季節外れの幽霊たち 4
ハイネに「そこを動くな」と命令されたのに、闇雲に逃げて迷子になれば、後のお仕置きが恐怖である。
キラは結局、旦那が来るまで墓からちょっと離れた木の根元に座り込み、この世界のハイネと話の花を咲かせる事になった。
気がかりだった、自分が飛んだ後の話も聞くことができた。
ジェネシスが破壊された直後にZAFTは停戦を飲み、明日オーブとプラント間で平和条約が結ばれるのだという。
その為、オーブの代表首長の座に着いたカガリが、調印の為にプラントを訪れていると知り、キラは嬉しかった。
「ねえ、ハイネは誰の墓参りに?」
「それって、愚問だろ?」
彼が指差したのは、花が大量に供えられたパトリック・ザラの墓だった。
最高評議会議長まで昇りつめておきながら、戦犯として静かに葬られた男。
ハイネは、その献花に訪れたのだ。
「例え罪人扱いでもさ、俺は彼だって確固たる信条を持って戦っていたって思っている。死者に敬意は基本だろ」
だが流石のハイネでも、戦後直ぐの戦犯の墓には、軍服では来れなかった。
彼はザラ派ではなかったが、臭い物には蓋をし、闇に葬ってしまうような軍隊にあって、一味と間違われれば、今後悪意ある嫌がらせを多々受けるだろう。
そんな時期だというのに、彼の行動は勇気ある行為だった。
「そっちも凄い大変だったんだな。ジェネシスの爆発に巻き込まれて、過去にタイムスリップなんてさ」
話が長くなるので割愛したが、それどころか、キラはもう一度錬金術師やホムンクルスが闊歩する、別の世界に飛ばされた。
だがそのお蔭で、アスランの死を受け入れる事ができ、心の整理がつき、ハイネと恋を育むことができたのだ。
「俺が結婚ね。考えられねーや」
「うん。僕も妹さん……、ミーアさんの事は聞いてるよ。キャンベル博士と君のお母様と、それから婚姻統制法の事もね」
「それ判ってて、どうやって婚約を覆したんだ?」
キラはてへっと笑った。
「僕、皆に認めてもらえるように、一杯ZAFTのお仕事頑張って、皆に一目置かれる存在になってから、ハイネを拉致って簀巻きにして、オーブ亡命をほのめかしてモビルスーツに立てこもっちゃったの♪」
「わははははは、無茶苦茶やるなあんた」
「だって諦めたくなかったんだ。ハイネは一生愛人関係で良いって言ってたけれど、好きな人と添い遂げられない政治は、絶対間違ってるって思うもん。だから僕、頑張っちゃいました♪ どうしてもハイネが欲しかったから」
キラは愛しそうに、薬指のマリッジリングを撫でた。
自分が一生懸命頑張って得た、大事な戦利品。
これはきっと、棺桶の中に入っても手外すつもりはない。
「なあ、あんたの旦那やっている俺ってさ、どんな奴? そこまで惚れ込んで貰えるってさ、男冥利に尽きるじゃん」
キラは顔を綻ばせた。
「優しくて気遣いしいで、兄貴肌で頼れるけれど、僕の話を聞いてるようでまったく聞かないゴーイング・マイ・ウェイ。いつの間にか僕を含めた隊員全員を自分のペースに巻き込んで、激戦区に景気良く放り込んでくれるペテン師です♪」
「…おいおい、そこまで言うか…」
「でもね、僕は隊員を犠牲にしてまで、作戦を遂行するのができない偽善者だから、ハイネは僕が出来ない事をしてくれている最高の参謀なの。彼が立案する無茶な作戦は、終わってみればいつも仲間の生還率を上げている。本当は誰だって大切な仲間が死ぬかもしれない命令を下すなんて嫌だけど、彼はそんな事おくびにも出さずに、茶化しながらやってのける。だから僕は彼が愛しくて切ないんだ。もう夫婦なんだから、責任は半分だからねっていつも言ってるのにさ、1人で悪ぶって、何でも1人で決めて、……バカタレハイネが!!」
「ホント、良く判ってらっしゃって………、おい、それ俺じゃないだろが〜!!」
拳丸めてぽかぽかと彼の背を叩けば、ハイネは楽しげに大笑いだ。
「でもさ、お前が飛んだのってきっと、過去じゃなくて平行世界だな」
「何それ?」
「んー、簡単に言えばパラレル・ワールドだ。人間はさ、【あの時こうしてれば良かった】って、後から思う事一杯あるだろ。そんな風に悩んだ分岐点の数だけ、横並列に世界がわんさか存在するって、そんな学説があるんだよ」
「え、そうなの」
「だって、お前が過去に戻って歴史かえちまったんならさ、この俺が今住んでる世界が既にありえないだろ? だって明日のオーブとの条約締結は、廃墟になってるユニウス7で行われるんだぜ」
「……あ……」
そうだった。
キラが過去を変えたのに、現実世界にユニウス7が無いのはおかしい。
「……うううう、なら、僕があの世界で必死にやっている事は? ジェネシスと核を撃ち合う未来にしたくなくて、一生懸命頑張っても、もう過去は絶対に変えられないって事?」
「そう深刻になるなって」
ハイネが大きな手で、膝を抱えて俯くキラの頭を、ぽしぽしと掻き撫でてくれた。
「アスランが殺される未来が嫌だから、それを変える為の戦い……でいいじゃん。お前のその想いがさ、お前がこれから一生住むって決めた世界のアスランを、確実に守っているんだろ? 人間なんてちっぽけな存在で、自分の手で救えるものも僅かだけだ。お前がその手に掴んだ幸せって奴を、お前が信じた通りに直向に守ればいい」
「………やっぱり、ハイネはハイネだなぁ………」
どうして彼は、いつもキラが欲しい言葉を的確に言ってくれるのだろう?
