綺麗な恋じゃなくても 12
5日後。
――――――カガリ姫、サハク家のギナと駆け落ち!!――――――
――――――現代のロミオとジュリエット。引き裂かれた二人――――――
――――――コーディネーターとナチュラルのロマンス――――――
――――――ナチュラルとコーディネーターの共存を謳っている国家の癖に、結局、次代の代表首長の夫にコーディネーターを認めなかったのか!?――――――
開かれた国家というのは建て前で、実際は閉鎖的だったという非難。
十数年前、プラントに駆け落ちした斎巫女『碧姫』の件も引き合いに出され、オーブの世論は、過熱していた。
≪ユウナ様、今のお気持ちを一言!!≫
≪カガリ様に対して、何かお伝えしたい事とかはありませんか?≫
≪サハク家に抗議なさったんですか?≫
≪アスハ家の回答は?≫
≪ええぃ煩い、僕は一切ノーコメントだ!!≫
ヒステリックな声で喚き、通うカレッジの校舎に駆け込もうとしても、30人以上の取材陣に取り囲まれれば、如何に警護の者がいても、ユウナは楽には逃げ切れまい。
「……凄まじいな……」
「うん、でも自業自得でしょ」
TV画面の向こうでは、連日ユウナがリポーターに追い回されている。
ギナとカガリが逃亡し、ムルタも沈黙を貫いている現在、国内に唯一留まっている彼は、格好の餌食である。
散々自分とカガリとの結婚を匂わせ、マスコミを煽り、メディアに盛大に露出したツケとはいえ、『捨てられた婚約者』のレッテルを貼られ、世間の笑いものにされている姿は悲惨だ。
「普通、メディアが新しい話題を見つけてほとぼりが冷めるまで、身を潜めるだろう?」
「だってユウナだもん。そんな事考え付かないよ、きっと」
やっぱりアホだった男に、大切なキラを渡さなくて良かった。
そう思っているのに、肝心要の彼女は、元通りに染め直したミルクチョコレート色の髪をゆらゆら揺らし、甘ったるいカスタードプリンを、せっせと頬張るのに忙しいらしく、TVなんか見ちゃいない。
思えば、今までアスランの話に打つ相槌も適当だった気がする。
「…キラ、何が気に入らないの?…」
「別に」
月に到着し、ホテルで迎えた初めての朝、戦艦の味気ない食事と異なり、折角ゆったりとまともな食事を取れるというのに、キラは食事そっちのけで豪華なデザートを盛大に腹に詰めている。
しかも彼女はアスランに断りもなく、彼がシャワーを浴びている隙に、彼の分のデザート全てを喰らいつくしてくれた。
彼だって甘いものは好きだし、キラも勿論彼の嗜好は知っている筈。なのに、あえて意地悪をするなんて、何か自分は彼女の気に障る事をしたのだろうか?
小首を傾げて考えてみるが、彼はやっぱり思い当たりはない。
拗ねているキラ相手に食べ物ごときで怒るのも大人気なかったので、アスランは結局、食後のブラックコーヒーを啜って、口の中をさっぱりさせる事にした。
「キラ、今日の予定だけど、お前、何処か行きたい所はないか?」
「ドルチェセット…え〜っと、何番だっけ?」
折角アスランが気分を変えようと、明るい提案をしているというのに、キラは無視して更にルームサービスで、ケーキセットを追加しようと企んでいる。
アスランはむっすり唇を引き結び、軽々と注文用の端末を取り上げた。
「返して!!」
「キラ、お前今ケーキ幾つ食ったと思ってる?」
「まだ9つだもん」
「もう十分だろ?」
「いいからほっといて、僕、やけ食いしてるんだから!!」
キラはハムスターのように、ぷっくりと頬を膨らませ、パタパタとアスランが頭上高く遠ざけた端末を奪い返そうと躍起になっている。
起きた時から何となく、彼女の機嫌が悪いのは知っていたが、尖った態度を延々と続けられれば、アスランだって腹が立つ。
「キラ、お前一体何が気に入らないんだ?」
「別に」
