郭公の棲家 9






アスランが約束通り、アマルフィ家にやって来たのは、翌日の昼過ぎだった。
ニコルの案内で真っ直ぐにキラの部屋に通された彼は、彼女を見るなり挨拶もそこそこ、口元を引き結んで笑いを噛み殺した。

原因は判っていた。今朝も散々養母に遊ばれたキラは、まるでベビー服もかくやと思わしき総白レースの衣装を纏い、髪にもネックにも踝にもシルクの大きなリボンを巻かれ、ソファーにちょっこりと置物のように埋まっている。

「やぁ、人形みたいだけど似合うね。おととい買った服ってそれ?」
「……知ってる癖にぃぃぃ、……ううう、……明日こそ絶対着て逃げてやる……」
「はははは、はいこれお土産だよ。ディッセンベル市で一番美味しいって評判のパティシエが作ったチーズケーキ」

ぷっくり膨れていた癖に、大きな箱を貰った途端、キラは単純にもわーいと顔を輝かせる。

「キラ姉さま……」

何故かアスランの後ろにいたニコルが、眉毛を八ノ字にして目頭を押さえている。キラはそんな弟に、安心させるようにほっこり笑った。

「勿論ケーキを独りじめなんてしないから。皆で食べようね♪」
「違うぅぅぅ!! 僕が言いたいのは、キラ姉さま、いい加減菓子で釣られる癖を直さないと、また痛い目に合いますってこと!! もう僕、薄情な姉さまの心配なんて金輪際ごめんですからね」
「あうううう」

ニコルにキツく睨まれて、キラは目を泳がせた。
どうやら昨日、キラがアスランに付き添われ、泣き腫らした目で帰ってきたのに、心配して待っていた彼に、一言も説明しなかったことを、まだ根に持っているらしい。


「ニコル、擦れてない単純なキラの方が可愛いだろ?」
「アスラン、そうやって貴方が甘やかすから、姉さまが成長しないんです」

矛先がアスランに向いた隙に、キラは箱を抱えてとてとてと、茶器が用意してあるテーブルに向かった。
気分が毛羽立っている時は、甘いものを食べるに限る。
それにディッセンベル市でも有名なパティシエが作ったケーキなんて、期待で胸がワクワクする。

「アスラン〜、コーヒーでいい? それとも紅茶にする?」
「んー、キャラメルのストレートがいいな。ニコルは?」
「……僕も同じ物で。でも、ミルクと蜂蜜を入れます」
「は〜い♪」

丸いティーポットに紅茶の葉を三人分入れ、お湯をたっぷりと注ぐ。キラはカリダに仕込まれていた為、お茶の味には結構こだわりがあった。
茶葉がポットの中でジャンピングしてるうちに、使うティーカップにお湯を入れて暖める。
砂糖を焦がしたような独特の茶の香りが漂い、ほのぼのとカップを暖め終えたお湯を捨ててたその時だった。

楽しいティータイムを邪魔する、どどどどどとどどどど……と、例のごとく荒々しく、誰かが突っ走ってくる靴音を耳にしたのは。

キラはこっくり首を傾げた。
ヤバイ気配に背筋も寒くなるが、とんと思い当たらない。

「隊長ぉぉぉぉぉ!!

扉を荒々しく開けたのは、キラの予想通りやっぱりミゲルだった。
ちなみに仁王立ちした彼は、凄いいでたちだ。

指の部分だけない真っ黒の皮手袋を嵌め、爪にはオレンジのマニキュア、そして指輪も一杯だ。カーキ色のティーシャツを纏い、首には銀のアクセサリーをジャラジャラつけていて、黒で光沢のあるレザーの長コートに、錘がしかけてありそうなほどゴツイ鋲だらけの黒ブーツを履いている。
耳はルーズリーフのように、リングのピアスが七つも嵌っていて、いつも蜂蜜色の短い髪には、キラキラ輝くジルコニアが貼りつけてあり、耳元には色鮮やかな原色の羽根が束になって飾られている。
それだけでも十分派手だというのに、彼の唇は紫色のルージュがひかれ、アイシャドウもばっちりくっきり同じ色のが引かれていた。

