季節外れの幽霊たち 6






映像でも、地平線の彼方に太陽が沈む瞬間は美しい。

例えここが静謐な墓場でも、見るもの全てがキラの一番好きなオレンジ色に染め替えられていく光景は、戦艦暮らしでは絶対味わえない贅沢だ。目を細めて眺めていたキラの元に、ZAFTの赤服を纏った、夕日と同じ色の髪の青年がゆったりと歩み寄る。

携帯を切ってからまだ一時間と少し。どんな裏業を使ったかは知らないが、予定時刻の半分しか時間は経っていない。

「はぁ〜まいった。お前の姉ちゃんおっかないのなんのって。結婚の報告した途端、『ふざけるな』って銃乱射だぜ。勘弁してよな〜♪」
「そりゃ僕死んだって思われてるんだもん。いきなりじゃ、カガリが、からかわれたって誤解して当然だよ」
「だな、気性も真っ直ぐそうな奴だったし。で、酷い目にあった可哀想な旦那様に、労わりのキスは無いの? 寂しいなぁ俺」
と言いつつも、にんまりとキラをからかうような微笑みを浮かべる彼に、彼女は即座に立ち上がって、その広い胸に飛び込んだ。
「おかえり、ハイネ」
キラは笑いながら、彼の頬にキスを贈った。


「……へえ、ホントに俺だ……」
喪服を着たこっちの世界のハイネが、びっくり眼で彼を覗き込む。
2人が並んで立てば、一卵性の双子と見紛う程、彼らはそっくり同じだった。

「ありがとうハイネ。僕、君のお蔭で全然心細くならなかったし、皆の事が色々判って嬉しかった」
「嫌、俺も本当に自分が来るか、興味あったし」
ぺこりと頭を下げるキラに、喪服のハイネが屈み込み、ちょいちょいと自分のほっぺを差し出す。
どうやら、御礼のキスの催促らしい。
どうしようかと、一応傍らのハイネにお伺いを立てて見上げると、彼は即座に喪服ハイネの顎を強引に鷲掴み、唇に噛み付くようにディープな口吻をかました。

「おぅわ!! 止めろって、気色悪い」
「うちのが大層世話になったな♪」
「へいへい、そ〜いうノリ、やっぱお前『俺』だわ」

お互い含みのありそうな笑みを浮かべ、きつめに握手する姿は、正に悪ガキ。

「ま、キラに手ぇ出さなかったのは褒めてやるよ。こういう構うと面白い奴、お前も口説きたくなるだろ?」
「流石俺、お見通しってか?」
「ああ、キラは嘘つけないからな。一つでもやましい事しやがったら、今頃、速攻で俺の目反らして、泣きながらダッシュで逃げてるさ」
「はいはいご馳走様。あんま俺の前でノロケないでよ。その子ってばこの世界のキラな訳だろ? 俺、マジでお持ち帰りしたくなるじゃねーか」
「他当たれ。これは俺のだ」
キラの首は、ハイネにがっきりと腕でホールドされてしまった。

「あうっ、も〜う、僕は物じゃないよ〜」

自分を挟んでの2人のじゃれ合いは見ていて楽しいが、アンジェから貰えた時間は何時終わるか判らない。

「ねぇ、僕まだカガリに会ってない」
「ああ、そうだったな。目的果たさなきゃ、何しにここ来たか判んなくなっちまうし。行くか?」
「うん♪」

彼の提案に頷いたキラは、顔を上げた瞬間に目を見開いて固まった。
夕日を夜闇が覆い始め、辺りがオレンジと宵色が混じりあった不思議な色の中、今にも日が暮れそうなこの時間帯に、花束を抱えて墓参りに来るものは、人目を避けたい者だけだ。

こちらに向かって歩いてくるその2人は、それぞれ白い花束を抱えていた。
目的は明らかに、パトリック・ザラの墓参りだろう。

二人は、キラにとって…向こうの世界で見慣れた人間だった。



1人は銀色の艶やかな髪を、肩で切りそろえたデュエルのパイロット。この世界では一度も認識が無く、アークエンジェルで一緒になったディアッカの昔語りでしか知らなかった青年。
そしてもう1人は……、キラがもう諦めていた、大好きで大切で、愛しい人。藍色の髪を持つ、優しくて真面目すぎる青年。