「なら何でふて腐れている? いい加減改めないと、俺だって本気で怒るぞ」
「やれるもんならやってみやがれ!!」
暴言にも驚いたが、更にキラの双眸が剣呑に尖る。
「僕の方が怒ってるもん。鈍感、ヘタレ!!」
「何だと!!」
正に一発触発だったその瞬間、トリィがぱったぱったと羽ばたき、キラの肩に舞い降りた。首を傾げ、くちばしで軽く彼女の髪を引っ張る仕種は、特別なメールが入った知らせである。
「わぁ♪ ギナ義兄さまからだ!!」
嬉々としてノートパソコンを開く彼女は満面の笑みを浮かべており、元々懐きやすい性格のキラの中で、彼はすっかりと頼れる兄に変換された。
喧嘩も一端中断し、アスランもキラと頭を並べ、彼からのメールを覗き込んだ。
『ウズミと話がついた。お前たちの護衛兼保護者を送るから、その者と一緒にヘリオポリスに行け。到着までそこから動くな』
「…え、早っ!!」
オーブでは18歳までは子供扱いだから、15歳な自分達には保護者が必要だ。
サハク家の権力が強いヘリオポリスに住めるのは安心だが、掲示された護衛の名前に、アスランは目が点になった。
『マコト・トダカ 一佐』
「キラ、トダカさんって、アスハ家寄りの軍人じゃなかったっけ?」
「うん、僕もびっくり。来るならサハク関係者だと思ってたし」
キラの為に、多大な犠牲を払ったギナだ。彼に限って、今更彼女をアスハ家に売り渡すとは思えない。なら、トダカの方がサハク家に鞍替えしたのだろうか?
だが、あの誠実で朴訥な左官が、簡単に陣営を変えるとは思えない。
「ったく、あの人は言葉が足りなさ過ぎる。俺じゃあ何考えているんだか、解らないぞ」
「うううう……、僕だって。義兄さまってホント、不思議な人だよね……」
頬杖をついて画面を隈なく見たキラは、やがて大きく溜息をついた。
「トダカさんはいい人だけど、護衛っていうより監視っぽくない? 固いし、一人身だし、もし一緒に暮らす事になったら、僕、アスランといちゃいちゃできなくなるかも」
「え、でも俺達『夫婦』になるんだろ?」
「ヤ・ダ」
「ええ、だって次のIDカードはそうゆう設定になるって……」
キラはぷっくりとほっぺたを膨らませた。
「あのねぇアス、 僕、君が薄々デリカシー無い奴って思っていたけど、僕の乙女の夢をなんだと思ってるの? いきなり恋愛も婚約も結婚式もすっ飛ばして夫婦ってどう? 僕、まだ15歳だっていうのにさ、夢も希望も無い訳?」
「あ……、そういう事か……、良かった」
キラが、自分が嫌なのではなく、ちゃんと段階を踏んでアスランのお嫁さんになりたいのだと知り、彼はホッとしてにっこり笑った。
そんな姿を見て、キラはますます大きく溜息をつき、何故か彼の胸ぐらを引っ掴んだ。
「アス、どうしてそこで安堵するのかな?」
「え?」
「もう、やっぱり君ヘタレ〜!!」
キラは涙目になって、ガクガクにアスランを揺さぶりだす。
「大体さ、駆け落ちしたんなら、やっとホテルで2人っきりになれたら、そのまま盛り上がって初夜に雪崩れ込むのが普通じゃない? なのに昨夜は「疲れただろ、お休み♪」って、僕の唇に軽くキス一つ落としただけで、べッドも別で眠っちゃってさ。僕のドキドキと覚悟をどうしてくれるの? アスランなんか、大っ嫌いだ!!」
頭をシェイクされつつ、アスランはキラの言葉を脳裏で反芻する。
数秒後、彼の顔はみるみる赤く染まった。
つまりキラが朝から不機嫌だったのは、自分が手を出さなかったからで、裏を返せば『いつでも襲ってOKよ♪』と、許可をくれているのである。
据え膳食わねば男の恥。
だが、悲しいかな……アスランにその経験は全く無く、知識も怪しい。
そして彼は、完璧主義でもあった。
「あの……、キラ……じゃあ今夜までに……、俺、頑張るから………」
独学で、彼女を気持ちよくさせる手管をマスターするのには、1日あれば足りるのだろうか?
