新人の試練 








最高級のプロテクトが施された扉の鍵を、繋げたパソコンを駆使し、ダミーデーターを送り込んで開錠を試みる。
取り掛かってから既に30分が経過しているにも関わらず、一向にシステムを騙すきっかけすら掴めない。
ラスティは、オレンジの髪を掻き毟った。

「畜生、一体これどうなってる訳?」

今期の士官学校を、5位で卒業した赤のプライドもある。ましてや、この手のピッキングは、手先が器用なだけに自信もあった。楽勝だと嘗めてかかっていただけに、ラスティのイライラはますます募る。

「キラのプロテクトは、アマルフィ議員直属の研究ラボでもトップクラスだ」
「…それってさ、俺達じゃ突破は絶対無理ってことか…」
「俺は問題ない。キラからどんなプロテクトでも開けられるプログラムを貰っている」

3つ年下の先輩ザフト、レイ・ザ・バレルが無表情のまま、ポケットから一枚のディスクを取り出した。
そして、ラスティのハンディパソコンを受け取ると、スロットルにそれを差し込み、黙々と細かなキーボードを叩く。
彼に主導権を手渡して僅か15秒、システムがレイに騙されて、難攻不落だった扉の鍵を厳かに開錠した。
ラスティが俺の三十分返せと怒鳴りたくなっても、不思議ではないだろう。

「こらっ、だったらてめぇ、なんでもっと早くそれを出さない!!」
「聞かれなかった。大体、今回の作戦は、お前に主導権がある」

14歳の少年に『お前』呼ばわりとは。
ラスティの額に、冷や汗が流れ落ちた。

「……なぁあんた、性格結構悪くねーかって言われないか?……」
「いいや。キラには、『誤解を招きやすくて心配。でも目が離せなくて可愛いい』と。ミゲルには『キラのコバンザメちゃん』、ハイネには『キラの犬っころ』と言われている」
「真顔で胸張るな。お前絶対変だ!!」

レイが煩そうに唇に人差し指を当てて睨みつけてくる。

「お前のミッションだが、俺も世話役として参加している以上、失敗はゴメンだ。ターゲットに異変があったら、どう責任を取るつもりだ?」

そう、ここからは極力静かに行動せねばならない。
ラスティは己の不運を呪った。


(これが、憧れのアマルフィ隊なんて…俺の夢、返せ!!)





―――――今から調度一時間前のこと――――――



白きアテナが率いるアマルフィ隊は、結成されてまだたったの半年である。だが彼女が率いるモビルスーツ部隊は、ZAFT軍の『戦勝』『戦功』『生存率』の記録をことごとく塗り替え、その勢いは他の隊の追従を許さず、独走態勢に突入している。

またモビルスーツのOSの開発も、自ら手がける隊長だ。隊に与えられる機体は開発グループに属する者の特権として、常に最新機である。
また部下を可愛がると評判のアマルフィ隊長の事。余程のヘマをしない限り、栄転はあっても左遷や転属はない。有能な上司、そして隊長に臆することなく意見を通せる優秀な副隊長と参謀、ユーリ・アマルフィ議員が率いるMS開発ラボのバックアップ、そして強力なモビルスーツ、ここまで環境が整っていて戦功を立てられない奴は、余程のマヌケである。

この隊にパイロットとして配属されれば、自分の未来は約束されたも同じとあれば、誰だってここに来たいと望む筈。だが、この隊は赤服を身に纏った者しか取らないことでも有名だ。


そんな皆の羨望を一身に集め、高いハードルをクリアして、今期配属されたパイロットの一人……ラスティ・マッケンジーは、期待に胸を膨らませて、袖を通したばかりの新品の赤服を身に纏い、颯爽と戦艦ガモフに乗り、隊長室に顔を出したのだ。