キラはこくりと息を呑んだ。

「………あの……どちら様でしょうか?………」
「……あんたの副官さまだけどさ………、たった三日顔合わせてないだけで、忘れちまったか、あああ?」
「そっか。僕の見間違いじゃなかったんだ、凄い私服だね。あはははは」
「でもって、俺は今非常に焦っている。一時間後にシティのど真ん中で、久々のゲリラライブやる予定だからな。休暇中に新曲のプロモも作りたいし、俺はとにかく忙しい」

突然キラはにぱっと微笑んだ。

「わぁ凄い!! 僕も見に行っていい? ミゲルの新曲なら是非聞きたい。ね、アスランとニコルも行こうよ♪」

楽しげに振り向くと、アスランとニコルが、揃って顔を覆っている。

「……キラ……、全く地雷踏みやがって……」
「姉さまって、どうしてこんなに場の読めない人なんですか?」

二人が何故こんな挙動不審な真似をするのか判らず、キラは小首を傾げた。
そんな彼女の真ん前に、迫力のある顔が、ずんずん近づいてくる。

「隊長、あんた何か忘れてねーか?」

にったーと怪しい笑みを浮かべる、ミゲルが怖い。
キラは慌てて考え込んでみたが、今日ミゲルと約束した覚えはなかった。もしかして急な仕事が入ったのかしらとも思ったけれど、時刻を確認すればもう直ぐ14時。
こんな中途半端な時間に、軍務なんて考えられない。


うんうん首を傾げているキラに、ミゲルの容赦ない拳骨が頭上に落ちた。

「痛いぃぃぃ!!」
「赤服増員名簿、渡しただろコラァ!! 急いで選べ!! 申請は昨日までだったんだぞ!!」

寝床にほっぽっていたオレンジ色のA4ファイルを思い出し、キラはあわあわ慌て出す。

「僕いらないもん!! オロールさん返してもらうからいいもん」
「うるせー!! 俺のサンドウィッチな苦労をいい加減解ってくれよ。あんたはザフトの広告塔で、あんたの傍には赤服を置くって、上が決定したんだろが。駄々ばっかこねてないで、一人でもいいから選んでお偉いさん達の顔をたてろ!! 大体人事課を敵に回したら泣き見るぜ。半年後、士官学校を卒業するアスラン達もガモフに呼べなくなる、それでもいいのか?」

自分の行き先がかかっていると判った瞬間、アスランの顔も般若に変わった。

「キラ、名簿は何処だ!!」
「そこの寝室ぅぅぅ……ひゃううう!!」

アスランがキラを肩に担ぎ上げ、まっしぐらに隣の部屋に続くドアを潜った。
続いてニコルとミゲルもかけ込んで来る。

サイドボードに置いたままだったオレンジ色のファイル、それを四人皆でキラのベッドに広げ、一斉に覗き込んだ。
ページ数が60……つまり60人の赤服パイロットのプロフィールやデーターは、読む方もキツイ。というかこれだけ時間が逼迫してて、誰をどう選べという? 面倒くさがりなキラは、無責任にも既に涙目だ。

「ああああ、泣くな泣くな。一応、俺がアマルフィ隊に相応しいんじゃないかと思われる人材に、付箋をつけておいたから。最悪フィーリングでも何でもいい、好みに合うのを適当に選べ」
「だったらミゲルが申請すればいいじゃん」
「あのなぁ隊長、俺は単なる副官で、アマルフィ隊はあんたの隊でしょ。人員要請はその部隊の長しかできねーの、OK?」

キラはこくこく頷いた。

「……判った、いっそこのファイルをバラバラにしてぶん投げて、一番遠くに飛んだ人のを……」
「マテコラ隊長、やってもいいけど、ファイルの順番揃えて返却しろよ。俺、時間ねーから手伝えねーぜ」
「…う!!…」
「ほれ、伸ばしてもらった締め切りは、14時までだ。残り後五分か。……そこの腹黒綿飴、何でもいいから通信機貸してくれ。軍に連絡する」
「その変な渾名で二度と呼ばないって約束して下さるのなら、熨斗つけて差し上げますとも。……ほら、勝手にどうぞ!!」

