綺麗な恋じゃなくても 9
本当は、ずっと生きるのが苦しかった。
ジェネシスでの殺戮は、父だけのせいじゃない。
撃ち殺してでも親を止められなかった自分にも責任がある。
話せば判ると期待して説得に向かい、拒絶されて決別した。あの時の甘さがジェネシスの発射へと繋がったのだ。
自分の目の前で何千万人も一瞬で死んだ。光に飲み込まれた一方的な虐殺を目の当たりにし、罪の深さに慄き、償う方法を模索した。
結果、どうしても自分は死ななきゃならなかった。
それ以外に、罪を償う方法が思いつかなかった。のうのうと生きるのが苦しくて、あのままなら自分を追い詰めて発狂していただろう。
だから、ジャスティスで自爆して、殺戮兵器を壊す事は贖罪だ。
自分が望む救いになる筈だった。
――――キラ、愛している。お前は生きろ―――――
どの口が言った?
自分は確かにキラを愛していた。だが、生き延びて最愛の彼女を幸せにするより、苦しい現実から、一人だけおさらばする道を選んだ。
こんな最低な男なんか、何の価値もない。
だから……このまま……、眠らせてくれ…………。
―――――俺を……忘れて……お前は……幸せ……に………な…れ――――――
―――――……キラ……―――――
☆☆☆☆
目尻に溜まった涙が一滴、アスランの頬を伝って流れ落ちた。
瞼を開けば、壁紙も貼られていない無機質な金属製の天井が見える。
暗い部屋、それに一畳ぐらいしかない固いベッドは埃っぽくて、空気が淀みオイル臭い。
頭の中は靄がかかったように朦朧とし、目覚める直前まで誰かに謝っていた気がするのに、何一つ思い出せない。
「……俺は、一体………?…」
「起きたか、馬鹿者が」
低い艶やかな声に首を傾げて上目を向ければ、サイドテーブルにノートパソコンを置き、付き添い用の椅子に座った不機嫌な黒髪の麗人を見つけた。
ギナだ。
「なんでお前がいる? ここは何処だ?」
「御挨拶だな。この潜水艦は私の所有だ」
居て何が悪いと言いたげな彼に、上手く働かない頭で小首を傾げる。殺風景だとは思ったが、何故そんなものに自分は乗っているのだろう。
だが、頭を倒した途端、アスランは体中に走る鈍い痛みに眉を顰めた。
「……い……つうぅ……」
「貴様の自業自得だ。あの高さでは、いくら水面に落ちても生身でコンクリートに激突したようなものだぞ。打ち身で済んだ幸運を喜べ。もし少しでも岩盤に引っかかっていれば、お前の命は無かった」
(そっか、俺…海に飛び込んで……)
ようやく、思い出したくもない記憶と現実が繋がった。
「俺、……死ねなかったんだ……」
キラの重荷になるぐらいなら、いっそ消えてしまいたいと願ったのに、助かってしまうなんて情けない。
「恨みがましい目で私を睨むな」
そんなつもりは無かったのだが、無意識とは恐ろしい。アスランは眉間に寄った皺を指の腹で撫で付け、天井を仰いだ。
「どうして、俺を助けた?」
「偶然だ。私が手配した傭兵が、海中で待機していたのだ」
「放っておいてくれれば良かったのに」
ギナはアスランの襟首を掴むと、荒々しく手繰り寄せた。
「悲劇のヒーロー気取りで浸るのは勝手だが、どう責任を取るつもりだ? 貴様のお蔭で私の策は大崩れだ」
細く形良いアーモンド型の目が吊り上り、口紅をひいたように真っ赤な唇が弓を描く。乱れた黒髪とあわせるとまるで鬼女だ。
彼から本気の怒りを感じ、アスランはこくりと息を呑んだ。
ここでキラのように頑張ってボケれば、彼は激怒して撃ち殺してくれるかもしれない。
(……って、あいつは、そんな性格じゃないだろう…?……、俺、一体何を考えているんだ?)
頭が絶対呆けている。
アスランはふるふると首を横に振り、変な妄想を打ち消した。
「キラは?」
「半狂乱のまま、お前を追って飛降り自殺を図ろうとしたのでな。私の目の前でトダカが当身で眠らせ、離宮に連れ帰った。今頃、厳重体制で監視されているだろう」
「そうか」
「それだけか?」
大きく息を吐き、目を瞑ったアスランの頬を、ギナは軽く叩いた。
「お前が自棄を起こさねば、キラと二人纏めてカグヤに向かい、秘密裏に月まで逃がすつもりだった。なのに貴様ときたら、たった一度のチャンスを無駄にした。貴様は今後、キラをどうする気だ?」
「…どうもしないさ、俺はこのまま消えるだけだ…」
「ではこのまま、あれをブルーコスモスの盟主にくれてやるのか?」
アスランは目を反らした。
「俺にどうしろって言うんだ? 俺はキラの為にならない、傍にいちゃいけない存在なんだ」
ギナは腕に力を込め、ぎりぎりとアスランの襟を絞った。
「お前は、何もしないでみすみすキラを諦めるとでもいうのか?」
「仕方ないじゃないか。俺は身代わりで、キラはプラントにいる本物と俺を重ねているだけだ!! キラを心配できる立場でもない」
「私は、お前の気持ちはどうなんだと聞いているのだ。キラが好きなのか、嫌いなのか?」
「判らないさ。関係ないだろもう!!」
アスランが腕を振り回してギナの束縛から逃れようとしても、体格の良い彼の方が力は上だ。
しかも痛めた体は所々軋み、襟首を掴まれているアスランは、顔を背ける事も許されずにギナが成すままだった。
「お前はキラが嫌いか?」
「判らない」
「体の不自由なお前を、2ヶ月も必死になって世話した彼女を愛しくないのか?」
「判らないって言っているだろう。もう、俺をほっといてくれ」
「そうして、お前は一生逃げ続ける気か?」
「それがどうした、俺はクローンだ。いくらでも取替えが利く作られた存在だ!! 気に入らなければ廃棄処分すればいいじゃないか!!」
一瞬の沈黙後、ギナの纏う空気が凍った。
触れれば氷ついてしまう程の寒々しい眼差しで、彼はアスランを睨みつけた。
「……クローンは恋してはいけないのか?……」
喉の奥から迸るように、ギナの声もかすれて冷たい。
「人の手によって創られた存在なら、人間に恋してはいけないと……誰が決めた? クローンとコーディネーターとは何処が違う? どちらもナチュラルのエゴが作り出した、夢ではないのか?」
全身から滲み出る殺意に圧倒されつつも、アスランは違和感を感じた。
「……何故そんなに怒るんだ?……、貴方はもしかしてキラを好きなのか?」
ギナは鼻で笑ってかぶりを振った。
「私が愛したのはカガリだ。彼女も私を好いてくれて……、私達は恋人と呼べる間柄だった」
「え?」
予想外の言葉に、アスランは目を見開く。
「だが、私達の愛は許されなかった。何故だか判るか?」
ギナは嘲笑交じりに口元を歪めて笑った。双眸もギラギラと鋭さを増し、憎々しげに形相が豹変する。
「サハク家の御曹司とアスハ家の姫なら、オーブトップとナンバー2だろ。なら何一つ障害なんかない筈じゃ……」
「私は、姉のミナと異なり、サハクの先代当主のクローンだ。60を超えた老いぼれのな」
07.06.07
1行書いて、消して。
1行書いてまた消して…。
後10ページ推敲して終わりなのに、なんでこんなに牛歩かな?
ごめんなさい〜グスグス (><。)。。
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