目指せアマルフィ隊2

イザーク・ジュール4




『3・2・1・GO!!』


機械の無機質な人工ボイスが放つ合図に、キラとフレイアの乗った凡庸仕様のジンが、勢い良くそれぞれ宇宙空間に滑り出した。


シュミレーションルームは今、壁一面を覆いつくすような大画面を二枚引っ張り出し、その前に士官学校の生徒が屯い、誰もがこの勝負を、固唾を呑んで見守っている。

なんと言っても、ザフト史上初、女性でありながら赤服を約束されているフレイア・ハートと、ユニウス7に続き、世界樹の攻防戦でも奇跡的な功績を残したアステール・アマルフィが、一騎打ちで勝負をしているのだ。

左右の画面下に、それぞれのコックピットを写す画像もあるので、二人の表情も伺い見ることができる。
フレイアはキラを叩き潰す気満々で、肩に力が入って表情はとても険しい。逆にキラの顔からは表情が消えている。
初めて扱うシュミレーション機だというのに、無表情の彼女はペダルを深く踏み込み、スロットル全開でバーニアをふかし、フレイアよりも遙かに早いスピードで、岩石漂うデブリベルトに突っ込む。
デブリベルトを抜けて直ぐには、地球軍のモビルアーマーとメビウスがそれぞれ30機群がっている。ミッションは彼等の守る戦艦2隻を落とすことで、たった一機で任務を遂行しなければならないこの訓練は、難易度が最高に高く、クリアしたものも12名しかいない。
普通なら、デブリに漂う岩石を上手く利用し、隠れながら攻略していくのに、戦い慣れたキラは臆することなく正面から挑む。
凡人なら、直ぐにゲームオーバーとなる自殺行為だ。


「うわっ、無茶苦茶だぜ姫さん。大丈夫なの?」
「問題ない。キラ嬢は負けない」
「俺がハッパかけたから大丈夫」

さりげなく、手柄を誇るデコを忌々しげに見下ろすと、アスランは無邪気に笑っていた。

「そうだろ、でなきゃお人よしのキラは、あの女にだって手を抜いて相手したよ。ゲームだし」

何気に自分だけがキラを判っていると言いたげなアスランの言動に、イザークの眉間の縦皺が増す。
ディアッカはイザークとアスラン、そして画面のキラを交互に眺めた後、三角関係に勘付いたのだろう、皮肉に唇を歪めて笑っている。

「へぇ、ザラ家の御曹司は、嫌にアステール嬢のこと詳しいな」
「俺達は幼馴染みたいなものだ。彼女の扱い方は熟知している」
「ほー、『扱い方を熟知』ねぇ」

チラチラとこちらを窺い見る、ディアッカの薄い紫の目が、ますます物を言いたげに眇められる。
イザークは無言の圧力にむすっと唇を引き結び、八つ当たりでディアッカの足を思いっきり踏んだ。

突如、耳に爆音がいくつも鳴り響いた。
キラの操るジンが、早速メビウスと交戦を開始したのだ。
突っ込み、ひらりと今度は全速力で後退した彼女の機体めがけ、小回りの利くメビウスが食らいついていく。
敵の陣形が、上手い具合に細い魚のように伸びる。宇宙空間なのに、大群を袋小路に誘い出したようなものだ。これで彼女を追いかけてきた機体を、1〜2機と、順番に片付けていけば包囲されることもなく、仕留めることができるのだから。

ビームライフルが次々と襲ってくるピンクの機体を撃ち落す。だが、キラは何故か戦いに専念せず、操縦桿を片手間に操りながらキーボードを引っ張り出し、敵を仕留める合間に、何かを入力している。
イザークの動体視力を持ってしても、素早い彼女の手の動きと、めまぐるしく変わるコックピット内部のモニター画面についていけない。

