姫と王子の休日  2









目の前で、キラが3メートルの白い人型ロボットと正面から衝突した。

アスランを見つけ、憤って周囲も確認せずに飛び出したのが原因のようだが、競歩のスピードで歩行中だったロボットの進路を横切るなんて無謀すぎる。
しかもぶつかった時、彼女の足が機械の右脚関節に纏わりついていたオレンジの接続ケーブルに突っ込んでいたらしく、足首を絡ませたまま頭から転んだせいで、地面に落ちたのは肩から上だけ。
言わば逆さまに宙吊りだ。


地面は芝でも春は軽装で、薄い白ジャケットなど鎧にもなるまい。
引きずられれば、直ぐに身体はダイコンおろしだ。
キラも腕で頭を抱えてガードしているが、長くは持つまい。

「うわあああああああああ!! 痛い痛い痛い!!」
「キラぁぁぁ!!」

「トール、早く止めてよ!!」
「駄目だ、あの子が配線に絡まっていてコントロール効かない」
「このままじゃサイが下に落ちるわ」

ロボットの後を焦って追いかけていく2人の少年と1人の少女の中から、コントロールボックスを持つ茶髪の少年を見つけ、アスランは、彼の肩を引っつかんだ。

「おい君、あれはどうすれば止まる?」
「え?」
「本体にも動力スイッチぐらいあるだろ?」

オフにすれば活動は停止する。
そんな当たり前の事実に気がつかなかったのかと呆れるが、アスランより、やや暗めの緑の瞳が焦りに視線が泳いだ。

「……待って、急にそんな事言われても……」
「なら、どのケーブルを引き抜けばいい?」
「う……、それも設計図見ないと判らない…」
「判った、破壊されても文句は言うなよ」
「待ってよ君!! ちょっと、困る!!」

茶髪の少年の悲鳴交じりの泣き言を振り切り、アスランは全速力で駆け出した。


ひたすら前進するだけのロボットなら、転がせられればいいのだが、ロボットの、ドコドコと重音を響かせて走る足跡の窪み具合から、300キロ以上あると推測する。
生身の足で突撃し、脚を引っ掛けようなど試みるのは自爆行為だ。
確実にアスランの骨が折れる。


「ちぃ!!」


街中で使いたくなかったが、懐のホルダーから銃を引き抜き、両手で抱えてトリガーに指をかける。
狙いは、キラの足に纏わりついているオレンジのケーブルのみだ。
的は幅1センチと細く、揺れるし、敵は金属製のロボットである。
弾を外し、兆弾したら人の多い広場が大惨事になる可能性がある。
絶対に外せない。

「キラ、助けてやるから今だけもがくな!!」
「ううう!!」

歯を食いしばり、あお向けの姿勢で静かに引きずられるキラを確認し、アスランは目を眇めてトリガーを引く。
消音タイプの小銃の弾は、静かにキラの足首を絡め取っていた部分より、少し上のケーブルに命中した。
ロープのようにしなやかな癖に、流石ロボット用だ。
小さく弾の形分抉れてる癖に簡単に千切れず、アスランは舌打ちして立て続けにトリガーを弾いた。
一発も外す事はなかったが、中々複雑な戒めはしつこくて、丁度5発目でキラの身体はぽーんと宙へと投げ出された。

「…あうっ!!……」

駆け去るロボットに振り飛ばされたキラは、腕で頭を庇ったまま、肩からバウンドして地面に転がった。

「キラ!!」

アスランが叫んでも、彼女からの返答は無かった。
柔らかなそよ風に撫でられ、芝とシロツメクサを沢山絡ませた茶色の髪が揺れる中、地面に倒れたままふるふると震えている。

駆け寄ったアスランは、膝をついてキラの身体を抱き起こした。

「大丈夫か?」
「……痛い……」

紫水晶のような大きな目から、ぼろぼろと大粒の涙が零れ落ちる。

「脚はどう? ……骨とかは?」
「……かすり傷だけだと思う……」

アスランは、片手で楽に掴めてしまえるぐらい華奢なキラの足首を、恐々触れ、優しく動かした。
ケーブルに絡めとられ、ぎゅっと締め上げられた箇所は赤黒く鬱血している。
怯えてしゃくりあげて泣くのを堪えている様子から、骨折などの激痛は見受けられず、ほっと安堵の息を吐く。
頭を庇っていた肘から下の腕は、白いジャケットの保護がなかった。剥きだしだった象牙色の肌が、痛々しい擦り傷だらけになっている。
アスランは己の赤いロングコートを脱ぐと、芝生と草の汁で緑のシミをつけ汚れたキラの白いジャケットの上からすっぽりと身体を覆って抱きしめた。

