君のいない世界で プロローグ
――――――君のいない世界でも、守りたいと思ったんだ――――――
≪止めてアスラン!! 自爆なんて止めてよ、死んじゃ嫌だ!! 君のいない世界で、僕が生きてても意味がない。お願いだから僕を置いていかないで。愛してるんだ、アスラン!!≫
ヤキンの自爆シークエンスに、ジェネシスが連動していた。
あの最悪な兵器が地球に発射されれば最期、地上の生き物は全て死滅してしまうだろう。
それを停める手立ては一つしかなかった。
ヤキン・ドゥーエに乗り込んでいたアスランが、自らのモビルスーツ……ジャスティスを核爆発させるしか。
≪キラ、愛してる。だから、お前は生きろ!!≫
彼はジェネシスを破壊し、世界を救った。
キラに最期の通信と、絶望を与えて。
≪嫌ぁぁぁぁぁぁ、アスラァーン!!≫
キラは、ビームサーベルでプロヴィデンスガンダムのコックピットを貫いた直後、凄まじいエネルギーが背後から襲ってくるのを感じた。確認するまでもなく、アスランが自らの命を犠牲にし、生み出した核爆発だった。
閃光は貪欲に全てのものを飲み込んでいく。
ヤキン・ドゥーエも、ジェネシスのミラーも、キラの目の前にいるプロヴィデンスガンダムも、そして…キラ自身も。
暖かい閃光に包まれた時、キラは微笑んだ。
アスランのいない世界に未練はなかったし、彼と同じ光に取り込まれて死ねるのなら幸せだ。
ただ、彼に会いたかった。彼だけに会いたかった。
≪アスラン、君は何処?≫
だが、眩い光が去った後に、待っていたのはキラが望んだ結末ではなかった。甘美な死はなく、それどころか静まり返った宇宙空間に、フリーダムはただ一機、ぽつんと取り残されていた。
一体、何が起こっているのだろう?
クサナギもエターナルもアークエンジェルも見当たらない。アスランが破壊したジェネシスのかけらもない。
さっきまでの混戦が嘘のように、ザフト軍も地球軍もどこにもいなかった。
眼前にある巨大な砂時計に似たコロニーが、静かに回転している。戦いがなかったら当たり前の光景だが、戦艦もモビルスーツも見当たらない今、キラには嵐の前の不気味さしか感じない。
自分が今いる所は何処なのだろうか。
「とりあえず、位置……、割り出してみようか」
ばくばく鼓動を打つ心臓と、不安でズキズキする頭を振り、モニターのスイッチを入れてみる。ラウ・ル・クルーゼとの死闘で、ドラグーンに焼かれたフリーダムは、機体の所々がショートしていた。なかなか繋がらない回線にイラつきながら、OSを書き換えて、無理やり生き残っている手足の動力を引っ張ってくる。
数分後、キラは現在の座標を確認することに成功したが、やはりここは自分がさっきまで戦っていたデブリベルトではない。しかし、モニターに目を走らせたキラは、右上に信じられない艦隊の群れを見つけて硬直した。
「何これ、こいつら……、何をする気?」
地球軍の艦が十数隻、それらが次々にキラの良く知る見慣れたメビウス機を吐き出していく。その小回りの利くピンクの機体の一機を捕らえて拡大してみれば、それは腹に自機の大きさの3分の2程度の巨大なミサイルを抱えている。
キラは信じられなかった。見間違いではないかと思った。
だが、目を擦って確認するまでもない。
彼女はつい先日、目の当たりにした悪夢の再現に身を震わせた。地球軍がプラント群に向けて、核を搭載したメビウス部隊を飛ばした時、キラはアスランとともに≪ミーティア≫を駆って、砂時計型のコロニーに向かって放たれた劫火を食い止めたのだ。
その時と全く同じ機体が、群れてコロニーに向かっている。許せない。
一体、地球軍は何度同じ過ちを繰り返すのだろうか。
アスランが守った世界を――――――
プラントを――――――
――――――――――やらせはしない!!―――――――――
キラは涙を振り払うとともに、キーボードを引っ張り出して打ち込みを開始した。断末魔の悲鳴を上げる機体に活を入れ、能力の限界設定を易々と破壊する。