★☆★


「ようこそオレンジ隊へ♪」
「こら、早速ポカやりやがって!!」
「あうっ!!」


ガモフの隊長室に着任の挨拶に訪れたラスティの前で、天然ボケなアステール・アマルフィの無邪気な一言に、彼女の頭をオレンジの髪の青年が思いっきり叩く。
聞きしに勝るフレンドリーな隊なのは嬉しいが、自分がこの隊にスカウトされたのは、この橙色の髪のお蔭だと、なんとなく気づいたラスティは、遠い目になった。

「改めて、アマルフィ隊に良く来たなラスティ。俺はハイネ・ヴェステンフルス、一応こいつの参謀だ、宜しくな♪」

軍では『灼熱の疾風』と二つ名を持つ彼だが、ザフト一女っタラシでも有名な男だ。同性の自分でも尾てい骨にくる低重音な囁きに、ついついホモでもないのに顔が赤らみそうになる。

「じゃ、今からお前の歓迎会だ。ついて来い」

ハイネに親しくポンと肩を叩かれ、ラスティは流石に戸惑った。

着任の挨拶の後は、まずはガモフ艦内の案内とかローテーションの説明とか、職場の皆への挨拶周りが普通ではないだろうか?

「あ、あの…ヴェステンフルス…参謀? アマルフィ隊長?」
「渾名は『キラ』だよ。僕の名前お星様って意味だからそう呼んで♪」
「ハ・イ・ネ。俺も堅苦しいのごめんだから、呼び捨てにしろ。それよりキラ、お前は来るな」
「なんで!!」

途端、今まで朗らかに、カルガモのようにハイネの後ろにちょこちょこくっついてきた隊長が、ぷっくりほっぺを膨らませる。
そんな彼女の額に、ハイネがにこやかにデコピンをかます。

「スケジュール表を見てみろ。お前は仮眠の時間だろ。昨日だって割り当てられた睡眠時間にネットゲームなんざしやがって、俺にバレてねぇと思った? 目の下隈くっきりよ、みっともねー」

おでこに手を当てたまま、キラはみるみる涙目になった。

「ううう…、ズルイ…、僕だけ省けにして皆で楽しむなんて、酷いぃぃぃ」
「ほれ、睡眠導引剤。いい子だから1〜2時間寝ろ。その後でパーティーに参加すればいいだろ。大丈夫、食堂のおっさんには話しつけてある。アイスクリーム盛り合わせとチョコレートケーキ、ちゃんとお前の分は残しといてやるから」
「ううう…、絶対だよ〜!!」

ハイネが錠剤を2粒取り出し、キラの口にポンと放り込む。
隊長は素直に疑いもせずに飲み込んでいる。ザフト一女タラシと有名な男から、睡眠薬を平気で貰って……、危なすぎやしないかと、初対面なラスティでも心配になってくる。
その後も当たり前のように口を開けているから、一体何かと思ったが、どうやら口直しの催促らしい。
ハイネが普通に、ポケットから一口チョコレートの包み紙を開き、餌付けしている姿に目が点になる。

「ちゃんと着替えて寝ろよ。制服に皺ができるとみっともねーから」
「はーい♪」

ばいばいと隊長ににこやかに手を振られて、執務室を出る。正直、ラスティは今、心中穏やかではない。

「あの〜、俺って本当にアマルフィ隊に配属されたんですよね? そう言えば、アスランやニコル、ディアッカ、イザーク達は何処に……」
「今回の配属はお前だけだけど」
「ええ、嘘でしょ!!」
「まぁ、あいつら議員の息子も立派にプロパガンダだからな〜。最高評議会的に、色々準備があるんじゃねーの。キラはしっかり申請出してたし、その内来るっしょ?」


ラスティの目が細くなった。
士官学校に入った時から、赤を無事取れたら、100%この隊に配属されると決まっていた4人だ。なのに実弟のニコルですら姿が見えないなんてありえない。
やっぱり自分は騙され、からかわれているのではないかと、ラスティは不安になってくる。


「あの〜、俺の歓迎会って何処でやるんですか?」
「ああ、食堂だけど。でもまずパイロットだったら自分の機体って見たいだろ、なぁ?」

ハイネは口の端を歪め、ニヤニヤ笑っている。腹に黒いものがありそうで、ラスティは油断なく身を引き締めた。
両親が離婚し、母方に引き取られたからあまり知られてはいないが、ラスティとて最高評議会議員の子息である。あまり無様な真似を曝せば、父の顔にドロを塗る。
腹を括れば、同年代の男に比べ、駆け引きは強い自信もある。