「もう、お前は……、俺を心配させる達人なんだから……」

自分自身、黄色のシャツに堂々と肩に吊った銃のホルダーを人目に晒してしまい、大層注目を集めているが、今はキラが最優先だ。

多分一番ダメージが酷い肩の部分を避け、背中を恐る恐るぽんぽんあやすと、彼女はアスランの胸に顔を埋め、きゅっとしがみついてくる。

「……怖かった……」
「うん、もう大丈夫だから、な? 落ち着いたらホテルに帰ろう」

だが、ホッとしたのもつかの間。
アスランはいきなりキラから引き剥がされ、襟首を引っつかまれた。


「なあ、君あれの背中のアンテナ撃ち抜けるか?」
「はぁ?」
「コントロールが効かなくて、曲がれないし止まれないんだ。このままじゃ落ちるんだよ!!」


変なことを喚きながら、片手でガクガクに揺さぶりだす失礼な彼は、さっき自分が肩を掴んだ茶髪の少年だ。
右手が指差す方向は、キラを痛めつけてくれた二足歩行のロボットに向けられている。


そういえば、ここの公園は高架の上に作られている。
高さは約50メートルあり、広々としているし、草花も溢れ、見晴らしもよく街の景観も広く見渡せる。
だが、端から下を見下ろせば、5車線の無機質な道路だった。
エレカの制限スピードは80キロと交通の流れは速く、勿論小石や人避け用の防壁は張り巡らされているだろうが、ロボット1体分の重い金属の固まりみたいなイレギュラーに、対応しているか怪しい。
もし突き破って落下すれば、エレカの玉突き事故を引き起こすのもありうる。

アスラン的にはキラを引きずったロボットなど、壊れてくれても全然OKだが、事故が起きるのが判っていて、みすみす見捨てるのも後味が悪い。


「自爆スイッチはないのか?」
「在る訳無いだろ、中に人が入っているんだぞ」
「なら、引火の可能性は無いな。キラ、ちょっと待っていてね」


アスランは再び両手で銃を握り締めると、水平に構えて目を凝らした。

「君、どこを撃てばいい?」
「背中に背負っている箱の上にさ、10センチの黒い三角錐があるだろ。それがスイッチ、へし折れば強制的に活動が止まるんだ。できる?」
「多分」

開いた分厚いマニュアル書を、指で辿りながらの説明に不安も否めないが、一度引き受けたのならやるしかない。
現在の距離はせいぜい18メートル。
的が大きいのも幸いし、危なげなくピンポイントで根元から撃ち抜けば、たった一発で3メートルの巨躯は動作を中断し、慣性の法則に従い前のめりに地面に倒れ伏した。

「サイ、大丈夫か!!」

アスランの首を絞めてくれた茶髪の少年とその仲間達が、礼も謝罪もないままロボットめがけて突っ走っていく。
何だかなぁと呆れるが、とりあえず役割を終えた彼は、平然と小銃を左胸のホルダーに仕舞った。

「凄いよアス、こんなに銃が上手なんて知らなかった。カッコよかったぁ〜♪。僕、見直しちゃったよ♪」

耳に心地よい賞賛と同時に、びっくりまん丸眼のキラが飛びついてきた。
だが、流石トラブルメーカーだ。
彼女が頭を抱きしめようと絡めた腕が、偶然アスランのサングラスを弾き飛ばした。

柔らかな春の日差しでも、昼間の光は手術後の目にまだキツイ。
たちまち彼の視界は真っ白になり、慌てて両手で目を押さえた。

「……い…いたた……」
「うわ、ゴメン!!」


両目を押さえてしゃがみ込み、目を瞑って手探りでサングラスを探す。
キラが慌てて拾い、かけなおしてくれるが、視界を暗くしても眩んだチカチカは簡単に納まらない。
折角褒めてもらったばかりなのに、やっぱり情けない姿を晒してしまって、また気が滅入りそうだ。