「でも、そっちの俺、良く辛抱してるよな。自分の嫁さんがてめえ以外の男守る為に頑張っててさ、ぶーたれてねー?」
「うーん、葛藤は色々あったみたいだけど、今は僕の意志を尊重してくれていると…思う。前もアスランを、無理やり僕の隊に引き抜いた時、一応ハイネにお伺いを立てたんだけど【所詮、もどきだろ。お前の気が済むまでやりゃあいいじゃん】って。でも、やっぱ気にしてるのかな?」
「流石俺、余裕じゃん。要は偽者ごときにヤキモチ焼くほど、子供じゃないってことだろ」
「そうなんだ、良かった♪」
ほっと胸を撫で下ろすキラに、ハイネは喉を鳴らして、キラの髪をくしゃくしゃに掻き撫でてくれた。
「……お前、ホント俺にべた惚れしてんだな……」
「うん♪」
「うわっ、即答かい。素直なガキって脅威だぜ。まあ、ノロケ話は置いとこう。そろそろ俺も錯覚しちまいそうだからさ。」
「ほよ?」
ハイネはがりがりと頭を掻き、大業に溜息を吐いた。
「俺がお前に手を出したらマズイでしょ。無自覚な【ハイネ大好き♪】フェロモン垂れ流しはNGだぞ。所でミゲルさ、お前の所で何やってんだ?」
「ヴェステンフルス隊の副隊長だよ。彼は僕のお兄さん代わりでね、とっても面倒見て貰ってるの。彼が居たから、僕はトリップしても、ZAFT軍に直ぐ溶け込めたんだ」
「ああ、あいつ…見てくれは軽そうだけど、中身は気の良い男だからな」
「僕、いつもミゲルに甘えてる」
「溺愛されてるの判るぜ。あいつは兄貴肌で、お前妹属性だし」
「そういうハイネだって、十分お兄さんしてるし」
彼にぽしぽし頭を撫でられると、とても心が休まって気持ちがいい。
「ミゲル……、上手く僕たちの事、誤魔化してくれているといいんだけれど。アスラン達って容赦ないからなぁ〜……」
その頃、ミゲルは…というと。
≪キィラ〜♪ 今出てくれば怒ってないから〜、とっとと自首しろ〜♪≫
口調は爽やかだが、目を吊り上げ、拡声器を片手にふらふらとガモフ内部を練り歩くアスランの狂態に、見てはならない物を見てしまったクルー達は、怯えて我先にと逃げ出す始末。
ガモフの艦長はゼルマンだが、今や影の権力者はアスラン・ザラである。
彼を嗜め、逆らい、死亡率の高い別の隊に飛ばされるのは、誰だってゴメンだ。
格納庫にフリーダムが鎮座し、ハイネ専用のオレンジ色のシグーがある以上、彼女がガモフから離れていないのは明白である。なのに艦内放送で呼び出しをかけても、夫婦そろって出てこないともなれば、ハイネと何処かに隠れてえっちぃに縺れ込んでいる事は想像に難くない。
ハイネとキラの結婚を渋々認めたものの、大事な幼馴染兼親友を奪われ、黙っていられる程、アスランは可愛い性格ではなかった。
今ではニコルと徒党を組み、キラに隠れてハイネをチクチクといびり倒すのを、生きがいにしている。
そんなアスランのお蔭で、今ガモフはイザークとディアッカまで巻き込み、まるで運動会のノリで≪キラ捜索活動≫がエスカレートしている。
「キラ〜、先輩〜、頼むから早く帰ってきてくれ〜!!」
赤服のキチガイ達に捕まれば、ミゲルまでとばっちりで吊るし上げだ。
彼は息を殺し、アスランの姿が消えてなくなるまで、ジンの陰に隠れていた。
あのキラとの会話の後、ミゲルは直ぐにハイネに連絡を取ろうと何度も携帯を鳴らしてみたのだが、何故か全く繋がらなかった。慌ててキラにかけ直しても同様だ。
となると、たった一回繋がったのは、奇跡でも何でもなく、誰かの作為が働いているのは明白だった。
「ちきしょう、またあの陰険魔導師、何かやりやがたな!!」
「何、キラまたこの世界からいなくなったの?」
「是非詳しく、お話を聞かせていただけますよね♪ でないと、アスランに告げ口しますよ♪」
「ひいいいいいいいい!!」
ミゲルの肩をぽんと叩き、にやにやと面白そうに笑っている悪魔の名は、ラスティとニコルだった。
07.09.09
書けてる所まで( ̄― ̄)θ☆( ++)
今日中にケリつけたかったのに、遅筆でゴメン!!
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