしめて眠っちゃったんだよね〜♪)
手が使えず寝苦しかったけど、心温まる良い想い出だ。
言わなくてもいいことだし、暴れる目の前のアスランが面白いから黙っておこうと、キラはチャシュ猫のように含み笑う。
「Happy Birthday♪ アスラン16歳おめでとう♪」
キラはにっこりとプレゼントと一緒に、ふてくされた彼の頬に友情のキスを贈った。
これが最期にならなければいいなと、そんな願いをたっぷりと込めて。
Fin.
06.11.06
アスラン、白キラに遊ばれておりますな( ̄― ̄)θ☆( ++)
またもや恵里さまから素敵な白キラとアスランのイラストを頂いたので、あっさりさらっとコメディを書いてみました。
幼年学校のネタなんて、こんな機会が無かったらきっと…書くことはなかったような。
恵里様、いつも幸せをありがとうございますvv
アスラン、スマン!! 誕生日なのにあんまり良い目にあわせてあげられなかったね。彼はこの後、自分の父親のパソコンへ、しこたまウイルスを送りつけたことでしょう。パティパパ、危うし(哀)
白アスも良く頑張った。13歳で好きな子との一緒の風呂もベッドは十分拷問なのに、キラの据え膳を耐えるなんて。
彼はきっと、目先の欲望よりも将来の義理父母の信頼を選び取ったのでしょうが、カリダとレノアは明らかに作為的。『早くくっつけ!!』『既成事実はまだか!!』とかなりヤキモキしつつ、ヘタレなアスランに何度も臍を噛んだ気がします(笑)
しかし白キラの天然ぶりは…。書いてるミカルもWアスランが不憫でした(滝汗)
早く4人のバッティングが書きたいです。
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