姫と王子の休日  4







アクション映画を見た後、ゲームセンターに吸い込まれていったキラに付き合ってシューティングで遊んだら、ボコボコに負かしてしまった。

【アスラン】はこんなにゲームが上手だったんだと驚く反面、むきになった涙目の彼女にしつこく勝負を挑まれ、気がついたら2時間も延々と完膚なきまで叩きのめしていた。
当然、お姫様はおかんむりである。

「アスランなんか、大っ嫌い。仮にもさ。可愛い恋人相手に、手加減無しってどういう事?」
「ならお前、手を抜かれて嬉しいか? 俺だったら失礼な奴って、かえって怒るぞ」
「うううう」
「今度また遊んでやるから、今日はもう終いにしよう、な?」
「悔しい悔しい悔しい悔しい、……わーん!!」
「……きらぁ、店の予約に遅れたら、10組限定の【お化け抹茶パフェ】が食えなくなるぞ……」

途端、もぞもぞとシューティングゲームから這い出す姿が笑える。

キラが酷い負けず嫌いだったなんて驚きだが、情報誌でチェックしておいたスイートの美味しそうな店の夕飯で、ころりと釣れた純真さが愛しい。
まったりと食事と夜景を楽しみ、無事初デートを終えた2人が、ホテルに戻ったのは22時。

だが、最上階の部屋についた2人を廊下で待っていたのは、昼間のカジュアルなオレンジのシャツから一転、かっちりとした紺色のスーツに身を包んだ青年だ。

「……えっ、君もしかしてサイ?……」
「どうしたんだ、こんな所で」

ヘリオポリスの学生達に、宿泊しているホテルを教えた覚えはない。
警戒したアスランは、コートの中に手を伸ばし、銃を握り締める。
だがサイも、一瞬瞠目したが、直ぐに表情を無表情に改めた。

「カガリ様ですね。昼間は大変失礼致しました。私は、代々サハク家に仕えるアーガイル一族の次期当主、サイと申します。我が主、ギナ様の使いでまいりました」
「ああ……、わざわざご苦労だった」

咄嗟に姫モードに口調が切り替わったキラに、彼は深々と拝礼する。

「ただ今から、ギナさま直通の電話がまいります。それでは準備の為失礼いたします」

キラが持っていた鍵を勝手に受け取り、当たり前のように中へと入っていく。
勿論アスランは、彼が不信な真似をしたら撃つつもりで、銃を構えてキラを背後に押しやった。

「アス、物騒なものは降ろして」

キラに手をやんわりと掴まれるが、トリガーに手をかけたままアスランは譲らなかった。
彼女はお人好しな上、騙されやすい。
自分がしっかり目を光らせないと、簡単に人を信じて嵌められそうな怖さがある。


「本当にギナの使いだと証明できたらな。俺達は彼から使いが来るなんて、聞いてないだろ?」


「護衛の方、ご安心を。姫様、ギナ様と回線が繋がりました。どうぞお越し下さい」

サイが恭しく示したのは、壁に埋め込まれてあるTVだった。
巨大な画面一杯に、ギナの秀麗な顔が広がった途端、キラが蕩けそうな笑顔で駆け寄っていく。

「ギナ義兄さま♪ そっちは今何時? 僕ら今日一日ね……」
≪元気そうだなカガリ。すまぬが挨拶は抜きだ。時間が僅かしか無い≫

どうやら、経歴に残さないよう、非合法の回線を使った通信らしい。

≪先日メールで知らせた通り、トダカが10日後にそちらへ行く事になった。お前達も判らぬ程馬鹿でないと信じたいが、あやつの筋金入りの忠誠心はウズミに向いており、護衛と日々の報告は、事細かに行う事が予測される≫

自然と体に緊張が走る。
彼が忠実に仕事をこなせば、アスランとキラの動きはウズミに筒抜けだ。
優しく誠実で、キラも自分も今までずっと信頼していた人が一転、今度はスパイ扱いで警戒せねばならないなんて、政治は本当に世知辛い。

≪勿論、私も折角助けたお前達が、好き放題あやつらに蹂躙されるのを、指を咥えて見る気はない。お前達がつつがなく学校に溶け込めるよう世話をするついでに、奴らに気づかれぬよう、私との連絡を密に行える者を1人、手配しておいた。それがこの男、サイ・アーガイルだ≫

ギナの口から直接お墨付きが出たのなら、いらえはない。
アスランは大人しく、懐に銃をしまった。

≪サイ、お前がこの時期コペルニクスに居たのは幸運だ。今後は近くサハク家に迎えられ、我が弟となるそこのアレックスを主君とし、私よりも重きを置いて忠誠を尽くせ≫


「ギナ様、それは私を傍仕えから放逐なさると言う事ですか!?」
「ギナ、弟って一体!? それ俺も初耳だぞ!!」
≪煩いアレックス、私の努力を無駄にするな。手こずったが、今日姉のミナにも了承させた。お前に拒否する理由はない筈だが。判らぬ事は其処のサイに聞け。サイは今後お前の筆頭秘書になる。お前の栄達が、彼の出世に繋がるのだ。お前の初めての部下の信頼を損なうな≫