「キラ嬢は何をやっているのだ?」
「…ああ、裏技だろ、きっと」
「はぁ!?」
「何をたわけた事を言っている、貴様は!!」
「ほら、キラがためし撃ちしてる」

アスランの言葉通り、キラはメビウスを一つ撃墜した後、直ぐにキーボードで修正値を入力していた。最初、微かな揺らぎがあり、標的を掠ったビームも、どんどん的中率が跳ね上がる。
イザークはコクリと息を呑んだ。
自分もここ一月、シュミレーションで何度も訓練したから解るが、ジンの照準を合わせてビームライフルを撃っても、自分が思った通りにビームが届かないことが多々あった。
だから訓練する時、機体を自分の使いやすいようにカスタマイズすることもあったが、あくまで練習を始める前だ。プレイ中に行うことはなかったし、正直余裕がなくてできなかった。
なのにキラは今、敵を次々落としながら、機体と自分の感覚とのブレを、手動で合わせているのだ。
ジンの動きも、ますます早くなっていく。

「なんであんな真似できるの?」
「キラは昔から、格闘ゲームの裏技の研究に余念のなかった奴だからね」
「おいおい、格闘ゲームって……一応、これは戦いのシュミレーションなんだけれど…」
「人参すごい効き目だろ♪ ぐはっ!!」

イザークは咄嗟にアスランの腹にボディーブローを決め、倒れ付した彼の背を更に踏みつける。

「貴様はもう口を開くな。貴様が一言発するごとに、キラ嬢の評判が落ちるといい加減自覚しろ!!」

突如、ピ――――――!! という甲高い金属音が鳴り響いた。
と、同時に画面一杯にERRORの文字が飛び交う。

所詮シュミレーション機、操縦方法を学ぶためのハリボテは本物のジンと中に入っているOSが違う。
彼女の打ち込みに、機械の方が先に根をあげたらしい。
フリーズを起こして固まるコントロールに舌打ちし、キラはこれ以上の書き換えを諦めた。
調度、右隣のモニター画面では、フレイアの乗る機体がメビウスと戦闘を開始したところだった。彼女はセオリー通り、デブリに漂う岩陰を上手に利用して攻撃をしかけだしている。
だが、この段階で、既にキラはメビウスを殆ど落としてしまっている。二人の差は、最早歴然としていた。

キーボードを脇に置き、戦いに専念しだしたキラの動きは素早かった。
イザークは、直ぐにフリーダムの時とは異なる戦いだと気づいた。
なんせ、キラはモビルアーマーのコックピットを、容赦なくビームを撃ち、サーベルで貫くのだ。
すれ違いざまに一撃必中、彼女の操るジンが通れば、後には爆発した残骸が残るのみ。
モニター観戦していた学生達は、もう声もなく唖然としてキラの戦いぶりを見るしかない。

「……すげえ……」
「……ああ……」

ゲームなら命を奪うわけじゃない、だからキラも己に課した『不殺』のリミット無しで、本気で戦えるんだと気づいた時、戦場でもずっとほえほえ笑ってた外見に癒され、彼女が自分の知らない地獄を戦い抜いてきた歴戦のツワモノだったことをすっかり忘れていたのを思い出す。

この娘を絶対自分が守るのだ。
彼女を守りたいと思うなら尚更、彼女よりも強くならなければならない。
今現在、ザフト軍最高のパイロットである彼女を超える実力を身につけなければならない。
一体自分は、どれぐらい努力すれば、彼女に届くのか?
たった半年、この士官学校で学ぶだけで自分は間に合うのか?
だが、彼女の元に帰るのが遅れれば遅れる程、きっと自分の居場所が確実になくなる。

ガモフを降りたのは間違っていたかもしれない。
ぎりぎりと、焦燥感が浸透する。


いつの間にか、右半分のモニターはGAME OVERとなっていた。
デブリベルト影に潜んでいたフレイアの機体は、敵機に囲まれてしまい、モビルアーマー5機のガンパレルと、戦艦の主砲で集中砲火を浴び、撃墜されたのだ。
成績はメビウス8機、モビルアーマー4機。
勝負を挑んでおきながら、散々な成績だ。
怒りで震えながら、シュミレーター機から這い出し、キラの戦いを見るため、画面近くにふらふら歩み寄った彼女の顔は、壁に映し出されているキラのスコアを見るなりますます憎悪に歪んだ。