そして、彼はハイネに促されるままモビルスーツ・デッキの扉を潜った。
狭い通路から一転、ビルのように聳え立つモビルスーツの群れに、彼も一瞬で目を奪われた。

「……すっげぇ……」

中央に立つ『白きアテナ』の専用機フリーダムは、フェイズシフトしていないから、鉄灰色にくすんでいる。そしてそれを囲むように立つ、色鮮やかな四体のオレンジの機体。
そのうちの一機…肩にペイントされた髑髏のマークを見つけ、あれが有名な『黄昏の魔弾』のジンかと、ラスティは憧れの目でうっとり眺めた。

「ああ、あの趣味の悪い髑髏のが、これからお前専用の機体だからな。好きな絵柄をペイントしてもらえ」
「はぁ!!」

ハイネの軽い口調に、ラスティの高揚とした気持ちは一瞬にして萎んだ。黄昏の魔弾の愛機を、なんで配属されたばかりの新人に宛がえられるというのだ?
(……こいつ、絶対俺をからかっている……)


「うわっ〜ひでぇよ先輩!!」


荷運び用のエレカを運転しつつ、二人が立っている脇に綺麗に車を止めたのは、蜂蜜色の短い髪をした軍人だった。
今だ衰えを知らぬ、ZAFTの女神『白きアテナ』ブーム。マスコミに全く顔を出さない隊長に代わり、アマルフィ隊の広告塔とスポークスマンを買って出ている『ミゲル・アイマン』は、今や爆発的に売れているロック・ミュージシャンでもある。
テレビでよく見る派手な服装と一転し、緑の軍服を着たノーメイクの彼は地味に思えたが、ラスティは知名度の高い彼の登場に、やっと自分が本当に『アマルフィ隊』に配属されたのだと安堵した。

だが。

「折角俺の機体に合うカラー持っている新人選んだんだから、勝手にペイント塗る奴なんて意味ないっしょ!! 」
(………おいテメェ……)

高揚した気分はすっかり消沈し、ラスティは冷ややかに二人を見つつ、敬礼を取る。

「副隊長、参謀殿にお伺いしたいことがあるのですが、質問宜しいでしょうか?」
「…ミゲルでいい。ここは堅苦しい肩書きは一切排除だ。それから敬語も敬礼もいらん。それがこの隊のルールだ」
「じゃあミゲル、俺が選ばれたのは…この髪の色のおかげ?」
「ああ、赤服でその毛色はお前だけだったしな」
「……はは、ははははははは………」

ラスティはちょっと、壁に懐きたくなった。
隊長室で感じた直感は正しかったのだ。

『オレンジ隊』

隊長があっけらかんと吐露したように、機体の色とコーディネートが合うからという理由で自分が選ばれたなんて、ラスティの赤なプライドは粉々だ。

「んじゃ、ミゲルの機体はどうするんです? 軍人廃業して歌手に専念するんですか?」
「アホぬかせ。誰がこんな面白い隊を辞めるか。もうじき俺と先輩用に、未公開の新型機が入って来るんだよ」
「そうそう。で、どうせてめぇ達が、好きでカスタマイズした愛機を後輩に譲るのならさ、カラーが似合う奴の方が綺麗だろ?」

(…ははははははは、てめぇらから色のコーディネートのうんちくなんて、聞く気ねーっつーの。俺を誰だと思ってんだ、コラァ)

すっかりやさぐれモードに突入したラスティだったが、子供の頃から培った、スマイル0円のポーカーフェイスは崩さない。

「だが、やっぱり新人とは言っても、ただでくれてやるのもな?」

にまっと笑うハイネは、雰囲気からして自分で遊ぶ気満々らしい。
そして、三人の騒ぎに目もくれずに、エレカの横を素通りする赤服の少年を、ハイネがはしっこく襟首を引っつかんだ。