自信がなく、今度はリトマス紙のように、蒼白な面持ちで後ずさるアスランに、キラはますます据わった目で睨んでくる。
「こうなったら、実力行使? 僕、ホント情けなぁ……」
「……な、何企んでいるんだキラ? 視線がとっても怖い……んだが……」
「ふーん、ヘタレでも勘だけは良かったんだ」
語尾が窄む彼に、キラはにっこりと笑った。
「決めた。トダカさんが来るまで後僅かだけど、進展しただけが僕らの関係ね」
「え?」
またキラが、何か突拍子もない事を思いついたらしい。
「だからキスどまりなら、僕らはトダカさん家の姉弟で決定。恋人、もしくは婚約者扱いに格上げして欲しいなら、僕に対してそれなりの態度を示してよ」
つまり【さっさと襲え】
流石に露骨に抱けと迫るのは悲しいので、キラは暗に言葉を隠したのだが、気の毒な事に相手が悪かった。
アスランは、みるみる内に顔を蒼くさせ、キラの腕を振り払い、踵を返して駆け出そうとする。
だがキラに、はしこくアスランの襟首は引っ掴まれた。
「僕にここまで言わせて、何処行くの?」
「俺…、し…仕事を探してこなきゃ…」
「はぁ?」
「だって婚約だろ? 普通指輪は給料の三ヶ月分だって言うし……、俺財産無いから……、トダカさんが来るまでに、頑張らないと間に合わない……」
不安げに腕を組み、眉を顰めて考え込む彼は天然で、キラの目が点だ。
アスランがこんな純真な男だったなんて、信じられず、今までどうやって暮らしてきたのかと、彼女は益々不安になった。
このままでは、いずれ変な女に寝込み襲われても気づかなさそうだ。
「このヘタレ!!」
勢い良くアスランの後頭部をしばき倒したキラは、褒められこそすれ、貶される謂れはない筈だ。
「……痛いよキラ……」
「僕は物なんて何も要らないの。君だけが欲しいんだ!!」
キラがアスランの襟首を引っぱり、ベッドに飛び乗った。
しかも彼を仰向けに倒すと、腹に馬乗りになり、ぷちぷちと彼の上着ボタンを外し、見下した。
そして、頬を赤らめ口を固く引き結び、潔く己のシャツのボタンを外す。
白いブラも自分で取り去り、滑らかなでささやかな胸を曝け出し、いい加減心を決めろと、彼に無言のメッセージを飛ばしてくる。
なりふり構わず捨て身で来たキラに、アスランの喉がこくりと鳴った。
「キラ、本当にお前、俺みたいなクローンでいいの?」
「……不安なら、何度だって言うよ。僕は君でないと嫌だ。もう、君だけが僕の『アスラン』なんだから。……君の代わりなんて何処にも存在しない、愛してる……」
恥じらい、震えながらたどたどしく言葉を紡ぐ彼女を抱き寄せ、アスランは噛み付くような口接を落とした。
「……俺も……、愛してる……、キラ……」
綺麗な恋じゃなかった。それこそ、他の男の身代わり扱いで始まった恋だった。
だが、今、自分が目の前の彼女を想う気持ちは本物だ。
キラは自分のものだ。
もう過去なんて関係ない。
アスランは、キラの全てを手に入れた。
☆☆☆
サハク本家のギナの私室に、キラ達からのメールが届いた。
深い椅子で長い足を組んだまま、頬杖をついたギナは、ゆうるりとパソコンの画面を眺めた。
『了解。お疲れでした、義兄さま♪』と綴られた題を見て、開く前からギナは笑みを零した。
「……全く無邪気な娘だ。素直なのは美徳だが、この騙されやすさは危険か……」
いくら世論を煽っても、次期国家元首となる筈の姫が駆け落ちなど、到底野放しにできる行為ではない。それが許されたのは、ギナが浚って逃がす前に、とっくの昔にウズミとの間に密約ができていたからに過ぎない。
ムルタが相手では、ユウナごときに太刀打ちできないのは最初から判っていた。だが、素直にブルーコスモスの盟主を婿に迎えるなど、国的にもできる筈もなく、花嫁となるカガリが消えるのがベストだ。
初めはテロを装って表舞台から消させ、ユウナとの間に娘を生ませる案もあったらしい。
姫巫女になれる少女は、もうキラだけではない。