イザークは、そんなフレイアを目の端に捕らえていたが、今は声をかけなかった。
自分が侮って罵った人物と、どれだけ差があるのか自覚させねばならない。

キラのミッションは、終盤に差し掛かっていた。
ビームライフルを二発残し、サーベルで敵戦艦に特攻をかけるジンに、敵モビルアーマーが面白い程群がってくる。
戦艦に取り付き、ビームライフルでブリッジを撃ち抜く。
キラのジンを落そうと、戦艦に群がってきたモビルアーマーが三機、爆発に巻き込まれて堕ちた。燃料の節約も兼ねた見事な戦いだ。
残りは戦艦1つにモビルアーマーが4機。
最後の敵も見事に屠り、結局キラは一発もミサイルに当たることなく、満点でクリアーした。
時間も最短11分。
勿論、こんな成績は、誰も出したことがない。


圧倒的なキラの実力を見せ付けられたフレイアは、ボロボロに泣きじゃくってへたり込んでいた。
悔し涙にくれたとて、賭けを持ち出したのは自分だ。自業自得なのだから仕方がない。
イザークは、溜飲が下がった。

「女、これだけ突っかかったんだ、覚悟はできているのだろう。自分の言った言葉通り、さっさと荷物を纏めてここを出て行け」
「いいよ、そんなの僕望んでないから」

コックピットを模したシュミレート機から這い出てきたキラは、スカートの皺をぱたぱた叩いて直した後、迷わずフレイアに歩み寄った。
屈み込んでフレイアの髪をぽしぽしと撫で、「大丈夫?」と、手を差し伸べる。

フレイアは……。

どかっ!!

屈んだキラの左頬は、拳で殴り飛ばされていた。
中腰になった華奢な体が、思いっきり右後部に吹っ飛び、頭から床に倒れる。

「女ぁぁ!!」
「イザ、よせ!!」

あまりの暴挙に、イザークも拳でフレイアになぐりかかる。
それを必死でディアッカが止めなかったら、イザークは生まれて初めて女に手をあげただろう。

「キラ!!」

駆け寄ったアスランが、キラを抱き起こして揺さぶっていた。
まがりなりにも軍人の訓練を受けているフレイアの一撃に、キラの唇は切れ、左頬は真っ赤になった。
殴られたショックで軽い脳震盪を起こしているのだろう、キラの紫の瞳は焦点が合わず、何がなんだか判らないといった風情で、おとなしくアスランの腕の中に納まっている。

そんな彼女の前で、涙を流しながら仁王立ちするフレイアは、唇をギリギリかみ締めて全身怒りで身を震わせている。

「偽善者!! それだけ戦える癖に、どうしてナチュラルを殺さなかったの? あんたなら楽に殺せたじゃない。どうしてガモフに乗ってて、私の兄だけが死んだのよ。あんたがガモフに捕虜を連れ込むから、私の兄さんは殺されたのよ。皆あんたのせいじゃない。あんたがいい人ぶって、ナチュラルの捕虜なんか集めなければ、あんたが馬鹿なことをしなければ、私の兄は戦死しなかった。
あんたが私の兄を殺したのよ、人殺し!!」



06.03.11



1話目にこそっと忍ばせた伏線、覚えている人いるのでしょうか?(乾いた笑い)
終わらない〜グスグス (><。)。。 なんで〜グスグス (><。)。。 どうしてグスグス (><。)。。

後一話、今度こそ終わってくれ(神頼みかΣ( ̄ロ ̄lll) ガビーン)

======@@@@@ \( > <)/ニゲロー

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