B5サイズの持ち歩き可能な通信機を、ニコルが勢い良くミゲルに向かってぶん投げる。

「おうわっ、お前、壊れてもいいのか!!」
「ええ、僕は困りません♪」

ニコルとミゲルが小さな攻防戦を繰り広げる中、黙々と赤服のリストを捲っていたキラだったが、とあるページで手が止まった。

「……あ……」

キラはしばし唖然としていたが、名前とプロフィールを指で辿って確認し、己の勘違いではないと知ると、ほっこりほころんだ。


「ねぇねぇミゲル、僕この人欲しい。ってか、この人だけでいい!!」
「おお隊長、やれば早いじゃん♪………うっ………」

ミゲルは顔写真を見るなり、気まずそうにガリガリと頭をかいた。
ちなみにキラが選んだ人に、ミゲルが貼ったオススメ付箋はない。

一緒に覗き込んだアスランとニコルの顔が、瞬時にぴしっと強張った。

「何でお前はそう、自分から厄介事を引き寄せるんだ?」
「イザーク辺りが盛大に暴れますねきっと」
「……ニコル、お前この頃イザークと仲良いな?……」
「ええ、僕彼専属の『民俗文化』アドバイザーになりましたんで」

アスランににっこりと笑いつつ、彼はキラにも少し黒っぽい笑みを浮かべた。

「ミゲルが禿げたら、絶対キラ姉さまのせいですね」
「ふぇぇぇぇぇ!!」
「……そっか、お前達もそう思うよな。そうだろうな〜〜、この人、ザフト一女っタラシって有名だもんな〜〜。腹黒綿飴頭、たまには良い事言うじゃねーか」

キラは微妙に会話にズレを感じた。
勘違いしているミゲルの誤解を解くべきかどうか迷ったけれど、昨日と一昨日のことを説明していたら、時間がますます無くなりそうだったので、キラは口を噤むことにした。


「嫌?」
「ううう、嫌じゃねーけどやりにくいなぁって。まぁ…俺を随分可愛がってくれた先輩だし、正直俺より優秀だからいいけど……。なぁ、隊長って、意外と面食い?」

キラはくすくす笑って首を横に振った。

「違うけど、ねぇ、…………僕らのチームさ、家族みたいに仲良くなれるといいね……♪」


☆☆


パーティークラッシュの翌日、休暇中だというのに、急遽軍本部に呼び出しを食らったハイネは、ホーキンス隊からの転属命令を貰った。
それから三日後、やはり休暇中の筈なのに、彼は今ガモフにいる。


「お前が副隊長ねぇ。出世したじゃねーか♪」
久しぶりに顔を会わせたミゲルの頭を、ハイネはぐしゃぐしゃと撫でまくる。
「うわぁ先輩禿げる禿げる。テンション高すぎ!! 俺もうガキじゃないんですから!!」
「はいはい副隊長さん。今後宜しくな♪」

陽気な仮面を被るハイネと裏腹に、今のミゲルはやつれ果て、肌もボロボロに荒れている。
気配り抜群なハイネは、心配げにミゲルの顔を覗き込んだ。

「お前さぁ、体でも壊したか? 何その面、目の下の隈も酷いし」
「いえ……、ちょっと本業が忙しかったんで……」
「ふーん、まぁたまの長期休暇なんだし、どう使おうが自分の勝手だもんな。でもほどほどにしとけよ、戦場じゃ体の管理ができてねーと、命取りだし」

ガモフのモビルスーツデッキは今、ハイネ・ヴェステンフルスの専用機、オレンジカラーのジンの搬入で大賑わいだった。整備班も、新しい機体が増えるのは嬉しいものなのか、我先にと飛びついてジンのチェックに走っている。しかも偶然ミゲルのオリジナルカスタマイズされたジンと同色だ。トリコロールカラーのフリーダムの横に並ぶと、まるで予めあつらえたナイトのようにも見える。