距離にして多分500メートルは離れている上、2人とも互いの話しに熱中しているのか、キラ達に全く気付いていない。


「……アス……ラン……」

キラの大きく見開いた紫水晶のような瞳から、涙が溢れ、静かに頬を伝って滑り落ちた。

「ん? キラ、どうした?」
「泣いてんじゃんお前、何、目にゴミでも入った?」

2人のハイネが、怪訝そうにキラの顔を覗き込む。

「……生き………彼………、あ……す………、ひっく……」

戦慄く唇を必死で動かすが、もどかしい程言葉が上手く紡げず、更に嗚咽まで零れてくる。
瞼の裏がじんわりと熱くなり、ますます視界が涙にぼやけ、下手すれば日暮の闇に同化しそうな喪服姿の彼を見失ってしまいそうだ。

彼の姿を逃したくなかった。幻でも失いたくない。

「アスラン!!……アスラン!!」
「はぁ? おい!!」

腕を伸ばして駆け出しかけたキラに、ハイネが咄嗟に腰に腕を回し取り押さえる。

「離してハイネ!! あそこ、僕のアスランが……、アスが…アスラン!!」

身を捩り、手足を振り回して暴れても、がっきりとキラの腰に食い込んだハイネの腕は離れなかった。

「……え?……キラ!?……」

大声を上げ、自分の名を呼ぶキラの姿を見つけたのか、遠くの2人が大慌てで駆け寄って来る。

動いている。
生きている。
ジャスティスで自爆したのに、アスランは生きていた。
この世界でちゃんと、生き延びていてくれた。

「……アスラン……、アスラン、アスラン!!……」

掠れた声を振り絞り、叫びながら、彼の一挙一動を、濡れた眼に焼き付ける。
早く彼に触れたい。いつものように抱きつきたい。
生きている証が欲しい。彼の胸の鼓動を耳にしたい。


だが、キラの願いを嘲笑うかのように、突如耳に轟音が響き渡った。
振り仰いで空をぼんやりと眺めれば、まるでカーテンを掴んだ時のように、薄紫色の空が歪んでいる。
そして、渦が出来た撓みの中から、次々と見慣れたモビルスーツが這い出した。

オレンジ色のシグーとジンがそれぞれ2機、そしてトリコロールカラーのフリーダムが、蒼い翼を広げ、キラ達の直ぐ傍で舞い降りる。
緑色の燐光を纏い、光を放っていたそれらはまるで、夢の終わりを告げる天からの使者だ。

「キラ、……お迎えが来ちまったな」
「あれ? なんであいつら煙噴いてんだ?」
「「え?」」


喪服ハイネの冷静な突っ込みに、キラとハイネは共に目を凝らし、改めて5機を見上げた。
闇色に染まりつつある夕暮れでは判り辛かったが、機体は満身創痍という表現が似合うぐらい、傷つき、破壊され、薄汚れている。
明らかに、戦闘をこなした後だと判り、キラの背筋は瞬時に凍りついた。

「ちょっと皆、もしかして連邦の奇襲?」
よりによって自分がガモフを離れた時に? だとしたら何と皆に謝ればいいのだろう!!
「おいお前達、皆無事か!!」

ハイネもキラも、血の気を失い、大急ぎで5機のモビルスーツに駆け寄った。
すると、それぞれのモビルスーツも示し合わせたようにコックピットを開き、各々乗っていた者達が、険しい顔を覗かせる。
彼らは5人とも全員、パイロットスーツすら着ていなかった。


≪隊長、先輩!! 迎えに来たぞ!!≫
≪もう、姉さま〜。あんまり心配かけないでください≫
≪おい、俺達が胃潰瘍で倒れたら、キラのせいだからな≫
≪キラ、お前いい加減、人を見る目を養え!!≫
≪そうだキラ嬢、あんな男に頼み事など……、自殺行為だ……!!≫