「だからそういうのが嫌なんだ。俺自身未来が何も定まっていないのに、部下だ主君だなんて関係、重過ぎる」

サイがギナに心酔しているのは明白だ。
アスランに仕えるのは不服だと、焦りが滲んだ表情が物語っている。

≪オーブでアスハ家のウズミに対抗できるのは、サハク家だけだぞ。我が家名ぐらい、利用する気概が持てなくて、何故カガリを堂々と得られる? お前は一生カガリの愛人扱いで良いのか? それに、もし私がいなくなったら、誰がカガリを守るのだ。貴様しかいないのだぞ≫

「ギナ、その話は……、マズイ……」

この場にはサイがいる。
だが、漆黒の悪魔は皮肉に鼻で笑った。

≪サイは信頼に足る男だ、構わずとも良い。名があれば、只人のアレックスでいるよりマシであろう。早く私の後ろ盾が要らぬ一人前の男になり、カガリの横に立ち支えてやれ。いいな、アレックス。与えてやれる時間は僅かしかないぞ≫

息をこくりと呑む。
ギナの命のリミットはたった2年。
それまでに力をつけなければ、今度こそ自分達は彼の庇護を失うのだ。
長姉ミナがどんな女なのかは知らぬが、噂では好戦的な人物だと聞くし、ウズミの手駒を逃れられても、彼女に利用されるようでは元の木阿弥だ。

だがサイの顔は、ますます険しく強張っている。

「あの、僭越ですが発言を宜しいでしょうか?」
「ああ」
「カガリさまはギナさまと駆け落ちなさったのですよね」
≪表向きはな。私とカガリの関係は、二年前に終わり、今では見ての通り仲の良い兄妹だ。愛人はそこのアレックス、一緒に離宮で生活を共にし、将来結婚を誓った仲だ≫

マスメディアを巻き込んでの駆け落ち騒ぎは、TVで今も華々しく放映されている。
それが茶番劇だったと知れば、それは驚くだろう。

≪よいか、お前は放逐されたのではなく、大抜擢なのだ。将来カガリが代表首長の座につくのは確実、その時アレックスの身分がただの愛人か夫かで、お前の人生も雲泥の差になるだろうな。愛人のただの秘書で終わるか、国政を担う大臣や宰相の補佐官の地位を得るかはお前次第だ。また2人の間に子ができ、その者が玉座に座る時、おまえ自身が宰相の地位につく事も不可能ではない。アーガイル家の総力を持って、せいぜい励め≫

「は!! 若輩者ですが、ただ今より誠心誠意を込めて、アレックス様にお仕えいたします。ただ学内外では自然な友人を装う為、必然的に無礼な口となります事、了承下さいませ」

サイは、元々野心ある少年だったのだろう。
ギナの上手い煽りに乗せられ、己の欲望で目の色が変わっている。

判りやすすぎる男に一抹の不安は拭えないが、アスランがカガリに捨てられない限り、見限られる事はなかろう。
どんどん未来へのレールが勝手に組み立てられていく気がしないでもないが、何も持たない今の自分に、ギナにあがらう術などない。


≪それから、ヘリオポリス工業カレッジへ編入試験の願書を提出しておいた。専攻はキラが情報処理、アレックスが機械工学。試験は2週間後、5科目の筆記と実技がある。1000ポイント中800取れば合格だが、ここの学園長はミナだ。もし落ちれば、早速アレックスの養子話が立ち消えるかもしれぬ≫


「「はぁ!!」」


キラとサイ、2人揃って、ムンクの叫びである。
確かにキラはカレッジに行きたいと言っていたが、早すぎだろう。
しかも、サイの目がギンギンに光っている。
当たり前だ。
自分の栄光がかかっている男が、いきなりスタートで躓けば、己の野望もへったくれもない。


≪どうしてもと言うのなら、予め試験問題を教えてやるが≫
「兄さま優しい♪ 是非是非♪」
とはしゃぐキラの脳天に、アスランは拳を垂直に振り下ろした。

「痛い〜!!」
「お前の頭は何の為にある? 卑怯な真似しなければ入れないような学校など、授業についていける訳無いだろう!!」
「うううう、アスってば真面目すぎ」

≪では入試の過去問題を5年分送ろう≫
「お願いします」

ふかぶかと頭を下げる真横で、キラがパタパタもがいている。


「無茶!! ギナ義兄さま、たった2週間だよ? できる訳がない!!」
「やってみないうちから諦めるな」
「でも!! あうっ、ギナ義兄さまぁぁぁ!!」

騒いでるうちに、時間切れになってしまったようだ。
ブラックアウトした画面に泣き言を言っても、当然ギナに届く訳がない。

「諦めろ、カガリ」
「ううううううううう」

キラには一生言えないが、時間は2年しかないのだ。
一分一秒たりとも、無駄に自分達を甘やかしている暇などあるものか。


「ではアレックス様、私は2週間後にヘリオポリスに戻ります。無事試験を突破なさる事、心から願います」
「君は、今からボランティアに参加なんだよね」
「はい、ですが不都合がおありなら、直ぐに棄権してまいりますが」


