目指せアマルフィ隊 3
アスラン・ザラ 6
――――――知れば全てが羨むだろう。君という存在を!!―――――――――
耳に、まだあの呪詛が残っている。
☆☆
カタカタと震えたまま動かない体を、よろけながら立ち上がったレイが庇うように抱きしめてくれる。
「ラウ、この人を怖がらせないで」
キラがおとなしくレイの腕の中に納まると、今度は彼が優しく髪を撫でてくれる。宥められても震えは止まらない。それどころかますます血の気が引いて手足が冷たくなる。
アルダ・フラガのクローンであるラウ・ル・クルーゼ。
以前メンデルで見た仮面の下は、今のレイの顔と酷似している。
母親を持たない彼に、兄弟などあろう筈もない。
ならば、そんな彼そっくりなレイもまたクローンなのだろう。
テロミアが短いく、長く生きられない体。
『最高のコーディネーター』を作る資金欲しさに、ただ作れるからと技術を証明するために作られた存在。
それ故クルーゼはキラを憎み、己に冷たい世界の破滅を望んだ。
ユーレン・ヒビキは、己の研究のために一体いくつ宿業を生み出したのだ?
顔も見たことのない父親だが、キラは彼だけは生涯憎まずにはいられない。
(酷い……、酷いよ……!!)
クルーゼが味わった絶望を、いつかこの優しい子までも味わう日がくるなんて。
泣きたかった。キラはますますレイにすがり付いた。
「大丈夫だ。ラウは怪しそうな仮面かぶっているけれど怖くない。彼は俺の兄で有能な軍人だ。お願いだから怖がらないで」
「おや、レイにガールフレンドがいたとは知らなかった」
「ラウ、実はその子なんだかね、どうやら……」
キラは涙目でいやいやと首を振った。
「だ、駄目。ギルさん、僕の名前は言っちゃ駄目、駄目なの!!」
後で『キラ』の名がバレると判っていても、少しでも引き伸ばせるのなら後にして欲しい。
目に溜まっていた涙が、ぽろぽろ頬を伝って零れていく。
「大丈夫だ。貴方の嫌がることは俺がさせない」
キラの涙を指で拭い、レイが安心させるように微笑む。今はそんな彼の微笑みが辛い。
いつか彼もラウ・ル・クルーゼのように、キラを憎み呪う日が来るのだろうか?
この澄んだ笑顔を失う時がくるのかもしれない。
「ギル、何なんだ一体?」
一人状況の読めない仮面は不満げだ。
「ふむ。ここでは人の目があるし。こちらのお嬢さんにも色々と事情がおありのようだ。良かったら、ラウンジか何処かに場所を変えないか?」
ギルの提案に、レイが嬉しそうににっこり笑う。
ぱさりと頭からコートでキラを包み、手をしっかりと握る。
「……さ、行こう」
(って、君たち僕を何処に連れて行くの?)
いくらレイが手を繋いでくれても、ラウ・ル・クルーゼと連れ立って歩くなんて嫌だ。引っ張られても動けずにいたキラに対し、ギルが喉を鳴らして笑う。
「泣いてる君をほってはおけないだろう」
「僕もう泣いてません」
「それに、私は君に色々と興味があるから、是非お話を聞かせて欲しくてね」
「僕にはないです」
「つれないねぇ。なんならここで大きな声で、君の名前をバラしても構わないのだよ? アステ……」
「うわぁぁぁ!!」
「あははははは」
絶対この男は面白がってる。
(ど、どうしよう!! 僕!!)
≪ハロハロ、ハロ〜〜アス、ハロ〜〜♪♪≫
キラの足元に、ポーンっと緑の小さな球体が跳ねて転がる。
とぼけた機械の音声とは裏腹に、キラはぎくっと背筋が凍った。
翡翠色のハロは、アマルフィ家に置いてきた筈。可愛い外見と裏腹に、アスラン特製の追跡機能が搭載された危険極まりない代物が、今ここにコロコロと転がってきたということは?
