ZAFTのアテナたる者は……  1







「よっしゃ〜♪ 僕またパーフェクトだぁ」
「かぁぁぁ、やってらんねー!!」
「ミゲル〜、ご褒美頂戴〜♪」



ハイネが銃を放り出し、オレンジの髪を掻き毟って蹲るのと対照的に、キラが真っ白の髪をぽわぽわ振り乱しながら、ワンコのようにまっしぐらに駆けてくる。
ミゲルはディスプレイに表示された真ん中を綺麗に撃ち抜かれた人型の的を確認し終えると、ポケットからキャンディを一つ取り出し、包み紙を剥いた。
口をあけて待っている彼女にポンと放ると、好きなチョコレート味に蕩けそうな笑みを浮かべてモゴモゴ頬ばりだす。

射撃訓練を嫌がってぐずったキラに、的のど真ん中に10発以上命中する毎にキャンディ1個くれてやると持ちかけたのは自分だが、駄菓子で見事釣れた上司の姿に、ミゲルはじんわり涙が出そうになった。



軍人に週単位で課せられる、単調な訓練に楽しみを見出して頑張るのはいい。
だが、人間として何か間違っている気がする。


「隊長って、ご褒美ちらつかせると、神業並みの成績叩き出すよな」
「えへへへへ〜♪」
「なのになんで昨日の訓練は、命中率がたった2割なんだ。ワザとか?」

この世界に吹っ飛んできた頃と比べ、肉付きがとても良くなった両方のほっぺたを引っつかみ、むにゅむにゅお仕置きすると、面白いほど良く伸びる。
丸みを持ち始め娘らしくなった今、痛々しい程やつれていた昔のように、貧相な少年に間違われる事は少ないだろう。


「あひあひあひぃ♪」
(……駄目だコイツ、体罰食らって喜んでやがる…)


「キラは射撃の筋も抜群にいいからな。ゲームセンターで鍛えたか?」
「うん、シューティング大好きだった♪ 10歳の頃、アスランと組んで参加した『ゾンビハンター』ってゲームの大会、優勝した事もあるよ♪ プリン100個貰って幸せだったな〜♪」
「ほ〜、なら今度ディッセンベル市に帰ったら、俺のホテルのスイートバイキング食いに来るか?」
「行く行く〜♪ あ、勿論ミゲルも一緒だよ。ハイネとはデートじゃないから安心して♪」


彼女が自分を兄のように慕い、懐いてくれるのは嬉しい。
またハイネが配属されてたった1週間、自分もキラに甘いが先輩も兄属性である。

二人にべったり甘えられる安心感からか、彼女の幼さに一層磨きがかかってしまった。


(…やっぱり、拙いよなコレ…。ZAFTのアテナたる者、もっと毅然と凛々しくて、誰からも尊敬されるぐらい立派な軍人に成長してもらわないと……)


「よし隊長、この勢いで次いくぞ」
「ふえ?」
「ナイフの訓練。今まで全く組み手してねーだろ?」


≪キラに刃物を持たせるなんて冗談じゃない!! 怪我でもしたら責任取れるのか!!≫


そうキラ馬鹿アスランの散々な妨害に合い、世界樹から今日まで基本の使い方を教えるのが精一杯だった。
だが格闘技は実践で磨かれる。頭で理解してても、体得してなければ意味がない。
体育系のスパルタ訓練で鍛えるのが一番なのだ。


だが、キラはにんまりと腕のデジタル時計を指差し出した。

「残念でした♪ 時間切れ〜♪」


本日のスケジュールによると、18:00で勤務は終わりだ。
以降嬉しく楽しい夕飯タイムを過ごし、各自明日の朝8時まで自由時間となる。



「早く食堂へ行こう。もう僕お腹ぺこぺこだよ〜♪」
「飴30個は食っただろ?」
「口寂しさは紛れるけど、全然足りない」



「非常食はどうした?」

5日前、買い食いの為こっそり下船した際、彼女はハムスターのようにせっせとチョコレートバーやビスケットサンド、それにキャラメルなど甘いお菓子を緑のリュックサックにぎっしり詰めて持ち込んでいた筈。
途端、浮かれていた彼女の眉間に、くっきり縦皺が刻まれた。

「もう食べつくした」
「はぁ?」
「僕、ストレス溜まると過食か拒食のどっちかに傾くの。体重が1月で5キロも太っちゃったけど、パイロットは体力勝負だし、まだ大丈夫だよね♪」

ぽんとお腹を叩く姿は正にタヌキ。
丸っこくなったな〜とミゲルも思っていたが、改めて腹回りを見ると、完璧ウエストが無くなっている。。

「隊長、パイロットスーツヤバくない?」
「……ふぎゃああ!!」」
「あ、本当にくびれがねー」
「もうやめ……、やめて、くすぐったい、あははははは…・・・」

ハイネがウエストをまさぐれば、キラが涙目で拳を丸め、猫パンチを繰り出してる。


「先輩、それセクハラ」
「そっか? 笑ってるじゃん」
「隊長も悲鳴ぐらいあげろ」
「ふぇ? だってハイネだよ?」

(だからあぶねぇんだよ、ボケ!!)

ZAFTで一番女ったらしと有名な漁色家相手に、危機感無さ過ぎ。
女としてそれってどうよ? と壁に懐きたくなり、無機質なガモフの食堂の壁に視線を向ければ、いつものっぺりと何も無い灰色の平面に、今日は珍しくでっかい張り紙があった。


【真っ白なネズミちゃんが出ました。現場を見つけた方は速やかに注意願います】


このコズミック・イラの時代にか?


「おいおい、厨房どんな管理してんだよ。ここ宇宙だぜ。こんな戦艦にネズミが住み着くなんて、ありえねぇ」
「驚きだよね〜。でも白っていったらハツカネズミ? 誰かこっそりペットを持ち込んだのかな〜?」
「どんくせー奴。逃げられてりゃ世話ないって。誰だよ一体?」

何故か背後から深いため息が漏れ聞こえる。


「ミゲル、お前さマジで天然?」


ハイネがあきれ顔で、翡翠色の目を侮蔑に歪めた。


「って先輩、何か含みがあるんですか?」
「ったりめーだろ。なんで発見者がネズミに『注意』するんだ? 言葉を良く読み取れ」

言われてみれば、確かに文章がおかしい。
害獣が出たのなら駆逐か捕獲だろう。それなのに『注意願います』なんて、まるでネズミに『コラコラ食うなと言い聞かせてね♪』と、下手に請うような言い回しは……。

(……白? まさかな……)


ミゲルの脳裏に嫌な予感が過ぎった瞬間、じんわり涙目になったキラが脱兎で駆け出した。


「やっぱりてめえか、このお馬鹿!!」
「ごめんなさぁぁい!!」


配膳を担当している兵士達は、謂わば下っ端の部類。
そしてこのガモフで一番偉いのは、ついつい忘れがちになるが、キラである。
腹を減らした隊長が、盗み食いにこそこそと食料庫を徘徊したって、面と向かって注意などできる訳がない。


「さあキラ、自首しような♪」


ハイネにはしこく背後から襟首を掴まれ、プラプラつるし上げを食らったキラは、涙目で両手を合わせた。




09.02.06




お久しぶりでございますm(__)m(土下座)
リハビリ練習にと短編綴ってみましたが、続き物になってしまいました。
多分次で終わります( ̄― ̄)θ☆( ++) 

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