「おい、レイ。お前も付き合え」
「??」

人形のように綺麗な少年は、無表情のまま一言もしゃべらずに、ハイネに肩を捕まれたままラスティに差し出された。

「ラスティ、彼はレイ・ザ・バレル。14歳だがキラ自らスカウトしてきたお前の先輩パイロットだ。一応俺のジンを譲ることになっている。レイ、今日からこいつがお前と同室だ。しばらく面倒を見てやれ」
「……了解した……」
「宜しくな」

ラスティの方から握手を求めて右手を差し出しても、彼は微動もせずにハイネに突き出されたまま固まっている。

「レイ、こういう場合は、ラスティの手を握るんだ」
「……了解した……」

ミゲルに言われた通り、レイは左手でにぎゅっと軽く指を握って手放した。

「違う違う、右手で握って、軽く上下に振る」
「利き腕だと、銃が持てない」
「いいんだ。ラスティは『仲間』なんだ。害はない」
「……了解した……」

ミゲルに言われた通り、彼は右手で握って、上下に一回振って直ぐに手を外した。
とても握手の意味を知っているとは思えない。やっぱり見た目同様、理解不能な不思議な少年だ。
自分より3つ年下で、しかもロボットのような彼に、今後仲良くやれるのか不安が過ぎる。

「では、早速『歓迎会の準備』といこうじゃないの♪」
「……先輩、何企んでいるんです?……」

ハイネの弾む声と裏腹に、ミゲルがじりじりあとずさりする。そんな二人の雰囲気を見れば、何かおどろおどろしい不気味さを感じる。
ハイネは上機嫌で、ミゲルにヘッドロックをかまし、自分の懐からハンディの小型カメラを取り出した。


「ミゲルは俺の着任時、大層な『歓迎会』をやってくれてなぁ。なのにレイもお前もすんなりメンバーに迎えましょうじゃ、……俺の気持ち的にはなぁ〜〜〜」

(私怨かい!!)

「先輩、しつこい男は嫌われますよ」
「うるせー、お前が賭けの胴元だ。やるぞ」
「博打はアマルフィ議員から、当分禁止食らったでしょ!!」

どうやら力関係は、副隊長よりも参謀の方が上らしい。頭を締め上げられたミゲルがじたばた暴れている。
と思ったら、レイがいきなりラスティの手を取り、すたすたと歩き出した。どうやら、この場から遠ざかろうとしているらしい。


「…おい、レイ!! お前何俺をシカトしてんの!!」
「レイ、こら!! 俺を助けろっつーの!!」

「レイ、ハイネとミゲルが喚いているけど、いいのか?」
「モビルスーツは軍の物で、個人の所有物ではない。払い下げは隊長であるキラが決めることで、ハイネに俺達が付き合う義理もない。それからミゲルの実力なら、ハイネの体術と拮抗している。ロックから抜け出そうと思えば自力でできる筈だ。しないのであれば本気ではなく遊んでいる証拠だ。俺はお前が慣れる間、面倒を見ろと命令を受けた。俺の義務はこの場合、お前をいらぬ面倒から遠ざけることだ。違うのか?」

訂正、こいつは大したタマだ。
きちんと自分の意見を持っているし、馬鹿な悪ふざけに関わる気はないと、堂々と上官を無視している。


「おーい、レイ。これから行う新入隊員へのミッションは、『隊長のセクシーショット』の激写だぞ」

ぴたっとレイの足が止まった。
そして人形のように、首をゆっくりと動かす。

「どういうことだ、ハイネ?」
「仕掛けはバッチリ……だろ、ラスティ?」


ハイネに促され、ラスティはこっくり頷いた。
「さっき隊長に飲ませた睡眠薬は、この為だったんですね」
「そうそう。いいねぇ、今年の新人は、察しが良くて♪」
悪びれずに、口の端を歪めて笑う、ハイネが悪魔に思えた。