「この馬鹿!! どれだけ俺が心配したと思ってるんだ!!」
「うわぁぁぁ!!」
背後から、アスランに容赦ない拳骨を頭に食らい目から火花が出た。レイの手を離し、頭を庇ってしゃがみこんだキラを、直ぐにレイが抱え込む。
「何だお前は? どけ!!」
アスランのきつい声にもめげず、レイはキラを抱きしめたまま睨みつける。
「そちらこそ、国防委員長のご子息が何の御用ですか?」
「お前に関係ない」
「ならこちらも貴方になど用はない。さ、行きましょう」
レイはキラを抱きかかえたまま、守るように歩き出す。
「待て、お前キラを何処に連れて行く!!」
「貴方のいない所です。では、失礼」
掴みかかったアスランの手を、レイは難なく払い除けると同時に、キラの背を押した。ギルはともかくクルーゼまで面白がっているのか、即座に両側から挟みこむようにしてキラの肩を抱き、力任せに連れ出そうとする。
アスランは予想もしなかった反撃に絶句したようだ。レイ達と行く気なんてさらさらないキラだったが、三人の連携に「え?え?」と焦っている。
そこに今度はどどどどどどと、迫力ある靴音の第二波がおしよせて来る。
「隊長っ!!」「キラ嬢!!」「やっほー姫さ〜ん♪♪」「姉さま!!」
キラは目が点になった。
だって、自分に向かって走ってくるミゲルやイザーク、それにディアッカはともかくとして。
「うわぁ、ニコルったらかわいい♪」
「じゃないでしょう姉さまっ!! なんで僕がこんなマネを!!」
ニコルがきっと唇を引き結び、うるうると涙を目に溜めキラを見あげている。
流石に軍服とカツラは脱いでいたが、くっきり化粧を施された彼は、どっからどう見ても美少女だ。
「可哀想だろ。お前には責任感というものはないのか?」
「うっ」
怒鳴られるより、静かに諭された言葉の方が耳に届く。それに長年の付き合いもあり、キラはアスランの少ない言葉で、ニコルが自分の身代わりになったことを悟った。
「……ご、ゴメンねニコル。だって僕、勲章なんて柄じゃないし……」
まさかそこにいるクルーゼの前に座るのが嫌だったなんて、本人がいる前で言えない。
新たに「ほう?」と言葉を漏らす、クルーゼの突き刺さる視線にも、冷や汗がタラタラ流れていく。
「そのことは後でいい。とにかく俺に黙って姿をくらますな。もし『お前』にまた何かあったら、俺は……何するかわからないからな」
「痛い痛い〜〜!!」
耳を引っ張られて捻られる。
「乱暴は止めろ!!」
「煩い、関係ない奴は引っ込んでろ!!」
レイは、アスランの手を払いのけてキラを庇って腕に抱く。
アスランの顔がますます憎悪に歪むが、レイも負けじとギリギリと目を吊り上げる。
「レイ君、苦しい……、お願い、腕緩めて!!」
睨み合う二人に挟まれ、キラだけが情けなくもじたばたと暴れている。
どうして誰も二人を止めてくれないのかと、周囲に縋るような目線で訴えてみたが藪蛇だ。
「何こいつ? 姫さん、また変なの引っ掛けた?」
ディアッカの冷静な突っ込みに、誰も反応を見せない。
ただ判っているのは、アスラン相手に平気で喧嘩を売れる、命知らずで厄介なライバルが一人増えたということだ。
イザークとニコルの双眸も、剣呑に歪む。
「はいはいそこまで。そこの君、おれはミゲル・アイマンって言って、アステール・アマルフィ嬢の副官です。ってことで、俺の隊長返してね♪」
ぺりっと、レイの手からキラをもぎ取ったミゲルは、にっこりとキラに含みのある笑顔を見せた。
「ほれ隊長、あんたはさっさと軍服に着替えてガモフへ行く。ゼルマン艦長とレノア様ロミナ様が、目を吊り上げてお待ちかねだ。せいぜいこってり絞られて来い。それと、はい始末書。一枚につき、給料1ヶ月1割カットです、あしからず」
びらっと4枚いきなり渡されて、キラの顔が青ざめる。
「……あの〜、ミゲルさん、僕、これになんて書けばいいの?」