それを見たハイネは、ビジュアル重視で自分がこの隊に配属されたのか、一度確認したくなった。

「まぁ、可愛い後輩クンの為に、ハイネさまが一肌脱いでやるよ。どうせお前だろ? お姫様のお守りに根を上げて、俺を呼んだのって」

ちょっと棘を含んだ言い方に、勘の良いミゲルは直ぐに気づいた。彼は気持ちハイネを睨み、真っ向から口火を切る。

「いいえ。隊長が自分で決めました。因みに俺も、名指しで副隊長に任命されたクチです。隊長は確かに俺達より年下の少女ですが、俺は誰よりも白服に相応しい方だと思います。もし隊長を侮るのでしたら、いくら俺の先輩でも、この隊には要りません。副隊長としていつでも、貴方の移動を進言させていただきます」
「お〜こわ。怒るな、カマかけただけだ」

どうやらウワサと異なり、ミゲルは嫌々お嬢様のお守りをしていた訳ではないらしい。
ハデな成りと違い、根は純朴で真面目な彼を、ハイネはかなり気に入っている。そんな彼が心酔する『白きアテナ』なら、思っていたよりもマシな上官かもと、彼はちょっと期待を抱く。

「ふーん。俺とお前に目をつけるなんて、じゃ、アマルフィ嬢は、人を見る目があるってことか」
「うん、僕それだけは自信があるよ♪」

フリーダムのコックピットから、白い髪、白い隊長服の少女がぴょっこり顔を覗かせた。
「僕がアステール・アマルフィです。渾名は『キラ』。ハイネ、これから宜しくね♪」

手をぶんぶん振りたくる少女に、ハイネは瞠目して絶句した。そして、ミゲルの額に大きな青筋がくっきりと浮かぶ。

「だから、どうして隊長は敬礼ができないの!! そんなんで着任の挨拶を受けたことになるか!!」
「いいじゃん、僕堅苦しいの嫌い。ねえねえ、もうちょっとでシステムのエラーチェックが終わるから、三人でシュミレーションやろう。ハンデでは……ん〜……2対1でいいからさ♪」

「おう!! 今日こそ絶対勝つ!!…って、何するんですか先輩!!」

硬直していたハイネは、自分の目が信じられずに、思わず前にいた後輩の頭を殴りつけたのだ。痛がって頭を押さえる彼に、ハイネはこれが夢でないことを確信する。

「なんでキラがアステールなんだよ!!」
「はぁ? 先輩、隊長と知り合い?」
「うん……まぁ、知り合いっちゅーか知り合いだけど……」

キラも援護射撃のつもりか、こくこく首を縦に振る。

「うん。5日前にご飯奢ってもらったし、洋服一杯貰っちゃった仲♪ ハイネの部屋で、お風呂も借りたし♪」
「……キラ、もういい、お前は黙ってろ!!……」
「せんぱぁぁぁぁい!! あんた何子供に手を出してるの!!」

制止したけど間に合わず、たちまち涙目になったミゲルに首を締められる。
そんな彼らめがけて、何故か頭上から一斉に、スパナや金槌等、工具が雨あられとなって降り注ぐ。
酷いことに、ミゲルも巻き沿いだ。


「うわっ!!」
「何しやがる、誰だ!!」
「……わ〜た〜し〜だぁぁぁぁ……!!」

ストライクに架けられた架台に、恰幅の良いつなぎを着た作業員が、青筋を立てて仁王立ちしていた。
その顔は憤怒で真っ赤に歪み、目は凶悪な光でギラギラし、突つけば今にも血飛沫を上げて破裂しそうである。


「………貴様ぁ、私の娘に一体何をした?………」


キラを娘と呼ぶのは、プラント広しといえどもただ一人。
ハイネの喉も、こくりと鳴る。

「……マジで、ユーリ・アマルフィ議員?……」
「あ、お義父さま、いたの……」

てへっとキラが引きつりつつ笑ったが………、初めてきっぱりと無視された。

アマルフィ議員の心情を慮れば当たり前だ。鈍いキラは今だ父が多忙だと勘違いして気づいていないが、彼がアマルフィ家から追放されて、早6日目。
娘とイザーク・ジュールの婚約破棄もままならず、愛する家族から省けにされ、寂しさのあまり毎夜枕を濡らしていた時に、こんな爆弾が投下されればどうなる?