「お前ら二人へのミッションは、「アステール・アマルフィ」の 寝室に忍び込んで、寝姿を撮って来ること。俺達二人は隊長が何着て寝ているか賭けをする。負けた方が歓迎会の二次会で、お前達に酒を奢るって訳」

ユーリ・アマルフィは娘溺愛人。その愛娘に手を出しかけたということで、ハイネ・ヴェステンフルスが着任そうそう、たっぷり議員にボコられたのは有名な話だ。
その令嬢のナイトウェアを激写。
ニコルの姉の寝姿を見る。
腹黒綿飴頭が、いつここに着任するかは知らないが、きっと呪われる。それに怖いのは奴だけではない。白きアテナに異様に執着している二人……アスランとイザークにもバレたら最後、どんな報復を受けるかわかったもんじゃない。

ラスティは全身でぶるぶると首を横に振った。
やらない、嫌だと拒絶を示しているその横で、レイが踵を返してハイネを見上げた。

「あくまで、新人の入隊儀式の一環なのか」
「おう」
「では、参謀と副隊長、連名で今すぐ正式な命令書をおこして貰おうか。後で隊長が気分を害したとき、矢面に立つのは貴方達だ。それが叶えられるのなら、俺は従う」


(マテコラおい!!)


ミゲルとハイネがにやにやと笑っている。

「はいはい、可愛いね〜レイは」
「素直に隊長の、セクシーな生寝姿が見たいって言えばいいのに、なぁ」

揶揄られて、レイはポッと顔を赤らめた。
でも、俯きつつもしっかりと、ハイネに手を伸ばし、小型カメラを受け取っている。


(いっちょ前にムッツリか、このクソガキはぁ!!)


どうやらこのレイという少年は、キラが好きらしい。
だが、寝巻きごときを想像した程度で、顔をりんごのように真っ赤にしている彼は、きっと女の子とキス一つしたことがないと、楽に予測がつくぐらい純朴だ。

(綺麗な面してんのになぁ、レイだったらそれなりな格好すれば、女なんか入れ食い状態だろうに。いっちょここはお兄さんが一肌脱いでも……)

そう思ったが、自分の知っている、いけないモデルなお姉さんの群れに放り込めば、直ぐに食われてしまいそうで危ない。
レイは真面目そうだし、感情も結構欠落している節がある。
変なことを仕込めば、最初は素直に騙されてくれそうで遊べるが、後から恨まれ、しかも簡単に人を撃ち殺しそうな狂気も感じる。



(まぁ、あの隊長だしなぁ……、ガキンチョ臭くて色気なさそうだし……)


隊長室のソファに似つかわしくない、大量に転がっていた手作りのレースクッションの山を見れば、ゴスロリのレースたっぷりなネグリジェか、リボンぴらぴらのビスチェとショーツという所だろう。
その程度なら、お子様なレイでも満足いく刺激だし、ニコルにバレても言い訳が立つだろう。

「隊長は絶対、軍支給の男物ボクサーパンツとTシャツでしょ」
「あ〜、一応もう年頃の娘だし、普通のパジャマっしょ。チェック柄か無地の」

(おい、マテコラそこの二人!!)

ラスティの予想した、ゴスロリネグリジェより、更にグレードが落ちている。
初対面の自分より、遥かに付き合いの長い副隊長と参謀だ。二人がそういうからには、きっとキラの好みは日頃から男物なのだろう。
テレテレしながらもじもじと、カメラの使用方法を独学しているレイを見て、ラスティは目頭が熱くなった。

(……駄目だこいつ、絶対奴らの会話を聞いてねぇ……)

一人、キラのセクシーショットに心をときめかせ、妄想の世界に旅立ってしまったレイが、哀れで気の毒で……、ラスティはますます遠い目になった。



そして……ラスティは、レイと一緒に隊長室に忍び込み、扉の鍵を、必死でこじ開けたのだ。


レイの持っていたディスクのおかげで、今地獄の蓋ならぬ、禁断の扉が動く――――――




隊長室と隣接したプライベート・ルームの扉が、横にスライドして開いた。

「ライト・オン」

ラスティが一言唱えると、天井のパネルが眩く光り、暗かった部屋を明るくする。
私室はベッドと小さな机、そしてシャワーブースのみしかない。
だが、流石隊長室の寝室だ。場所の限られた戦艦だというのに、個人で16uは広い。