「突っ込むところはそこかい。これだから金に不自由しないお嬢はもう」
そんな事を言われても、キラは地球軍にいた頃も、給料などというものを貰った覚えはない。少尉の階級にあったのだから、もしかしたら特定の口座か何かに振り込まれていたかもしれないが、飲み水にも不自由してユニウス7で盗みを働く、あの戦艦暮らしの何処に金の使い道があるのか教えて欲しい。
「ふむ、これは面白い。本当に君がアステール・アマルフィなのか?」
クルーゼの視線は、自分を観察する研究者のようだ。不気味な気配にキラはみるみる青くなる。
「ほら、さっさと来い!!」
流石親友、場の空気を察したアスランが、キラの襟首を猫のよう引っつかむ。
だが、ミゲルの背後に立つレイが、途端に切なそうに顔を歪めたから。
それを見てしまったキラの胸は、ズクリと痛む。
そう遠くない未来、自分は彼に憎まれる日が来るかもしれない。メンデルでクルーゼと会った時、ぶつけられたあの怨嗟からして、その可能性は無茶苦茶高い。
でも、彼には一杯優しくして貰った。それどころか何故かレイに気に入られたようだ。
だったら、このまま仲良くしたいと思って何が悪い。
自分は今後もアスランを殺さない未来を作るために、過去をやり直すのだ。もしかして今から頑張れば、そのクルーゼとだって殺しあうしかなかった未来を、変えることができるかもしれない。
レイと、憎みあうことのない未来を掴める可能性が少しでもあるのなら、何を躊躇うことがある?
キラはアスランに引きずられまいと、その辺の座席を引っつかみ、足に力を入れた。
「おい、キラ」
「レイ君、今日は本当にありがとう」
「あ、ああ」
「それでね、僕、折角君に会えたのにこのまま別れてたまるか!!って思ってるの。今日の御礼もしたいし、何時でもいいから電話して。僕はまた君に会いたい!!」
「キラ!!」
「キラ嬢!!」
「キラ姉さま!!」
煩い外野をシャットアウトし、さっきミゲルに貰った始末書の裏を広げる。キラは慌ててぱたぱたとポケットを叩いて書くものを探したが、生憎書くものがない。
気が利くギルが、「これを使うといい」とペンを貸してくれた。
「おい!! 無用心に個人アドレスを書くな。あああ、携帯は止せ。キラ!!」
アスランが目を剥いて怒るが、キラは無視して書き上げた紙とペンをレイに押し付けた。
軍用メルアドでなく個人の番号なら、普通心許した者にしか教えないだろう。レイは最初あっけに取られていたが、直ぐに嬉しげに顔を綻ばせ、自分もポケットからカードケースを取り出し、紙にあらかじめ印刷された彼のアドレスをくれる。
キラもほっこりと笑った。
「行くぞキラ。ニコルそっち」
「はいアスラン」
「レイ君、僕早速今日メールするね」
「ああ」
「またね。ありがとう〜〜!!」
手を振る余裕もなく、キラはアスランとニコルに両側から腕を掴まれ連行された。
そして、キラには見えなかったが、渡された紙を両手に持ったレイの顔は真っ赤だった。
☆☆
「4時間以上も膝枕してくれたから良い人? ふざけるな。変質者だそんなものは。何でお前はそんなに無用心なんだ!!」
「俺も、キラ嬢はもう少し人を疑うことを覚えた方がいいと思う」
「そうそう姫さん、そんなんじゃ、騙されて狼に美味しく頂かれちゃうよ。なんなら俺が手取り足取り……」
「ディアッカが身を挺して不埒な男役をやってくださるんですね。なら、僕も実弾で姉さまを守る訓練をします。はい、一筆書いて。『自分の身に何があっても責任を追及しない』って♪」
「おい、そこの腹黒綿飴頭。洒落にならんぞそりゃ」
アスラン以下、5人皆から個性的な説教を貰いつつ、キラはのんびりとミルクティーを啜った。
着慣れない白い軍服はやっぱり着心地が悪くて窮屈だ。
大きなモニターには今、自分が逃げた式典の、録画された映像がエンドレスで流れている。
戦艦ガモフのキラの隊長室は、個人のプライベート・ルームも含めれば20畳もあり、ちょっとした応接セットと仕事机を置いても十分に広い。
