目指せアマルフィ隊2
イザーク・ジュール3
士官学校の生徒は、ザフト軍の軍人見習い扱いとなる。
この学び舎に集う者達は、私服姿の者など来賓のみだ。教官は勿論軍服を身に纏うし、生徒も紺色の制服の着用が義務付けられている。
服に無頓着なアスラン・ザラが、どんな格好で歩き回ろうとどうでもいい。それに彼はガモフを降りると同時に退役した民間人だ。
だが、アステールは軍属でしかも隊長に任命が決まっている。ただでさえ注目を集める存在が、よりにもよってフェミニンなレースだらけのふわふわワンピース姿で士官学校に現れたら、誰だって目を疑うだろう。
事実、生徒の注目を集めたキラは、何故だか解らずにえっえっ?と首を傾げている。
アスランでは、場所柄をわきまえない服装も気づかなくても仕方ないが、これではキラの面目が丸つぶれだ。
「キラ嬢、こちらへ」
イザークは、彼女がこれ以上人目に触れる前に、直ぐに着替えさせるつもりだった。
だが、彼が二人の傍により、キラの肩を掴んだその時だった。
「あんたがアステール・アマルフィ?」
誰が聞いても毒を感じる、フレイア・ハートの低い声が室内を満たした。
明らかに悪意を感じる彼女のきつい眼差しに、キラの体も強張っている。
「……そうだけど……」
「軍属の癖に私服ですか。流石遊び気分で戦場に来る方は違いますね。あんたみたいに戦いを嘗めたお嬢様なんかに、フリーダムは勿体無い。さっさと除隊して実家に戻られたらいかがですか?」
「……!!……」
イザーク同様、即座にアスランの目つきも険しくなる。
「お前は上官侮辱罪って言葉を知らないのか? いくら士官学校の生徒でも、入校したからにはザフトの軍人だろう」
礼儀正しい彼が、初対面でお前呼ばわりだ。
だが、アスランに睨まれようが、女は態度も表情も変えなかった。
「だから許せないんです。民間人のお坊ちゃまは、口出し無用に願います。ここはザフト軍の士官学校、軍人が私服でうろつくのは非常識、たしなめて何が悪いんですか」
「確かに俺は昨日付けで退役したが、同日、国防委員長パトリック・ザラの第二秘書の肩書きを貰った。お前の今の発言は明らかに悪意がある。この件は、現ザフト軍最高司令官であるザラ議員に報告するが、構わないのだな、フレイア・ハート」
キラを背に庇いつつ、デコは既に携帯を取り出している。
イザークは舌打ちした。非常識も甚だしい。
「止めんか貴様!!」
「ストップ、アスラン!!」
「何?キラ」
イザークをさっくり無視し、キラにだけ答える彼の向こう脛に蹴りを入れた。
「こんなことで、ザラ議員に連絡しないで。大事になっちゃう」
「先に軍籍ちらつかせて、喧嘩吹っ掛けてきたのはあっちだろ?」
「貴様、程々という言葉を知らんのか」
「甘い、イザーク。売られた喧嘩を買う時は、二度とおいたができないように、徹底的にぶちのめすのがセオリーだろ。ギャラリーは大勢いるし、見せしめにもなる」
「馬鹿者!!」
まるで駄々っ子のように携帯を握り締めてじたばた暴れる彼を、今度はキラと二人がかりで羽交い絞めにする。
ガモフの中でも常々思っていたが、アスランはキラのことになると性格が変わる。
ラクス・クラインのクールな婚約者として世間に広まっていたアスラン・ザラの狂態に、更に周囲が引いていく気配を感じた。
「イザーク、このままアスランを押さえてて。そこの貴方も、僕の私服姿が気に入らないなら今すぐ軍服に着替えてくるから、そんなに怒鳴らないでよ」
パッとキラの手が離れた途端、遠慮がなくなったアスランの力が増す。だが、キラから頼まれたのだ。イザークは意地になって彼を押さえつけた。
キラも勇ましく離れたものの、「えーと、何処に行けば軍服あるんだろう…」と、既に情けない涙目だ。
うろうろと入り口付近に戻り、きょろきょろと見回す。生徒が使っているロッカーを見つけ、ボックスに突っ込まれていた明らかに誰かの紺色の制服の上着を引っ張り出し、近くの生徒に「あの〜、それ違います」と、窘められて肩を落とす。
挑発に乗らないのは偉い。だがそれ以外は全然駄目だ。
そんな頼りなげな行動に、ますますフレイアの眦が吊り上がる。
「とっととフリーダムから降りろっていってるのよ、この泥棒!!」
「お前いい加減にしろ!!」
「貴様ら大概にしろ!!」
飛び掛りたいのは自分も同じ、なのに何故暴れるアスランを羽交い絞めになどしなければならないのか。
腹にエルボーをかまされ、こちらもカウンターで蹴りつける。
「離せイザーク!!」
いつも気に食わない奴だが、気持ちは同じだ。
「キラ嬢!! 泥棒呼ばわりされてるのは貴方だ!! 怒れ!!」
イザークの言葉に、キラはしばし考え込み、やがてポンと手を鳴らした。
「あ、ホントだ。僕泥棒だね」
「キラァァァァ!!」
「キラ嬢!!」
「くっ……、アハハハハハハ!!」
とうとうディアッカが、腹を抱えて笑い始めた。そして、フレイア・ハートは顔を真っ赤にして怒りで全身を震わせている。
キラがぽややんだから、ますます回りがヒートアップしていくのだ。
「笑うなディアッカ!! それから女、貴様にキラ嬢を侮辱されるいわれはない!!」
「アステール・アマルフィ、私とシュミレーションで勝負しなさい。そして、私が勝ったらあんたはフリーダムから降りて除隊よ。あんたが勝ったら私が士官学校を辞めるわ」
イザークを無視したフレイアは、キラにビシッと指を突きつけた。