ベッドを見ればこんもりと山になっていて、体はすっぽり埋まっている。どうやらライトが急についたのが眩しくて、隊長は毛布を頭から被ってしまったらしい。
セクシーショットを撮って来いという、命令を受けているからだけではない。初心なレイにほんのチョッピリでも、目の保養をさせてあげたいという望みもある。

(まぁ、色気ナシのお寝巻でもさ、胸元のほんのちょっとのチラリズムとか、ボクサーパンツでも、すらりと伸びた真っ白い太ももとか、探せばそれなりに艶っぽいもんある筈だし)

足音と気配を殺し、ラスティが毛布に手をかけた瞬間、突如けたたましい機械音が高らかに鳴り響いた。

「なんだぁ!!」

≪エマージェンシー、エマージェンシー、ミトメタクナイ!!≫

小さくて丸い緑色の物体が、喚き散らしながら天井高く飛びあがった。
「うわっ、最悪!!」
アカデミーでも、アスランが暇を見つけては趣味で作っていたマイクロユニットのミニチュア版が、所狭しと跳ね廻る。ラスティが黙らせようと飛び掛るが、手の平に転がせる程度の大きさの機械は、すばしっこくてなかなか捕まえられない。

そして、恐れていたことが起こった。
この騒ぎに、ベッドの中にいた隊長が、むくりと起き上がったのだ。


「もぅ〜〜、うるさいよぉぉぉ〜〜!!」

だが、起き上がった彼女の姿に、ラスティの目は点になった。


「なんじゃこりゃあああああ!!」


ふっくらふさふさとした茶色の手で、ごしごしっと目を擦る。
同色の尖った耳、なだらかな背中、そしてはだけた毛布から覗く、ぺたぺたの黒くて平たい尻尾。顔だけ残し、幼児が着るような全身を覆う着ぐるみに身を包んだ彼女では、どこにも艶めいたチラリズムなど存在しない。
予想を裏切る展開に、ラスティは貧血を起こしそうだった。っというか、こんな組み合わせ、彼では理解できない最低のコーディネートである。

「……ビーバーだな……」

レイがうっとりと目を細め、ついでに頬も染めてパチリと写真を撮る。

「………セクシー……」
「どこがだ、お前の目も節穴かぁぁぁぁぁぁ!!」


レイの間違った感性に、とうとうラスティの堪忍袋がブチ切れた。

彼はずかずかと、壁にしつらえてあるクローゼットを勝手に開けると、キラの私服を目を吊り上げつつ物色した。

「なんだこのまとまりがないのは!! ゴスロリ、トラディッショナル、ヴィジュアル、カジュアル、全然なってない!!」


キラの手持ちの服では埒があかないと判断したラスティは、勝手に引き出しを開けて物色し、大きなはさみを取り出した。

「…ふにゃ!! ……な、何!! きゃううう!!」

寝ぼけている隊長を無理やりおこし、ビーバーの着ぐるみを無理やりはいで、投げ捨てる。上下の白い下着姿にしたキラを立たせて壁に押し付けると、ラスティは彼女の頭に、未使用品の白絹100%のベッドカバーを被せた。
そして、そのままジャキジャキと布を切り裂いていく。

「ほえ? えっえっえっ!!」

ようやく寝ぼけていたのが冷めたのか、キラがじたばた暴れだす。だが、所詮女の身、ラスティの左腕は外せない。

「動くな、紙ばさみは切れ味悪いんだ。手が滑ったら、肌どころか肉まで切っちまうぞ」
「ふぇ!!」

ラスティは大人しくなったキラを立たせたまま布を切り終わると、そのままポケットにいつも忍ばせている待ち針と安全ピンを取り出し、数本口に咥えた。
今度は布にさくさくとピンをとめだしたのだ。
さっきまで一枚の単なる布だったのに、彼の手により、瞬く間にシンプルでエレガントなイブニングドレスに似た、大人びた美しいナイトウェアを形作る。