「………私の留守中に、私の娘に……、服を貰う………、風呂……、はだか……嫁入り前……、娘を誰が嫁になど誰が出すか………、私は、今度こそ娘を守る。………キラを嫁に出したら……、今度こそロミナとニコルに嫌われる。……私は……ああ、ロミナに嫌われたら私は死ぬぅぅぅぅ……!!」

ユーリは、危ないオーラを滲ませ、ぶつぶつと鬱病患者のように訳のわからない単語を羅列しながら、ゆらゆらと1歩1歩とハイネに近づいていく。

ユーリは、ハイネでも知るプラントでも有名な家族溺愛人。
尋常じゃないその迫力に、彼の顔に恐怖が走る。

キラは開いたコックピットにしがみ付き、口をあうあうと何か言いたげに動かしていたが、結局何も言えないまま、そのうちじんわりと涙を浮かべ、終いにはぱちんと両手を合わせ、なむなむとハイネを拝みだす。

「ゴメン。ハイネ……。逃げて」
「キラ、こらぁぁぁぁ!!」

その呼び捨てが引き金となった。

「馴れ馴れしく人の娘を呼ぶな貴様、6日の間に私の娘に一体何をしくさった? 返答次第ではジンのケーブルの配線、自爆モードに切り替えるぞコラァ!!」

ユーリはたちまち、手に持ったスパナを高く振り上げ、猪突猛進にハイネを追いかけ出す。
誤解を解く機会どころかいい訳すら受け付けてもらえず、気の毒なハイネは脱兎のごとく、逃げ出した。



「よし、俺、先輩……嫌、新入りのハイネ・ヴェステンフルスがザフトレッドの意地で10分逃げ切る。殴られる回数は15発に5000プラントドル。以後一口500プラントドルで受け付けるぜ、……張った張った!!」

流石ロック歌手、マイクを通じなくてもよく通るミゲルの美声に、早速モビルスーツドッグが、賭博場に早代わりだ。

「議員が五分後に5発ボコルに10口」
「俺、新入りが5分逃げて3発殴られるに10口」
「俺は議員の愛情を信じて、3分後に20発。そうだな〜語呂がいいし20口」

たちまち4〜50名のガモフ乗組員が、その辺の紙に自分の名前と口数を書き、ミゲルに押し付ける。こういった賭け事はスピードが命だ。
軍人の皆はその辺もきっちりと弁えていた。


「おい、ミゲル貴様!!」
ダシに使われたハイネが怒鳴る。
だが、胴元に早がわりしたミゲルは、ぴらぴらと全開の笑顔で手を振った。


「ああ、頑張ってくださいね〜。賭けの売上金で、今晩先輩の歓迎会やりますんで♪ ホレ、隊長も会費がわりに張れ。ちなみに白服の相場は最低10口からだからな」

キラは小首を傾げた。
ハイネはザフトレッドの軍人だ。当然優秀な筈である。
だが、義父ユーリは家族愛の権化だ。
自分自身、義父にとっても溺愛されている自覚がある。それに遊びの賭けでも、やっぱり負けたくないものだ。
キラは少し悩んだが、やがていい笑顔を見せた。

「えーっとえーっと……、じゃ、僕はお義父さまがハイネを今から1分後に30発ボコルに10口……」
「おおおお!! 隊長、そんなにやられたら先輩の面子丸つぶれじゃん」
「うん、でもお義父さまは僕に甘いもん♪」