キラはいきなりの展開に、目をぱちくりして硬直している。
「僕、貴方と勝負する理由がないんですが」
「あんたになくても私にはあるの。素人でも乗りこなせるフリーダムを、あんたが使い続けているのが気に入らないって言ってるのよ。戦場を嘗めるんじゃないわ」
「……え、素人って……」
「うぬぼれるな女、学生の分際で貴様こそ実戦の経験はないのだろう。大体フリーダムは貴様ごときに扱える代物ではない」
イザークは火力を奪われ丸腰となったモビルアーマーを回収するため、初めて戦場にジンで乗り込んだ時、正直身が震えた。シュミレーションを何度もこなし、自分でも完璧に乗りこなせると思ったのに、無重力の闇に放り出された瞬間、我を忘れたのだ。
戦場は経験したものでないとわからない。
キラが敵モビルアーマーを全機、宇宙に漂うゴミにしてくれていたが、もしも火力が残っていたら、こちらが撃ち落されることもありうるのだ。
戦場では、絶対無事などありえない。恐怖で強張る体を叱咤し、憎いアスランに無様な姿を曝したくないその意地だけで、イザークは捕虜回収作業を行ったのだ。
ジンになれた頃、キラが整備していたフリーダムのコクピットに乗せて貰ったことがあった。けれどイザークには、正直何がなんだかさっぱり判らなかった。火力、武器、スピード、全てジンと格が違うし、素人が乗りこなせる筈がない。
最初、フレイアの剣幕にうろたえていたキラだったが、彼女が何故怒っているかを理解できたのだろう、表情に落ち着きが出て冷静さを取り戻してきた。
「僕がその賭けに乗ったって、何一ついいことないじゃないですか。嫌ですよ、絶対にやりません」
「逃げるの? 自信ないのね。何がザフトの英雄よ」
フレイアの薄い唇が、弓形に吊上がる。
キラを侮蔑し、勝ち誇った微笑みに、イザークの眉間に皺がよる。
いつの間にかディアッカが、アスランの口を塞ぎ、取り押さえるのに参加していた。
イザークは、これ幸いと気心知れた彼に、アイ・コンタクトを取る。
「ディアッカ、なんなんだあの女は?」
「ああ、フレイアは俺達の一期上になるパイロット候補生だよ。来月末には卒業だけど、今のままならきっと、女性初の赤服になると凄く注目されていたぜ。まぁアステールが現れるまでだったけどさぁ」
「ふん、そういうことか」
過去形で話すディアッカの言葉で推測すると、あの女は白きアテナに話題をかっさらわれた事が気に食わないらしい。
「アレだけの機体、もっとマシなパイロットが乗っていたら、ナチュラルなんて皆殺しにできたわ。泥棒なんかに勿体無い。さっさとザフトから出ていけ」
更に追い討ちをかけるつもりか、嬉しそうにキラを罵倒しだす。
キラがどんな想いで戦ったかなんて、何一つ知らない癖に。
高飛車なフレイアの様子に、イザークはもう醜悪な女に対する興味を失った。
どこにでもいるものだ。有名人を叩き潰して得意になりたがる奴など。
こういう類は過去、評議会議員の子供であるイザークは散々経験した。ザフトに彗星のごとく現れた「白きアテナ」、そんな彼女をへこませれば、無名の女も一躍有名人になれる。
それはアスランやディアッカにも通じるものがあったのだろう。
イザークの目は据わった。
アスランも同様だ。
「キラ嬢、こういう鼻っ柱の強い女は、プライドごと叩き潰してしまうに限る。構わないからぶちのめせ」
「やれ、キラ」
「何で?」
「実力の差を見せ付けて、あの目触りな女を追い出してやれ!!」
「やだ!! 結局嫌な思いするの、僕じゃない!!」
イザークはアスランの腕を離し、二人示し合わせたようにまっしぐらにキラに向かった。
逃げようとするキラの襟首を、アスランがひっ捕まえる。イザークもすかさずキラの体をお姫様抱きにする。彼女に抱きついた途端、鼻をくすぐるフローラルの香りに頬が赤らむが、酔いしれる暇もなく、問答無用で空いたシュミレート機に、ポイッとキラを放り込んだ。
「イザーク!!」
イザークの肩越しに、ひょっこりとグリーンノート系の香りが漂う。
アスランだった。
「最高点を取るまで出てくるな」
「えっ?」
「もし、記録塗り替えができなかったら、今夜の夕食は俺お手製の甘く煮たキャロット・グラッセのみだ。鍋一杯食わせてやるから期待しろな」
途端、キラは紙のように血の気を失った。
「人参だけはいやぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「なら、真面目にやれ」
「貴様、キラ嬢が愚か者に間違われたらお前のせいだぞ」
「だが、マジになったろ?」
アスランに指差されて見下ろすと、キラは唇をきゅっと引き結び、まるで実戦に臨む時のように、真剣に計器をいじりだしている。ジンを模したコックピットの中で、ペダルの踏み込みを確認し、キーボードに指を走らせ操縦桿を握っている。
フレイアも怒りで身を震わせていた。
「人参……、人参ですって……」
「フレイア、今なら間に合うから謝っちまえ」
「誰が!! こんな頭悪い女に負けるもんですか!!」
ディアッカの忠告を無視し、憎悪に歪んだフレイアもまた、空いたシュミレート機に滑り込んだ。
06.03.09
推敲、後ちょっと( ̄― ̄)θ☆( ++)
長くなりすぎたので、一端切ります( ̄― ̄)θ☆( ++)
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