「アス、動けそう?」
「ん……、もうちょっと待って」


霞む目を指で擦り、何度も瞬きを繰り返す。
サングラス越しに視界を確認すれば、丁度倒れたロボットの背中のスイッチを押し、ボディを手動で強制的に開いたのが見えた。
茶髪の子が言った通り、本当に人が入っていたようだ。
オレンジの服に同色の色つき眼鏡着用という、凄い趣味の少年が、皆に助けられて這い出て来る。

「トール、お前なぁぁ!!」
「うわ、サイ、ストップ、大丈夫なら話は後!!」

サイが振り上げた拳をひょいと避け、再びトールと呼ばれた少年がアスラン達の所へと駆け戻ってくる。

「さっきはありがとうな♪…えーっと……、俺はトール・ケーニヒ。君は?」

しゃがみ込んでいたアスランの前で、同じ姿勢を取って覗き込まれれば、無視などできまい。

「……アレックス・ディノだ。こっちはキラ……」
「キラさんは、足大丈夫だった? 怪我とかない?」
「……はぁ……」
「そっか、良かった。なら、こっちとそっち、お互い痛み分けって事で、水に流してくれると助かるんだけど」

懐こい男は、キラとアスランの右手を引っつかみ、強制的に纏めて握手をする。
明るく強引で、『こいつ何?』状態でびっくりフリーズを起こしたアスランの真横で、ボケキラが「OK♪」とにっこり快諾しやがった。

(……このお人良しが……、いい訳無いだろ!!……)

そりゃ飛び出したキラだって悪いが、彼女は下手したら大怪我を負っていたのだ。
大切な恋人が危険に晒されたのなら、アスランに怒る権利がある筈。

「ちょっと君、それは……」

だがトールは、アスランの機嫌に構わず、顔を興味深々に覗き込んできた。

「うわぁ、びっくり。君って凄い美形じゃん。似合わないサングラスなんて外せば?」
「え?」
「いや、実はさっきまで、其処に今にも自殺しそうな変なオヤジがいるって、皆でちらちら見ていたんだ。アレックスってば、ずっとベンチで頭抱えて座り込んでいるし、頭白髪だし、呻いたり独り言呟いたり急に笑ったり、凄く挙動不信だったし」
「もうトールってば、そんな失礼な事ワザワザ話さなくてもいいでしょ」
「いててて、ミリィ止め!!」


心外だと怒る前に、彼女らしき少女の拳骨がトールの後頭部に決まった。
だが、そういう自分も、左耳朶をぎゅうぎゅうに引っ張られ、頭に一発平手が落ちる。

「……痛いよキラぁ……」

冷たい視線を感じて横を見れば、キラが目を眇めてアスランを睨みつけている。

「思い出したよ。僕を置いてった上、外でヘタレた真似するな!!」
「……ゴメン……」

お互い、強い彼女の尻に敷かれている親近感を感じたのか、トールがますます馴れ馴れしくアスランの肩をポンと叩く。

「アレックスって射撃凄い腕だよな。いくつ?」
(……呼び捨てかい……)
「今年16だ」
「え? 君、俺達と同い年?」
むっと口を引き結び、ぶっきらぼうに告げると、いつの間にか来ていたサイが、びっくり眼でアスランをマジマジと見つめてくる。

「未成年なのに普通に銃を所持しているなんて、ファッションにしてはかなり物騒だな」
「アス、すぐ着て!!」

キラが慌てて赤いコートを脱ぎ、アスランの肩に羽織らせてくる。
確かにイベント会場真っ只中で、堂々と銃のホルダーを吊っている姿を晒し続けるのはまずい。

「俺達、昨夜コペルニクスに来たばかりの旅行者なんだ。今の御時世、テロとか何が起こるか判らないし。実際今日はこれで助かっただろ?」
「そうだよな、サンキュウ♪」

善良な旅行者が、銃を持ち歩くものか。
普通に考えればおかしい理論も、なんでもないふりして淡々と事実だけ告げれば、単純な人間は『そういうものか』……と納得してしまうものだ。

アスランのはったりに、あっけらかんと騙されてくれたトールという少年は、きっと根から善良な人間なのだろう。
反対に、胡散臭げに目を細めたサイの方が、よっぽど喰えない男の筈。