眉間に皺がよりそうになったが、ポーカーフェイスで乗り切った。
昼間、目を輝かせていたトール、ミリアリア、カズイの顔が脳裏を横切る。
それにサイは、彼らのチームのリーダーだった筈。

「もし棄権するとしたら、俺と彼女の事は、皆にどう説明するんだ?」
「何も。関係者に口止めてあった、名簿に無いイレギュラー2人の存在を明るみにすれば、即失格扱いになります」
「という事は、君は昼間、俺達2人がサポートした件を、ばれていながら揉み消したと解釈していいのかな?」
「はい」
「からくりを聞いていいか?」

「私のゼミの教授、【カトー博士】はこの世界では権威です。また、今大会の大口スポンサーの筆頭企業に、モルゲンレーテの名があります。ヘリオポリス工業カレッジは、この会社が設立した大学です。カレッジと企業が売名の為に送り込んだチームを、棄権でもしない限り失格などありえないでしょう」
「……売名……、そういい切るのか?」
「はい、俺は確たる見返りがなければ、純粋な行為などありえないと思っております。トール達だって単位が欲しいから参加した。企業や大学だってクリーンなイメージが欲しいから、こんなボランティアを企画し、学生を送り込んだ。たった2週間作業したぐらいで、一体デブリの何が片付きますか? このような大会、自作自演の狂言と言わず、何といいますか?」

「君は実に合理的だよ。だが、人の想いはそんな割り切れるものなのか? ここにいるカガリがお前達を宇宙に送りたいと思って協力したのは善意だった。トール達が乗船権利を得たいと頑張った6時間の熱意と情熱、それを君は一緒に参加していながら、己の都合で踏みにじってもいいと言うのか?」
「はい、私の第一は貴方と決めました。必要だと判断すれば、全て捨てます」

この男も筋金入りだ。
曖昧な情に流される事はない。
ギナが差し向けただけあって、役に立つのは確実だが、アスランは今のままの彼を好きになる事はないだろう。
だが、利害が絡む限り、サイが裏切る事は絶対に無い。

「俺に仕えてくれるのはヘリオポリスからでいいから、このまま皆とボランティアに励んでくれ」
「必ず試験に通ると約束してくださるのなら行きます。自信がないのなら、私はここに残って試験日まで貴方に協力いたします」

こいつならきっと、ギナが送ってくれる過去問題の中に、事前に取り寄せた試験問題を紛れ込ませるぐらい、平気でやるだろう。
キラは楽チンと大喜びするだろうが、アスランはそんな卑怯な真似は嫌いだ。

「見縊るな、失望はさせない」
「では、アーガイル家の連絡先はこちらです。何かあったら即お知らせ下さい。何処に居ても駆けつけますから」

サイはヘリオポリスとオーブ本土のアドレスとコールナンバーのメモを残し、一礼して帰っていった。


「……なんか、昼間と物凄いギャップがある人だったね……」
「お前、突っ込む所は其処かよ。俺一生あいつに付きまとわれるかもしれないんだぞ」
「んー、でも、アスランには丁度いいかも」
「はぁ?」
「だって君ヘタレだし、感情的だし、優しいし、アレぐらい損得きっちり考えられる人が補佐についた方がいいかも」
「お前、やっぱり俺に喧嘩売ってるな」

アスランは頭を抱えてへたり込んだ。
恋人に【頼りない】と暗に言われ、凹まない男はいないだろう。

当面、キラから頼もしい恋人と思われる事が、彼の一番の目標となった。

≪トリィ……トリィ……≫

落ち込んでいるうちに、ギナからメールが到着したらしい。
流石彼は仕事が速い。
トリィが嘴で突付いていたパソコンを開けば、大量のフォルダーが現れる。


一教科2時間×5科目×5年分。
単純計算しても、解くだけで50時間だ。

キラがタウン情報誌を腕に抱き、じと目で恐る恐る見上げてくる。
「ねぇアス、明日もデートするんだよね? そう約束したよね?」
「お前な、保留に決まってるだろ」
「うわああああああん!! シューティングゲーム、また対戦してくれるって言ったじゃない!!」
「過去問題一通り頭に詰め込んだら、いくらでも遊んでやる」

人間、甘やかすだけが愛情ではない。
また朝のように、やけ食いに走っての現実逃避を防ぐ為、ルームサービス注文用の端末もしっかりと取り上げる。

ぐずるキラの頭を丸めた情報誌でしばきつつ、アスランのスパルタ学習はスタートを切り、こうして2人の甘い休日は、僅か1日で終わりを告げた。

Fin

08.04.03



白アスと姫キラ、どんどんギナの手駒になるべく染められてます(涙)
早く気づけよ( ̄― ̄)θ☆( ++) 

騙されまいと思っても、人間って簡単に罠に嵌るんですよね。
彼ら2人は、2章2話目から再登場予定です。

さて、次からはやっと白キラとレイちゃんv
1章ラストのお話は、待ちに待ったメンデルなので、頑張って盛り上げます。ファイトーv

……黒アスランの出番は?  サッキガ・・・ ( ̄  ̄!)\(▼ ▼メ)


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