姫と王子の休日  1








―――――自分に自信を持てない時、何をやっても空回りしてしまう事はないだろうか?――――



傲慢な人間は傍から見ていて滑稽だが、当の本人は自信満々だから勢いも行動力もある。
逆に自分を誇れない人は最悪に惨めだ。まるで幽霊のように存在感が無く、何も変えられないし、動く力も気力も無い。
宝石もくすんで輝きを失えば、安っぽいガラス玉の中に埋没していても見つけ出せないが、それと同じ。

負のスパイラルに陥った人間は、生半可な事では這い上がれず、13歳の頃に別れた『彼』を知っているキラだから、今の恋人の情けなさが本気で歯痒い。


恋した相手との嬉し恥ずかしの初H。
そんな一生心に残る行為後、目覚めたキラの隣は空っぽだった。

時計を見てもまだ13時半、意識を飛ばしていた時間なんて1時間も無いだろう。
手でまさぐってみてもシーツは冷えきっていて、アスランがかなり早い段階で褥からキラを置いて抜け出した事実に2重のダメージを負った。

更にベッド脇のサイドボードに一枚のメモがあり、几帳面で綺麗な文字を目で追えば、『下手でゴメン、俺、暫く1人になりたいから探さないで』とあり、キラはもう開いた口が塞がらなかった。

人の処女を捧げられた分際で、この言い草は無いだろう。
キラだって初めての体験なのに、一体誰とどう比較して上手い下手かを判断できると思っている?

『Hで目覚めた時は、大好きな恋人の腕枕♪』が普通なのではないか?

そんな乙女の夢も、よくも踏みにじりやがって。
アスランも、心が弱っているから余裕がないのも理解しているが、キラだって来月やっと16歳。
傷ついた恋人を丸ごと包み込むには幼すぎ、ぽつんと1人裸で残された寂しさと情けなさに、悔し涙がじわりと滲むのも当たり前だろう。


「………絶対殴る。ほんとにもう、あのヘタレはぁぁぁぁぁ!!………」




☆☆☆



今日のコペルニクス・シティの空は、煙るように霞んだ春仕様だ。
満開の桜が美しく、またぽかぽかと暖かい陽だまりの元、シロツメクサと芝が仲良く共存している公園広場では、賑々しく作業用ロボットを使ったイベントが行われている。

内容の詳細は判らないが、遠くから一通り眺めて見ると、タイプはどれも人間型で等しく白い。背中に箱型の動力を背負う姿は、まるで21世紀頃の宇宙服のようだ。
アスランのオリジナルが機械工学やマイクロユニット作成を趣味にしていたせいか、クローンの自分も、実はああいったロボットはとても興味がある。
もし何も悩みが無ければ、今頃嬉々としてキラを誘い、会場見学に走って行っただろう。
だが、現実は厳しい。


「………はぁ………」


アスランは、賑やかな会場から少し離れたツツジの繁み傍にあったベンチに腰を降ろし、指を組んで顔を覆い、深く溜息をついた。

膝真横に置いた、大きな紙コップにストローが刺さったドリンクと、ファーストフードは若者風だが、怪しいサングラスに踝まである真っ赤なコートを暑苦しく着込んだ姿は、正直かなり怪しい。

薄いサングラス越しなら日の光に透け、一際整った容姿が判るし、なんせ見事な白髪だ。
賑々しいイベント会場に居ながら、真っ赤な原色を着込んだどんより俯く青年は大層目立つ。

だがアスランは、自分が周囲からかなり胡散臭げな注目を集めているなんて、全く気がついていなかった。
折角買った昼食も、一口も齧らぬまま食べる気が失せ、氷が溶けきり、温くなったアイスコーヒーを啜った。


「…俺って……本当に寂しい男だったんだな……」

人間、自分に自信が無い時は、誰かにアドバイスを請いたくなる。
だが、相談できる相手を脳裏に思い浮かべた時、今の彼に友人はおろか、助言をくれるような知人は誰も居ないと気が付いた。
唯一頼れるとすればギナだけだが、内容が悪すぎる。

「キラに下手だと言われるのが嫌だからどうしたら良い?……なんて言ったら最後、鼻で笑われて無視だろな」

自分でもあまりに女々しい悩みで嫌になる。
だが、さっきのキラの痴態を思い出せば思い出す程、アスランの眉間に刻まれる皺の数は増えていく。

なんせ終始痛がり、『もう嫌だぁぁ』と散々泣き喚かれ、『早く終わって』と急かされた上、ようやく思いが遂げられたと思えば、感動に浸る間もなく『重い、疲れた、どいて!!』と思いっきり腹を蹴られ、ベッドから突き落とされた。

こんな初体験をおくった男、他にいるのか?