失われた筈の碧姫の娘……アステールが生存していたのなら、彼女やその娘でも務まる筈。だが本物か未だ判断がつかない以上、キラに無理強いして死なれれば、困るのも現状だ。
だが、駆け落ちし、オ―ブにカガリが居ないのなら、アズラエルの婿入りは不可能となる。
ギナが動いたのは、ウズミに恩を売る為だ。サハク家にはミナがいるし、彼など表舞台から消えても問題はない。
―――――だが―――――
「ギナ、貴様クローンの分際で、何を勝手なことを!!」
怒りも露わに、現れたのはミナだった。彼女は先月からフローズンゲート建設の為、ずっと地球から離れていたのだが、流石に今回の事件には気づいたらしい。
「私の影なら影らしく、余計な事を……」
「やれ」
彼女の背後にいたソキウス二人が、ギナの命令に従い、同時に銃でミナの左右の足を貫いた。
前のめりに倒れたミナは、我が身に一体何が起こったか判らず、唖然として己の背後を振り返っている。
ロボトミーされたコーディネーター二体が、自分を裏切る筈はない。見下していた紛い物の実験動物風情が、自分に逆らうのはありえない。そんな表情がありありと顔に出ている。
「……こんなことをして……、貴様ら……ただで済むと思うなよ……」
「さよならだミナ」
構えたギナの小銃が、正確に彼女の心臓を貫いた。
冷静に、自分を支配してきた姉の最期を見届けたギナは、くつくつと喉を鳴らして笑い、ゆうるりと温かな死体に歩み寄ると、撃ち抜いた胸から流れる赤い血を指で拭った。
己の唇に口紅の代わりにひき、鏡で見る。
髪の分け目でしか見分けがつかない程、彼女と自分は瓜二つ。
「私がお前でも、代わりはあるまい」
完璧に姉を演じてきたのはこの為だ。数年かけて支配力を延ばし、準備してきたクーデターの結果、既にサハク家は手中に収め、自分に逆らえる者など一人もいない。
「それを処分後、アズラエルの行方を徹底的に捜せ。奴をボストンに生きて返すな」
「「はっ!!」」
ソキウス2人が、同時に首を縦に振る。
姉であったものの塊が運び出されていく中、彼は椅子に座りなおすと画面を見た。
キラから届いたメールをようやく開けば、白髪の男と、本来の髪の色に戻れた少女が寄り添いながら、幸せそうな笑顔を浮かべている。
《貴方にはどんなに感謝しても、し足りません。いつかこの恩は必ず返します》
《僕、オーブで僕の幸せを気にかけてくれる人がいるなんて思わなくて、何も知ろうとしなかった。今からでも取り戻せるよね。僕、ギナ義兄さまに何かあった時、僕は必ず力になるから。大好きだよ♪》
薄い唇を吊り上げ、ギナは喉を鳴らして笑った。
市囲育ちといっても為政者の娘、なのになんと騙されやすい事か。カガリが自分のかけがえのない恋人だったのは本当だが、会ったことの無い妹など優しくしてやる価値などない。あるとすれば手駒を欲しての事。
今後もベタベタに甘やかしてやるとも。彼女は大切な『餌』だ。
「私が欲しいのは、偽者の首ではない」
薄暗い目で、プラントの式典映像を呼び出す。
桃色の歌姫ラクスと一緒に、アステールを抱きかかえて退場する仇の姿がエンドレスで流れている。
奴の姿を見る度、ギナの瞳は憎しみに歪む。
沸騰する憎悪に、この身が焼かれそうだ。
「プラントのアスラン・ザラ……、貴様だけは、この手で………」
―――――あやつには、この世の全ての絶望こそが相応しい――――
Fin.
07.07.02
白アス、やっと喰われたか(マテ( ̄― ̄)θ☆( ++) )
長かった〜。
長かったよ〜(号泣) 黒アスランの宿敵になりうるかどうか……、ギナ、頑張れ♪←オイ( ̄― ̄)θ☆( ++)
この話がどうしても決まらず、書くに書けなかったから。
しかし、白アスラン……ここでも印象薄すぎ?(号泣)
白アスと姫キラは2章2話目から活躍(?)します。
次は可愛いレイちゃんのお話ですv
ミカルはワンコな彼が大好きですv
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