今後、アステール・アマルフィ隊の根城になる執務室は今、ロミナとレノアとラクスが、きゃぴきゃぴと家具を飾っている。
三人の暴走を止める者は誰もいない。
アークエンジェルでは一度も目にした事がない作戦立案用のパネルディスクの横に、アマルフィの養母が持ち込んだ、真っ白でクラシカルな食器棚が寒い。中の茶器はそのままオブジェで飾っておけそうな、ロイヤル・イースター社のブランド物だ。宇宙に出るのに割れ物なんて使い道に困るだけなのに、キラは小さくため息をつく。
皆が今茶器を手にして腰掛けているソファーにも、ロミナの手作りと思われる刺繍入りのクッションが所狭しと置かれていて、その中に緑のミニハロが飛び跳ねて戯れている。
開けることが決してない窓も、何故かレールを取り付けられ、レースたっぷりのカーテンがぶら下がっている。
今もラクスが等身大のティディベアを椅子の一つに置き、ピンクハロが戯れている。
このペースでは、一体どんな執務室が出来上がることだろうと、キラはちょっとだけブルーになった。
「僕、ピアノのコンサートの時よりも緊張しました」
ふくれっつらのニコルに示され、キラは画面を注目する。ぶかぶかの隊長服と真っ白なかつらを身につけさせられたニコルの顔は青ざめており、キラは申し訳なさにあうあうと首を竦ませる。けれど、彼女の目をひいたのは最前列だ。
「あれ、誰これ?」
キラはまじまじとモニターを見つめ、ついでに自分の横にいる親友を眺めた。
「アスラン、表情ないじゃん。うわ〜ロボットみたい、もしかして緊張してた?」
「お前、誰のせいだと思ってる?」
「うわっ、いひゃい!!」
ほっぺたぷにぷにのお仕置きを受け、涙目になると、アスランは爆笑した。
そんな彼を見て、今度はディアッカが驚いた顔をする。
「お前、全開で笑える奴だったんだな」
「僕も驚きです。アスランって、キラ姉様といる時だけ別人ですね」
「え? 月ではいつもこんなのだったよ。僕に言わせると、この映像のが変」
「…式典ではしゃぐ馬鹿がいるか? うん?」
ほっぺをまたもや摘ままれて、キラはふるふる首を横に振った。
「おい、お前らそろそろ門限いいのか? アカデミーってさ、休日でも17時帰宅じゃなかった?」
時刻を確認すると、もう時計の針は16時を越えていた。
イザークとディアッカが、しぶしぶと席を立つ。
「…名残惜しいが」
「そだね」
「二人とも、またね」
イザークがちらりとキラを見おろす。
「……単刀直入に聞くが、キラ嬢、貴方は誰に狙われている?……」
「あらら、静かだと思ったら、イザ……考え事してたんだ」
「当たり前だ。ザフトの軍人や政府高官が揃いも揃っている席で防弾チョッキだぞ。普通なら何処よりも安全な場所の筈なのに。キラ嬢、俺は貴方を守りたい。もし俺を信頼してくれるのなら、どうか話して欲しい」
「イザーク、お前の出る幕じゃない。キラのお守りは俺の役目だ」
「煩い。婚約者持ちは引っ込んでいろ」
「余程死にたいらしいな、お前」
「貴様になど話はしてない。それともキラ嬢、貴方は俺を信頼できないのか?」
「キラ、言う必要はない。後で俺にだけ教えてくれればそれでいい」
キラはぽりぽりと頭をかいた。
「イザーク、ごめんね。信用とか信頼とかの問題じゃないんだ。もうここは僕の知っている歴史と違う未来を進み始めている。だから僕の知っている人が敵になるのか味方になるのか、本当に判らないんだ」
自分はかつて、シャトルを撃ち落したデュエルのパイロットを憎悪したけれど、今のイザークに憎しみはない。それどころかとても良い友人になれると思っている。ニコルとアスランだってそうだ。自分は二度とニコルを殺したくないし、アスランと殺しあうのだって嫌だ。
「ただ言えるのは、僕を殺したいのはブルーコスモスだ。僕は彼らにとって標的だった。あっちの世界の父さんも母さんも……特に母さんは僕を逃がして、ブルーコスモスに撃ち殺されている」