キラはスロットルを引き、ペダルを思いっきり踏み込む。フリーダムは今までの最大速度を更新し、メビウスの群れにつっこんだ。
メビウスをサーベルで切り捨て、ビームライフルで狙撃する。今のキラには核ミサイルの誘爆を計算に入れ、一機一機を確実に仕留めるしか手立てがない。
なぜならもうミーティアはない。エターナルも見当たらない。そしてアスランがいない。
援軍が望めないのなら、キラ一人でやるしかない。
無茶でもやるしかなかった。躊躇う暇もない。核を積んだあの機体、絶対に許せない。
非武装の民間人を、何の罪もないプランとの人間を、滅ぼすだけの兵器など、許せる筈がない。
――――させない!! アスランが守った世界を、お前らなんかに!!――――
これが最期の戦闘だと、バーサーカーと化したフリーダムは、人間離れした機動力でメビウスを次々と叩き落した。
全ての機体を葬り去り、地球連邦軍の戦艦を火の海に沈め、滅ぼし、破壊して。
今度こそ何もなくなった世界に、キラは泣いた。
アスランが死んでしまった。
キラの一番大切な恋人が、アスランがいない。
「アスラン。愛してるよ、僕、ずっと君だけが好きだったんだ…。アスラン!!」
コックピットで泣き崩れたキラは、くたくただった。
最愛の人を失った悲しみを、ようやくかみ締めることができたのだから。
アスランがいない現実が悲しくて、信じられなくて、忘れたくて。
遠ざかっていく意識を、無理につなぎとめようとはしなかった。ただ、眠りたかった。
深淵を漂うフリーダムに、国際救難チャンネルを通じた通信が入ったのは、疲れ果てたキラが深い眠りに落ちた直後だった。
≪こちらザフト軍ナスカ級の戦艦ガモフ、艦長のゼルマンだ。貴殿は何処の所属だ?≫
艦長が直々に何度呼びかけても、見知らぬモビルスーツのパイロットからの返答はない。
だが、この宇宙に漂うたった一機のモビルスーツが、地球軍の核攻撃を食い止め、コロニーを救ったのだ。
トリコロールカラーの美しい機体は、所々焼け焦げており、戦闘の苛烈さを如実に物語っている。地球軍のものか、はたまた別の独立国のものかは不明だが、あの機体のパイロットがプラントの恩人であることは疑いようはない。
「信じられん。何処の国の機体だ? オーヴか?」
「本当にあれ一機が、地球軍を殲滅したなんて」
ガモフのブリッジでこの目で見ていたクルー達、そして政府要人やその子息達は己の見た光景がどうしても信じられなかった。
銀色のまっすぐな髪を肩で切りそろえた少年も、藍色の髪と翡翠色の瞳を持つ少年も、ただただ唖然として、悲惨な状態となったモビルスーツを見下ろしている。
ガモフは、地球連邦軍の開戦宣言を知り、急遽農業プラントを視察に行っている議員を連れ帰るように命じられ、向かっていたのだ。そして、地球軍の艦隊がプラントめがけて進軍しているのを見つけ、慌てて駆けつけてきたのだ。
だから孤軍奮闘で戦う見知らぬモビルスーツの全てを見ていた。
白い機体が必死でコロニーを守っていたのを、間に合わない悔しさに歯噛みしながら、コロニーに核が落ちないように祈り、ずっと見続けていたのだ。
「あの、モビルスーツを収容してくれ。パイロットの命、助けられるものなら助けたい」
「は!!」
ユーリ・アマルフィ議員の指示に、ゼルマン艦長はすぐに謎の機体を収容するため、ジンを二機出撃させた。
「生きているといいな、パイロット」
イザーク・ジュールの言葉に、アスラン・ザラも頷いた。
あの機体は、お互いの母親の恩人だ。
レノア・ザラの研究施設には今、イザークの母親エザレア・ジュール議員、タッド・エルスマン議員が視察していた。
謎のモビルスーツが救ったコロニーの名前は、ユニウス7という。
05.07.10
リハビリ中なので、あっさりさらっと書いていきます。
SEED知らなきゃ全然判らない話です。しかももうパラレルだし(°.°;)
大目にみてくださいm(__)m
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