布の仮止めが終われば、もうモデルに用はない。
キラから作品を剥ぎ取れば、再び下着姿になった彼女は、あわあわと毛布に飛び込んで体を隠す。だがそんなキラに一切構わず、ラスティは勝手にベッドに腰掛けて、同じく糸と縫い針もポケットから取り出し、さくさくと並縫いで縫っていく。
もぞもぞと毛布に包まったキラが、首だけぴょっこり顔を出し、彼の手元を覗き込んだ。

「……凄い手さばきだね……」
「当たり前。俺、これでも去年、自分のブランドを立ち上げたデザイナーの端くれだぜ。俺の隊長ならな、もうちぃとまともなものを着ろ。隊の士気に関わるぞ」
「……うううう、だってこれ……僕の幼馴染とお揃いで………」
「つべこべ言うな。俺はみっともないコーディネートには我慢できないんだ。キラは素材はすっげーいいのに、なんでわざわざダサいの選んで着るんだよ!!」
「……はい……」

15分後、簡単に纏めただけとは思えない、白く光沢のある美しいナイトウェアができあがった。ラスティはキラから毛布を剥ぎ取り、即座に上から被せた。モデルの女を脱がし慣れているのか、自分の隊長だというのに、キラの下着にもビクともしない、そんな彼も結構つわものだろう。

「まだ仮縫いだから、強く引っ張るなよ。レイ、そこのヘアブラシとって!!」

短い白髪を梳かしつけ、余った布で作ったシルクリボンを可愛くキラの手首に結び、ベッドに転がす。
「レイ、ライトは絞れ。温かみのある色がいい。キラ、髪を掻くな。セットが乱れる」

壁際の姿身を引き剥がして、ラスティ自身が持ち上げる。
光を集めてキラを照らし、影を減らすのだ。そうすれば素人カメラマンなレイでも、少しはマシな写真が撮れる筈だ。
そして、キラ自身も、何がなんだかわからないまま、迫力あるラスティに命じられ、コロコロと寝転びながらポーズを取った。
こうしてセクシーな隊長の写真撮影は、立派にとり行われたのだ。





≪ちっ、あいつ捏造たぁいい度胸だ≫

こっそりと気配を殺して隊長室に忍び込み、影ながら三人を見ていたハイネとミゲルは、やっぱり靴音を立てないまま、静かにプライベート・ルームの扉から離れた。


≪ははは、奴なら潜入でコケても、自分の頭で判断できるさ。ミゲル、いいやつに愛機譲れてよかったじゃん≫
≪…まぁ、そうですが…先輩、今夜の酒は割り勘ですね≫
≪ああ、キラとレイも連れて、5人で行こうな。面白い奴が入った記念に乾杯だ〜♪≫

騒ぐ名目ができ、彼らにみつからないうちに執務室を離れようと、晴れ晴れと顔を上げた二人は、自分達の目の前に仁王立ちする人物に、浮かべていた笑顔が強張るのを感じた。

「……どうしてここに……」
「ああ、早く組みあがった新型のテストパイロットを、君達に頼もうと思って迎えにきたんだ」

今日、ユーリ・アマルフィがマイウス市のラボに戻っていると聞いたからこその暴挙だったのに、運命の神はどうしてこんなに意地悪なのだろうか。彼はおどろおどろしい笑顔を顔に貼り付け、がしっと二人の腕を引っつかんだ。

「なんでうちの娘が下着姿になったのか、じっくり話を聞きたいんだが、勿論君達にいらえはないな? な♪」

キラ絡みの悪ふざけは、二度とやるまいと二人の脳裏に横切ったが、もう後の祭りだった。


★☆★



食堂で行われたラスティの歓迎会は、手の空いている者のみの参加だったため、総勢20人しか集まらなかった。しかも、首謀者だった筈のハイネと、副隊長のミゲルの姿もない。