「……ミゲル、…ラスティ、ニコルまで!?」
「なんで貴様と俺が、あそこに居る!?」


いきなり近すぎる声に、キラはびっくりして振り返った。
彼女の背後には、いつの間にか喪服ハイネの他に、アスランとイザークまでが、唖然と立ち竦んでいる。
「……アスラン……!!」

だが、キラが顔を輝かせて飛びつこうとした瞬間、ミゲルがシグーの手の平を、二人の前に差し出した。

≪先輩、隊長、早く乗ってください。俺達この世界に、後2分しか居られません≫
≪姉さま、急いで!! 僕達強制的にジャンプしちゃうんですよ。もし今の機会を逃したら、もう何時ここに戻ってこられるか判りません!!≫

「あの陰険魔導士、また何かやりやがったな。ったく悪さばっかしやがって〜!!」

ハイネのぼやきが、キラには何の事か判らなかった。
確かにセイランは、過去キラからフリーダムを勝手に奪い、別世界に飛ばしてくれた人だけど、アンジェだけを直向に、一途に愛し続ける姿は好感を持てる。
皆が口々に罵る程、意地の悪い人とはとても思えない。

「時間が無い、行くぞ」
背を押され、あうあうとハイネを見上げるが、厳しい面持ちの彼は冷たかった。
「待って、ちょっとだけ!!」

キラは嫌々と首を横に振り、泣きながら背後を見た。
唖然として、キラやミゲル達を交互に見上げるアスランに、これだけは伝えておきたい。

「アスラン!! 僕の飛んだ世界では、ユニウス7に核は落ちなかったよ。レノア小母様もパトリック小父様も生きているからね。僕ら今、プラントの独立を目指して地球連邦軍と戦争しているんだ。戦いは始まったばっかりだけど、僕、今度こそ誰も死なせない。コーディネーターの自治権を、皆と頑張って、絶対獲得するから!!」

「んなこと良いから、さっさと乗れ!!」

ハイネに首根っこをとっ捕まえられ、キラは強制連行された。しゃくりあげながらシグーの手の平に乗れば、直ぐにフリーダムのコックピットへと運ばれる。
段々と小さくなるアスランめがけて、キラはシグーの指に捕まりながら大きく手を振った。

「今度こそ僕は皆を守るから、ミゲルもニコルも守るから許してね。僕、ハイネと結婚したんだ、絶対幸せになるから。僕、君が初恋だった、愛してたよアスラン……!!」

フリーダムのコックピットに二人揃って収容され、アスランが腰を降ろしていたシートの後にハイネ共々身を納めると、直ぐにキラの視界が極彩色の水面に変わった。
世界を飛ぶ不思議な力が、自分を包み押し流して行くまさにその時、傍らのハイネが彼女の耳元に唇を寄せた。

≪……お前の故郷は、一生俺の傍だからな……。もう何処にも行くんじゃねーぞ……≫

誰にでも寛容で、もどきアスランにさえのほほんと接していたハイネだが、本物のアスランだけは駄目だったらしい。

世界を超える衝撃で、意識がブラックアウトする瞬間、キラは痛い程力一杯に、ぎゅっとハイネの胸に抱きしめられた。


☆ ☆☆☆☆





慌しく現れたと思ったら、あっという間に消えてしまった5機のモビルスーツを見送って、3人は暫くの間呆然と空を見上げていた。

「……一体、今のは何だったんだろ? 俺、ミゲルとニコルとラスティが居たような気がしたんだが……、今は10月だよな?」
「……安心しろ。あれは幽霊の気配ではなかった……」
「イザークって、『視える』奴だったのか?」

不信な目を向けるアスランに対し、腕を組んだイザークが、溜息をつきながら頷いた。
「昔、幽霊に好かれやすい『霊媒体質』だとニコルに言われ、奴からお守りを大量に貰ってからはあまり見なくなったがな」
「そうか。オカルトも彼の専門分野だったからな」