「そんな、カリダ……」
「……ハルマ小父様とカリダ小母様……、畜生」
ただし、ユーレンとヴィア・ヒビキだが。キラはあえて言葉を飲み込んだ。自分の父母は、ハルマとカリダの二人だけ。だが、ユーレンの名前は、あの世界ではブルーコスモスの最大の標的だ。こちらの世界でもそうなのか判らない。
たかだか人工子宮から生み出された唯一の成功体、それだけなのに何処が最高のコーディネーターなのか? それとも、何かキラの知らない秘密がまだあるのだろうか?
メンデルの研究所でフラガ少佐が持ち帰ったあの資料を、もっと細かく読んでおけばよかったと悔やまれる。
と思ったが、キラはこっくりと首を横に傾げた。
(……資料……あ、もしかしてメンデルに行けば、あるかも♪)
…幸い、新隊結成の準備期間ということで、明後日からキラは2週間も休暇が貰える。
ミゲルにカスタマイズされたジンが与えられ、またパイロットも数人補充されるらしい。
ならばその間に一度、L4のメンデルに足を延ばせるではないか。
(資料をもう一度かき集めて戻って、それからレイ達に会いに行こう)
駄目なら駄目で構わない。
でも、やらないうちから諦めるより、よっぽどマシだ。
(頑張ろう)
「………こらキラ。またお前一人でトリップして……」
いつの間にか物思いに耽っていたらしい。イザークやディアッカ、ニコルとロミナ同様、帰り支度を整えたラクスが、アスランに寄り添うように佇んでいる。
「ではキラ様。今度はゆっくりとお会いいたしましょう。私も、貴方が元の世界に戻れるように、協力を惜しみませんわ」
「ありがとう、ラクス…さん」
この世界のラクスも、最初からとてもキラに優しい。できればあっちのラクスみたいに親友になれたら嬉しいのだが、今の所は他人行儀な敬称付だ。
「じゃあ、俺はラクスをエレカまで送ってくる。キラ、今夜は俺と母上の三人で夕食を一緒にしよう。俺も来週にはアカデミー入りだから、しばらく会えなくなるし」
「だったらラクスと一緒に食べれば?」
「拗ねるな。キラは気にしなくていいの。彼女は今から仕事だ」
「……そんなんじゃないもん……」
「じゃ、ちょっと待っててね」
アスランは、キラの頭をぽしぽしと撫でた後、ラクスの肩を抱きながら行ってしまった。続いて、ロミナとニコル、イザークとディアッカ、それにミゲルまで部屋から去ってしまう。スライド式のドアが閉まり、さっきまで賑やかだった室内が急に寂しくなる。
でも、自分を誤魔化しても、本当に寂しいのは心だって事を、とっくの昔に気づいている。
ラクスとアスランが、二人寄り添う姿を見て、キラはやっぱり胸が痛んだ。
大切な親友を取られた気分。というより、兄弟をその恋人に取られての嫉妬だろう。
普通男女間では友情はありえない。だから、アスランにあんまりべたべたしては、ラクスに対して失礼だ。
これからは控えた方がいいかもしれない。
「………アスランは、ラクスのものだから…………」
ぽつりと呟いたキラは、慌てて口を噤んだ。
ぱっと顔を上げれば、レノアが驚いたように自分を見ている。
聞かれた。
キラは慌ててぶんぶん首を横に振る。
「え、えーっと。あの、そうそう。着替えてきます。ご飯食べに行くのなら、もう私服でいいですもんね…」
「ねえキラちゃん」
いきなり、レノアががしっとキラの肩を引っつかんだ。
「相談なんだけれど、キラちゃん、アスランを一人の異性として見れない?」
「は?」
脳内で吟味する。
「ええええ!! 駄目です。あのアスランは無理。だって彼は僕のアスランと違うもん」
「身代わりでもいいから、どう?」
「レノア小母様、どうして急にそんなことを?」
レノアは数秒口ごもり、やがて意を決した。
「……キラちゃん、どうかアスランを救って欲しいの。あの子の心は壊れているのよ」
(どこが????)