「……俺が悪いのか? 俺だけが悪かったのか? 誘ったのはキラだろ? 酷くないか? 酷いよな?……」

俯いて自問自答を繰り返しても、答えなど出る訳なくて、自分もますます惨めになる。


判らなければ調べれば良いが、ホテルの端末を使ってアダルト情報を検索すれば、キラに一発でバレるだろう。
彼女にこれ以上白い目で見られたら、もう自分は立ち直れない。
アスランはがっくり肩を落としながら、新たな知識を得るため、昼食と一緒に買った大量の男性誌の中から適当な一冊を引き抜いた。



★★



星の数ほど男女がいれば、恋愛だって千差万別、色んな愛し方がある。

自分はビギナーなのだから、知らないのは当たり前だと言い聞かせても、書店に入ってHのHOW TO本やディスクを置いてあるコーナーに立ち寄るのは流石に照れた。
なので彼が買い漁ったのはファッション誌やタウン情報誌で、メインに知りたい筈の大人な知識がちんまり申し訳程度についているものばかり。
こんな時でも、やはりヘタレはヘタレである。


そんなささやかなエロでも、純な彼には疚しくて、周囲に人が居ないのをしつこい程確認してからぺらりとページを捲ってみると、カラフルなポップ絵で、ソフト口調のQ&Aを見つけた。
質問に答えながら矢印を辿っていくと、女の子の満足度が判るというチェックテストだ。
これなら公園で読んでいても、そう怪しくない。


「……えっと……、スタート……Hの最中、相手が終始恥ずかしがって没頭できず、泣いたままだった。YesかNoか」

いきなり難問である。
キラは泣いていた事は泣いていたが、恥ずかしがってというよりも痛くて暴れていた気がするのだが。
キラから拳で顎にアッパーパンチを貰い、口の中を切って味わった血の味は格別に苦かった。
嫌な痛みを思い出しコーヒーを啜ると、じくりと傷口がよく染みる。
きっと明日には口内炎に育ち、数日物を食べる度にアスランを痛めつけるだろう。


「キラ……、俺こんなプレゼント要らない」


これ以上考え込んでいるとドツボに嵌りそうだ。
行為の間彼女が泣いていたのは事実なので、Yesの矢印を辿って次の項目に向かう。

「……えっと……愛撫の最中、相手の身体がずっと緊張して硬かった……」

またもや考え込む。
キラはメチャメチャくすぐったがりだった。
首筋にキスしたら身を捩って笑い、胸に手を這わせたら足をパタつかせて爆笑し、あんまり暴れて笑うので、背中から抱え込んで動きを封じたら、それもくすぐったがって強烈な肘鉄を腹に食らった。
朝食を食べたばかりなのに、あれは正直辛かった。
リバース(吐く事)だけは男の意地でなんとか堪えたが、胃液が逆流して口中が酸っぱくなり、暫くキスもできない有様だった。


「……俺、泣いていいかな……?」


サングラスをちょっと持ち上げ、熱くなった目頭を指で拭う。

世の中の男達は、みんなこんな惨めな思いをしながら初体験を終えるのだろうか?
映画のベッドシーンは、もっと感動的で美しかったと思うのに、現実はあまりに過酷すぎる。


やればやるほど辛い現実を突きつけられそうだが、始めたら最後まで仕上げてしまわねば落ち着かないのが、几帳面なアスランの性分だ。
気を取り直して再び紙面を見る。

「くすぐったがって笑っていたのなら、キラの身体は固くなかった筈だよな」
問題のニュアンスが違うような気がするが、構わずにNoの矢印を辿って次に突き進む。


「彼女の性感帯を5つ以上あげる事ができるか……、はぁ? 性感帯って何だよそりゃ?」


アスランはまたもや頭を抱えた。
解らない単語は端末があれば直ぐに調べる事ができるが、あいにく紙媒体の書物に便利な機能はついてない。

答えられない問題はとりあえずNoを選び、心臓にずくずく突き刺さる初Hのトラウマと闘いつつ丁度10項目のクエスチョンを終わった時、辿り着いたのはDタイプだった。
この手の診断は、大抵Aから成績が良い順番に、B、C、Dと並んでいる。
嫌な予感を感じつつ、アスランはぱらりと次のページを捲り、診断結果を見た。



【あなたの彼女の満足度は、10%です】

下手くそでテクなし。このままではいつか捨てられるでしょう。



「…………はははははははは…………」



くらっと眩暈に襲われた後、乾いた笑いが零れ落ちる。
アスランは即座に手に持っていた雑誌を、ベンチ横にあった大きなダストボックスに放り込んだ。

落ち込む原因を取っ払いたくて雑誌を買い漁ったのに、さらに惨めになってどうする?


その時、風を切って鋼鉄の翼をはためかせ、緑色の鳥が彼の目の前に飛来した。

≪トリィ…トリィ…♪≫
「うわぁ!!」

アスランは咄嗟に顔を腕でガードするが、凶悪なプログラムを施された機械鳥に容赦という文字はなかった。
羽を大きく扇のように広げ、元気一杯に翻してビシバシ叩く。
猛攻に堪らず背中を丸めて膝に顔を押し付ければ、背中に飛び乗って細い足でひたすら蹴る。

「痛い…、痛い…、こら、止めろトリィ!!」

今日のプログロムの執拗さは尋常じゃない。
設定を調節した飼い主の怒り具合が、見事に現れている。


「ったく、探したんだからね、馬鹿アス!!」


アスランの予想を裏付けるように、鼻息荒いキラの足音も荒々しくこっちに向かってくる。しかし、トリィの猛攻が激しすぎ、彼は顔も上げられない。

だが。


「其処の子、危ない!!」
「ふぇ? ……きゃあああああああああ!!」
「キラ!?」

突如響いた愛しい少女の悲鳴に、アスランはトリィを払い飛ばして身を起こした。








08.01.30




ロバの耳でこっそり書いている番外です( ̄― ̄)θ☆( ++) 
書きなぐりに近いので、御容赦を。

白アスランは今がどん底、今後は段々格好よくなっていきますので、暖かい目で見守っていてください。

でも…姫キラ結構お転婆なのね.。白アスファイト(涙)


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