「……え〜と、お義父さまが急なお仕事を頼んだみたい。二人をちょっと『貸して♪』って、さっき僕の携帯にメールが入っていたから。きっと、二人の新型機がもう直ぐハングアウトになるから、微調整に皆呼ばれていったのかも……」

軍人なら、軍務優先で当たり前。だから申し訳なさそうに項垂れるキラに、ラスティは人の目を気にし、小声で彼女に耳打ちした。

≪…じゃ、それどうします? 俺とレイの『試練』≫
寝ぼけていたのと、ラスティの勢いに巻き込まれ、ノリノリで写真撮影をやってしまったキラだったが、正気に返った今は、気恥ずかしいものがあったのだろう。

≪う〜ん、僕としては……データー抹消を希望するけれど……≫
ラスティは、写真が収められているカメラを見た。キラの隣に座ったレイが、しっかりと両手で握り締め、縋るような上目遣いで、じぃ〜っとキラを見つめている。

≪……俺、欲しい……≫
≪…ううう、どうしても?……≫
レイはこっくり大きく首を縦に振った。

≪誰にも見せない?≫
彼は再び大きく何度も首を縦に振った。

≪……しょうがないなぁ……。いいよ、レイだもんね。君にあげる♪≫
途端、レイはラスティが目を疑うほど、蕩けるように目を細め、うれしそうににっこり笑った。キラも優しい目で、レイの頭を撫で撫でする。


(うわっこいつ、ホントにワンコだ)


ニコルがもしここにいたら、嫉妬で狂って暴れるのではなかろうか。それぐらいキラはレイを可愛がっていた。そう言えばレイとニコルは同い年、キラはきっと彼のことをもう一人の弟分として見ているのだろう。


(……ニコル着任早々、血の雨が降るな、絶対に……)


あの煩い4人が配属されれば、更にガモフは賑やかになるだろう。ただでさえアカデミー時代、事あるごとに、イザークとアスランはいがみ合っていたし。
けれど、それすら楽しみに思えてしまうぐらい、個性的な面々が揃うこの隊を、ラスティは気に入り始めていた。

例えオレンジ頭のお蔭で呼ばれたのだとしてもだ。
自分の容姿がラッキーだったと、素直に嬉しいと感じてしまう。


(だってさ、こんな滅茶苦茶な軍隊、ZAFT広しといえど、他にないっしょ?)


ラスティは、己の強運に乾杯した。
輝かしい自分の未来を信じて。



Fin

06.07.25




突発コメディです。当分出番のないラスティと、密かにマイブームなレイです。
オレンジ隊は月猫の命名。ついでにラスティの職業≪デザイナー≫も、月猫のアイデア、感謝姉ちゃん〜( ̄ ̄▽ ̄ ̄) ニコッ
ビーバーの着ぐるみは、郭公で出てきたアスランへのプレゼントと同じものです。
キラが後からお揃いで自分も欲しくなり、コソコソ買いにいったということで♪


余談ですが、ラスティが即席で縫ったナイトウェアは、きちんとラスティ自らちくちく本縫いし、改めてキラに贈られました。人のプレゼントを無碍にできない彼女は、結局エレガントな寝巻きを使うことに。
そして以後ラスティは、軍人をやりつつ、アステール・アマルフィを自分のブランドのイメージモデルにしたと宣伝したため、爆発的に受注が入り、ドレスから軍服まで、何でも手がける有名デザイナーとなります。

「趣味が悪い!!」とラスティに断罪され、処分を言い渡されたビーバーの着ぐるみは、レイがうるうる目でキラからちゃっかり拝領し、彼の寝巻きになりました。
ラスティは変なコーディネートが許せない男ですから、相部屋な二人は毎晩「脱げ」「嫌だ!!」「捨てろ!!」と、喧嘩を繰り広げてます(笑)

しかしこのオレンジ三人組、全員兼業(仕事二つ掛け持ちしている)軍人って?
戦争を嘗めてる。
彼らの為にも、早いところこの世界には、平和になって欲しいものです( ̄― ̄)θ☆( ++) 


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