「ちょっと待てキラァァァァ、こうなったのは誰のせいだ!!」
「だからゴメンって謝ったでしょ♪」
「そうそう、やっちまったことは仕方がないし、こうなったら腹くくって頑張って逃げてください♪」

「貴様らぁぁぁぁ!!」


キラはにこにこと口に手を当て、トドメとばかりに大きく息を吸った。

「お義父さま〜、僕の新隊員、殺さないでねぇぇぇ!!」
「先ぱぁ〜い♪ ザフトレッドの意地にかけて、せめてもう五分逃げ延びてください!!」
「ねえミゲル、ハイネがお義父を殴ることはないの?」
「ああ、議員殴れば上官反逆罪で営倉入り。ついでに赤服も取り上げられて緑に格下げ。だから如何にザフトレッドでも逆らえない」

反撃できないのなら逃げるしかない。だが、人間いつまでも逃げ切れるものではない。
ましてや狂気を含んだ男からは……尚更だ。

「ねえねえミゲル、スパナぶつけられるのも一発?」
「うんにゃ、拳のみ換算」
「ちぇ」

「おまえらぁぁぁぁ、後で絶対ぶっ殺す!!……おぅわぁ!!」

悠長に怒鳴っていたハイネは、転がっていた螺子箱に足を取られてスッ転んだ。

「おお、アマルフィ議員。襟首掴みました!!」
「逃げろ新入り!!」
「カウント入りま〜す♪ 一発〜♪ 二発〜♪」
「何分で捕まった?」
「ちぇ、1分24秒。ってことは……時間は隊長の一人勝ち」
「じゃ、後は殴られ回数じゃん………」
「後八発♪ 後八発♪」
「なら俺は、後13発♪ おおっ、先は長い〜……」

手拍子を取り、節までつけて、ハイネが殴られるのを歌い出す奴が続出だ。モビルスーツドックは最早、男達の怪しい合唱団と化した。

「てめぇらぁぁぁぁぁ!! うわぁぁぁぁぁ!!」

ユーリとハイネの大運動会に、ガモフの面々は大いに盛り上がった。






皆が憧れるアマルフィ隊だが、結局この度の追加パイロットはたった一人だけだった。


ニコルから顛末を聞いたイザークは、キラがハイネを名指しで自分の隊に入れたと聞いて発狂した。ディアッカは「キラは目を離すとすぐこれだ、また変なものを拾って」と、ひとしきり皮肉に笑って、イザークの神経を逆撫でしたため、彼の私室が木っ端になるまで破壊し尽くされたことはいうまでもなく。


ユーリはハイネをひとしきりボコった後、娘の貞操の危機を感じ、怒り狂いつつ自分の留守中に何があったのか聞き出すべく、キラを小脇に抱えてアマルフィ家に帰った。


そして、ユーリに顔をボコボコな男前に変えられたハイネは、その夜キラの一人勝ちとなった掛け金をネコババしたミゲル達の手により、盛大に歓迎会を催されたとか。




06.07.08



ハイネさんこんにちは〜♪なお話でした。心に傷を負った彼、キラにほのぼの癒されてくれるといいのですが。
遺伝子やコーディネートにバリバリ不信感を持った彼は、今後キラとレイの良いパートナーとなってくれるでしょうv( ̄ ̄▽ ̄ ̄)



また、アマルフィ家にてキラに渡された大きなプレゼントを、嬉しげにニコルの目の前で紐解いたアスランは……ビーバーの着ぐるみ寝巻きを見つけ、茫然自失しました。
吹き出すのを堪えるニコルや使用人、「可愛いでしょ♪寮で着てね♪」と、悦にひたるキラに、アスランの怨念篭った「キィラァァァァァァ!!」の怒鳴り声が炸裂。このエピソードをかき込めなかったので、ここで暴露。

また今回どうしてもメンデルネタが入らなかった!!
もう一本話書きます。一章は結局5話になるのね(レイを出すことは決まっているけれど、エピソードが未定)
次回4話目は白アスラン、いよいよ目覚めますよ♪

BACK

SEED部屋に戻る

ホームに戻る