イザークとアスランの会話をぼんやりと聞きつつ、茫然自失状態だったハイネは、ようやく大きく息を吐けた。

「俺の嫁さんが……、あの『フリーダム』なのか?」

たった3隻で、ナチュラルとコーディネーターとの戦争を終結に導いた、オーブと地球連邦とプラントの船があった。
その三隻同盟の守護神として、圧倒的な力で彼らを守ったモビルスーツは、フリーダムとジャスティスである。だが、フリーダムのパイロットの正体は未だ不明で、謎の英雄として既に伝説となっている。

そのパイロットが異世界に飛んだのなら、姿を現せなくても当たり前。
また彼女が、向こうの世界で白服を与えられたのも理解できる。


「やるじゃん、俺。大物GETってか」
滅多に物に執着しない自分が、子供じみた1人の女に囚われたのを不思議にも思ったが、今のハイネは、別世界の自分がちょっと誇らしかった。

だが、何故かアスランとイザークは、お互い顔を見合わせて、複雑そうな表情を浮かべている。

「あ、悪い。お前たった今キラに振られたんだよな?」

あっちの世界に飛んでしまったキラには、約1年の時間が経過しているが、こちらの世界ではまだ3週間しか経っていない。
死んだと思った恋人が、ひょっこり現れた挙句、他の男と結婚してますじゃ、彼とて素直に現実を受け止めるのは辛かろう。

「安心しろ、俺が言うのも何だけど、キラはきっと幸せになれるさ。何てったってこの俺が、ベタ惚れなんだからさ」

だが、藍色の髪の少年は、ハイネを見上げると、気まずそうに表情を曇らせた。

「あの……、俺の幼馴染、確かに『キラ・ヤマト』っていって、フリーダムのパイロットやっていましたが……」
「うん」
「でも、そいつ、正真正銘の……





なんですけれど……」



「は?」

ハイネは我が耳を疑った。

「……ま、待て………」


ささやかだが、胸はあった。
あったと信じたいが、言われてみればささやか過ぎて怪しい。
そういえばあの子は自分の事を、確かに『僕』と言っていたではないか!!
ハイネの腕に、いつの間にかぷつぷつと鳥肌が立った。

「……ほんとに……、男?……あんな可愛いのに……」
「……でも、これだけは言えますよ。あのキラは男でも女でも、今の俺にとっては天使です」

アスランは、照れくさそうにほっこりと微笑んだ。

「だって、あのキラが俺に告げた言葉は、俺が欲しくて仕方がなかった未来だったから」

キラと敵味方となって戦い、殺しあわざるを得なかった日々、アスランが夢にまで見た光景だ。

ユニウス7が堕ちない世界で、母が死なず、父が狂わず、ミゲル、ラスティ、ニコルが生きていて、キラがZAFT服を身に纏い、アスランと一緒にプラントの為に戦っている。
しかもそれが、プラントの自治を目指した独立戦争だなんて。

「皆殺しを目標に核やジェネシスを撃ち合って、終戦を迎えてしまった俺達にとって、プラントが辿れたかもしれないもう一つの世界が、どこかに存在しているかもしれないなんて希望、最高の贈り物じゃありませんか」

「確かにな。ニコルとミゲルとラスティが、お化けになって10月に出てくるなんて、季節外れにも程がある。だが別世界で生きていると思えば、俺達も救われる」

イザークも結局は嬉しそうに顔を綻ばせていた。

「……ディアッカに、いい土産話ができた……」

アスランも、脱走兵の疑いで、軍事裁判の為に拘束されている気の良い仲間を思い出す。
明日の条約締結後、オーブに亡命する自分では、会いにいけないが、彼も今日の自分達のように、幸せな希望に喜んでくれるといい。


その日ディッセンベル市に現れた4機のオレンジの機体と、蒼い羽を広げたフリーダムは、アスランとイザークの胸に、確かに温かなものを届けたのだ。





だがその頃、キラがきちんと元の世界に帰れたか、鏡を媒介に確認していたアンジェの顔は真っ青だった。


「セセセセセセセ……セイラン、貴方って!!」


アンジェをじっくり堪能した後、1人ベッドで大きな羽毛の枕を抱きかかえ、うつ伏せて眠っているセイランは、小憎たらしい事に顔すら上げない。

「ん? だって僕、空間移動とカガリに会わせるのは了承したけれど、あの娘が本当に居た世界に送り届けてあげるなんて、ひとっことも約束した覚えはないし」
「だからって、平行世界に送っちゃうなんて、酷い!!」