☆ ☆
レイは、本に挟んだしおりを大切そうに眺め見た。それはキラから貰ったメールアドレスを、わざわざ切って透明なコーティングしたのだ。
それを遠目で見ていたギルバートは、「姫もまぁ、始末書なんて縁起悪いものを」と、くすくす笑っているが、レイは気にしてない。
そして、電源を入れたノートパソコンの前で、メールを打とうか、それとも直接携帯に電話してみようか悩んでしまう。
彼女は変わった人だった。つかみ所がないというか、見てくれは本当に軍人なのかと首を傾げたくなるのに、一度の戦闘に奇跡的な戦功をたてた不思議な少女だ。
別れてまだ数時間しかたってないのに、直ぐにまた会いたいと切望してしまう。
「レイ。どうせならメールの方がいいと思うよ。新隊結成の隊長ともなると、色々時間に縛られて、大変だからね」
そうアドバイスをくれたラウも、クルーゼ隊を結成する筈だがここにいる。
「ラウはいいの?」
「私と彼女とでは役割が違うのさ。私はただの軍人だが『白きアテナ』は軍人であると同時にザフトの象徴、客引きパンダとなったのでね。現に『目指せアマルフィ隊』を合言葉に、続々と志願兵が急増している」
「……じゃあ、俺はあんまり会えないのか」
項垂れてしまったレイに、ラウが優しく頭を撫でてくれる。
「レイは彼女を気に入ったのかい」
こっくり頷く。
「そうか。それならば女性の方から携帯番号を教えてくれたってことは、脈があるということだよ。けれど、レイがここで連絡を入れなかったら、折角のチャンスも棒に振ってしまう、ということだ。意味はわかるね」
ギルの言葉に、レイはこっくり頷いた。
そして、カタカタとキーボードを叩くが、『こんばんは、レイです』の一行を打っただけで、ぴたりと手が止まった。
「ギル、ラウ、ねえ俺は何て書けばいい?」
「おやおや、私達が文面を考えてしまったら、それはもうレイが書いたメールではなくなるだろう」
「なんでもいいから書いてみなさい。ただ一つアドバイスをするのなら、彼女のあいている日時を聞いておくことだね。先方は多忙だ。彼女がスケジュールをあわせるより、レイが調整した方が早く会えるよ」
「判った。頑張る」
「レイ、頑張るのはいいが、ラウのお祝いの、ディナーの予約時間も迫っている。30分後にここを出るから、打ち終わったら直ぐに着替えなさい」
「判りました」
とっくの昔に準備ができていた二人は、熱心なレイを魚にして茶会を楽しむことにしたようだ。各々好きなコーヒーを入れ、居間のソファーにくつろぎ出す。
「しかし、レイが初めて執着を見せた少女が、アステール・アマルフィとはね。私は運命に因縁めいたものを感じてしまうよ」
口火を切ったのはギルだったが、クルーゼも沢山言いたいことを溜めていたようだ。レイの耳に入らないように声を落しながら、やっぱり口の端に面白そうな笑みを浮かべている。
「私は生憎ギルのような運命論者ではないが、酷い冗談だよ。アステールの渾名が『キラ』とはな。可哀想なアステール。『最高のコーディネーター』の失敗作なのに、唯一の成功体の名を貰って喜んでいる」
「知らないが故に、あのように純真に笑っていられるのだ。知れば彼女もきっと君同様、『キラ』を憎んで闇に堕ちるさ」
「ふふ。だが、それならばいっそ………」
レイは相変わらず一生懸命キーボードを叩き、しばらくしては消して、また書き直して……と、眉間に皺を寄せて遅々として作業が進まない。
言葉を一生懸命選んでいるということは、レイもまたキラに好かれたいと希望しているからなのだろう。