「……俺はサイ・アーガイルだ。方法はどうであれ、君が俺を助けてくれたのは事実だしな。ありがとう、お蔭で助かった……。」

礼儀正しく求められた握手なら、跳ね除ける不躾はできない。
素直に差し出された手を握りながら、アスランは内心溜息をつきつつ周囲を見渡した。
平均4〜5人のチームが、ワゴンタイプのエレカ一台を機軸に、各々平然とロボットを組み立てている。
少なくとも50チームはいる筈なのに、今の騒ぎに誰一人我関せずなんて異常すぎる。

「君達の仲間、ここが事故起こしかけたのに誰も助けに来ないなんて、随分冷たいんだな」
「そりゃ一応、皆ライバルだし。ね、ミリィ」

少女に、トールが肩を竦めて苦笑する。

「アレックスは知らないの?【デブリ駆逐ロボット組み立て選手権】。参加資格は16〜18歳までの学生オンリーで、今年で11回目で結構コペルニクス・シティでは有名な大会なんだけど」

サイに説明されても、数ヶ月前にポットから出されたばかりのクローンに、詰め込まれた以外の余分な知識はない。
だが、キラは13歳までコペルニクスに住んでいた筈だ。
視線を向けると、考え込んでいた彼女は、調度ぽんと手を叩いた。

「思い出した。6時間以内に企業が支給したパーツから好きに組み上げて、作ったロボットの性能を試す奴だよね。優勝賞金は2千ドル(20万オーブ円)、参加費用は自腹、しかも基準値クリアできた参加者は、そのまま2週間春休み潰して、月周辺のデブリ駆除の強制ボランティアに旅立つっていう変なイベントで……もが!!」

アスランはキラの口を手の平で塞ぐと、頭を軽く一発引っ叩いた。

「……キラ、お前は少し話し方を学べよな……」
「……あう……、つい本音が……」
「まだ言うか?」
「いひゃい!!」

両頬を引っつかみ、ぷにぷにの刑に処す。
キラは涙目で慌てて首を横に振ったが、アスランはしつこく引っ張り続けた。
人間、正直すぎても駄目なのだ。
気を許した者にだけ、甘えたで我が侭なキラは可愛いと思うが、社会に属している以上、建て前と本音ぐらい使い分けられなくては、渡っていけない。

「……ゴメンナサイ、言い過ぎました……」
「いいよいいよ、気にしてないから。俺達もさ、カレッジの単位を取得する為に参加しているだけだし。な、サイ」
「ああ、うちのゼミの教授、ロボット工学の権威ってやつで、毎年参加要請あってね」
「ぶっちゃけ、将来モルゲンレーテの就職を狙うには、こういったイベント参加も履歴に書けるし」

学生時代を遊んで終わらせるか有意義に過ごすかで、未来は全く違う。
15〜6歳の気ままな学生かと思いきや、彼らは一応将来のビジョンを持っているらしい。

「一年生の宿命だけど、ヘリオポリスから自費参加ってのが痛いわよね」
「そうそう。課外授業みたいなものなんだから、せめて交通費ぐらい寄越せって俺も思う。だってさ、30万オーブ円あったら、ミリィと2人でちょっと豪華な海外旅行だって行けたぞ」
「そうよねぇ。あたしも半年分のバイト代、全額つぎ込んだし」
トールに習い、ミリアリアも項垂れ、手の甲で嘘の涙を拭く真似をする。


例え優勝しても、賞金2千ドルでは、1人分の最低レベルの往復シャトル代ぐらいにしかならないだろう。
その他ホテルの宿泊費や飲食代等経費を考えると、確かに16歳の少年少女には、痛すぎる出費だ。
姫の生活を暫くしていてが、キラも根は庶民育ちである。
彼女達の嘆きに、神妙にコクコク頷いている。

「それは確かに手痛い出費だね。でも、僕こんな所でオーブの学生さん達に会うなんて思わなかった」
「え、じゃ君達もオーブ出身?」

キラの二つ目の失言が炸裂した。
政府高官で無い限り、離宮で静かに暮らしていた『オーブの巫女姫』と直で会えた人間はいない筈。
駆け落ち中の『カガリ姫』だとバレる事は無いと思うが、無邪気なキラだ。何処でぺろりとボロが飛び出すか判ったものじゃない。

(………早急にキラを回収して、ホテルに帰ろう……)