アンジェはくしゃりと顔を歪め、頭を抱えた。

「ああああ、なんで貴方はいつも、そういう意地悪な嫌がらせをするの!! 私、ハイネとキラに、今度会った時、なんて言ったらいいのよ〜!!」
「大丈夫。キラって子は鈍いから、きっと気づいてないし」
「もう、私恥ずかしくてハイネ達と二度と会えない……」
「……それは願ったり、叶ったり……」
「セイランの馬鹿ぁ〜!!」

もぞもぞと突っ伏し続けている彼から、アンジェは羽枕を引っつかんで奪い取ると、思いっきり振り上げて、彼をぶっ叩きまくった。



そして、セイランのささやか(?)な嫌がらせは、彼らのあずかり知らぬ所で、確実に飛び火していた。



「キラ、私は結婚なんて認めない!! お姉ちゃんは、お前を嫁に出すのは絶対に反対だ!!」
「はぁ!! 何それ? 僕男だよ!!」

ホテルに戻った途端、カガリに胸倉を捕まれ、キラこそ目がまん丸だ。
今日は一日ラクスに付き添い、彼女の壊されたクライン邸に行き、片付けと想い出の品発掘作業の従事したへとへとな体に、元気な姉の激怒を受け止める体力はない。

「ハイネなんて変態、私は絶対許さないからな!!」
「止めてよ、僕そんな人知らないって!! ラクス、僕を信じて……誤解なんだぁ!!」

男なんぞと両天秤にかけられ、プライドと心が酷く傷ついたピンクの妖精は、遠くのソファでくつくつ喉を鳴らしながら、手持ちの全色のハロを起動させ、戦闘モードプログラムに切り替える。

それから1時間後。
幸せな気持ちを抱え、墓参りから帰宅したアスランとイザークは、ズタボロのボロ雑巾みたいになって、廊下にぽいっと捨てられているキラを発見し、眩暈を起こしたとか。


そして喪服ハイネも、その夜己の手元に届いた請求書に、目が点になった。

「…なんなんだよ、これは……」

100歩譲って、エアポートから墓場までの無人エレカ代は許してやろう。
だが、アプリリウス市からディセンベル市までの、シャトル1機丸ごとのチャーター代は酷すぎる。

「あんにゃろー、道理で早く来れた訳だ」

ホテル経営の莫大な収入があるから、彼の懐はビクともしないが、流石にZAFTの給料丸5年分、来月口座から引き落とされるのは面白くない。

「……コラァ俺。少しは遠慮しろ!!…」

勿論、ハイネの絶叫に返事は返らなかった。



そして、現実世界のキラはというと。
こちらも被害甚大だった。


ガモフに収容された5機のMSは、どれもが修繕が必要なぐらい壊れており、もし今出撃要請が来たとしても、彼らは期待に答える働きはできないだろう。
全力で対応し、恐らく数日突貫修理作業に突入する全整備員に、ハイネとキラは、土下座せん勢いで平謝りを強いられた。

そしてガモフの船中、謝り行脚が終わり部屋に戻れば、司令官室の鍵は破壊しつくされ、手動でしか開け閉めできなくなっている。また、誰が溶接してくれたか判らないが、つぎはぎになった扉は、ハイネにとってみすぼらしすぎで情けなく、論外の代物だ。

「……あ〜あ、俺の髪の生え際がこれ以上上がったら、どうしよう……」
「あ、大丈夫♪ 僕、ハイネだったらスキンヘッドでも可愛いと思うし♪」
「俺が嫌だ!! 勘弁してくれ!!」