そんな風に他人に執着を見せるのは、やはり彼女も呪われた生まれであることを敏感に感じたからなのか。
クルーゼは、コーヒーを啜りながらぽつりと呟いた。
「レイ。……未来のない私の分身。あの子もいずれ、自分の定められた命を知り、呪われた出生に絶望する日が来るのだろうな……」
置いていくのが気がかりだったが、彼同様、別の悲惨な運命を辿る彼女がいる。
「同属憐憫でも傷の嘗めあいでも何でもいい。彼女ならきっとレイの闇を理解し、支えることができる。もしそうなら私に万一のことがあっても、彼を残して安心して逝ける」
「ラウ。医学の進歩はめざましい。いつかテロミアが短くても、生きられる方法がみつかるかもしれない」
「……私が生きているうちに叶うのなら……」
この世を憎む理由がなくなるかも知れない。
☆☆
エレカにラクスを乗せる時、人目があったのか、アスランは彼女の頬に儀礼的なキスをくれた。
婚約者に対する態度は完璧だけど、心がこもっていないから見えない壁がある。
ラクスは胸を痛めた。
「私では、あのようなお顔を見ることはできないのですね」
つい言ってしまったのは、今日一日で沢山の表情を見てしまったから。
キラへの嫉妬ともとれる一言は、やはりアスランの怒りを買ったようだ。彼の冷たい翡翠の瞳が、ますます侮蔑に眇められ、ラクスは肩を落として項垂れた。
「申し訳ございません。出すぎたことを申しました」
「別に、お前がここで俺に何を口走ろうとどうでもいい」
世間体を崩すような失敗しなければ、お前などどうでもいいのだと、後に続く彼の無言が雄弁に物語る。
アスランが自分に関心がないのは判っていた。
ラクスがクラインの一人娘でなければ、彼はきっと、自分を歯牙にもかけないだろう。
エレカのドアが閉じられ、大した衝動もなく車が進む。ラクスが振り返った時、アスランはもう建物の中へと早足で戻っている。
彼は『キラ』しか見えていない。
死んでしまった『キラ』だけに囚われている。
だから、あのそっくりなキラに嫉妬する自分は、ばかげていると思わなくてはならないのに、油断したら憎んでしまいそうになる。
≪ハロハロ〜♪ ハロ、ラクス、ハロ〜♪≫
ラクスはそっとピンクのハロを持ち上げた。膝の上に置き、右手で頭を撫でる。
彼女にとって、これはこの世で一番大切な贈り物だ。
「私はアスランが望むなら、キラとも親友になりましょう。ずっと貴方の役に立つ女であり続けましょう」
だから、少しでもいいから。
アスラン、どうか私を愛してください――――――
06.05.20
それぞれのターニング・ポイント…終了!! 自爆しました。登場人物多すぎ( ̄― ̄)θ☆( ++)
特にレイ、今回は顔見せだけの予定だったのに、突っ走ってしまいました。今後は白キラ争奪戦に参戦です。おかげでイザークの影が大層薄くなった。カッパ君出番取られたね。
サッキガ・・・ ( ̄  ̄!)\(▼ ▼メ)
さて、次はオーブ予定でしたが……、月猫ぉぉぉ、角膜移植後、アスランの目が見えるようになるのって何日いるんだ!!(2〜3日ではありえんだろな)
という訳で、白アスランが寝ている間、予定を変更して白キラの2週間の休日の方が先になります。
…メモ何処へ行った?タタタタッッ≡≡≡≡≡ウリャθ ̄∇ ̄)θ☆スパパーン (ノ゚听)ノハウッ!
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