「……じゃ、俺達はそろそろ……」
「う、うん。……本国のオノゴロ出身だけど……、もう直ぐヘリオポリスのカレッジに編入する予定で……」

アスランの助け舟をさっくり無視し、更に失言は加速した。
(キラぁぁぁぁ!!)
「へえ、どこの学校?」

このままでは駄目だ。
キラの腕を引っつかみ背に追いやる。

「俺達の事より大会はいいのか? ロボットを完成させないと、単位貰えないんだろ?」

淡々と告げられた問題に、少年達は現実逃避を終えたようだ。

「そうだよなぁ、不可抗力でも棄権は痛いよなぁ」

サイの言葉に、トールは左手に持っていたコントロールボックスを睨みつけた。

「親怒るだろうなぁ。足りない費用負担してくれたのに。単位取れませんでしたなんて言ったら……怖ぁ」
「私も、折角の機会だし、皆と一緒にデブリ駆除のボランティア参加するのって楽しみだったのよね。だって自分達で組み立てた機械に入って宇宙遊泳なんて、滅多にできないでしょ?」
「実地で船外作業できるって、チャンスだもんな」

だがそんな活動も、肝心要のロボットが完成しなくては参加できる訳ない。
春休みを潰し身銭を切って月まで来たのに、単位も貰えないなんて、何をやっているんだと泣ける筈。

「トール、そもそも俺が止まれなかったのって、プログラムの誤作動だろ。原因判ったのか?」
「試運転なんて浮かれていて、チェック怠ったでしょ?」
「確かにし忘れたけど、そもそもソフトをインストールしたカズイが悪いんじゃないの?」
「酷いよトール!!」

遠くの方で、孤軍奮闘に、倒れたロボットの修理を始めていた黒髪の少年が、気弱ながらも抗議の声をあげる。

「笑っても泣いても、後一時間なのよね」
「もうやるだけ無駄だろ? 今から修理しても、絶対間に合わないって」
「トール、やってみないと判らないだろ。諦めずに最後まで頑張ろう、な?」

どうやらこの中ではサイがリーダーのようだ。
15時までに組みたてを終えなければならないらしいが、関節のケーブル3本と、緊急アンテナはアスランが銃で壊してしまった。
お人好しのキラは、自分のせいだと思っているのが丸わかりな程、申し訳なさそうに俯いている。

「気にしないでね。キラさんは巻き込まれたんだから」
「そう、不幸な事故じゃしょうがないさ」

全くだ。

「2人とも、じゃあな」

棄権の二文字が重く圧し掛かる中、ミリアリアとサイが、トールの背を叩いて励ましつつカズイの方へと向かった。

「キラ、帰ろう……」
「皆待って、僕も手伝うよ。プログラムは凄く得意だし」

キラがアスランの目の前で、ちょこちょこと彼らの後を追い始める。
即行、彼はキラの襟首を引っつかみ、手繰り寄せた。

「キラ、お前なあ」
「僕が飛び出した責任を取るの。大事になったのって僕の不注意のせいだし、皆の旅費が無駄になるのって可哀想じゃない?」

じと目で非難がましく見上げられれば、アスランにも壊した責任があるんだからね……と、キラの声に出してない詰りが胸にズクズク来る。
けど、彼らはどうみてもナチュラルだ。
月のプトレマイオスには地球連合軍の基地があり、プラントとの戦争が始まった今、この地はコーディネーターに優しくない。
しかも、キラの技術はオーブの戦艦搭載のOSを任される程ハイレベルだ。
学生が組み立てた小さなロボット1台に、OSをインストールするぐらい、片手間にこなせるだろうが危険すぎる。

「大丈夫だよ。平凡を装うのって慣れているし、たった一時間の事じゃない。このままだと後味悪いでしょ」
「キラ」
「嫌ならアスランは先に帰ってていいよ」

冗談ではない。
天然墓穴堀りな彼女を、1人でナチュラルの群れにポンと置いていけるか。

アスランは、髪をぐしゃぐしゃに掻き毟り、大きく溜息をついた。

「わかった、俺も付き合うよ。だからお前、絶対に変な事を口走るなよ」
「うん♪ アスラン大好き♪」


08.02.12




このサイトも皆様のお蔭で、今日で無事7周年です。
本当にありがとうございましたm(__)m


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