中に入れば、ふわふわと飛び散る未決裁の書類の中、置いていかれた事を拗ね、ふくれっ面のレイと、目を吊り上げて署名書きに勤しむパイロットの面々が待ち構えていた。

「整備員さん達だけ働かせておいて、隊長が仕事を溜めて遊んでいたなんて知られたら、姉さまの信用が失墜しますからね」

またもや性懲りも無く仕事を溜めた事が皆に発覚し、気まずげに顔を赤らめるキラに、パイロット達はとっても生暖かな目を向けた。

「大丈夫、姉さまの悪癖には慣れました。それから今度のお義兄さんの誕生日には、僕、育毛剤プレゼントしますよ♪ 僕の義兄がつるっぱげなんて、まっぴらゴメンですからね♪」
「なら俺は、先輩に液体胃薬を1ヶ月分進呈しますよ」
そうミゲルが明るく手を上げて言えば。

「じゃあ、残りは俺達連盟で、離婚届一式だな」
「こらこらアスラン、せめてハイネの異動届にしとけ。お前なら楽勝だろ、いっそ殉職率ナンバーワンのクルーゼ隊なんてどうだ?」
「アスラン、ラスティ、てめぇら縁起でもねぇ真似辞めろって」

ミゲルが即座に嗜めるが、黒属性2人組みは、何処まで本気だか判らないから始末に終えない。

「ふん、くだらん。貴様たち、いい加減キラの幸せを一番に考えろ」
「おいおい、1人だけ今点数稼がなくたって平気だろ。ハイネがお払い箱になったら、イザが一番、再婚有力候補だもんな」
「ディアッカ!! 俺はそんな卑しい考えなどせん!!」

「あはは、皆ホント冗談ばっかり♪ 楽しいよね、ハイネ♪」
「…お前さ、そろそろ俺の精神安定のためにも、人を見る目養えっつーの」

その後、キラはレイに手伝って貰いながら、アンジェのお手製ケーキの残りを切り分け、ロミナが持たせてくれた取っておきのお菓子を広げ、皆に振舞った。
甘いものを突付きつつ、ほのぼのと仲間と過ごすこの幸せ。

片付けなくてはならない仕事は沢山あるけれど、ハイネが特別に、手ずから皆に入れてくれた紅茶も美味しく啜りながら、キラはうっとりと目を細めた。

「ねえハイネ。また、アンジェさんとセイランさんの2人に会えるといいね♪」

のほほんとしているのはキラとレイだけで、瞬時に残りのメンバーの顔は引きつったのは言うまでもない。


「んー、聖地の1週間は、下界の一年だからなぁ」
セイランとアンジェの逢瀬は年に一度だけ。
奴らが再び自分達の前に現れるとしたら、きっと今頃の季節になるのだろう。

「……俺、多分これから一生、この時期が来るたび、奴らを思い出すんだろうな……」
セイランは本当に傍迷惑な男だけれど、八つ当たられる当事者にならなければ、何をしでかしてくれるか判らず、見ていてスリリングな男である。
そういう印象が濃い奴は面白くて、ハイネは何故だか嫌いにはなれなかった。

「キラ、カップ貸せ」
「ほえ?」
「紅茶じゃあんまり締まらねーけどさ、あの、季節外れの幽霊たちがさ、いつか俺達のように結ばれる日が来るように、な♪」
「は〜い♪」

キラは笑顔で頷くと、ハイネが差し出したカップに、己のを重ねて乾杯した。
また、生きている間に、あの2人に会えるといいなと思いながら。


Fin        

07.09.15



という訳で、セイランの意地悪話でしたv
久々にセイラン×リモージュを書けて嬉しかったですv(←オイ)

セイランを書きたいが為に、ハイネENDを、IF物語として引っ張ってきましたが、アナザー本編は今の所…白キラを誰とくっつけるかは、まだ5分5分です。(ハイネは郭公でキラに心の傷をバラし、アマルフィ隊で勤務しながら癒して貰えましたが、ロイは今からですからね(謎))
ダークホースのアスランも居ますし( ̄― ̄)θ☆( ++) 。

もしもハイネENDだったら…という前提で、楽しんでいただけたら嬉しく思いますm(__)m


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